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ドッグファイト!


 ――、冷却システムグリーン。


 重力フィルター安定。


 各種放射線検出限界を下回っています。


 タービン出力100.3、100.1、100.1。タービン1番から3番、偏差0.5未満。


 ツイスター機関、グリーン。GCSグラビティコントロールシステム正常。


 火器管制システム、グリーン。


 ランサーギア・ファントム改 起動します――


「ファントム。自動操縦だ。ファーメル教国の大聖堂上空まで頼む」


了解ラジャー


 ――、自動操縦モードに移行します。


 すうっとファントム改が上昇し、雲が一気に近くなりそのまま景色が流れ出した。


 しかし……。


 離陸をするとあらためて、ファントムの『ベクトル操作』の凄さがわかるな。


 垂直離陸はもちろんのこと微妙な姿勢制御まで、俺の意のままにスルッと実行してくれる。


 普段、何気なにげない部分でも、随分ずいぶんとベルの能力の恩恵を受けているわけだ。


「なあ、ベル。マカロン味の魔力弾を作ってみたんだけど食べるか?」


「食べるけど、私、なんにも仕事してないよ? いいの?」


「いつも世話になってるからさ」


 ホイッとベルに魔力弾を渡す。


「どうしよう双葉。おにいちゃんが優しいよ!」


「ずるいです! ベル様! マカロンは私も食べた事ないのに!」


「双葉はそのうち実物を食べられるじゃんかー!」


 ……、平和だねぇ。


「そうだ、ふうちゃん。ハーフエルフの集落を襲ってた、あの黒いゴレコン。ふうちゃんの見立てでは帝国製なの?」


「そう思います。あの機体、ランサーギアシリーズと同じくツイスター機関が搭載されてたんですよ。ツイスター機関は残念ですけどファーメル教国でも造れません」


「まじかよ。そんなに造るの難しいのか?」


「原理は私の『重力ジェット』と近いんですけどね。あれを造るには正確な廃棄宇宙の座標情報が必要なんです」


「つまり、廃棄宇宙から来たメテオルさんたちにしか造れないってことか?」


「そうです。ですから、在庫が限られていると思うんですよ。鹵獲ろかくされたドローンの数だけ、つまり多く見積もってもツイスター機関はこの世界に100機分足らずしかないと思うんです」


「なるほどな。ニードルピニオンのスラスターはどうなの?」


「あれはイオンエンジンですね。りんぞーさまのサーマルガンに近い原理ですよ? あれはファーメル教国でも造ろうと思えば造れます」


「ん? ちょっと待って……。ファーメル教国のニードルピニオン改って、今はファントムみたいにツイスター機関を積んでるんじゃなかったっけ?」


「ああ、そのことですか……」


 ふうちゃんは、何でもなさそうだ。


「実は、ラケシスの艦長さんに融通してもらいました」


「なんだって? ラケシスの艦長ってカグヤさんだっけ? メテオルさんのところの。いつの間に仲良くなったんだよ!?」


「ふふふ。実はツイスター機関の原理を予想してカグヤさんにお伝えしたらとっても驚かれてしまいましてね、研究者同士、話が弾んで一気に仲良くなりました。ツイスター機関はカグヤさんが発明したそうですよ? その上で言うんですが、あの黒いゴレコンは帝国と何らかの関わりがあるはずです」


「なるほどね。ツイスター機関はそもそもメテオルさんたちと戦った帝国ぐらいしか持ってないわけか」


「おにいちゃん。大聖堂が見えたよー」


 ほんとだ。もう着いたか。


 ファーメル教国のゴレコンの訓練場の上空で、ニードルピニオンが模擬戦をしている。


 空中戦だ。


 大型サーベルを付帯したゴレコンが、槍を帯びたゴレコンに追い詰められている。


 多分、ペリーとルナだな。


 大きく2機のゴレコンが旋回していく。


 操舵角が限界になるように誘導されているようだ。


 ときが止まった!


