激闘! ビリーvs教官組
ペリーに連れられてやってきたレストランは、ゴレコンの訓練場の目の前にあった。見るからにオープンしたばっかりの新しい建物で、内装もおしゃれだ。
統一された感じのある柱や椅子、テーブル。
オーダーメイドで組み合わされてえいるような感じさえする。
全部が計算されて配置されているような……。
たぶん、なんとか式みたいな名前が付いてるんじゃないだろうか?
スタッフもみんな姿勢正しく、常に周囲に気を配っている。
教育が行き届いているようだ。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「4名です」
「お席にご案内いたします」
案内されたのは窓際の席だ。大きな窓から外の様子が見える。
「へぇ。いい感じのレストランじゃん」
「おしゃれですー」
「ふふふ、そうでしょうそうでしょう」
俺たちの反応に、フィオも満更ではなさそうだ。
「ファーメル教国内に5人しかいない特級厨師のいるレストランです。味のほうも期待してください。リンゾー」
「ありがとう。素直に嬉しいよペリー」
ふうちゃんも嬉しそうだな。
メニュー、メニューと。
スパイラルホーンのステーキがイチオシみたいだな。
オーブから投影される画像を見るに、スパイラルホーンは、ぐるぐる巻の長い角を持った魔獣だ。見た感じ多分牛肉のような味だろう。
「おれ、スパイラルホーンのテンダーロインステーキがいいな」
「たのんでおきますよ」
「サンキュー」
ふうちゃんもフィオに注文を頼んだみたいだ。
「ふうちゃんはここにお店があるの知ってた?」
「ボスがレストランを誘致してたのは知ってますが、来たのははじめてです!」
「へぇ。誘致ってことはゴレコンのスタッフ向けのレストランなんだ?」
「そうです。建築関係法で、軍事従事者向けの防弾性能のある建物しかここらへんに建てることはできないんですよ」
「ああ、こっちの世界にもそういうのあるんだ」
街の景観を守るとか、市民の安全を守るとか、いろいろあるんだろうな。
「さすがに双葉は物知りね。私はてっきり『勇者戦役』の影響で、場所を移ってきたレストランなんだと思ってた」
勇者戦役ってなんだ?
「そういうお店も多いですね。大聖堂からこのあたりまで、勇者戦役でだいぶ壊されましたから」
「なるほどな」
召喚の勇者をはじめ、ファーメル教国に不満を持つ何人もの勇者たちがテロを起こし、多数の死者を出した事件。
『勇者戦役』なんて名前がついたんだな。
しかし、ゴレコンの訓練場がよく見える。
スタッフ向けのレストランだからこそ許されるのだろう。
こんなに丸見えじゃ、機密もなにもあったものじゃない。
「リンゾー。実はこれからボスと教官組の訓練があるんですよ。そういうの興味があるでしょう? ここを選んだのはそういう理由もある」
「ありがとうペリー。すげー興味あるよ。ビリーがゴレコンに乗って戦うのか。当然強いんだろうなぁ」
「それは見てからのお楽しみということで」
とっても興味深い。
時間があっという間に過ぎていく。
早く始まらないかな? そわそわするぜ!
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
「はじまるまで余興をしましょうか?」
ふうちゃんが聞いてきた。
「余興? ふうちゃんがすんの?」
「実はりんぞー様に驚いてもらおうと思って、徹夜でネタを仕込んでたんです」
「双葉、緊張してる? 声がちょっと高いよ?」
フィオの言うとおり、噛みそうなぐらい早口になっている。突っ込んでリラックスしてもらおうか。
「徹夜って、ベクターノズルの設計図を書くためにしてたわけじゃないんかい!」
「そっちは実は2時間ぐらいで終わりました!」
ドヤってる。かわいい。いい感じで緊張も解けたようだ。
「取り出しましたるは、新作のオーブ! じゃじゃーん」
ふうちゃんが無限格納から魔石をひとつ取り出した。
ゴレコンに嵌められるサイズの大型オーブだな。
「双葉。ちょっと見せて?」
「どうぞ」
フィオが手にとってまじまじと見つめている。
「これ、高次積層圧縮回路ね? ここまで深い階層になってるのは見ないわね。魔術学院のゼミを思い出すわ……」
「初めて作ったときは、台座部分の素材選びが難航して、フィオさんに手伝ってもらったんですよね」
「そうだったわね。うーん。空間魔法ってことはわかるんだけどなんのオーブだろう? 格納系?」
「さすがフィオさんです! 実はこれ、無限格納のオーブなんですよ」
ペリーが目を輝かせる。
「それは画期的です。ゴレコン全機で無限格納が使えたら運送の常識が覆りますよ?」
ああ、確かに。
これが実用化されたら運送業は大打撃だ。
「それが……、余興用なので実用性はないんです」
「なにか、わけありなのね?」
「そうです。いま、理由をお見せしますので、フィオさん! アイテムポーチを貸してください」
「いいけど、私のアイテムポーチ、ポーションしか入ってないよ。どうするの?」
「ふふふ。実は、ここからがこのオーブならでは、の特殊な機能なんですよ。いきますよサーチ!」
無限格納のオーブが魔力の光を帯びる。
魔法でアイテムポーチを走査しているようだ。
「じゃん!」
無限格納のオーブの光が照らすなにもない空間から、液体の入った香水瓶のようなものが出てきた。
「ふむふむ。これは。ホワイト製薬製ですね。最近流行りの使うと痛みが止まるっていう噂のポーションですか?」
ふうちゃんがポーションの裏のラベルを見てる。
「どんな薬草を使ってるんでしょう? 魔法だって痛みを止めるのは難しいのに……」
「ああーっ。私のアイテムポーチからポーションが消えてる!?」
まさか、フィオのポーションがふうちゃんのオーブから出てきたのか?
