vs九翼の天使
黒神チューリングが、『ファントム』の足元で無残な姿を晒している。
街は跡形もなく消し飛んだ。
オーガ並みの耐久力を持つ数万体のヴァンパイアが、かつての人類の守り手が、こんなにあっさり逝くものなのか?
遠方視をズームにして、九翼の天使を見る。
均整の取れすぎた顔立ちが、かえって不自然さを抱かせる。どこか無機質な血の通っていないような目だ。
天使がなんでもないことのように、中空から巨大な剣を取り出した。
いや、剣なんてサイズじゃないな。形状は間違いなく剣なんだ。だけどアレは大きすぎる。ゴレコンを容易にまっぷたつにできるだろう巨大な剣だ。天使とのスケール感の差がひどい。
刃渡りおよそ30m。本当に馬鹿げたサイズの剣だ。
天使が念動力だろう、祈るように手を合わせると、剣が天使の頭の上で目にも留まらぬ速さで一周する。上空に竜巻が生じた。
そのまま天使が、こっちに剣を飛ばしてくる。
ガァン! とベルの障壁が剣を弾いたけれど、障壁を続いてくる爆風と衝撃波が容赦なく襲い、障壁が壊れる。
どうやらあの剣とベルの障壁は、ほぼ同等の性能らしい。
ズゥウウウウンと振動を伴いながら、剣が地面に倒れた。剣には傷一つない。
バリアが解かれたので、すかさず、127mmロングレンジライフルで、天使を狙撃する。
……、どうやら弾道が完全に見えているらしいな。天使は素手でハエでも払うように、砲弾をはじいた。
悔しいけど、俺のことなんか眼中にないようだ。
鑑定!
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システムエラー。開示権限がありません。
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なんだそりゃ!?
鑑定されたことを感じ取ったのか、九翼の天使とモニター越しに目があった。
天使は嗤う。
まるで不気味の谷のど真ん中にいるアンドロイドのような、薄気味の悪い笑みだった。
ちくしょう、すぐに笑えなくしてやるよ。
とっておきだ! 特大のサーマルガンを喰らえ!
瞬間的に、爆発的な魔力を込めて魔力弾を生成し、プラズマで一気に相転移させる。
『ファントム』の増幅器が俺の魔力を桁違いに大きくしてくれる。
天使が真剣な表情になった。
侮ったな。転移でも避けられないことは、魔王戦で実証済みなんだよ!
「避けられるなら、避けてみろ! サーマルガン、発射!」
ブォン!
青い極太のビームが真っ直ぐに伸び、九翼の天使に直撃した。
天使は翼を羽ばたかせ、燃え移った炎を消している。
翼の一部が焦げていた。
見た目に僅かながらダメージは通っている。しかし……、それも恐るべき速さで回復する。
5秒もしないうちに、焦げ跡は元通りに戻っちまった。
「なぁ、ベル。あいつ強すぎない?」
「攻撃を受けてみた感じ、完っ全に亜神霊級の力があるけど、私、こんな奴知らないよ。どの神様の眷属なのか見当もつかない。まさか創造神様の白神?」
天使が俺たちに語りかけてきた。直接脳内に響くような声だ。テレパシーか?
「巨人の人! 思ったよりも強いね。ドローンレベルの巨人風情にダメージを通されるなんて屈辱だよ。このままじゃ『トリニティ』の名折れだ。今すぐ誇りを取り戻す。全ては『トリニティ』のために! 出力最大! 天軍の剣召喚!」
天使の掲げた右手のひらの上で、空を埋め尽くすように黒い雲が広がっていく。
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剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣・剣
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すべてが刃渡り30m。
振れば竜巻が起き、一本で街を消し飛ばすあの剣だ。
「あんな数、防ぐの無理だよー」
聞く前にベルが情けない声をあげる。
……どうする? この局面を打開する方法は?
「おにいちゃん。逃げよう。『ファントム』だけなら逃げ切れるよ!」
逃げるだって? 街の人やバーナードをおいてか!? 冗談じゃねぇ!
「その選択はなしだ!」
しかし打開策は、……待てよ? 雲? 剣?
天叢雲剣か!?
そうか。これが邪神様の依頼なんだ。
こんなでたらめな数の剣を落とされたら、大陸が消し飛んじまう。それこそカレン様も困るわけだ!
カレン様のところでふうちゃんが手に入れた遠方視の魔法は、この時のためだったんだ!
頭の中でいろんな事がつながった! さっそく、テレパスオーブをふうちゃんにつなぐぞ。
「ふうちゃん。今、大丈夫?」
「りんぞーさま! こっちはだいたい片付きましたよ! 大聖堂の近くで黒いゴーレムが暴れて、ボスが負傷しましたが、さきほど突然ゴーレムが機能停止して敵が逃げていきました」
黒いゴーレム。ビリーを負傷させるほど強いとなると、チューリングだろうな、やっぱり。
「危なかったな。ビリーの容態は?」
「骨折4箇所の大怪我でしたが、私がすぐに治しました。 聖都内の戦闘はもう収まっています。だから、何でも言ってください!」
俺の出番、なくなっちゃったか。ちょっと悔しいけど、さすが皆だ。
「ふうちゃん、ちょっと上空にあがって遠方視でサリミドの空を見てみてくれる?」
「ちょっと待って下さいね? ん~? えっ……。あれは、剣ですか?」
「馬鹿げた話だけど、剣だよ。全部が刃渡り30mの剣」
「ふわー!」
驚き方、かわいいな。
「ふうちゃん。あれがカレン様の言うアメノムラクモだ。重力ジェットで消し飛ばして欲しい」
「わかりました。地表に影響が出ない角度を算出します……。今すぐ撃ったほうがいいですか?」
「そうだね。時間が経過するとどんどん剣が増えていくみたいだ。あの糞天使、加減ってものを知らないらしい」
「了解です! 廃棄宇宙に次元を連結します。10カウント後に撃ちますので目を閉じてください」
「わかった!」
10……9……8……。
「バーナード! 聞こえたな? 目を閉じろ!」
「おう、街の人達には俺から伝える」
「頼む!」
空が一気に暗転する。
街の人達が驚いて目を開けてしまったようで、再度バーナードが指示を飛ばす。
九翼の天使が、空を見あげている。
7……6……5……4……。
ふうちゃんの重力ジェットの射線方向にいるなんて、あの巨大な剣を10万本突きつけられるより怖いぜ。
正直言って、膝が笑う。
ああ、時間が無情に過ぎていく。
3……2……1……0。
暗転した空を、巨大な閃光が切り裂いた!
読んでるぞー。おもしろかった。誤字脱字を見つけた。ここが変だよ。
とっとと続き書け等、思われた方は、評価、ブクマ、コメント、
レビュー等いただけるとうれしいです。
活動報告に各話制作時に考えていたことなどがありますので、
興味のある方はどうぞ。




