表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/87

物から者へ

「顔をあげてくれ。オレたちは里長に会いたいだけなんだ。会わせてくれないか?」


 ひれ伏すハーフエルフたちに声をかける。


 ……、誰か顔を上げてくれないかな?


 数秒が数分に感じられるような手持ち無沙汰な時間。


 ぎゅっと、ふうちゃんが手を握ってきた。


 平気そうな顔をしているが、顔が青ざめている。


 ああ、やっぱりキツかったんだな。


 ふうちゃんは、どうもオレが死にかけるシチュエーションがトラウマになっているらしい。


 オレの力を信じていても、『怖いものは怖い』という感じかな。


「ごめんな、ふうちゃん。心配かけた」


「……わかってくれました」


「よかったね。双葉」


「はい」


 ふうちゃんの顔色が少し明るくなった気がするな。


 よかった。


 十分すぎるほどの土下座が終わり、オレと約束をしたハーフエルフの隊長が顔をあげる。


「約束です。里長のところへご案内いたしましょう」


 隊長の後を追い、ひれ伏すハーフエルフたちの横を抜ける。


 かたわらに転がる手足が本当に痛ましい。


 ふうちゃんと手をつなぎ後ろをついていく。


 木々を抜け、小さな蔵のような建物に入るとそこには、おさという名に似つかわしくない若い女性がいた。


 顔色がとても悪い。


「部下たちが大変な失礼をしたようだ。誠に申し訳なく思っている。お詫び申し上げる」


 長と呼ばれた女性が深々と頭を下げた。


「頭をあげてくれ。ちょっと行き違いが起こっただけだ。オレたちはビリーから頼まれたものを受け取れればそれでいい」


「ありがとう。オーブは必ずお渡ししよう」


「よろしくたのむ」


 里長が警備隊長に目配せした。オーブの用意をさせるためだろう。


「言い訳というわけではないが、ここのところオーブを盗みにくるものが絶えなくてね。ついにゴレコンまで持ち出されたのでこちらもオーブを守ろうと必死になっていた。申し訳なかった」


「もういいよ。ふうちゃんも許してくれるよな?」


「そういう事情なら仕方ないです」


 ふうちゃんが頬をかいた。手首のリングが音を立てる。


「……その手足のリング、懐かしいな。私がかつて雪代青葉に送ったものだ」


「おじいちゃんとお知り合いなんですか?」


 ハーフとは言えさすがエルフっていったところか。


 長命種ゆえに、見た目と年齢が一致しないのかもしれないな。


「そのおじいちゃんというのが、雪代青葉であるならばそうだ。雪代青葉は、私の親友であり戦友だよ。君は彼の孫なのか。……、人間の寿命というのは短いものだな」


 少し寂しそうにうつむきつつ里長が言った。


「自己紹介が遅れました。私は雪代青葉の孫の雪代双葉と言います。よろしくおねがいします」


「よろしく。私は里長のスラニアだ。ところで、双葉さん。君はここら辺一帯が、かつてラブレス帝国領だったことは知っているか?」


「知ってます」


 確かファーメル教国の西のコルベストのあたりまでラブレス帝国領だったんだよな。


「そのラブレス帝国を滅ぼしたのが、雪代青葉率いるレジスタンスだったのさ。私もその一員として戦った」


「おじいちゃんと同じパーティーで戦ったっていうことですか?」


「そうだ」


 確かファーメル教国の建国者で、日本からの転生者だったよな。

 ふうちゃんのおじいさん。


「おじいちゃんは、どんな人でした?」


「面白い男だったよ。彼は召喚術師だったんだが、なんと女神ファーメリア様を呼び出したんだ。本来人間が召喚できる霊格はそれ専門の勇者でさえ神獣までなんだが、あろうことか3大神の一柱を呼び出したのさ。あの時は世界を揺るがす大ニュースになった。雪代青葉の名は一夜にして世界中に知れ渡った。『その日、召喚術の常識が覆った』ってね」


「うわー」


 まじかよ。ファーメリア様が召喚されたのか。


「ファーメリア様もさすがに頭を抱えていたらしい。あってはならない事態だ。修正しないとってね」


「そりゃそうだろうな。しかし、召喚術でファーメリア様が呼び出されるとは。でも、すぐに修正されたんだろ?」


「未だに召喚術周りの不具合は完全には直ってないみたいですけどね。ファーメリア様がぼやいてましたよ」


「とはいえ、ファーメリア様を青ざめさせたのは後にも先にも雪代青葉一人だけだろうな」


「違いないです」


 違いないです、じゃないぜ? ふうちゃん。召喚術まわりの不具合だろ? ……、アトロポスのようなメテオルさんたちの宇宙戦艦とかさ。ふうちゃんの重力ジェットも、もしかしたらそうなんじゃないか?


