表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/87

災厄の熾天使

 ――廃棄宇宙。

 それは、VRMMORPG『輪廻』に数多あまたあるサーバーの一つである。


 創造神に見捨てられた広大な宇宙空間で、各々が最高と思われる宇宙船を繰り仲間達と協力して異星の驚異を解決していく世界。


 廃棄宇宙の3人のトッププレイヤー『エイミィ、カグヤ、そして俺』が中心となって作った、クラン『トリニティ』は、廃棄宇宙サーバーに名を轟かす、誰もが知るトップクランだった。


 生産系最強、次々と最新武装を開発し問題を乗り越えていく『クロトのエイミィ』。技術系最強、最高効率の探索法を模索し最速で問題を解決する『ラケシスのカグヤ』。戦闘系最強、戦闘センスと腕一つで攻略不可といわれた星々を次々と制圧していく、通称『アトロポスのメテオル』こと、俺。


 俺たちが選んだのは、奇しくもモイライ級の同型戦艦だった。


 各々のセンスで独自のチューニングを施した3つのモイライ級戦艦は、特化した分野で『最強』。

 名の知れた3人のリーダー。それらが同型艦を選んでいたことが縁となり、仲良くなって手を組んだとしたら……。


 結果は、当然『最強』だった――。


「あなたの『アトロポス』はさすがね。メテオル」

「『第七宙域艦隊』をものともしなかったものねー」


「うちは戦闘専門だからな。戦闘で活躍して見せないと君たちに見捨てられるだろう?」


「あら。捨てられる不安をいだいてるのは私達の方だわ。ねぇ、私達ちゃんと役に立ててる?」

「立ててるさ。俺の艦は、君たちのサポートがあってこそ戦えるんだよ」


「うちの『生産』が、役に立てているなら嬉しいわ」

「あたしの『技術』もね!」


 補給基地は、目前だった。

 基地で、久しぶりに他の艦の仲間たちと触れ合える。

 俺たちのテンションは、否が応もなくあがっていた。


「今日の『戦闘』でも君等がくれた新型のタイプ・ラムダが大活躍したよ。カグヤの言う通りターゲットに自動で追撃が入るのはシンプルだけど強いな」

「エイミィが私の想定以上のものを作ってくれたのもあるけどねー」

「エイミィもカグヤも、いつもありがとう」


「クラン、『トリニティ』は三位一体よ。バラバラになったらと思うとゾッとするわね」

「もう。縁起でもないこと言わないでー! エイミィ。ワームホールでも出たらどうするの?」

「あはは」


 そのときだった。


 ほんのかすかに小さな声で……。気のせいだとは思うのだけれど、誰かが呼ぶ声が聞こえたような気がした……。


「艦長! ワームホール出現! 回避できません!」

「なっ、嘘だろ!?」


 冗談のようなタイミングで、操舵手であり副官のグレースから連絡が入った。

 なんてことだ。これがフラグってやつか!?


「エイミィ。カグヤ。『俺の艦』はワームホールに入る。転移後すぐに座標ポイントを送る。合流頼む」

「了解!」

「しばらく自衛する必要があるのね? うちの艦にも多少の戦闘能力はあるけど、心細いわ」

「すぐに会えるさ。エイミィ」


「本当にすぐ会えるー? 飛ばされた先で、異星人の女の子とイチャイチャしてないでちゃんと迎えに来てね?」

「えっ? メテオルくん。私達より異星人の女の子のほうを選ぶっていうの?」


 コイツラ。俺で遊んでるな? まったく、俺はそんなキャラじゃないっての。


「艦長!? 私達の知らないところで、そんなことを?」

「なんでお前が驚く!? というか、そんなことを? じゃない。グレース。俺がそんなことをしてないのは、お前が一番良く知っているはずだ。とっとと防御態勢を取れ。転移が始まるぞ」


「総員! 対ショック防御」

「対ショック防御ッ!」


 通常、ワームホールによる転移は、『廃棄宇宙』内の別の座標に飛ばされる。

 ワームホールは、俺たちプレイヤーにとって、うっとおしい罠ではあったが、深刻なものではなかった。

 今回もそうなるものだと思っていた。しかし……。


「なんだと!? 山!?」


 転移先が、惑星の重力圏内。

 しかも目の前がいきなり山だ!


「面舵急げ!」


「面舵一杯!」

「面舵一杯ッ!」


 回避は無理、だな。

 岩に船体がこすられるッ!!


