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交差する世界

 交渉は場所を移して、『艦長室』で2対2で行うことになった。

 艦長室はホテルのスイートルームのような誂えだった。

 上品かつ豪華な調度品の数々。快適そうな家具の配置。

 ただし、窓はない。


「艦長室にも窓はないのか。ゴレコンもそうだけど、プロジェクターで外の景色を見るのって、なんとなく味気なく感じない?」

「俺だって味気ないと思うこともあるさ。たとえ真っ暗な景色が広がっているとしても、廃棄宇宙の夜空を眺めたいと思うこともある。だけどな、どの宇宙戦艦にも窓なんてないよ。まず、強度が維持できないし、維持できる厚みにしたら結局外なんか見えない。要は無駄だ」


 メテオルさんいわく、窓がないのはこういう理由である。ちょっと残念だ。艦長室なら外の景色が見れるかもと思ったんだけどな。まぁ、一応はプロジェクターで見えてはいるんだけれども。というか、カイヅカ遺跡周辺の見知った景色が広がっているんだけれども……。


 ところで、何故交渉の場所を移すのか?

 メテオルさんによると、普段は足元を見られないように交渉時は最高戦力を並べて威圧的に行うらしい。手の内を明かしたってことは、今回はそうしないってことだよな。


「あいつら全員、亜神霊級だよ?」


 ベルが七柱の天使を見て、内緒話をするように俺の耳元でポソっと言った。怖いじゃんよ。

 2対2ということは、対等に交渉しようってことだろうか。あるいは日本の話をするから腹心にしか聞かれたくないとか? 結局、艦長室に着くまでの間に一人、また一人と天使が持ち場にかえっていき、残ったのはメテオルさんと、グレースという名の天使だけだった。


「まず、ミスティのやらかしたことを謝罪したい。手荒な真似をされたろう?」


 メテオルさんが部屋につくなり、切り出してきた。どう対応すべきだろう? 交渉前だ。被害を大きく見せるべきかな?


「ああ、こっぴどくやられたな」


 やられたのは俺達じゃない。敵のアンデット軍団が、だけれども。


 そりゃあもう、跡形もなく消えたよ? でも、結局、あの天使の攻撃で人的な被害は出なかったんだよな。『人間に限って』と言う条件付きだが。人々を殺したアンデッド共だけが全滅してるんだ。見ようによってはあの天使が街の人達のかたきをとったようにも見える。


「すまなかった」

「ごめんなさい」


 メテオルさんとグレースさんが頭を下げた。なんだか心苦しくなってきたな。ベルは……、まぁ実際戦ってたし、被害を受けてると言えるのか?


「俺は受け入れるよ。ベルもいいよな?」


 こくり、っとメロンパン型魔力弾を頬張りながらベルが頷いた。頬張っているため喋れないらしい。まるで、リスが頬に一杯物を詰め込んでいるようだ。


 かわいい。


 どうやらクッキー生地付きふわふわメロンパンはベルのお気に召したらしいな。


「ミスティの火力だ。君たち、おそらくゴレコンを何機か失っているだろう? お詫びといっては何だが、我々が帝国から鹵獲したゴレコン10機を譲ろう。お察しの通り、俺達はこの世界のものじゃないのでね。差し出せるものに限りがあるんだ。それで手を打ってくれると嬉しい」


 もちろん返事はこうだ。


「いいよ!」


 考えるまでもない。二つ返事でオーケーだよ。どうしよう。ゴレコンって一機でも城が建つような金額だろう? めっちゃ大金持ちだよ!

 いやいや、むしろ売らずにファーメル教国にもって帰るか? 自動操縦で追尾させれば、ゴレコンを全機いっぺんに持って帰ることも可能だよな。『いたもん』がゴレコンの部隊になったりして! うひょー。やべぇ。俺大活躍じゃん!


「そのゴレコンって、ちゃんと動くやつ? 弾とかちゃんとあるの?」


 ベルが口を挟んできた。あぶねぇ。そこには気が回ってなかった。浮かれて『空手形からてがた』を渡されるところだった!


