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vs神獣ティタノカリス

 さて。


 ティタノカリスの注意を引きつけるにはどうしたらいいか?


「拡声魔法であのデカブツと会話ができるなら苦労はないんだが……」


「りんぞーさま。それができたら、こんな事態にはなってませんよ?」


「それもそうか」


「神獣はねー。人型ひとがた形態を持たないものとは、会話できないんだよ。その代わり身体が途方もなく大きくなったりするんだ。それこそティタノカリスのように100RUを超えたりね」


「……となると、やっぱりコイツが手っ取り早いか」


 ロングレンジライフル、ターゲットロック……。


 127mmのロングレンジライフルは、戦艦の主砲並みの火力を持つ。


 まさに100mを超えるような化け物にふさわしい火力だ。


 だけど、……待てよ? たしか、艦砲射撃に合わせて船が燃えたよな?


 重火器は、使わないほうが良いのか?


「りんぞーさま。あのエビの触手からは、粘度の高い可燃性の液体がでるはずです。注意してください」


「了解!」


 粘度の高い可燃性の液体ねぇ。


 めっちゃ燃えるボンドのようなものか?


 なるほどな。


 ボンドを銃口に吐きつけたから、砲の発射と同時に船が燃えあがったってわけか。


「魔力弾を起動します。私に任せてください」


 ふうちゃんが操作盤コンソールにセットされている魔力弾のオーブを起動した。オーブが断続的に強い光を放ち、上空にものすごい数の魔力弾が展開される。


 うっそだろ、一瞬でコンソールにイエローが出てる。


 充填されている魔力残量が半分を切ったようだ。


 膨大な数の魔力弾が、ファントムのいる上空からティタノカリスに向けて雨あられと降り注ぐ。


 ティタノカリスが防御行動をとった。大きなハサミを顔の前でクロスさせている。


 普通に考えるなら、弱点は目だよな。


 ティタノカリスに着弾した魔力弾が燃えあがることはないようだ。


 火砲じゃないから粘液を吐きかけることをしない、と。


 ふうちゃんは相手の行動を読んでたんだな。


「さすがだな、ふうちゃん」


 よく見れば、ほんの少しティタノカリスの外殻の棘が削れている。ダメージはほとんどないようだ。


 まぁ、魔力弾の威力はもともと高くない。


 しかたないか……。


 ティタノカリスが100近い数の触手をファントムに向けてきた。こっちの動きに合わせて触手を動かしている。


 ひらりひらりと狙いをつけさせないように、飛行してみるか……。


 さすがに触手が絡まったりはしないようだな。


 魔力弾が効かないなら、いっそオーブの魔力を使い切っちまうか。


 必殺のサーマルガンをぶち込んでやる。


 今撃たないとボンドを撒かれてプラズマが使えなくなるからな。


 魔力弾。プラズマ展開。相転移開始……。


 サーマルガン発射!


 ゴウッとファントムの両手の間の巨大な魔力弾が、青い光の筋となって発射された。


 刹那、ティタノカリスの眼前に巨大な水の壁が立ち上がり、……蒸発した。


「サーマルガンが喰われた!?」


「りんぞーさま。触手が来ます!」


『お返し』とばかりに、無数のティタノカリスの触手から粘液が発射された!


 ……避けきれねぇ!


 液体を避けるのってこんなに難しいのかよ!?


 細かく制動を行い、回避を続けるが……。


 チッ、飛沫がかかっちまった。


 粘液だ。


 挙動にどんな影響がでるか、わからない。


 これ以上は浴びたくない。


 どうすれば……。


 ティタノカリスの真上に陣取れば、触手を無力化できるか?


 まさか粘液を真上に吹き上げて自分でかぶるような真似はしないだろうからな。


 ――、アラート。

 冷却能力が必要値を下回りました。安全のため内部火器をロックします。

 クラッチシステム1番・2番を解除。冷却能力が回復するまで出力を抑制します。


「おにいちゃん。火が付いてるよ!」


 嘘だろ!? 火砲は撃っていないのに。


 ファントムに火がついている!


「なんで火がついたんだ!?」


 装甲の表面全体に火が回っている。


「おそらく制動のときの発熱だと思います。ファントム改は100から0に一瞬で速度を落とせる代わりに、熱に変わるエネルギーもすごく多いんです」


 ……、火が消えない。


 とりあえず、海の中をくぐって火を消さねぇと!