 重力制御装置のおかげで揺れは抑えられているんだが、結構揺れる。

 酔いそうで気分が悪いが、なんとか最小限の被害で、山を回避できた……か。


「被害状況は?」


「艦長。大気中に酸素を観測しました。艦体表面に炎発生。炎上します」

「なんだと!? 直ちにグラビティフィールドを張れ。酸素を遮断するんだ」


「グラビティフィールド展開ッ!」


 なんてことだ……。

 補給基地を目前にし、油断もあったのだろう、戦闘態勢を解き障壁フィールドを展開していなかったことが間違いだった。いきなり大気のある場所に出てしまい、予想外に艦体表面を傷つけた。


「そうだ! クロト! ラケシス! 聞こえるか? 応答を……。応答! ないか? 応答! グレース、現在位置を報告しろ」

「現在位置、不明です。位置情報なし。『廃棄宇宙』ではありません」

「なんだと? 一体どこに飛ばされた? 帰還の方法は?」

「不明です!」


 他の『トリニティ』の仲間たち、――、クロトやラケシスの乗員と連絡が取れず、『廃棄宇宙』への帰還の目処も立たない。


 事態は深刻だった。


 クロトもラケシスも、戦艦ゆえに戦闘力はあるのだが、乗組員の戦闘経験があまりにも少ない。俺たち『アトロポス』無しで、他のクランや異星人に襲われたらひとたまりもないだろう。一刻も早く仲間と合流したかった。


 結局、周囲への影響を最小にするため現在地に重力アンカーを下ろし、俺たちアトロポス搭乗員は、なんとか装甲のメンテナンスをして、不時着した国、サリミドの国王と『廃棄宇宙への帰還に協力すること』を条件に戦闘の請負契約を交わした。


 そうして、今、隣国セントラとの戦争を請け負っている。

 ああ、はやく仲間たちのもとへ、『廃棄宇宙』に還りたい。



▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽



 ブワーンと、艦内に攻撃を受けていることを表すアラートが鳴り響く。

 不快な音だ。オールグリーンのコンソールのほんの一欠片が黄緑色に変わる。


 敵ゴーレムコンソールによる砲撃だろう。


 大質量を誇り、強固な重力場で守られている『廃棄宇宙』最強のモイライ級3番艦『アトロポス』は、少々の攻撃ではびくともしない。

 損傷報告は、どうしてもシステムの表示だよりになるのだ。


「グレース! 報告を」


 副官のグレースに報告を求める。


「敵『レイス』タイプによる127mm砲の一斉射です。障壁を抜け右舷後方に表面積の3%の損傷。一番隔壁を突破されています」


 結構深刻な被害だった。


『ピニオン』タイプのガトリング砲は、重力の障壁で貫通力を失い装甲に弾かれる。しかし、127mm砲ともなると重力障壁ごと装甲を抜かれるらしい。せっかくやった応急修理が台無しだ。修理もろくにできない現状で、同じ箇所を何発も撃たれると酸素のない『廃棄宇宙』に帰還することが困難になる。


「出力をグラビティフィールドに回せ!」

「ツイスター機関:出力50%、出力経路3番から7番障壁へ直結」

「了解。ツイスター機関:出力50%、出力経路3番から7番障壁へ直結ッ」


 現在出せる出力の大半を障壁に回す。微速前進でしか動けなくなるが、これでしばらくは保つだろう。

 さあ反撃だ。一撃必殺の艦首荷電粒子砲は、とてもじゃないが使えない。エイミィ特製のやはり一撃必殺の歪時ツイスターミサイルは『第七宙域艦隊』との戦闘で使ってしまい残弾数11発。さて、どうするか?