「こういうわけで、せっかく作ったんですけど実用化はできないんです」
ふうちゃんががっくり肩を落とした。
「つまり、そのオーブが実用化されると至るところで窃盗事件が発生するわけですか?」
うなずいてるな。
それはひどい。
ふうちゃんはあんまり危険と思ってないようだけど、そのオーブ危険だな。
下手に使うと裁かれる側に回っちまうぞ?
「ふうちゃん。そのオーブ、俺が預かってもいいかな?」
ふうちゃんを犯罪者にはしたくないからな。
「もう……。そんなに欲しいんですか? しょうがないですね? どうぞ!」
なんでちょっと嬉しそうなんだよ。
「あ、ゴレコンが出てきましたよ?」
格闘戦仕様のニードルピニオンが二機。大きな槍を持ったニードルピニオンが一機。
訓練場で陣形を作った。
「イシュカ、ヘンリーとマクベス教官ですね」
「マクベス教官って槍も使えるのか?」
「剣も槍も達人級ですよ」
「まじかよ……」
格闘戦仕様の二機が前衛、槍装備のゴレコンが後衛だ。
そしてそれに対峙する普通のニードルピニオンが一機。
あのドノーマルのがビリーだな。ノーマルの量産機なのに威圧感がすごいな。
運ばれてきたステーキを食べつつ、様子を見る。
ビリーが身体強化魔法を使った。ニードルピニオンが光を放つ。
イシュカ・ヘンリー・マクベス機がそれに合わせるように、わずかに浮上してスラスターを吹かした。
加速し勢いに乗り、着地してそのまま走り出し散会する。
あんな動きは全身鎧を着た人間にも無理だし、ゴーレムにも無理だ。
散会した3人は、3方向から同時にロングレンジライフルを発射した。
ビリーは、一発を避け、二発のペイント弾を不可視の壁で食い止めた。
空中でペイント弾が破裂する。
テレキネシスハンマーだな。
お返しにと、ビリーが震脚のようにその場で足を踏み込むと、10mほどの大きさの無数の剣山が3機の足元と100mほど上空に顕れ、次の瞬間鮫の口のようにバクリと閉じた。
「アイアンメイデンですね」
エグい。
全機スラスターを吹かしてアイアンメイデンを回避していたが、動きを先読みされて、そのままイシュカ機がビリーのペイント弾の餌食になった。
ライフルを持つビリーの右手側に回避したことが仇になったな。
長距離からのペイント弾は、テレキネシスハンマーで阻まれる。
となれば当然……、
ヘンリー機とマクベス機が瞬時に縦のフォーメーションを組み直しビリー機に迫った。
……、そうだよな。至近距離から隙きを突いてガトリングガンから発射したペイント弾を当てるしかない。
強力な高レベルの強化魔法とオプション装甲により、鉄壁の近接防御を誇るヘンリー機を盾に、マクベス機が槍で後から攻撃する。
息をつかせぬ猛攻。ビリーにペイント弾を発射させまいと左手のガトリングガンを執拗に狙う。
凌ぎつつ、ビリーが地面に手をついて巨大な薙刀を瞬時に生成し、振り回す。
小さい竜巻がグランドに発生した。
スラスターを吹かし、ビリーの左手を狙う至近距離でのヘンリーの猛攻。
元が重量級のゴーレムとは思えない高速な突きや蹴り。
中距離からのマクベスの嵐のような槍の刺突。
凄い連携だが、かすりもしない。
拳はかわされ、槍は薙刀で打ち払われる。
まるで予知しているかのように捌くな。
あの凄まじい波状攻撃をミス無しで完璧に躱しきっているのだ。
「気付きましたか? リンゾー」
特殊能力か?
ビリーの機体もたしか複座式だったよな。マリンさんが乗ってたはず。
「予知か?」
「ええ。同乗しているマリンの能力なんですが、数秒先の未来が見えるようですよ」
先読みした未来を、符号を使ってビリーに伝えてるってことか。
強いわけだ。
ビリー機が腕を上げると、ヘンリー機が空中に持ち上がる。
そのまま空中で3回衝撃が起き、格闘戦仕様の特殊装甲がバラバラに砕け散った。
そのまま吹き飛ばされ、ヘンリー機がダウンした。
……、ヘンリーは戦闘不能だな。
しかし、テレキネシスでゴレコンを空中で固定するなんてことが可能なのか。
マクベス機との1対1。
マクベスの槍に対し、ビリーは臆さず飛び込み拳を合わせる。
手にテレキネシスハンマーが乗っているのだろう。
接触した瞬間、槍がひしゃげ、マクベス機が吹っ飛んだ。
「なんて強さだよ。想像の上をいってたぜ」
「リンゾーでも簡単には勝てないでしょう?」
「そうだな。苦戦すると思うよ」
戦闘終了か。見入っちまったな。
あーあ、見るのに夢中で料理が冷めちまった。




