26. 白猫奪還プロジェクト その5
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日の沈みかけた時刻。
三人はツルギザキの街の中でも端の方、スラム街へと足を踏み入れた。
売り飛ばされるであろう獣人達が捕まっている建物はここだろう。
目指すは4階、もちろん真正面から行く。
「それじゃ、いいですか?突入しますよ!」
「いつでもオッケーっスよ!」
「うん!」
黒いローブに黒マント、死神の仮面を着けた怪しいパーティーがスラム街をうろついていたのだ。
こそこそ隠れても目立って仕方がない。
奴らは律儀にも今か今かと待っているはずなのだ。
期待に応えなければ申し訳ない。
三人は階段を上がり、4階へとやってきた。
「反応があったのは一番奥の部屋ですね。」
「そうっスね。でも、ここまであからさまに殺気立ってると~罠だってまるわかりっスね。」
三人はゆっくりと奥の部屋へ歩いて行った。
飛び出してくる様子はうかがえない。
たぶん、罠にかけてから料理するつもりなのだろう。
ガチャリ。
一番奥の部屋の扉をあける。
「んー!んー!!」
猿ぐつわに首輪、手足を縛られた女性の獣人が五人。
牢に閉じ込められていた。
恐る恐る中に入る三人。
「そういえば!?」
「ビックリした!急に大きい声出して何っスか?」
「ミラナさん達の獣人の特徴を聞いてませんでした!どの子でしょうか?うわっ!?」
話をしていると部屋の四隅に置いてある悪趣味な像が一斉に光り出した。
三人はその場で膝をつき、動く事が出来なくなる。
「がーはっは!!引っ掛かったな!」
「罠だと知らずのこのこ出てきて、頭の悪い連中でやんすね!」
体力を吸いとられる感覚。
痛いのとか、毒とかじゃなくて良かった。
「どうだ見たか!体力と気力を吸い取る、獣人捕縛用アイテム『筋肉の像』の威力をぉ!」
「威力をぉー!」
部屋に黒服達が集まってきた。
十数人、さすがに厳しいか。
「おっとそこの老人、妙な真似するなよ!この像は、魔法が使えないよう結界を張る特別製でもある。仲間の命を助けたかったらおとなしくしてな!」
「わかった。・・・最後に質問、まだ奴隷商人には金は渡っていないのかな?」
「そんな事、話す義理はねぇ。」
「いぇね、こちらには腕の立つ魔法使いがいるんです。仲間にしないのは勿体ないですよ。戦力増強になれば仕事の幅も増えるし、今回の仕事の分け前も交渉出来るのではないでしょうか?」
「・・・奴隷商人を脅す気か?」
「めっそうもない。交渉ですよ。私達も貴族相手に働くより、楽で高収入の方が助かりますし。金貨10枚、と言いたい所ですが金貨3枚でどうでしょう?」
盗賊の頭は悩んでいた。
悪い話しではない、しかし苦し紛れの嘘なら追い込んだ立場が逆転してしまう。
「頭殿、少しよろしいか?」
一人の黒服が前に出た。
あの馬車に誘った奴だろう。
どうやらこの一団は、盗賊と奴隷商人の下っ端で構成されているように見える。
「交渉の件はさておき、あれ程の魔力保持者を手に入れられる機会はそうないであろう。だが信義が不明瞭だ。頭殿が臆するのも理解できる。」
「あぁ。」
「そこでだ。二人には『隷属の首輪』をしてもらう。もちろんそこの使い魔も。」
「それが条件か、奴隷扱いならば逆らう事は出来ないしいいだろう。」
「この状況なら仕方ないか。けれど、今後は三人一緒に行動させていただきたい。いきなり刺されるのはごめんですからね。」
「いいだろう。交渉成立だ!」
黒服達が『隷属の首輪』をはめてきた。
捕縛魔法が解かれ身体の自由が戻ってくる。
「ふ~ぃ。魔力の塊のオイラにはキツかったっス。」
「カピさん、大丈夫ですか?」
「まさかそっちで行くとは思わなかったっスよ。」
相手が殺す気で来るなら交戦もやむ無しと思っていたのだが、色んな意味で助かった。
「では、まずは獣人の引き渡しに付き合ってもらうぞ。わかってるとは思うが下手な事考えるなよ!」
「お頭、ドレイク様がご到着されました!」
やっと黒幕のお出ましか。
黒服達にも緊張の色が見てとれる。
護衛が五人、まん丸太って背が低い、黒のドレスに眼鏡の女だ。
てっきり黒幕は男だと思い込んでいたのだが。
しかし、その女から放たれる雰囲気は異常だった。
すかさず盗賊の頭が前に出る。
「ドレイク様、お久し振りにございます!」
「挨拶はいいわ!それより、奴隷が檻から出てるのはどうしてかしら?」
手持ちの扇子をパタパタと扇ぎながらこちらを睨んでいる。
「この獣人と獣魔は魔力量が非常に高く、即戦力にと手なずけている最中であります!」
おぃおぃ、さっきまでの威勢はどこに行った?
