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Æthelretta  作者: 松原ファルコネット
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2話 五人の騎士

 エゼルレッタは少ししてすぐにまた気を失ってしまった。

「ああ、そうだ言い忘れていたけど、私は帝国騎士団の一員、ルイーゼ・フォン・ヴェルリカ。君も身なりを見るに騎士なんでしょ」

 ゼロスは名前を聞いて畏る。ヴェルリカ家は帝国の貴族の内の一つだ。平民出のゼロスとは同じ騎士でも格が違う。

「わ、私めは帝都西区の騎士団支部の一つに所属する騎士、ゼロスと申す者です」

「ふむふむ。で、一体どういう状況なの?ここの住人たちも何が起きたのか気になっているみたいだし」

 いつの間にやら、周りにはちらほら市民達が集まっる。先程の衝撃で抉られた石造りの道を見て、彼らは互いにザワザワと話し合いをしていた。

「おや、やっとここの管轄の騎士団もきたみたいね」


 ルイーゼの目線の先には、数十人はいる騎士達。その中からリーダー格と思われる騎士が前に出てくる

「そこの二人。龍が現れたと警備兵から報告があって来たが、先程の光にこの跡……一体どういう事だ。龍は何処へ行った?」

「さあ?私はここにいるゼロス君が戦っている所に助太刀に来たのですが……龍はいつの間にやら消えてしまいました」

「そこにいる少女は何なんだ?」

「ああそうだ。確か龍が消えた後……」

「この少女は……龍に襲われていたのです!」

 ルイーゼはハッとゼロスを見る。彼女はゼロスがなぜ嘘をついているのか関心を持って彼を見る。

「少女を助けるために戦っていた所、ここにおられるルイーゼ殿に助太刀をいただき、龍を撃退したところです」

「怪しいな、見たところ2人ともここの周辺の騎士では無いだろうし、その少女の素性もハッキリしない。よもや、召喚術を用いて、この絢爛たる帝都に混乱の火種をもたらす逆賊か……?そうだ、少女がここにいて襲われたという事は少女の親類、知人もこの周辺にいるはずだ。誰かこの中に、彼女を知る者は居ないか!」

 市民たちは少女のことを見た事があるかどうか互いに意見を言い合う。そして、彼ら周りをキョロキョロと見渡す。

「どうするゼロス君?恐らく彼女はここの人間じゃない。私はこの後重要な護衛の任務があって、あまり面倒な事にはしたくないの。正直に話すべきだと思うんだけど?」

「でも、彼女が龍だったってバレたら……」

「分からないわ。君はあの龍に殺されかけていたんじゃないの?」

 騎士はゼロス達が話しているのを咎める。

「おい、何をコソコソ話している!やはり何かやましい事があるんじゃないか!」


 ルイーゼは一歩、前に出る。ゼロスは自分より明らかに実力があり貴族でもある彼女に怖気付き見ていることしかできない。

「私自身不思議で仕方がないのですが……」

「おお、こんな所に!エゼルレッタ殿」

 突然市民たちの中から一人の隻眼の老人が出てくる。

「誰だ!お前は。そこの少女の知り合いか?」

「ほうほう、老人相手にお前呼ばわり、どうやらここ北区の騎士達は騎士道精神が欠けているとみれる。私めは畏くもスフォルツィエ家の家老、カール・セルバンダ・ミルホーテと申す」

 あたりは騒つく。彼は聖騎士ジョバンニの剣の師匠で老カールの名でよく知られる。かつての魔族との戦いの時には帝国の将軍として数々の戦果を挙げた有名人である。

「なぜ貴方のような方がここに?」

「ここはどうか手を引いて下さらんか?あの少女は危険な存在などではない。それだけはこの老骨が我等が皇帝と神に誓って保証しましょう」

「し、しかし、今この場の惨状、どう理解すれば良いのか……」

「何、龍などという生き物は元より我らの理解を超える存在。こんな事も滅多にある事ではない。安心せい。此度の件、必ずやジョバンニ殿に報告して、北区の防衛を見直すよう言いつけておこう」

「……分かりました」

 彼の声色には相手を黙らせる程の威厳が伴っていた。老カールの言葉にしばらく考えこんで騎士達は渋々引き下がる。


「とんだ苦労をかけましたな。想定外の事態でしたが、事なきを得て何より。さて集合場所まで行きますか、お二方」

「え!?」

 ゼロスとルイーゼの二人は声を合わせて驚く。老カールによるとゼロスとルイーゼの任務は共にエゼルレッタの護衛とのことだった。

 ゼロスは驚きエゼルレッタの事をジッと見つめる。

「こいつの護衛が俺の任務……?」

(あれ?てことは私、もしかしてあの場で彼女の素性をバラしてたらマズい感じだった……?)

