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馴化訓練と戦闘訓練、いっちょ揉んでやるぜ!

 異端審問官になると最初に受けるのが馴化訓練だ。異世界の文化に慣れる。異世界の驚異を知る。異端審問官として生き抜く実力を身につける。そのために必要なことを学ぶわけだ。


 今日もまた馴化訓練について語ろう。


 異端審問官の馴化訓練は早朝から、正午にかけて行われる。


 俺やふうちゃんといっしょに馴化訓練を受けているのは、貴族っぽい服を着た、金髪のイケメン優男、時空剣士ペリーと褐色の肌、アーモンド型の茶色の瞳、赤毛のおさげでそばかすのある巨乳、つなぎを着た修理工と言った服装の鍛冶師フィオラコンビ。


 そして、理知的で、金髪をボブカットにしており、青い瞳、華奢な体、薄い胸、派手なフリルのついた白いシャツに豪華な赤いスカートを履いた豪商然とした格好の魔獣使いアシュリーと、黒い天然パーマの長身、緑色の瞳の、ジャージのような服を着た陽気な暗殺者ロバートコンビだ。


 彼ら4人は、いわゆる同期で、気のいい奴らだ。


 ちなみに俺のパートナーであるふうちゃんは、白いフリルの付いたカットソーとネイビーブルーのキュロット、金のリング状の魔道具を手足、首につけ、サラサラの黒髪を後ろでポニーテールにしばっている。


 訓練の内容は、座学2、実践8ぐらい。


 まずはボスであるビリーからうける対人戦闘訓練。異端審問官として、異世界の転生者との戦闘が日常となる以上、なにより優先して覚えるべき内容だ。


 東の帝都のスーパーモデルもかくや、というスタイルの、美しいハーフエルフ受付嬢、サヤさんの狩猟訓練は、主に男たちに大人気だ。曲線美を誇るような胸の空いた服がとても眩しい。


 うん、ごめん。少しごまかした。俺はサヤさんの訓練が大好きだ。


 内容は、草木の毒、動物毒の利用法、薬草の使い方、血清の作成、罠の仕掛け方、罠の解除法、魚の釣り方、糞や折れた木の状態、足跡などから周辺にいる魔物などを類推する方法など、生きるためにとてもためになるものだ。


 真剣に聞いているのだが、引き寄せられるようについ豊満な胸に目がいってしまう。


 おおっ、たゆんとゆれた!


 なぜか、隣の席のふうちゃんにつんつんつつかれた。


 なんで、わかるんだ?


 ビリーの嫁マリンさんからは、神学論、法律学、商習慣などを学ぶ。マリンさんは30代半ばぐらいの優しい雰囲気の黒い肌、ウエーブがかった黒髪の女性だ。ザ・大人といった雰囲気である。ちなみに邪な目で見るとビリーに殴られる。


 ファーメル教国では感情で生き物を殺すこと、復讐が禁じられていることなど、すぐに覚えるべき法律を学ぶ。食べるため、犯罪行為阻止のためなど、合理的な理由がなければ、人も魔物も殺してはいけないのだ。


 また、教国内では奴隷売買が禁止されているなど、異端審問官に必須な情報が満載の内容だった。


 金髪のイケメン異端審問官マクベスからは、対魔物戦闘、対アンデッド戦闘を学ぶ。こちらは女子に大人気だ。フィオラはキャーキャー言ってるし、指されるとアシュリーも張り切って答えている。


 内容は、基本となる魔法戦闘訓練から、モンスターのタイプによる視野、嗅覚、感覚器の違い。関節の可動範囲の見極め方、魔法戦では、支配領域の制し方が勝敗を分けることなど。生死に直結するものだ。


 どの訓練も、欠かすことのできないものだった。


 これらの訓練を毎日各1時間ずつ、合計4時間、40日以上学ぶ。それ以外の時間は、パートナーと親睦を深めたり、美しいハーフエルフの受付嬢を口説いたり、各々自分たちが必要と思うことをするわけだ。


 え? お前はパートナーと親睦を深めないのかって? もちろん、俺らも深めてますよ。拳で!


