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加入試験と初依頼

 メロン。


 それは至高のフルーツ。

 甘くて緑で、あみあみで丸い。


 そんな物をイメージしているなら大間違いだ。


 香りや味はたしかに()()()メロンに近い。

 しかしこっちの世界のソレは、梨のような見た目だ。


「しかし、ベルが普通の食べ物を食べられるとは思わなかったな」


 先の丸いストローでかき氷をすくうベルの手が止まる。


 あれ? ふうちゃんがキョトンとしてる。


「効率の問題だよ。魔力は全部エネルギーになるから残りかすを出さなくていいけど、食べ物や飲み物は無駄が出るから残りかすを出すことになるんだよ」


 効率の問題ねぇ。まぁ、全部エネルギーになるならトイレにいかなくていいもんな。


 ああ、そういうことか!


「残りかすって、つまりトイレで出すやつだな?」


「もう! ベル様もりんぞーさまも! お食事中ですよ?」


「ごめんごめん」


 ふうちゃんに怒られてしまった。


「私には理解できない感覚ですが、りんぞーさまは魔力弾を作るときに『味見』をされてるんですよね?」


「ああ。そうだね。ベルに出すときはしてるよ。さすがに味がわからなければ味付きの魔力弾は出せないからな」


「普通は魔力弾なんて食べられないんですよ? 口の中が、めちゃくちゃになりますから」


「えっ、まじで?」


「違うよ双葉。おにいちゃんの依代よりしろは、『赤神ヴァーミリオンガーブと相打ちになって消滅しかけていた』()()()()()()()()なんだから、私が魔力を食べられるのもおにいちゃんが魔力を食べられるのも普通のことなんだよ」


「ああ。それは、そうでしたね」


 なん……だと?


 そういえば今の俺の身体がどこから来たのか、考えたことはなかった。元々の俺の身体はとっくに火葬されているはずだ。


「じゃあ、破格にすごい龍神の力を与えるってファーメリア様がいってたのは……」


「『亜神霊の力をただの人間が使えるはずはない』ということですね」


 いや、そんなはずはない。


 もしこの身体がベルの兄貴の、つまりは亜神霊の身体なら、ベルのように一般的な魔法や普通の武器での攻撃はそもそも効かないはずだ。


「違うぞ。俺のこの身体の耐久力はベルのようにでたらめじゃない。俺は()()()()()だよ」


「それは、『自認』のせいだろうね」


「自認……?」


「おにいちゃんが自分のことを人間と認識してるから、身体が人間として機能してるんだよ」


 嘘だろ。俺には自分が人間じゃないなんて一ミリも思えないが……。


「そんなことが、ありえるのか!?」


「ほほう。おにいちゃんは自分で自分を『人間だ』って思ってるのに魔力弾を食べられるのかー」


「おそらく魔力弾はベル様がおいしそうに食べてるのを見て、食べられると思ったんでしょうね。私も教えるときにお団子のイメージを使いましたし……」


「人間の自認なのに魔力を食べられるのは、おにいちゃんがくいしんぼうだったせいだね!」


 ちくしょう。いつも食いしん坊呼ばわりしていることの意趣返しのつもりか? ベルの奴め。


「くいしんぼうといえばさ。双葉、知ってる? メロンパンってメロンの味全然しないんだよ?」


 ふうちゃんは日本の記憶を持ってるんだ。メロンパンの味ぐらい知ってるだろう。


「ええっ!? 本当ですか? りんぞーさま!?」


 まじかよ。日本の記憶があるのにメロンパンを知らないのか。


「ふうちゃん。メロンパンを食べた記憶とかないの?」


「ないです。メロンパンって、日本ではポピュラーな食べ物なんですか?」


「知らないのは、えーと。そうだな。メロンに興味のない子ぐらいだよ?」


「むぅ……」


 あからさまにふうちゃんが不機嫌になったな。

 気を使ったことに気づかれてしまった。


 ふうちゃんは頬を膨らませて、ずずずっと、一気に残りのメロングラッセを飲み干した。


「りんぞーさま。私を日本に連れて行ってください! 私もメロンパンを食べてみたいです!」


「ふうちゃん。声大きいって!」


 あんまり日本、日本と連呼しないで欲しい。

 ほら、まわりのハンターさんたちが奇異なものを見る目で俺達を見てるじゃないか。


「ごめんなさい」


「ふうちゃん。実のところどれぐらい日本の記憶を持ってるの?」


 小声で聞く。


「私が『夢』で見たのは、幼稚園でおともだちと遊んでる記憶とりんぞーさまのお見舞いをした記憶ぐらいですね」


 ()……か。


「そっか。ふうちゃんは日本の出来事を()で見てる感じなんだな?」


「はい。結構鮮明な()なんですよ? 幼稚園ぐらいの子は『双葉ちゃん』って発音するのが難しいらしくって、おともだちには『ふうちゃん』って呼ばれてました」


「なるほど。どうりで、こっちで『ふうちゃん』って呼ばれてるのを聞いたことないなと思ったら、ふうちゃんの()()()の記憶だったのか」


「……そういえば向こうの図書館で読んだんですが、『記憶は存在しない』って説があるそうなんですよ」


「どういうこと?」


「脳神経が前に発火した状態と同じように発火すると()()()()()()()()が生じるらしいです。つまり、外部からうまいこと繰り返し神経細胞を発火させられれば()()()()()()()()が作り出せるんだそうです」


「記憶を外から書き換えられるってこと? 怖ぇえよ」


「怖いも何も、そんなの当たり前じゃない。おにいちゃんも食らったことあるでしょ? ()()()()