「鹵獲するときはなるべく傷の少ないものを選ぶようにしている。譲るのは大きな傷のないものだ。もう解析して、技術的に得るべきものがないことは分かっている。サリミドに売り払うにしても、対価にもらって嬉しいものはなにもない」


「アトロポスの内部で自給自足ができるからか?」

「そうだ。弾薬も君たちに譲ろう。うちで使うには、火薬の純度が低くてな。はっきり言って使い物にならない」


「艦長!」

「すまない。失言だ。忘れてくれ」


 どういうことだ? なんで今、グレースさんはメテオルさんの発言を慌てて遮った?

 ……まてよ。敵の弾薬が利用できない? もしかしてこの艦は弾不足だったりするんだろうか? だとすると、停戦交渉に使えるか?


「ところで、君たちは『輪廻』と言うゲームを知ってるか?」

「えっ? 何だよ唐突に? ゲーム?」

「『輪廻』という名のVRMMO・RPGゲームのベータ版をご存知ですか?」


 グレースさんも同じことを聞いてくる。ただのMMORPGならやったことがあるが、そもそもVR版のは、やったことないんだよな。


「知らない」

「わたしもー」


 メテオルさんの表情に失望の色が見て取れた。メテオルさん達は、この世界をゲームのように思ってる派なのかな?


「じゃあ、この世界をゲームの中のようだと思ったことはないか?」

「それはあるよ。スキルの存在。魔法の存在。レベルの存在。人知を超えた化け物。そして神霊。どれも日本にはないものだ」


 メテオルさんが挑むような挑発的な目で聞いてきた。


「神霊はあるだろう? リンゾーくんは初詣とかいかないタイプか?」

「いかないよ。混むし。だいたい『初詣』って言葉はおかしいよな。年に一回しかいかないなら全然初詣じゃないだろう? そういえばご近所の自治会でお神酒(みき)を配ったときは一度だけ行ったな」


 メテオルさんが何かを思案してから吐き出すようにいった。


「……やっぱり、リンゾーくんがNPCとは俺には思えない」

「失礼だな。ちゃんと生きてるし、俺は転生者だよ。日本からの転生者。ほら、諭吉さんもあるぞ」


 別に見せてもいいよな? 誰に確認するでもなく、財布から一万円札を取り出した。


「古い貨幣だが、たしかに日本円だ」

「えっ。古いの?」

「この『程度の良さ』なら、10万はかたいな」


 まさかのメテオルさん『未来人説』出てきたぁ!!


「メテオルさんはどうやってこの世界に来たんだ?」

「それは『日本からどうやって』ということか? バカンス中プレイし続けられることが売りの最新鋭フルダイブ型VRMMO装置に入って、だな。ようは食事も排泄も不要でぶっ通しプレイできるMMORPGのベータテストをしてたのさ。俺たちは」


「フルダイブ型かぁ。いいなぁ。俺もプレイしてみたかったなぁ」

「リンゾーくん。俺は今、めちゃくちゃ複雑な気分を味わってるぞ?」


「そのゲーム、ログアウトできないんだろ?」


 直感でそう告げると、時間が止まったかのようにメテオルさんとグレースさんが絶句した。


「なぜ、君がそのことを知っている?」


「知ってるわけじゃないさ。なんとなくだよ。だってこの世界、俺に言わせれば『死後の世界』だからな。俺の認識どおりなら、メテオルさんたちは装置の中で亡くなったんだ」


「バカな……。この世界はゲームの中、のはず。だから、レベルもスキルもある、そうだろう?」

「そのとおりです艦長。私達がすでに死んでいるだなんて……間違ってます」


 受け入れないか。まぁ、俺も確信があるわけじゃないからな。実際、兄貴達のいる日本にもいけるわけだし。全然見当外れの可能性だってある。


「次はこちらから質問だ。君は、ミスティのことをどう思った?」

「あの九翼の天使のことだよな? はっきりいっていいか? 育ちが悪くて喧嘩っ早い。傍若無人と言うか、人の話を聞かないタイプだ」


「データだぞ?」

「えっ?」

「NPCだ。ミスティは。だから蘇る。『輪廻』ではプレイヤーは蘇生しない。もちろん日本でも。君はミスティの蘇生を見ているのだろう? それがこの世界がゲームである証拠だ」

「嘘だろ? たしかに表情に不気味さはあったけど、まさか……」


 蘇生するからNPCだって? 俺の能力の『逆行』は果たして蘇生までするのだろうか? その理屈だと俺NPCじゃん!?