 副砲の残弾は205発。追尾ミサイルが残弾数34発。近接防御火器(CIWS)の残弾は一万発以上あるが……。


 ……副砲で一気に敵を削るか。


「副砲レールガン、撃ちかたはじめ!」

「撃ちーかたはじめ!」


 砲撃手長のウルスラが指令を出す。


 砲身が紫電を纏い、閃光を吐き出した。


 音速を優に超える圧倒的な火力が『ニードルピニオン』を、『ランサーギア』をぶち抜いていく。

 あるものは爆散し、またあるものはカスリ、発生した炎に巻き込まれ炎上していく。

 避けようもない速度の砲火に帝国のゴレコンがみるみる数を減らしていく。


「撃ちかたやめ!」

「撃ちーかたやめ!」


 時間にしたらわずかに数秒。アトロポスの火力ならそれで決着する。


「副砲レールガン1番から4番、冷却フェイズに入ります」

「一番から四番冷却!」

「一番から四番冷却ッ!」


 ドローンが攻撃を受けて敗走する敵を自動追撃し、敵陣が地獄のような様相になりつつある。

 敵の戦意は、既に喪失されてるな。陣形が瓦解し、撤退を始めている。

 敗走する敵に追い打ちをかけるのは本意じゃない。


「グレース! 直掩のタイプ・ラムダを呼び戻せ」

「タイプ・ラムダ全機帰還!」

「タイプ・ラムダ全機帰還ッ!」


 戦闘終了……か。


「ミスティは何をやっている?」

「……だめです艦長。外に出ているミスティと連絡が取れません」


 まいったな。残弾が残り少ないことを周囲にさとられないようにしないといけないというのに。

 戦闘を長引かされるのはゴメンだ。下手に戦火を広げてないといいが……。


 ミスティは、搭乗員の一人にして、アトロポスの最大火力(きりふだ)であり、制御不能の鬼札だった。


「艦長。通信装置に入電。ミスティからです」

「回せ!」


「メテオル様。聞こえますか?」

「ミスティ。艦長と呼べといっているだろう? 何をしていた? 報告を」

帝国(セントラ)側で内乱が起こっているようです」

「内乱だと?」

「私達の取り分が少なくなるので、鎮圧してきます!」


 嬉々とした様子が伝わってくる明るい声だ。


「おい。ソイツらを倒しても、取り分なんかないぞ! ミスティ、ちょっと待て! 勝手なことはやめろ!」

「メテオル様はどーんと構えていてください。戦闘はこのミスティにお任せを!」


「こいつ、全く俺の話を聞いてないな……」


 隣で白い翼を弄びながら、グレースが一つため息をついた。


「あの子の本分は戦闘ですから、私達に役に立つところを見せたいのでしょうね。……しかし、ひどいことになりますね?」

「俺の故郷の言葉に『抑止力』ってのがあってな。ミスティにはそれを期待しているんだ。わざわざ攻撃してみせる必要はない。いつもそう言ってるのにな。アイツのせいで俺は毎回罪の意識に悩まされる」


 ミスティに手加減はない。最弱の攻撃でさえ、宇宙戦艦を一撃で轟沈させる。本気の攻撃ならば、艦隊丸ごと全滅だ。『トリニティ』以外のクランでは対処できない。ミスティはそもそも攻撃手段を一種類しか持たないのだ。シンプル故に強い。強さゆえに容易に世界を敵にする。


「いっそ、あの子を除名できませんか?」

「グレース。アレを野放しにしろって? お前はアレと戦ったときの地獄を忘れたのか?」

「過去に戦ったことのないレベルの最強のレイドボスでしたね。アトロポスも大破まで追い込まれました。味方にいても、敵対してもまさしく『災厄』」


 俺は、無意識に頷いた。


 俺含め『トリニティ』の3人の艦長が取得した攻略ボーナスを惜しげなくつぎ込んで、妥協無しで作りあげた、「熾天使型決戦兵器『ミスティ』」は、トリニティが誇るレベル100のNPCの中でも、他のキャラとは比較にならない戦闘力を持っていた。


 制御を手放す代わりに手に入れた、レイドボスと単騎で渡り合える不死性と圧倒的な継戦能力。

 攻撃手段を、ただ一つの魔法に絞る代わりに手に入れた、あらゆる障壁を突破し大陸一つを魔法の一撃で消し飛ばす超火力とそれに耐えうる鉄壁の耐性。


 ミスティは俺たち『トリニティ』のためだけに自律的に動き、外部からの命令コマンドは一切受け付けない。造物主であるエイミィの言うことを、かろうじて、せいぜい母親のお小言(こごと)程度に聞くぐらいである。


 認めたくないことだが、彼女ミスティこそが俺たちの切り札であり、俺たち『トリニティ』が最強であることのあかしなのだ。


 アレが役に立つことも、あるにはあるんだが……

 ……、災厄には違いない。

読んでるぞー。おもしろかった。誤字脱字を見つけた。ここが変だよ。

とっとと続き書け等、思われた方は、評価、ブクマ、コメント、

レビュー等いただけるとうれしいです。


活動報告に各話制作時に考えていたことなどがありますので、

興味のある方はどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