「みんな『何もなかった』と思って遺跡から引き返しちゃう、()の魔王アルシェのあれか?」


 お? 受付のお姉さんが手をふってるな。


「エル・ドラドのみなさーん。受付が空きましたよー」


 雑談をしていると、受付のお姉さんに声をかけられた。



▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽


 受付につくと、受付のお姉さんと一緒に何やらハンターっぽい格好の獣人がいた。


 猫耳をつけた女の子という感じではなく、見た目は完全に二足歩行の猫。

 身長は150cmを切るだろう。銃を背負いなめし革の服を着たふわふわの白い美猫だ。


 人形のように可愛らしいが、どうやらふうちゃんにエル・ドラド入会試験みたいなものを行う試験官らしい。


 受付さんの態度からするとかなりの大物のようだ。


「加入は認められませんにゃ」


 猫獣人のお姉さんが開口一番そういった。


「なんでです?」


 いきなり否定されてふうちゃんの声のトーンがいつもより一段低くなった。


「貴族の、しかも女の子にハンターなんてさせるわけにはいかないにゃ。その『裾にいくにつれて緑色が濃くなっていくワンピース』、かなり高価な服とお見受けしたにゃ。そんな格好をしている過保護に育てられたお子様にハンターは無理にゃ。まして、一級ハンターのパーティーに加入なんて絶対に無理にゃ。返事が『レンジャー』になるまでムキムキに鍛えて出直してこいにゃ」


「決めつけないでください! こう見えて結構力持ちなんですよ?」


 ふうちゃんが腕まくりしてみせる。

 残念だが二の腕はぷにぷにだ。


 かわいい。


 じゃあ、とばかりに猫獣人のお姉さんが自分の体よりも大きなバックパックをひょいと担いで持ってきた。


 見た目より随分と力持ちのようだ。


 ……まてよ。


 隠蔽されているが身体強化魔法を使ってるな。レベルは4か。


「さあ、持ってみろにゃ。一級ハンターのパーティーに、新人があとから加入するなら役割は必然的に運搬役ポーターになるにゃ。そして、こいつが一般的なパーティーのポーターが持つ荷物にゃ。5人分の簡易テントや調理器具、回復薬飲料水その他諸々が入ってるにゃ。こいつを平然と担げるようでなければお話にならないにゃ」


 ふうちゃんには無限格納があるから重い荷物を持つ必要なんてないんだけどな。


 しかし、ふうちゃん。この課題をどうやってクリアするつもりだろう?


 いまのふうちゃんなら身体強化魔法を使って正攻法で持ち上げることも可能かもしれないが……。


 ――、空気が変わった。


 ふうちゃんの周囲のテーブル・椅子、人が数十センチ浮きあがる。

 重力魔法だ。随分制御がうまくなったなぁ。


 以前は周辺一帯が巻き込まれたものだが、今はふうちゃんの周囲数メートルに力が集中している。


「あわわわわ!」


 受付のお姉さんと猫獣人の試験官がふわふわと浮かんでいる。


 おもむろにふうちゃんがバックパックに近寄り、伸ばした人差し指の上に載せた。


「もちあがりました!」


 うれしそうなふうちゃんとは裏腹に周囲はドン引きだ。


「じ……実力は十分わかったにゃ。加入を認めるにゃ。早くおろしてー」


 ふうちゃんのエル・ドラドへの加入が正式に認められたぜ。



▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽



 無事、ふうちゃんが加入したことだし、再出発記念の依頼選びだ。


 記念すべき初依頼はどれがいいかなー?


 掲示板にある依頼書に目を通す。


 あんまり、ぱっとしないな。


「りんぞーさま。これがいいです! これにしましょう!」


 ふうちゃんが掲示板から依頼書を剥がして持ってきた。


 ……どれどれ。


「セントラ帝国と扶桑の国、そして海上都市国家ハリハラを結ぶ航路の中心に出没する神獣ティタノカリスの討伐か。貿易ができずに各国の商業ギルドが困っていると。受注資格は一級ハンター以上か」


 神獣ねぇ。


 こっちにはベルがいるし、ふうちゃんもいるから負ける気はしないが、どうしてこの依頼なんだろう?


「最近、扶桑の国の輸入品のお味噌やお醤油が値上がりしていて、あおば食堂が赤字転落の危機なんですー」


「意外と切実な話だった! そういうことなら俺はいいよ。ベルもこの依頼でいいか?」


「よくないんですけどー。私、海の生き物とは相性良くないんだけどー。龍形態で飛んでいくと海を盾にチクチク攻撃されるから嫌なんだよ。潜られるとブレスもイマイチ効果が薄いしさ。だから、ファントムでやるならいいよ?」


 まあ、相手は海の真ん中にいる、海がホームの神獣。

 船で近づくのは『なし』だろう。


 ベルの背中に乗って戦うか、ファントムで上空から戦うかしか選択肢がない。

 逆に言うと俺たち以外の誰が受けるんだこの依頼?


「よっしゃ。この依頼、引き受けます!」


 俄然がぜん、燃えてきたぜ!


 おお、依頼書の隅っこに小さく特記があるな。


 特記事項:コルベストの神獣狩り専門の一級ハンターが当依頼に失敗。特級ハンター、スカーレットバレットが指名依頼を辞退している。


 ……おおう。今更あとには引けないが。

 やばくないか? この依頼。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  おお、なんだかいろいろ明かされていくパートですね。  会話の中に組み込まれたあれやそれが、いろんな伏線を思い出させてくれます。ああ、でもまだ理解に届かない……  ふうちゃんはいつ転生(?…
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