 時間停止しても空中だと思い通り動けないせいで、先読みして逃げ場をなくすよう緻密に計算して撃たれたペイント弾を避けきれないらしい。


 ニードルピニオンのベクターノズルによる移動には操舵角の限界がつきまとうんだ。


 ペリーの悔しがる顔が目に浮かぶぜ。


 時間停止なんていう絶対的な切り札を持っているにも関わらずゴレコンに乗っている限り実力を発揮しきれないんだからな。


 時間停止のタイムリミットが過ぎたか。


 あーあっ。


 ペリー機がペイントまみれになっちまった。空中戦では龍騎の勇者として鳴らしたルナのほうが強いか。


 着陸して……と。


「りんぞーさま。ボスにアイスフィールドのオーブと『設計図』を届けてきますね?」


「ああ、ふうちゃん。いってらっしゃい」


 おっ、テレパスオーブによる通信だ。


 えーと、この色は誰だっけ? いたもんの仲間のはずだが……。


「麟三さん。せっかくファーメル教国に立ち寄ったんだから、私と一戦していきませんか? 相手が物足りなくて暇してるんですよ」


「ルナか?」


「お久しぶりです」


「ああ、久しぶり。ところで、ペリー相手に物足りないって? 言うようになったな」


「地上戦では不覚を取りましたが、ドッグファイトならご覧のとおりです」


 ルナのドヤ顔が目に浮かぶぜ。


「いいよ。やってやる。ペイント弾に換装するから少し待ってろ」


 敗北の味を思い出させてやる。


「了解! ありがとうございます。麟三さん!」


 こころなしかうわずった声音だ。敗北した時の屈辱をそそぎたいんだろうな。


 ブルルルル……。


 テレパスオーブが震えてるな。今度は、ペリーか。


「リンゾー。帰ってきてたんですか? 連絡ぐらいくれればいいものを」


「ああ、ちょうど今帰ったところなんだよ。それより、見てたぜペリー。こっぴどくやられてたじゃないか?」


「面目ない。まさか時空魔法がこうも役に立たない局面があるとはね。盲点でした」


「実は、俺も今ルナから挑戦を受けてさ」


「言い訳するわけじゃないが、ルナは本当に強い。とはいえ双葉やベル様の力を借りられるリンゾーなら勝利は確実でしょうね」


「いや。二人の力は借りずにやるぜ?」


「正気ですか? リンゾー。ルナは空中戦では敵なしですよ? ロブ達だって空中ではルナの的だ」


「期待してくれていいよ、ペリー。俺は飛龍に乗ったルナを倒したことがあるんだ」


「そうでしたね。敵討ちに期待しましょう。終わったら祝勝会をやりましょうか? 勝てたらおごりますよ? 勝てたらね」


「勝ったら食いまくってやる。覚悟しとけよ?」


 よーし、やるか!



▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽



「ベル。ベクトル操作のオーブを外してくれ」


「いいの? おにいちゃん。あいつ人間にしてはなかなかやるよ?」


「自分より強いかもしれない相手と戦うチャンスだからな。チート無しでやりたい」


「なんでさー。相手が強いと思うなら使えるものは使うべきだ!」


「練習だし、味方相手だからな? 強い相手との練習は貴重なんだよ」


「わかったよ。でも、負けたら承知しないからね?」


「そりゃすごいプレッシャーだ」


 ベルがコックピットから飛び出した。


 ああ、当たり前だけど、ベルも人間形態で飛べるんだなぁ。


 さて……。


 広大なゴレコンの練習場で、ルナのニードルピニオンと向かい合う。


 距離は、およそ2000RU。


 身体強化魔法を通しても、肉眼では豆粒ぐらいにしか見えない。


 遠方視ヴィジョンのオーブを起動。


 向こうも準備万端のようだ。


 重力制御装置グラビティコントロールシステムでゴレコンをわずかに浮遊させ、タービンを吹かして一気に加速する。


 機体を傾け、揚力を得て一気に上昇する。


 重力制御装置のおかげでGは抑えられているが、視界が目まぐるしく変わる。


 気持ち悪ぃい!


 向こうから飛び立ったルナの機体と交差した!


 上をとったほうが有利になるよな。


 旋回しつつ上を目指すぜ!


 くそっ、速えぇっ!!


 ルナのやつ錐揉み状に回転しながら高度を上げやがった。


 上を取られた!


 上空からペイント弾が雨あられと降ってくる。


 加速して逃れないと……って、もう最高速か。


 サーマルガンを推進力に加えてブーストする!


 見たか! 疑似アフターバーナーだ。


 うおー!


 ベクトル操作がないと機体の操作がままならない。


 世界が回るっ!


 加速して機体を傾けたら宙返りしちまった。


 やべぇ、失速して墜落するっ!


 うおー!


 あがれー!


 機体が揚力を得て、再び上昇を始めた。


 ……ふぅ。多少不格好だったが、急加速と急上昇に成功したぜ。


「ふふふ。かわいい。麟三さん、初心者丸出しですよ?」


 ちくしょう、ルナの奴め。


「余裕を見せていいのか? 上は取ったぜ」


 距離30RU以内。真上をとった!


 10倍に増幅された俺の魔法の射程内だぜ!


 停止ッ!


 ペリー、みとけよ? 時空魔法は、攻めてこそ生きるんだぜ?


「進行可能な位置全てにペイント弾をばらまいてやる」


 3……2……1。


 詰みだ!


「きゃっ! 嘘でしょ。こんなあっけなく……」


 ルナの言葉通り、決着はあっけなくついた。


「参りました……」


 よっしゃー!



▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽



 ファントムから降りるとペリーとフィオとふうちゃんが待っていた。


 ベルは……、向こうでルナに拝まれているようだ。


 龍神だもんな。一応。


「リンゾー。見事でした。私は少し守りを考えすぎていたようだ」


「ごめんねペリー。私の土魔法が役に立たなくて……」


「フィオのせいじゃないですよ。私の攻めが足りなかった」


「ペリー。そこに気づけば次は勝てるさ。ところで奢りの話だけど、ふうちゃんの分もいいか?」


「全部私の奢りでいいですよ。実は持ってた別荘が高騰しましてね。ポーション作りの最大手のホワイト製薬が工場用地を大規模に買い集めてたんですよ。私の別荘もその工場用地の中に入っていたらしくって、だいぶ吹っかけることができました」


「えっ? ペリー。おまえ、別荘なんて持ってたのかよ?」


「ええ。リンゾーは、海上都市国家ハリハラを知ってますか?」


「ああ、観光で成り立っている国だよな? 最近近くまで行ったよ」


「そこに別荘をね」


「へぇ。そりゃいいなぁ。休暇中連絡が取れないと思ったらフィオと風光明媚ふうこうめいびな別荘に行ってたわけだ?」


「ええ、まぁ……」


「ポッ……」


「ふうちゃん。今日はめっちゃ食おうぜ!」


 こんちくしょー!

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― 新着の感想 ―
[良い点]  何気に貴重なペリー登場回!  ルナちゃんの再登場も重なって、なんだか盛り上がってきましたね。各機の実戦での活躍とか、今回名前だけ出て終わったロバート機のパワープレイとかも楽しみです。  …
[良い点] いいですね!ファントムは主人公機的な位置づけですからカメラが向きやすいんですけど、ベクトル操作の所為でロボ臭さがあんまり感じられないとこがあったんですよ。個人的には。 今回のお話は飛行と…
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