 多分、しょっちゅう青ざめてるんじゃないかな。ファーメリア様。


「雪代青葉と我らレジスタンスが倒したラブレス帝国は、吸血鬼の支配する国でね。皇帝ラブレス含む貴族たちはすべて吸血鬼だった」


「支配者層が吸血鬼だったんですね」


「そうだ。そして主に人間の奴隷を家畜のように『食用』として飼っていた。吸血鬼に言わせると、エルフの血より人間の血のほうが濃くてうまいらしい。しかし、永劫の寿命を誇る吸血鬼と違い人間の寿命は短い。そして、餌を良くしても歳を取った人間は血が甘くなって味が落ちる。そこでラブレスの貴族たちは考えたのさ。長命種のエルフと人間をかけ合わせれば、効率よくうまい血が吸えるだろうと」


 吸血鬼にとって、オレたち人間はただの『餌』か。

 完全に相容れない感じなんだな。吸血鬼と人間は。


「つまり……、ハーフエルフは『美食用』に意図的に造られた種族ということですか?」


 警備隊長が息を呑むのを感じる。おそらく彼らにとってそれだけ深刻な話なのだ。


「そうだ。ハーフエルフとはラブレス帝国によって造られた食用種、つまりは『家畜』なのだ。だから私達には生まれたときから人権がなかった」


「なるほど。ラブレス帝国を倒したことによって、ハーフエルフの方々は家畜の身分から解放されたということですか?」


「少し違う。差別というのはもっと根深いものなんだ。支配者が一回変わったぐらいで無くなるようなものじゃない。ラブレスから分かれたセントラ帝国でも結局ハーフエルフは奴隷だった。雪代青葉も心を痛めていたよ。なんのためにラブレスを倒したのか、とね。雪代青葉はファーメル教をセントラ帝国の国教とするべく駆け回った。ファーメル教国の建国者となった青葉が他国に口を出す方法なんて限られているからね」


「おじいちゃんが冒険者を引退する前の話ですね」


「そう。その後、雪代青葉の志を継ぎ尽力してくださったのが、異端審問官長のビリー様だ。ビリー様は奴隷として散り散りに売られていった我々の同胞を取り戻し一つの集落に集め、セントラの帝都でオークションに掛けられていた我が娘サヤまでも取り戻してくれた。ビリー様は『物から者へ』とハーフエルフを変えてくれたんだ。我らに命を与えてくれたと言っても過言ではない。それぐらいの恩があるのさ」


 この人達からここまで信頼されるなんて、すごいなビリー。


「襲ってきたゴレコンに心当たりはありますか?」


「ない。私達ハーフエルフは魔力を込めた魔石オーブを売って生計を立てている。そのことを知っているものは多いんだ。少なくともセントラ帝国の上層部は知っているはずだ。あれはセントラ製のゴレコンではないのか?」


「難しいところですね」


「失礼します。里長。アイスフィールドのオーブ100個、引き渡しの準備ができました」


 マリーと呼ばれていたオレを敵対視していた人物が部屋に入ってきた。


 マリーがオレに向かって深々と頭を下げる。


「さっきはごめんなさい。あなた達はゴレコンからハーフエルフを守ってくれたというのにあのような態度をとってしまって」


「そのことならもう良いよ。謝罪は受け取った。それじゃあ、里長。オレたちはもう御暇おいとまします」


 葬儀とか、事後処理が大変だろうからな……。


「なにもお構いできずに申し訳ない。次に君たちが来た時は里をあげて客人として歓迎することをお約束しよう」


「楽しみにしておく」


「じゃあ、ふうちゃんお願い」


「無限格納! 確かに。100個ちゃんとあります。1級品のアイスフィールドのオーブですね」


「よし、じゃあ任務成功の報告をするか」



▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽



 えーと、ビリーに連絡と。


「ビリー。リンゾーだ。1級品のアイスフィールドのオーブ100個たしかに受け取ったぜ」


「リンゾー。任務ご苦労だった。戦闘になったろう?」


「なったけど、まあ、オレたちは手を出さなかったよ」


「歯切れの悪い答えだな。何かあったのか?」


「オレたちがついたとき、未知のゴレコンに集落が襲われてたんだ。おかげで犠牲者が出ちまった」


「なにッ!? 里長は無事だったか?」


「それは大丈夫だよ」


「ふむ。送ったのがリンゾーで本当に良かった。被害を可能な限り抑えてくれたんだろう?」


「もちろんだ。ふうちゃんもベルも頑張ってくれたよ」


「ありがとう。しかし、未知のゴレコンか。どんな機体だったんだ?」


「ゴーレムを武装した感じじゃなくて、はじめからロボットを作りに行ってる感じのデザインだったな」


「帝国製ではないということか? いや、再設計したとも考えられるか?」


「りんぞーさま!」


「ビリー。ふうちゃんが替わってほしいそうだ。いいか?」


「ああ」


「ボス。敵のゴレコンなんですが、ハルバートのデザインが刻印されてました。お心当たりはありませんか?」


「ないな。双葉。お前の見立てを聞きたい。そのゴレコン、帝国の新型か?」


「その可能性が高いと思います。武装の技術体系が同一ですから。帝国のゴレコンじゃなかったとしても、『帝国の技術者が開発に噛んでいる』という感じだと思います」


「なるほどな。技術的に見て、気になる特徴はあったか?」


推力偏向ベクターノズルがピッチ方向とヨー方向に動いてました」


「なんと。森の集落が襲われていると聞いて、まさかとは思ったが()()()()できるのか?」


「そうです。設計図を書いてお送りしますので、ニードルピニオンのアップデートよろしくおねがいします」


「簡単に言ってくれるなぁ。しかし、そのゴレコンと戦う想定を行うならたしかに必要な改修だな。他になにかあるか?」


「空間魔法のオーブをバリアのように守りに使ってましたね。アクティブタイプのバリアで精霊の加護付きの弓矢を無効化してました」


「そいつは良いことを聞いた。そっちの対処も検討しよう。報告は以上か?」


「以上です」


「オレからも以上だ」


「了解。ニードルピニオンはこっちでアップデートしておく。次に会うときには、お前たちよりも強くなってるかもな」


「期待してるぜ、ビリー」


「おう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