vs戦慄の黒き巨人
まずは現場の近くに跳んで、状況を見極めたいな。
「ベル、あのゴレコンの近くに跳ぶことは出来るか?」
「もちろん。おにいちゃん、双葉も手をつないで!」
「おう!」
「はい!」
「ワープゲート!」
視界が歪み、もとに戻ったときにはオレが思い描いたとおりの場所に跳んでいた。
ベルのやつ、いい仕事をする。
襲われているのは、黒髪黒目。
……、肌は白く長髪の人が多いかな。
人間よりも僅かに耳が長く先が尖っており、見た目は年若い美女と子供ばかり。
エルフというとスレンダーなイメージだけど、肉感的な美女が多い印象だ。
彼女たちがハーフエルフで間違いないだろう。
対峙しているゴレコンは、まさに人型ロボットという見た目をしている。
黒いベース色に金色のライン。肩に『ベルトとハルバート』を模した紋章が描かれている。
両眼のカメラが、オレを追跡するように動き赤く光っている。
転移した位置は、ちょうどゴレコンと矢の出どころとの中間点ぐらいだ。
森の真ん中が拓けており、集落があって、その集落をゴレコンが襲っているって構図だ。
集落の中央の建物が壊れ、黒煙を発している。
瓦礫の中にオーブが山のように積まれているのがみえた。
つまり、このゴレコンはオーブを奪いに来た、ってところか?
ゴレコンの両肩から6連装の砲を一つに束ねたようなガトリング砲が左右2門、回転しながらズームするレンズのようにせり出してきた。
低音を響かせる10秒のバースト射撃!
「ライア! こっちへ!」
「ママー!」
子をかばうように抱きかかえた母親が子供ごと弾け跳ぶ!
岩陰に隠れたハーフエルフが、岩の破片ごと血煙に変わる。
ヴゥウウウウン……!!
非情な音を立て、白煙をあげる2門のガトリングが、容赦なくハーフエルフの群れの蹂躙を始めた。
あたったものは、ことごとく上半身が消し飛んだ。
あとに残るのは、地面に転がる足と血煙だ。
ハーフエルフの数人毎のチームがみるみるうちに失われていく。
ベルが龍に変身し、ハーフエルフをかばうような位置でゴレコンに立ちはだかった。
ベルに向かう銃弾が、轟音を立てて後方へとそらされていく。
ベルの後ろでは、木々が倒れボヤが起こっているようだ……。
ふうちゃんが中央の建物の前に跪き、祈りを捧げている。
ガトリングがふうちゃんへ狙いをつける。
間に合うか!?
ベルがふうちゃんの前で大きく翼を広げた。
空へと光の柱が立ち上り、半径150RUの円状に光が広がっていく。
まだ命があるものは時間が巻き戻るように、身体がもとに戻っていく。
あらゆる回復魔法を超えるオレの『逆行』と同質の力だ。
あれが『祈り』の力か!
おそらくは、蘇生のできないこの世界での、最高の癒やしの力。
だけど、命が失われてしまったものはもうどうしょうもない。
ふうちゃんを狙っても仕方ないと思ったのか、懲りもせず、ゴレコンがハーフエルフたちを追い立てるようにガトリングを指向させる。
怯えるハーフエルフ達。恐怖の感情が伝わってくる。
ふざけるなよ!
その中には、サヤさんの知り合いがいるかも知れないんだぜ?
そんな簡単に命を奪うんじゃねぇ!
魔力弾。プラズマ生成。相転移!
「サーマルガン発射!」
青い光線がオレの両手の内からほとばしり、ゴレコンの左手を打ち貫き、左手ごと巨大なリボルバーを弾き飛ばした!
ズゥン、と音と衝撃を立ててゴレコンの巨大な銃が地面にめり込んだ。
バランスを崩して、ゴレコンが膝をつく。
もう一発!
魔力弾が相転移を開始する。
おお、ゴレコンが垂直に離陸した。
……垂直に離陸!?
まさか"ファントム改"以外のゴレコンで、垂直離陸なんて芸当ができる機体があったとは……。
そうか、だからこんな狭い林の中に降りられたのか。
だが、お前はここで終わりだ!
サーマルガン発射ッ!!
音もなく放たれた青い閃光が空を切った!!
チッ! 外したか。
ゴレコンが急旋回し、ガトリングをこっちに向けてくる。
……怖ぇえ。
『停止』で3秒までは銃弾は躱せる。『逆行』で3秒まではダメージを無効化出来る。だけどあいつのバースト射撃は一回あたり10秒。
時間が足りない!!
何しろ、身体をかすめただけで半身を消し飛ばすような、20mm機関砲だ。
どうする?
きまってる。
オレの側には、頼もしい仲間たちがいるッ!
ふうちゃんと目があった。
……、相打ち覚悟のチキンレースといこうじゃないか!
ガトリングガンがオレを照準する。
まずは、『停止!』
射線から身を退けるッ!
……、『時』が動き出した。
さあ、……何秒でオレを捕捉できる?
その前にサーマルガンで、コックピットをぶち抜いてやる。
いくぞ!
魔力弾! プラズマ生成! 相転移!
消し飛べ!
