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風雲急を告げる

 (カーショウ)の率いる死者の軍勢にとって、街の征服など取るに足らないことだった。

 なにしろ、ゴレコン部隊を擁する『帝都』を、確実に制圧できるだけの戦力を用意したのだ。


 自領(カイ)の街の防備など、物の数ではない。


 我は、領主である。

 この街に十分な防備を整えるだけの金がないことも、税収から知っていた。


 そう、街人にできる反撃など、たかが知れているのだ。

 だというのに、伝令がやけに慌ただしい。


「カーショウ様! 大変です! 街の周囲を護るゴーレムが敵ゴレコンの攻撃を受けています」

「敵の数は?」

「2機です」


 たかが2機。いつも冷静なヒンダラーが慌てて我に知らせるほどのことなのか?


 我軍の300のゴーレムには、ゴレコンの装甲を抜く105mm無反動砲とガトリング砲を弾くミスリルの大盾を装備させている。少数のゴレコンなど物の数ではないはずだ。


 しかも、たかが2機。それは、戦というものではなく、喧嘩の範疇だろう。


「たったの2機だと? ヒンダラーよ。それが、なにか我らの作戦に影響があるのか?」


 失望を表すべく手振りと表情を作りヒンダラーを見る。それに対するヒンダラーの答えは簡潔だった。


「既に半数の我が軍のゴーレム部隊が倒されています!」


 なんだと?


「馬鹿な。たったの2機で、か? なにかの間違いではないのか?」

「事実です。前線のドラゴンゾンビ3体も既に倒されています」


 我は思わず天を仰ぎ見る。


「なんだ、それは……」


 意味がわからない。しかし、座して待つ場面でもない。

 手は打たねばなるまい。


 たかが、2機が戦局を覆しうる状況……か。半数というと、残りのゴーレムは150体か。まだ帝都の全ゴレコンの数よりは多いが、油断はならんな。ゴーレムをこれ以上失うと帝都攻略が不可能になる。


「危険だな。黒神を出そう。認めよう。相手は只者ではない。先に切り札を切るべきだ」


 我の意図を理解し、ヒンダラーが黒神チューリングに行動を促す。何者かは知らんが、覚悟するがいい。龍すら震えあがらせる、黒神を送り込んでやる。


「了解。敵は2機のゴーレムコンソール。黒神チューリング発進」


 黒い甲冑型の全高5m程の2機の黒神が、頷き、音もなく上空へと舞いあがっていく。

 黒神に飛行音はない。亜光速の重力波でタービンを回す、ゴレコンに搭載されたツイスター機関とは違う。強力な火力、戦闘力を持ちながら、隠密行動もできるのだ。


 2機の黒神は、ただただ静かに闇に落ちていく世界を疾駆する。


 大神霊の眷属を模して作られた人造亜神。黒神チューリング。


 旧ラブレス帝国のオーパーツが今、帝国の最新鋭ゴレコンと相対する。

 2対2。過去の超兵器と最新鋭兵器が、街の中央広場で睨み合う。


▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽


「リンゾー。コイツラの接近に気づいたか?」


 その聞き方だと、バーナードの方も気づかなかったみたいだな。


「いや。センサーにひっかからなかった」


 目の前に全高5mほどの黒いゴーレムが2機、音もなく現れた。

 ゴレコンを小さくしたようなフォルムで、単眼のモニターカメラが赤く光っている。


 大人と子供ほどのサイズさがあるのに、その黒い鎧型ゴーレムは圧倒的なプレッシャーを放ってきていた。


 (あなど)れる相手じゃないことは、ひと目で分かる。


 鑑定!



▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽



 人造黒神 チューリング


 LV 80


 種族 人造亜神霊


 事象魔法――模造黒渦



 ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ 


 人造黒神!?


「なあ、ベル。人造黒神って知ってる?」

「知ってるよー。人間が作った亜神霊の模造品。かつて人類の切り札だったものだよ」


 亜神霊、ベルと同格かよ!


 考えている間もなく、バーナードの『ニードルピニオン』のほうに向かった黒いゴーレムが左手をかざし、高速の魔力弾を連射してきた。


 見た目ちっぽけな魔力弾は、ゴレコンの誇る重力場をやすやすと突破し『ニードルピニオン』の盾を容易に損傷させる。


「バーナード!」


 うまく盾でガードしているが、バーナードの機体が、一気に表面を削られていく。一瞬で盾がボロボロだ。


 俺の方に来た黒いゴーレムは、ベクトル操作で魔力弾が逸らされると見るや懐に飛び込んできた。


 身長差があるため、潜り込ませるのは拙い! カウンター気味に前蹴りを叩き込み、ふっ飛ばした!