「バリアー!」


 ベルがふうちゃんの席まで乗り出して手を伸ばし、普段はパッシブで起動しているベクトル操作のオーブを無理やりにアクティブで起動した。


 副操縦席が、エライコッチャになっている。


 というか、ベルがふうちゃんにじゃれついているようにしか見えない。


「ベルのアホー! バリアーを使ったら水の中をくぐる意味がねぇ! 火が消えないだろ!」


「アホはおにいちゃんの方だ! 粘液だらけの海に飛び込むなっ!」


「えっ!? そんなに粘液が広がってるのか!?」


 やばっ、動きが重くなった!


 うおー、操作が重てぇ!


 沈んでいく。


「りんぞーさま。アイスフィールドのオーブを交換します。しばらく持たせてください!」


 ぎゃー、ティタノカリスが海に入ってきた。


 バリアの魔法で水中の様子がしっかり見えるのは、ドブ沼も海も同じようだ。


 海の中だと、さらにでっかく見えるな。


 ティタノカリスの奴め! バリアの上から粘液でファントムを固めつける気か!?


 ……つーか、これ、いつまで呼吸もつの?


 ティタノカリスがハサミを鳴らす。


 衝撃波だ。


 ファントムがグラグラと揺れる。


 この機体に乗っていて、こんなジェットコースターみたいな揺れを感じたのは初めてだ。


 バリアの層があるせいで、グラビティーコントロールシステムがうまく効かないようだ。


 酔う……。


 吐き気がしてきた。


「アイスフィールドの魔石オーブの交換終わりました! もう浮上しても大丈夫です」


 ふうちゃんの声が響く。


 コンソールの色がグリーンに戻っていた。


 よし、浮上するか!


「待って、おにいちゃん! 海中でこのまま戦うべきだ!」


「何を言ってるんです! ベル様! 海を生息域にするティタノカリスに海中で勝てるわけがないじゃないですか!」


「逆だよ双葉。外に出たら、それこそ攻撃の手段がなくなる。それに、海中でも勝てるよ! おにいちゃんの『支配領域』は狭いけどめっぽう強いんだ!」


「ベル様。『支配領域』って一体何なんです? 海での海棲生物の有利を覆せるほどのものなんですか?」


「支配領域は、『主観が世界に強く影響を与える領域』のことだよ。だからこそ、魔法の制御ができるのは『支配領域』の中に限られるんだ」


 ――、冷却能力が回復しました。


 冷却が足りるようになったためか、ファントムの出力が戻ってきたな。

 衝撃波に気をつけながら、ハサミの攻撃をかわさなければ……。


 おっと……。


 そんな単純なハサミの振り回し攻撃が当たるものかよ。


「おーいベル。ふうちゃんと話してるとこ悪いけど教えてくれ。水中で戦うにしても攻撃の手段がないんだ! どうすりゃいい?」


「どうするって、殴ればいいじゃんか!」


 殴る?


 水中で殴るなんて、アリなのか?


 振動拳を使うにしても、水の中じゃエネルギーが拡散しちまうし。大体多分避けられる。


 首を水上に出してるヒドラとはわけが違うんだぜ?


「りんぞーさま。殴ってください。私が周辺の空間を固定します」


 ……そうか。空間を固定すると水の逃げ道がなくなるから、パスカルの原理が働くのか!?


「私の支配領域は150RU。オーブなしでもやってみせます!」


「双葉の『支配領域』もかなり濃いからね。それこそ、おにいちゃんを()()()()()()()()()()()()()レベルで」


「もうっ、ベル様は黙っててください。りんぞーさま。殴ってください。一瞬だけティタノカリスの隙を作ります!」


 よーし、やってやるぜ!


 何やらすごいことを言ってる気がするが、今は気にしない。


 ティタノカリスの下に潜り込むが……。


 ……嫌がって逃げる大蝦蛄ティタノカリス


 えびぞりになって推進するが、海中でだって、ファントムのほうが速い!


 いける。


 泳ぎ方はエビのそれと同じだ。


 移動地点を予測できる……。


 腹側に飛び込んだぜ!


 射程内だ。


 振動拳!


 うわっ。


 ティタノカリスの足がバラバラもげた。ちょっとグロいぞ。


 おら! おらー!


 腹側は柔らかいようだ。かんたんにヒビが入り殻が剥がれだす。


 このまま殻を引っ剥がしてやる!


 ティタノカリスが、キーっと鳴いた!


 とまるかよ! ふうちゃんの魔力が切れるまで殴り続けてやるぜ!


 おらー!


 あ、爆散した。

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