29. もう一人の仲間ともう一人の味方?
初めてのクエストを達成して、思わぬ大金を手にした84歳童貞勇者ジジ君。
いつも誰かの思惑に巻き込まれ、推測と戦略を駆使し意のままに事を進め邁進する。
まだまだ帰宅までの道のりは長いが、がんばれジジ君!
勇者と呼ばれるその日まで!
次の日、ツルギザキの宿屋。
三人は朝食をとる為に宿屋の一階にある食堂に集まっていた。
パンにサラダにソーセージ。
こっちの世界に来てから衣食住にあまり困っていないのは幸いかなといつも思う。
常識が違い過ぎる事以外はなんとかやっていけそうだ。
それにしても昨日まで目まぐるしく、色々あった。
「はじめてのクエストなのに、大変だったね?」
「そうですね。お金を沢山頂けたのは嬉しいのですが、やっぱりモヤモヤしますね。」
「そうっスか?もう終わった事っスよ。考えても仕方ないっス。」
「切り替え早ッ!でもリリーさんのおかげですね!無事クリア出来たのは。」
「そうですよ!リリー様が居なかったら、みんな今頃お陀仏ですよー!」
「「シーナちゃん!?」」
そこに居たのは、リリーさん大好きっ子シーナさん。
まん丸メガネに、精一杯おめかしをしたその姿。
大荷物を背負って近づいてくる。
ついてくる気か!?
「あれ?昨日お別れしたはずじゃ~なかったっスか?」
「やっぱり、ついて行こうかな~って。しばらく旅に出るから家族にお別れして来ました~!これからお世話になりま~す☆」
「え!?えぇ~!?」
「リリー様、よろしくお願いいたしますね☆」
押し掛け女房的な感じで、無理やり付いてくる気だな。
どうしよう。。。
「皆さんのおっしゃりたい事は分かります!でも私、リリー様と一緒に旅をしたいんです!」
「だいぶ自分の欲望に忠実な人っスね。」
「心の声がダダ漏れだな。良い人とは思うのですが・・・。」
悪い人には見えないのだが、旅の目的が目的だけに、おいそれと仲間に入れる訳にはいかない。
依頼をこなすだけの冒険者とは違う。
間違いなくシーナさん自身を危険に晒してしまうだろう。
命の保証はどこにもない。
そんな旅に、好きと言う理由だけでは連れ回せはしない。
「あの~、シーナさん。私達はですね―――。」
「ジジさん!」
シーナはジジの両手を掴み、自分の顔に引き寄せた。
「ジジさんに会いたいって女の子も一緒に!お知り合いらしいので、連れて来ちゃいましたっ!」
「えっ!?」
そう言うとシーナは、出入り口ドアの方に視線を向ける。
・・・
・・・。
誰かが入ってくる様子はない。
知った人間はそういない。
大金を手にしたところに、詐欺まがいの投資や寄付を募る輩が近づいてくるのは、よくある話しだ。
多分そんな感じか?
「ありゃ?」
シーナがドアを開けて確認するも、誰もいない。
???
「30点~。パンがパっサパサ。品位が感じられませんの。」
ジジの隣に一人の少女が。
金色の髪。
頭の上には青いリボン。
青いドレスにレースのエプロン。
間違いない、彼女だ。
「お久しぶりです。ゆ・う・しゃ・さ・ま!」
椅子から転げ落ち後ずさるジジ。
リリーとカピは臨戦態勢をとっている。
「オイラ達が気配に気付かないなんて!」
「あれれ?お知り合いじゃないのですか?」
知ってはいるが、知り合いではない。
一方的に投げ飛ばして、殺そうとした相手だ。
だが、今ここで戦っては被害が、それに。
「ちょっ、みんなちょっと待って!落ち着いて下さい!!」
自分自身に言い聞かせるようにジジは叫んだ。
突然現れた彼女には、敵意を持っているようには見えなかったからだ。
不味いと言いながらも、人の朝食をむさぼっている。
「……突然だったので、驚きました。今日はその…、何のご用ですか?」
ゆっくり立ち上がりながら、椅子を戻した。
「あら、わたくしに殺されかけたのに物怖じしないのね?」
「…貴女は無駄な殺生は意図しないはず。用があるのは勇者の肩書きを持つ者だけ、ですよね?」
初めて会った時の彼女の言葉を信じるなら、誰も殺さないはずだ。
殺す目的なら不意討ちでも何でもして、もうすでに殺している。
別の何かがある、と考える方が普通だろう。
「そうですわね。本当は殺してしまいたいのだけれど~。」
リリーの顔色が変わった!