 毎日、馴化訓練後に戦闘訓練と称してスキル使用ありの模擬戦をやっているのだ。ちなみに今の所、5勝35敗で、絶賛モチベーション低下中である。


 最初は勝てたんだけどなぁ。


 女神ファーメリア様いわく、『麟三に与えた力は破格』とのことなのだが、実感がなさすぎる。


「りんぞーさま。私と賭けをしませんか?」


 広い訓練場の足元にびっしり書かれた回復の魔法陣を見つめていると唐突にふうちゃんがそんな事を言う。


「賭け? 何を賭けるの?」


「もし、私が勝ったら、私も日本に連れて行ってください!」


 ふうちゃんの目は真剣である。なるほど。あと数日で、馴化訓練が終わり、一時的に日本に帰れるようになる。祖父が日本人であるふうちゃんも日本を見てみたいってところか……。


「それは別にいいけど、俺が勝ったらどうするの?」


「胸を触ってもいいですよ」


 にっこり笑ったあと、左手を胸に当て意地悪そうな表情になってそんな事を言う。


 文字通り、胸を貸すってことか!


「据えおっぱい触らぬは男の恥、ということわざを知らないのかよ」

「知りません」


 食い気味に切り捨てられた。


「泣いて謝っても、10秒はやめないぞ?」

「もっと触って?」


 余裕の感じられる笑顔でそんなことを言う。どんなつもりかわからないけど、とりあえず全力で挑発にのってやる。


「のった!」

「モチベーション、あがりました?」


 いたずらに成功した子供のような顔だ。

 下心を利用しようとしたこと後悔してもらうぜ。俺は全身の隅々まで魔力を通す。


 身体強化魔法LV5、アクティブを発動すると指の先まで力がみなぎってきた。


「じゃあ、始めましょうか!」


 ふうちゃんが支配領域を広げたのがわかる。出足の早い魔力弾を瞬時に数十発展開し散弾銃のように、はなってきた。


 数が多い! 回避不可か。引いたら初手で終わる。一気に冷水ぶっかけられた気分だよ!


 俺は、全速力でふうちゃんの張った魔法の弾幕に飛び込んだ。


 距離があると魔力弾は、十分に加速されて威力を増す。射出時に最高速になるわけではなく、射出後に加速するのだ。魔力弾を防ぐには、前に出るしかない。


 弾幕を、俺の持つ最強の札、事象魔法で『停止』し、『崩壊』の力で霧散させる。


「相変わらず、えげつない力ですね」


「それはお互い様じゃねぇ?」


 射程の主導権争いが始まった。俺が距離を詰めるとふうちゃんが距離を取る。


 至近距離ならこっちが有利。離れられると向こうが有利だ。身体強化を限界まで使って全力ダッシュしているのに、身体強化魔法に加え、風魔法で加速するふうちゃんと速度は拮抗し、先に息が上がってしまう。


 ハァ、ハァッ……。


「あとで、走り込みしましょう! つきあいますよ!」


 こんにゃろう。俺より体力ないくせに!


 立ち止まった俺に勝機を見たらしく、ふうちゃんが重力魔法で浮き上がり、空中からありえないような機動で連撃を繰り出す。ふうちゃんの手足の金の魔道具が青い燐光を放っている。あのリングは、空中で姿勢を制御する魔道具らしいな。


 俺の死角をついて空中から次々と魔法が放たれる。ファイヤーボール、アースランス、アイスジャベリン、ウインドブレード。低位階の魔法ながら、複数属性を容易に操るふうちゃんならでは、の回避しづらい連撃だ。


 底が見えない魔力だな! 不公平だぞ、チクショー!


 吹き飛ばされては、受け身を取り、急所に来る攻撃を手で弾く。


 俺は、魔力切れを避けるため、魔法は使わず、必死に防御と回避で痛みに耐えた。


 痛ってぇ!


 痛みと悔しさで気が焦る。


 不意をついて、こっちの射程に持ち込めれば……。


 防戦一方。すでに魔力が尽きている状態をそれとなくアピールし、不自然にならないように気をつけながら、ジリジリとふうちゃんとの距離を詰める。


 あと2歩。1歩。もう半歩。一気に加速して、射程内にふうちゃんを捉えた。


「わわっ!」


 もらったッ!!


 距離は約3メートル。こっちの支配領域に入ったことを確認し、俺は事象魔法を発動、時を『停止』する。


「時よ! 止まッ……!? ぐぅっ!!」


 勝利を確信し、調子に乗って、決め台詞を言おうとしたのがまずかった。何も言わずに『停止』を発動していれば決まっていたかもしれないのに…。


 『停止』が発動する寸前、ズシンと身体に衝撃が走ったのだ。


 体が重い。地に手足がつく。


 僅かな差。決め台詞を言ってやろうとアホなことを考えたほんの一瞬のすきに、ふうちゃんが重力魔法で俺を地面に拘束し、膝をついた俺と空中のふうちゃんの間にわずかながら距離が生じたのだ。