 今度は俺が絶句する番だった。何なんだよ、この世界。まるで隣り合う二つの世界が溶け合っているような。


「結論はでないか。今はその事は保留しよう」

「わかった」


「君たちから聞きたいことはないか?」

「ああ。そうだった。聞きたいことじゃなくて、言いたいことなんだが、帝国が休戦協定を結びたがっている。カイヅカ遺跡には大神霊の眷属の黒神が眠ってるからな、戦闘を中止して欲しいんだ。封印が解けるとまずい」


「それが本題か。俺たちは『廃棄宇宙』へ帰る方法を探すことを条件にサリミドに協力している。もし、リンゾーくんがそれを見つけられるならすぐにでも戦闘を中止しよう。実のところミスティが君たちを連れてきたのは、それが目的なんだ」


「サリミドの帰還方法の調査はうまく行ってないのか?」

「それもあるだろうけど、弾切れが近いからだね」


 ベルがズバッと突っ込んだ。あーあ、その情報は後でかっこよく切り札に使うつもりだったのに。


「メテオル様?」

「ふぅ。俺のミスか……」


 しかし、『廃棄宇宙』か。ふうちゃんを巻き込むことになるが……。この人達なら危険はないかな?


「廃棄宇宙に行く方法なら、心当たりはあるよ。でも、俺が知っている『廃棄宇宙』とメテオルさんの『廃棄宇宙』が同じという保証はない」


 俺とメテオルさんの知ってる『日本』だって、時代が違ってたり、平行世界だったりする可能性があるんだもんな。


「イチかバチかに掛けないといけないわけか……」


 ブワーン。

 一種非常事態発生。一種非常事態発生。

 艦内に警報音が鳴り響き、メテオルさんの目の色が変わった。


「艦長! 大変です」


 先程ブリーフィングルームにいた天使の一人が、艦長室に通される。


「サリィ、報告を」

「はい。1905。当艦西北西3522RU地点を中心に重力場の異常を感知。大質量の転移反応を確認しました。場の乱れから巡洋艦級以上と思われます」


「目と鼻の先じゃないか。戦闘になるぞ! フィールドを解除し、荷電粒子砲のチャージを開始しろ」

「了解。グレースよりウルスラへ。フィールドを解除し荷電粒子砲をチャージしろ。急げよ。これは命令である」

「ウルスラ了解。動力室、エネルギーフィールドに回している動力を主砲のチャージに回せ。大至急」

「大至急了解!」


「君たちは艦長室にいてくれ。ここが一番安全だ」


 嘘だろ、ファンタジー異世界で宇宙戦艦の決戦に巻き込まれた?


 興奮に冷水をぶっかけるようにベルが言う。


「心配しなくても私達だけなら、いつでも逃げられるよ?」

「ですよねー。もう5つ目かよ。おいしいか? メロンパン」


「おにいちゃん。おいしいけど、これ失敗作だよ。メロンの味が全然しないよ! 今まで食べたメロンの食べ物と全然味が違うよ」

「ベルも舌が肥えてきたな。そこに気づくまでになったか。そう、メロンパンとは、見た目で名付けられた名前であって、メロン風味ではないのだ」

「詐欺だ!」


 ベルの糾弾するような視線から目をそらすと、気の抜けた表情で、メテオルさんとグレースさんが俺達を見ていた。


「リンゾーくん。流石にお気楽すぎないか?」

「艦長。私もそう思います」

読んでるぞー。おもしろかった。誤字脱字を見つけた。ここが変だよ。

とっとと続き書け等、思われた方は、評価、ブクマ、コメント、

レビュー等いただけるとうれしいです。


活動報告に各話制作時に考えていたことなどがありますので、

興味のある方はどうぞ。

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