その瞬間、大気中の水分が凝縮し無数の鋭利な氷の刃となって、食事中の彼女に襲いかかる。
「!!!?」
予想外だった。
氷の刃は彼女に触れる前に蒸発!
大鎌をリリーの首筋にあてがい、息さえも出来ないプレッシャーを与え・・・
ている展開が待っていると思いきや。
ズタズタに切り裂かれた彼女は、すぷらった状態に。
床に転がり変わり果てた姿になっていた。
「え!?」
「キャーっ!!」
シーナの叫び声が宿屋に響き渡る。
食堂にいた他の冒険者や商人達からも、突然の出来事に動揺していた。
だか、リリーとカピはまだ警戒を解いていない。
“初対面の相手に、随分なごあいさつですのね。”
空から聞こえるような、頭の中に響く声。
全員が天井を見上げていた。
“わたくしの名前は、アリス。生命の女神様より創造された原初の使徒。あなた達の敵ではないですの。”
「お話ができないので、攻撃は控えて頂けます?」
さっきまで床に転がっていた死体が、血を流しながら食事の続きをしていた。
―――――
「ジジ君が、また傷付くと思って、…ごめんなさい。」
「リリーさん。」
「それで?何の用っスか?」
「今回の勇者を始末しようと思っていたのだけれど、『勇者に与えられた女神の加護を引き出す』命を仰せつかったのでまた会いに来た、という事ですの。」
「す、すみませんでした!いきなり攻撃してしまって。。。」
「謝罪にはおよびません。蚊に刺された程度の痛みですから。」
って、血まみれなんですけどー!!
普通の人間なら即死、謝って済むレベルじゃないし!
「大丈夫、この身体も勇者と同じような加護持ちですので、すぐ治りますですの。」
確かに、徐々にではあるが傷が再生している。
床の血も集まり、主の元へ帰っているように動いている。
ちょっと気持ち悪い光景だ。
「あ、あのー。」
「で?ジジ君の力を引き出すとはどういう事っスか?」
「あなた達も少しは知っているのでしょう?アレの再生能力を。」
「あのー。」
「アレって、ジジ君を物呼ばわりっスか?気に入らないっスね!」
「勇者召喚はこの世界の掃除に必要なもの。勇者は、ただの道具にしかすぎない。」
「それでも女神様の使い?フン!魔族にしか見えないっスけどね!」
「なにぃ!?」
「あのッ!!」
「「うるさい!!」」
話しにかぶって来たシーナに、八つ当たりの如く威嚇する二人。
シーナは萎縮して涙目になっている。
「まあまぁカピさん、アリスさんも。シーナさん怯えてますので、ここは穏便に。私の殺されかけた件は置いとくとして、その『女神様の加護』について詳しくお聞かせ願えませんでしょうか?」
「そこのネズミが謝るなら教えて差し上げてもよくってよ!」
「ねず!!マジで口、悪いな!」
たしかに口が悪い、態度もデカイ。
が、そこがまた女神様っぽい。
女神様というのはみんなこうなのだろうか?
「お二人とも、そのへんにしとって下さい!話が先に進まんたい!」
「しょうがないですわね。女神の加護は引き出しますが、使い方は一度しか教えません。」
「わかりました。お願いいたします!」
カピは不機嫌なままリリーに抱かれ、シーナはリリーに慰められている。
再生能力と使い方。
勇者としての唯一の武器になる。
たぶんここで出来ないなら次の勇者召喚かもな~。
「あなたに与えられた力は『内在性レトロウイルス、ゲノムの強制進化による不死の力』ですの。」
「!!!?」
すみません、よくわかりません。。。
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