亜人討伐(1)事前準備
訓練期間を終え、俺たちはビリーから殺しをためらうことの危険性をレクチャーされた。ビリーはこれから、隣国コルベストのハンターギルドに掛け合って、殺しを体験するための適当な依頼をもらってくるとのことだ。
俺は静かに覚悟を決めた。
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ファーメル教国の東側は、北に小型草食動物の住むひらいた草原地帯と南に鬱蒼と茂るグラナ大森林がある。そして草原の奥深くから森林中腹を縦断するテアニス川で東の隣国サリミド王国と分かたれていた。
グラナ大森林は、テアニス川のある奥のほうほど、巨大で強力なモンスターが生息し、手前の浅い方には、角の生えた小型のうさぎホーンラビットなどのちいさな草食動物が住んでいる。
依頼はグラナ大森林を迂回して草原側からサリミド王国へ向かうための街道、通称グラナ街道沿いに出るゴブリンの退治。
ターゲットのゴブリンはグラナ大森林の浅い位置に生息していた。
「ゴブリンについて、りんぞーさまは、どれ位ご存知ですか?」
「訓練で聞いた限りでは、緑色の肌で、耳が長くて、繁殖力の強い子供ぐらいの力の小型の亜人で、家族単位で行動し、さほど組織だってはいない。
木の皮を削って樹液を得て、葉に溜まった露を飲みホーンラビット等の小動物や木に集う昆虫、木の実などを糧とする、武器は、木や草のつるで作った簡単な槍や弓、複雑な罠や製鉄するほどの知能はない、かな?」
「馴化訓練の教本なら100点ですね! それでは、どんな対策が必要でしょう?」
「何その声。サヤさんのものまね?」
「雰囲気を出してみました!」
ふうちゃんが、担当教官のサヤさんの声色を真似しながら聞いてくる。
「対策ねぇ。ゴブリン相手に? いらないんじゃね? 最弱の亜人でしょ?」
「その弱い亜人は、強い魔物からどうやって身を守って生きてるんです?」
「木々に隠れて? 不意打ち対策がいるってこと?」
「それもありますが、ゴブリンは毒の矢を使うんです。なので、毒消し草や血清を準備しましょう。もちろん毒と言っても、ゴブリンの使うものは、毒性のある動植物から大雑把に抽出したものなので、即死するようなものではないのですが……」
「毒物って膨大な種類あるよね? 魔法でなく、薬で対応できるものなの?」
「グラナ大森林にある有毒な動植物は限られていますから、毒消しや血清はグラナの街で簡単に揃いますよ。私はアンチポイズンやクリアブラッドなどの解毒魔法を使えますが、魔力切れを想定して、毒消し草、血清は持っていくつもりです」
「ゴブリン退治でも、対策は必要ってことか」
「命は一つしか、ありませんからね」
正直、少しなめていたかもしれない。命のやり取りをするんだよな。
・用語解説
ハンター――人間の生活圏周辺の魔物退治や盗賊退治
商隊や貴族の護衛などを行う職業。遺跡で
一攫千金を狙う冒険者的な者たちもいる。
ハンターの序列――特級。大陸で名を知らないものがいない英雄。
一級。国で、数パーティーしかいない。
二級。ギルドトップ級の有名ベテランハンター。
三級。ベテランハンター。
四級。一般ハンター。
五級。新米ハンター。