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氷樹の森

 えーと、通話通話と。


「ビリー? リンゾーだ」


「リンゾー。そっちはどんな感じだ? ファントム改は問題なく動いてるか?」


「ああ。問題ないよ。こっちはファントムで神獣を一体葬った。100RUを超える大物だぜ? ニードルピニオンを1機買えるぐらいの報酬が入るはずだ。あとで送金するから確認よろしく」


「そいつはすごい。双葉にツケにしてもらってた、ゴレコンの改修費を払えるな」


「えっ、この金ふうちゃんのふところに入るのかよ!」


 あ、ふうちゃんがビックリしてる。


「つーか、ツケって。ビリー。即金で払ってあげてくれ」


「ああ。次からは善処する」


「ところで、ビリー。なにかあったのか?」


「ちょっと問題がな」


「……どんな?」


「ニードルピニオンは、基本飛行が不可能で、燃料の積まれたスラスターで無理やり飛ばしていたのは知ってるな?」


 ああ、バーナードの機体がそんなんだったよな。


 姿勢制御も稼働時間も、オレのファントムより大幅に制限がかかってる感じだった。


「知ってるよ……。でも、改修でふうちゃんが動力ツイスター機関から直接エネルギーを取り出すタービンを開発して、つけてくれたんだろ?」


「ああ。おかげでニードルピニオンの稼働時間は大幅に伸びて付属スラスターなしで飛行も可能になった」


「いいことじゃんか。何が問題なんだ?」


「冷却能力が根本的に足りないんだ。スロットにはめられたアイスフィールドの魔石オーブがすぐに魔力の枯渇を起こす」


 なるほど。


 燃料が限られていたときには、見えなかった問題ってわけか。


「そういえば、オレが神獣ティタノカリスと戦ったときも冷却の問題が起こったんだった」


「おいおい。リンゾー。報告はしっかり頼むぜ。問題大アリじゃないか?」


「悪い。ビリー。バーベキューのときにふうちゃんが魔力を込めてたアイスフィールドの魔石の予備があったから、それと交換してしのいだんだ」


「戦闘中に魔石オーブの交換を行ったのか。そりゃあ複座式の強みだな」


「やっぱり、複座式って強いのか?」


「ああ。ペリー・フィオ組は接近戦でイシュカ・ヘンリーを同時に相手をしても圧勝。アシュリー・ロバート組に至っては射程外から百発百中で当ててくるから総掛かりでも手がつけられん」


「へぇ……」


 まさか、アシュリーとロブがそんなに強くなるとはな。


「お前も、うかうかしてられないな? リンゾー」


「あいつらと次に合うのが楽しみだ。それで、結局の所なにをやらせたいんだよ? ビリー」


「リンゾー。おまえたちは、いま帝国のそばにいるんだろ?」


「ああ。帝国の中にいるよ」


「帝国の北の通称『氷樹の森』と呼ばれる地域に、ハーフエルフの集落がある。サヤの故郷なんだが、その集落にいって里長さとおさからアイスフィールドの魔石を100個受け取ってもらいたい」


 100個か。かなり多いな。


 ふうちゃんの無限格納を使わないと運べない量だが……。


 ふうちゃんがコクリとうなずいている。


 OKってことだろう。


「了解」


「待て待て、そんなに簡単に安請け合いするな。リンゾー。彼女らハーフエルフは、帝国で奴隷にされてきた悲しい歴史を持っている。基本的に人間不信なんだ」


「受け取りに、って言ったよな? 話は通ってるんだろ?」


「ああ。里長さとおさは二つ返事で快諾してくれたんだが、なにしろ長寿命の種族だからな。人間を見ると奴隷にされた過去を思い出し、激情を抑えきれなくなるものたちもいるのさ」


「戦闘になるかも、ってことか?」


「というか、十中八九なるだろうな。だが、これ以上彼女たちを傷つけたくはない。おまえに行ってもらおうと思ったのは、相手を傷つけずに制圧できるだけの力を持っていると思ったからだ。リンゾー」


 厄介なことを、しれっと言ってくれるよな。


「相手を傷つけずに対処しろ、か。ずいぶんオレを高く買ってくれてるんだな? ビリー」


「ああ。サヤ級の猛者がゴロゴロいる集落にいき、目的を果たし無血で帰還できるのは、リンゾー。お前以外にいないと俺は思っている」


 ちくしょう。そんなにすんなり肯定されたら、期待に応えざるを得ないじゃないか。全く人をのせるのがうまい上司だ。


「やってやるぜ、ビリー。相手を傷つけずにアイスフィールドの魔石をもらってくるよ」


「任せる!」


「おう!」


「氷樹の森周辺は今の時期でも相当寒い。冬用の支度をしていけよ」


「了解!」


 じゃあ、冬服を買ったら出発しますか。


 気合いを入れていかないとな!



▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽



 石畳の上を馬車が行く。


 ゴトゴトどころかダダダダといった感じで、ものすごい振動が尻を叩く。


 誰も乗ってない馬車に乗れてラッキーだと思ったんだが、全然ラッキーじゃなかった。


「おにいちゃんは悪趣味だ!」


 さっきから、ベルがぶうぶう言っている。


 なんか、オレも自分が悪趣味な気がしてきたぜ。


「ものすごい揺れですー」


 ふうちゃんも辟易としているようだ。


 帝都近辺は中途半端に石畳で整備されてるもんだから馬車が揺れる揺れる。


 ファントムに慣れた今だと、ことさらつらく感じる。


 日も暮れてきたし、そろそろ降りたほうがいいだろう。


「お世話になりましたー」


 代金を払い馬車を降りた。


 日が落ちたら急激に寒くなってきたな。


 冬用の服を買っといてよかったぜ。


「ねぇ。おにいちゃん。なんで馬車で行こうなんて言い出したのさー」


「ハーフエルフたちを刺激しないためだよ」


「なんで、そんなに下手したてに出るのさー」


「なんでなんでって、うるさいぞ。戦闘を避けるためだよ。ベルが見てるドラマでも交渉のシーンはあるだろ? 人間は話し合いで物事を解決する生き物なんだよ」


「むー? そもそも、今回の登場人物に()()()()()()()()じゃんか」


 どういうことだ? ハーフエルフは人間じゃない特徴をもっているから奴隷扱いされてたんだとしても、ふうちゃんは人間枠だろうに。


「もしかして、ふうちゃんがハーフジギントだとかそういう話か? そうだったら怒るぞ?」


「双葉は使徒なんだから、はじめから亜神霊枠だよ?」


 嘘だろ?


「さすがに、おにいちゃんは知ってると思ってたけどなぁ。神霊に祈りを捧げることで神霊の助力を得られる能力、巫女(()()()()())が双葉の力。れっきとした事象魔法だよ?」


「そういえば、邪神カレン様に能力の制限解除をしてもらったりしてたっけな」


 ふうちゃんのほうをチラッと見る。


「りんぞーさま。似合いますか?」


 ふうちゃんが白いコートの裾を、焦げ茶色のファー付きのミトンでちょこんとつまんで振り返った。


「ああ、似合うよ」


 コートを買ってあげてから、ふうちゃんがごきげんだ。


 瞳がキラキラ輝いている。


 こっちの話は気にしてないようだ。


「双葉ぁ。その質問、馬車にのる前と合わせて3回めだよ?」


 数えてたのかよ。


「何度でも聞きたいです!」


 ベルが目で訴えかけてきている。なんとかしろ、って感じだが……。


 無理な相談だな。


「ほら。ベル。メロンパン味の魔力弾やるよ」


 パシッと無言で魔力弾をひったくると、ベルは魔力弾をもしゃもしゃとやりだした。


「わかってると思うけどハーフエルフに手は出さないこと。相手が攻撃してきても守りに徹してくれ、OK?」


「おーけーです!」


「やられたらやり返す! 万倍返しだ!」


「なあ、ふうちゃん……、置いてくか? コイツ」


「あれは、いまベル様がハマっているドラマのセリフです。多分ベル様もわかってて言ってるんだと思いますよ」


 そんなもんかねぇ……。


「わかったよ。おにいちゃん。でも、反射で勝手に死んでいく馬鹿共は、いっそ全滅しちゃってもしょうがないよね?」


「反射じゃなくて、そらすだけにしてくれ。出来るだろ? ベル」


「出来るけど、スッキリしないよ!」


「スッキリすんな。あとで新しい味の魔力弾を作ってやるから」


「のった!」


 森の木々の枝から結晶が生えている。


 透明度の高い氷が葉のように枝から広がる。


 木の葉のように枯れ木にまとわりつく白く輝く氷の結晶。


 遠目には、澄んだ透明度の高い氷化粧の森に見える。


 これが氷樹の森の名前の所以か。


 ゴォーンと音がした。


 振動が足を震わし、風圧が後ろへと抜けていく。


 瞬時に身体強化魔法をアクティブで発動し、目を凝らすが木々に遮られてさすがに見えない。


 上を見ると森の木々の隙間からスタイリッシュな形状の武装をしたゴーレムが巨大なリボルバーのような銃を下に向けて構えているのが見えた。


 ツヤ消しの黒に黄色いラインの入った見たことのないタイプのゴレコンだ。


 全身鎧というより更にロボっぽく、鋭角的なフォルムをしており、帝国製のものとは設計思想が違うことが見て取れる。


 ゴーレムを武装して操作できるロボットっぽくしたのではなく、はじめからロボットを作る前提でゴーレムを新しく開発したような……。


 ゴレコンの向かいに黒煙が立ちのぼっていた。


 森側から魔法の光を帯びた弓矢が無数に放たれるが、ゴレコンは虫でも振り払うように簡単に対処する。


 襲われているのはハーフエルフの集落かもしれない。


 なんとかしなければ……。

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