 距離3m25cm。


「ギリギリ射程外です。危なかった~」


 ふうちゃんの両手両足についた金色の輪が、青い楔形文字をホログラムのように浮かび上がらせ、空中でありえない加速をして距離が離れる。


 俺の魔力がまだ残っていることを知ったふうちゃんは、こっちの行動を読んで射程外から途切れることのない攻撃を仕掛けてくる。


 ファイアーボールの釣瓶打ちだ。当たるとやけどを伴う、その恐ろしい魔法は俺の服を焼き、肌を焦がす。


 タンパク質の焼け焦げる不快な匂いと、傷口に塩を塗り続けられるような恐ろしい痛み。灼熱感に、冷や汗が止まらない。


 防御も回避も間に合わず、ゴリゴリ体力を削られ守勢に回った俺は、ふうちゃんの魔法を事象魔法で打ち消すしかなくなり、やがて魔力が尽きてジリ貧になって、いつものように敗北した。


 眼の前が真っ白くなっていく……。


 ヒールプラス!


 ふうちゃんの声が聞こえた気がした。


 気がつくとふうちゃんに膝枕されていた。いつものように傷はすっかり治っており痛みはない。


「痛いところはありませんか?」

「んー。大丈夫。ありがとう」


 俺は体をおこした。


 今回は勝てると思ったんだけどなぁ。


「射程で負けて、燃費で負けて、手数も手札も機動性でも負けてるんだから辛いよな」

「でも、カッコつけなければ勝ってましたよね」


「!?」


「約束、忘れないでくださいね!」

「わかったよ。はぁ」


「日本旅行、楽しみです!」


 日頃からお世話になってるからな。別に賭けなんかなくたって、接待させてもらいますとも。


 シャワーを浴びて受付に行くと、アシュリーのパートナーであるロバートがハーフエルフの受付嬢サヤさんを口説いていた。


 アシュリーは、お嬢様っぽくて、身持ち硬そうだからなぁ。


「サヤ。君はなんて美しいんだ。今晩と言わずさ、今すぐどうだい? ほら、そこのしげみで……。土の上のカエルも葉の裏のナメクジも僕らを祝福しているよ! 僕のタワーで天国に昇らないかい!?」


 クイクイ腰を動かしながらロバートが天パの髪をかきあげる。


 キラーンと歯が光った。


 思った以上にひどい口説き文句だな。サヤさんドン引きしてるぞ。止めるか?


 サヤさんに対して、ポーズをとっているロバートの後ろから、股間をめがけ、アシュリーがトーキックでズドンッ!!


「あおぉぉぉぉ!!! 痛い、いたい、あはんっ! あはんっ! あーはんっ!!」


 声にならない声を上げて、股間を抑えて地面を転がるロバート。


 真っ赤な顔でひっくり返り、足を広げて、股間を抑える姿はまな板の上のロブスターのようだ。


 ペリーが微妙な表情で笑いをこらえている。フィオラは大笑いだ。

 アシュリーはドヤ顔。サヤさんは、あわあわしている。


 すまん、ロブ、俺も笑いが止まらない。




楠木麟三LV10

異世界探訪者LV2

事象魔法LV4

格闘LV4


所有スキル

『崩壊』・『逆行』・『停止』(事象魔法)(リキャストタイム24時間)

異世界転移(リキャストタイム21日)

身体強化魔法(パッシブLV4、アクティブLV5)


支配領域3RU


雪代双葉LV12

ファーメルの巫女LV3

時空魔法LV4

重力魔法LV4

異世界探訪者LV1


所有スキル

魔力弾、ファイヤーボール、アースランス、アイスジャベリン、ウインドブレード

ファイヤーウォール、アースガード、アイスフィールド、ウインドストーム

クリアブラッド、ライト、フラッシュ、ライトニングプラズマ(属性魔法)

ヒール、ヒールプラス(回復魔法)

クリーン、アンチポイズン(生活魔法)

無限格納(時空魔法)

重力場生成、圧縮、浮遊(重力魔法)

身体強化魔法(パッシブLV2、アクティブLV3)


支配領域150RU

・用語解説

ファーメルの巫女――四属性魔法、回復魔法、生活魔法を一度に

          習得可能な上位職。常人の6倍の速さで

          成長する。(但し、覚えられる魔法は中級まで)


金色の輪――雪代青葉の形見。魔力を蓄え、任意のタイミングで

      放出可能の魔道具。双葉は、主に、空中で推進力を

      得るために使っている。魔法使用時の予備魔力タンク

      にもなる。双葉の魔力が多いのは、この道具のおかげ。

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