交渉するんじゃなかったのかよ?
「この獣魔はあの老人のですか?獣人の方は~、あまり強そうには見えないわね。」
「ドレイク様!あの幼女は一撃で敵を無力化出来る魔法を持っております!」
「そんな事はどうでもいいの!わたくしが言いたいのは、使役するに値する程の魔力を感じられないと言う事よ。それとも何?わたくしが間違っているとでも言いたいのかしら?」
「け、決してそのようなことは!」
部屋の空気が一瞬で凍りついた。
このドレイクと呼ばれる奴隷商人はかなりのやり手のようだ。
先手を打たないと。
「差し出がましいようですが、発言をお許し願います。」
護衛の一人がジジに向かって剣を突きつける。
「よい。発言を許そう。」
「ありがとうございます。主人を擁護するわけではございませんが、ここにいる彼女。魔法の点に置いては他より秀でる才能を持っております。」
「それは先ほど聞きました。」
「しかし、溢れる魔力ゆえこうして仮面の力で魔力を隠しているのです。」
「ほう。」
「服を着らずに外を歩く者はおりません。これは魔法の世界でも同じではないでしょうか?」
「ふ、ふ、ふはははははぁ!」
ドレイクの笑い声だけがこだまする。
「面白い!確かにそうだ!それに、わたくしに対して臆する事なく話が出来るとは。若さゆえか?名はなんと言う?」
「ジジと申します。」
「そう、あなた気に入ったわ!わたくしがもらってあげます。いいわね?」
「か、かしこまりました。」
盗賊の頭を睨み付けながら話しを進める。
「さて、お金の話しをしましょう。」
ミラナさんから奪った、身代金がわりの金だ。
ドレイクの護衛が手際よく数え始める。
「これだけの金貨、偶然とはいえ楽な仕事だったわ!またいい話があればお願いしますよ?」
不適な笑みを浮かべながら一人の黒服に向かって手をかざした。
次の瞬間、その黒服の右腕が吹き飛んだ!
!!!?
「ぐっ!?ぐぁあああー!!」
予想もしない事態に、その場にいる全員が驚いた!
檻の中の獣人達は悲鳴を上げながら怯えている。
「調べはついてるのよ。協会からの回し者だってね。」
片腕を無くしたその黒服は、またも馬車に誘ったあの男だった。
ドレイクの護衛二人がその男を取り押さえる。
床に顔を押し付けられながらも、その男はドレイクを睨み返していた。
「不様ね。協会に帰って伝えるといいわ。我々はお前達の思い通りにはならない、とね。」
意味深な台詞。
奴隷商人と協会は敵対関係なのだろうか?
協会や貴族ってだいたい主人公と絡んで揉め事を~。
ってそんな事より、これ以上面倒に付き合う必要はない。
「リリーさん!!」
ジジが叫ぶ!
その瞬間、爆音と共に壁を貫き、眩い光りが四隅の『筋肉の像』を凪ぎ払う。
「さっすが~、全弾命中っス~!」
「何事っ!?」
窓の外、隣の建物の屋上。
そこには可愛いワンピを来たリリーの姿があった。
「オレの筋肉の像がぁぁーっ!?」
盗賊の頭がバラバラになった像の異変に気づいた。
「き、貴様らー!!」
「「ぐっ!?」」
隷属の首輪がジジ達三人を締め付ける。
同時に身体中に電流が流れ、痺れて動く事すら出来ない。
ガシャンッ!!
窓ガラスを破ってリリーが中に侵入した。
真っ先に三人の首輪を解呪する。
「けほけほっ!」
「げほっげほっ!あ、ありがとう、リリーさん。」
「リ、リリー、悪者確保っス!!」
「―――ライメイフロアブル!!」
「「ぐわぁあああー!!」」
敵も味方も関係無く、無慈悲に電撃が注がれる。
「・・・・・。」
「・・・ごめん。張りきり過ぎちゃった。」
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