 ルイーゼは老カールの方を見て愛想笑いして肩をすくめる。


「さてこれで皆揃いましたな。では自己紹介を私から」

 すでにそれなりの人通りのある北門の側、ゼロスを含めた五人の騎士が、馬車の前で整列している。近くでは早朝の戦闘による城壁の損傷の状態を確認する他の騎士達。

「今回の護衛の任務で皆様方の隊長を務めるスフォルツィエ家の家老、カールと申す。あと横に控えるのは馬車を引く従者のアデルモ」

 アデルモは亜人だ。帝国南方に住む獣人で毛深く犬のような顔をしている。

 彼らは魔族との戦いに置いて人間に協力して、帝国内で一定の市民権を得たが、今でも帝国内、とりわけ帝都では見かける事は珍しい。

「アデルモです。以後お見知り置きを」

 彼はサッサと紹介を済ませて馬車を引く獣の世話に戻る。獣はグリフォンで、獰猛なこの生き物を飼い慣らす事は難しいが、帝国内では野生で良く見られる生き物である。

「はいはい!次、私!ふっふっふっ!何を隠そう。私は帝国騎士の内、三大騎士団のストラツィア騎士団のエース。未来の聖騎士!テトよ!」

 そう言うのは背丈の小さい子供と見まごう少女。しかしこう見えて成人済みである。

「じゃあ……次。北区の帝都騎士団支部の所属、エーリヒ・クライフ……」

 エーリヒは寡黙な男だ。背中には身の丈程もある大剣を身に付けている。

「私はルイーゼ・フォン・ヴェルリカ。騎士団本部の所属です」

「なっ!?ヴェルリカ!それに騎士団本部って……いえ何でもないわ!」

 テトはルイーゼに対して大きく反応するがその後直ぐに澄ました顔をする。

「お、俺は、ゼロスです。西区の帝都騎士団支部の所属です」

 ゼロスは周りが頼りになりそうな人物ばかりですっかり萎縮してしまっていた。そんな自分を奮い立たせる為に彼は拳を握って気合いを入れる。


「ところで、老カール殿、護衛対象の事ですが、いえそれだけに留まらず今回の任務、各所から騎士を呼び出すなり、聖騎士様じきじきの指名なり、不可解な点が多い。そこの所、一つ教えてもらいませんか?」

 カールは腕組み、唸る。それを差し置きテトはルイーゼの事をなじる。

「失礼ですけど、ルイーゼ殿……!むやみやたらに任務のことをセンサクするのは、帝国騎士にとって任務に対するシセイがなってないのでは……?」

 テトは威厳を持たせて発言するつもりだったが、いかんせん舌足らず。

「テトちゃんは知らないだろうけどね、朝にいろいろあって……」

 テトは怒りを露わにして腕を挙げて威嚇する。

「テトちゃん!?こう見えて成人済みじゃい!」

「はいはい、でどうなんですか。老カール殿」

「俺も……気になります」

 ゼロスも前のめりになって老カールに詰め寄る。

「ふむ……まぁいずれは知ることになっていたかもしれない事。実は、此度の任は帝国議会により決定したものなのだ。護衛の騎士の選定には皇帝陛下の腹心、大司教ナルディウスの意向が大きく関わっているらしい」

 ゼロスはジョバンニの言った選ぶだけの力を持った者という言葉を思い出す。しかし何故大司教が自分なんかを選ぶのかは全く身に覚えのないことだった。

「それは今回の護衛対象の少女、エゼルレッタが龍であった事と無縁ではないのですよね?」


「今回の護衛対象は……龍?」

 ルイーゼの発言に事情を知らないテトとエーリヒはそわそわと身振り手振りをする。

「そこだ。儂もあまり詳しくは知らぬのだが……主に聞いた話では、彼女はときおり自分の意志とは無関係に暴走してしまう事があるとか。龍の姿はその結果であると理解してもらいたい。とはいえ魔力の宿った腕輪でその力を封じる事が出来るのだが、昨晩はあったそれを彼女は今付けていない」

 ゼロスは息を飲む。

「え?それってつまり……?またいつ暴走するか分からないって事か……」

「左様。今から宮殿に戻っても腕輪を授けたナルディウスは暫く帝都には不在なのだ。このまま出発するしかないが、帝国の勇敢な騎士諸君は必ずやこの困難な任を達成すると期待しておるぞ」

「あったり前よ!なんたって私はストラツィア騎士団のエース……」

 テトは今まで自分のこなしてきた任務における自分の戦績を自慢しだす。他の二人も特に動揺はないようだ。

 ゼロスは今朝の魔素中毒の痛みが戻ってきたのか、頭がまた痛み始める。しかし、それを表に出す事は無かった。

「では、出発だ。目的地はヴァーンデンの首都カーバム!行く道は魔物や薄汚い蛮族、険しい道のりが待っているだろうが我等の命に賭けて!」

 こうして一行は帝都イェルヒースを出発する。

 馬車の中でいつのまにか起きていたエゼルレッタ。彼女は外で騎士たちが話しているのを聞き流して、外から射す光をボーと眺めていた。ずっとそうしたまま、やがて馬車は動き出す。


「五人の騎士、魔族との最終決戦のあの時を思い出すね。ナルディウス。ああ、皆んなは騎士ではなくて王だったか」

 浮遊島、青空に浮かぶ雲の上の島で大司教ナルディウスとその横には翼の生えた天使のような姿の人物。

「ヒ族の少女の護衛の事かい?同じなのは数だけだろう、あの時とは目的も経緯も何もかもが違う」

 青空を映すナルディウスの黄金の瞳。その前を大きな影が覆う。空を飛ぶ巨大な蛇の胴体。鳥の翼と虫のような触覚を持ったその生物は聖地の守護者だ。

「人曰く、我等は罪深い。その生命は常に神のもとに握られ、永遠の罪は何者の手を以ってしても……」

 ナルディウスの隣で大欠伸が聞こえる。

「つまり、どういうことさね?」

「……人生は、最高に楽しむべきだろって事さ!」

 ナルディウスは笑みを浮かべ目の前に聳える巨体を見上げる。聖地の守護者は彼の事を見るのをやめて、悠々と空の巡回に戻る。ナルディウスの瞳は光を受けて再び輝く黄金色になっていた。

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