ガトリングが回転を止め、ゴレコンが急に向きを変えた。
チッ! 逃げる方を選択したか……。
ものすごい加速だ。ゴレコンが急激に遠ざかっていく……。
ちくしょう。深追いは危険か?
もう豆粒ぐらいの大きさになっちまったな。
……里長が無事だと良いんだが。
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
振り返ると、ハーフエルフの弓兵がオレたちに弓を向けていた。
チッ。……、弓矢がオレの心臓に指向されている。
数15。
ゴレコンが去ったと思ったら、今度はこれか。
まずはビリーの"使い"であることを伝えよう。
里長が出てきてくれれば、丸く収まるはずだ。
「待ってくれ! あなた達と敵対する意思はない。オレたちはビリー・バーンスタインの使いの者だ!」
両手を上げて、敵意のないことを示そう。
どうだ? 話のわかるやつはいないか!?
「バカな! ビリー様の仲間なら黒い肌のはずだ!」
だめか?
「里長を呼んでくれ! 話せばわかる」
「穢らわしい。男が口をきくな!」
「男が、か。あの龍と女の子はお前たちの手助けをしたはずだ。弓をおろしてくれ。こんな扱いをしたら里長が黙ってないだろう?」
一瞬、逡巡したあとハーフエルフたちは顔を見合わせ、ベルとふうちゃんに向けられている弓が降ろされた。
……やっぱり、オレに向けた弓は降ろしてくれないか。
「どうせ、里長を手篭めにしようっていうんだろう? 人さらいめ!」
「オレたちはオーブを受け取りに来ただけだ。信じてくれ」
「人間の男など信用できるものか!」
手を上げたまま一歩前に出ると、足元に矢が突き刺さった。
「男を近寄らせるな!」
聞いてたとおり、人間不信が強い。
引き絞った矢を今にも放ちそうだ。
こうなったら、むしろ、矢を撃たせて信じさせるしかないか?
「矢を撃てば気が済む、というのなら撃ってくれ! オレはそれを受け入れる」
どうだ?
「ほう。すごい覚悟だな。私達の信用を得るために命をかけるというのか?」
「ああ、だけど一瞬で決めてくれ。長く苦しむのは嫌だ!」
「上等だ! 私達は弓の名手。獲物を苦しませなどしない!」
「ベル、ふうちゃん。手は出さないでくれ」
おお。すんなり頷いてくれた。
ものすごい信頼を感じるな。
「その覚悟が本物かどうか確かめさせてもらう。お前が射抜かれたら、お前が死んだとしても残りの二人を里長に会わせると約束しよう」
「レウィシア隊長!」
「マーヤ。この男が直接同胞を襲ったなら私とて赦しはしない! だが、私達はこの男からなにか直接被害を受けたわけではないだろう? もし、この男がビリー様のように信用できる者なら客人としてもてなすべきだ。そうじゃないか? おそらく里長もそう言われるだろう?」
「それは、そうですが……」
「奴隷として売られ、耳を切られ陵辱の限りを尽くされ、子を産めなくされたお前の気持ちはわかるつもりだ。だが、人間すべてがそのような者たちばかりではない。今回は私に任せてくれないか?」
「レウィシア隊長……」
「いいな。マーヤ?」
「はっ! お任せいたします!」
「よろしい。では全員、よく狙えよ! タイミングは私に合わせろ」
「はい!」
どうやら一瞬で決めてくれそうだな。
これならば、オレの『逆行』で凌げるはず!
「オレが射抜かれたら里長に会わせるって約束、必ず果たしてくれよ?」
「ああ。約束しよう! 放て!」
「逆行!」
精霊の加護を受けた矢が15本。
狙いは正確。ほぼ同時に命中するか。
心臓に杭を撃たれたような衝撃だ!
ぐぅっ……!!
痛みで一瞬、意識が飛んだか?
しかし、すごい腕だ。全発命中から、逆行再生まで狙い通り、3秒で十分だったぜ。
時間が巻き戻るように、傷が癒えていく……。
「あの回復魔法は……」
「じゃあ、さっきの少女の力もやっぱり……」
「そんな! あれは、『世界を糺す』女神ファーメリア様の力だ」
「この男も使徒様なのか?」
ザワザワ、と混乱が集落中に伝播する。
「あの少女のリング。里長が雪代青葉に送った友誼の証だ」
「ああ、たしかに。あれは精霊王の円環だ。なぜ気付かなかった! あの少女は雪代のゆかりのものだ」
「じゃあ、ビリー様の使いというのは真実か? 私達は大変なことをしてしまったのか……」
……? おお?
ハーフエルフたちが一斉に跪いたぞ。
「失礼いたしました……。私達は大恩あるビリー様の使いの方に弓を引いてしまいました。いかなる処罰もお受けします」
ベルが人型に戻って隣に転移してきた。
「龍が人のかたちに……」
「龍神様だ。……、私達は龍神様の下僕に弓を引いてしまったのか。終わった。私達はもう終わりだ」
あ……、土下座になった。
待てよ? 龍神様の下僕?
誰が、ベルの下僕だよ!
異様な光景だ。木々の影から、ぞろぞろとハーフエルフが現れては、ひれ伏していく……。
あー。そんなのはいいから、オレの話を聞いてくれ。