 ふっ飛ばしたのだが……、見た目に敵に損傷はない。

 ゴレコンより強固な装甲を持っているらしい。


「なんなんだ。あの黒いゴーレム。強すぎるぞ」


 バーナードの言葉は尤もだ。吹っ飛んだゴーレムがもう戦線に復帰し、接近戦を挑んでくる。

 ちらりと逃げてくれた街人たちの方を見ると、超兵器の戦闘を固唾を飲んで見守っていた。


 流れ弾がいかないように気をつけないとな。


「装備といい、ゴレコンに近いものを感じるね」


 ベルがつぶやくように言った。

 装備か。魔力弾がバルカンの代わりってことかな? 背中に背負った筒は、まさかライフルのようなものなのか?


「……もしかして、あの機体がゴレコンのオリジナルだったりするのかね?」

「そんな感じだと思うよ」


 ベルの目から見ても、あの黒い敵はゴレコンと似ているようだ。

 人造黒神か。何やら恐ろしい字面だが、要はゴーレムだろ? コアをぶち抜いてしまえばおしまいのはずだ。そして、おれの『ファントム』は、本物の亜神霊搭載だ、恐れることなどない。


「やるぜ! ベル!」

「おー!」


 どこから取り出したのか、黒神が右手に巨大なナイフを持っている。

 マジで武装がゴレコンに似てるわ。


 ナイフを繰り出してくる黒神の猛攻を躱しながら、隙きを見て127mmで黒神を狙う。

 が……、速すぎて狙いがつかない。


 出足の早い、左手の20mmバルカンが役立つ時が来たな!

 127mmをあきらめ背負い、近づいてくる黒神(チューリング)に左手を突き出す。


「喰らえや!」


 ベルの魔力で貫通力が増幅されたバルカン砲が、至近距離で黒神に直撃した!

 ……効いている。


「バーナード! ガトリング砲は多分通るぜ!」


 即座にバーナードがガトリング砲を発射した。


 当然黒神は避けるが、残念! その弾、追尾するんだよな。

 バーナードが発射したガトリング弾がグニャリと曲がる。黒神にとって、計算外の挙動だったようで、激しく吹き飛ばされた。


「ベル。弾の軌道をベクトル操作で変えてくれ!」

「りょうかーい!」


 俺もバーナードも、方法は違えど撃ち出した弾の軌道を、後出しジャンケンのように変えることができる。旧式の回避マニューバで対応できるものかよ。

 敵の基本スペックがやばいぐらいに高いが、勝ち筋が見えてきたな。


「まずいぜ、リンゾー。もう追尾に対応されてる!」

「まじかよ!」


 優位は一瞬だった。ちくしょう! マジでコイツラ強ぇえ!

 接近し、左手の20mmバルカンを発射したときだった。突如、黒渦が現れ、弾を飲み込んだ。


「バーナード! 避けろ!」

「なんだと!?」


 バーナードの後ろに現れた黒渦から、20mmバルカンが転移し発射される。

 だめだ。間に合わない。


 「停止ッ!」


 一瞬だけ時を止め、バーナードの背後に転移して、ベクトル操作をつかって、なんとかバーナードを護る。


 魔王アルシェが持っていたあの黒渦。ベルさえも苦しめられたあの黒渦を、こいつら2機とも持ってるっていうのかよ。


 もうだめだ。バーナードや街人を『護りながら戦う』なんて無理だ。


 護るか攻めるか、選択しなくては。


 敵は2機。バーナードはあの敵に対応できない。

 実質2体1。街人達も護らないといけない。


「ベル。ベクトル操作でバーナードや街人ごと護ることって可能?」

「最近魔力はおにいちゃんがくれたのしか食べてないからなー。短い時間なら可能だよ」

「具体的に頼む。エレジアさん達がくるまで保つと思う?」

「それは、おにいちゃんの新作の魔力弾のでき次第だね」


 ベルのやつ余裕だな。

 ああ、エレジアさんが来るまでは持ちそうなのか。そして、対価に新作の魔力弾を要求すると……。


「バーナード! 街人を護るように行動してくれ! お前や街人ごとバリアーで護る!」

「そんな事ができるのか?!」

「籠城戦になるけどな」


 ベルがベクトル操作で強力な斥力場を展開した。ゴレコンのオーブで増幅されたバリアーの強度は、ヒドラと戦ったときの比ではなく、目視できるほど強固だ。

 黒神が攻めあぐねている。筒を構え、ビーム砲を発射してきたが、斥力場に反射され逆にダメージを追う。


 コンソールに目を落とすと、サーモグラフの光点が消えた。

 ちくしょう。防御に専念している間に、俺が護っている街人以外の、街に残っていた街人が全滅した。100人中救えたのは結局、最初に逃げ出してくれた17人だけだ。


「間に合わなかった! 街の人達が亡くなっちまった……」

「気に病むな。リンゾー。今、ここにいる人達は間違いなくお前の行動が救ったんだ」

「……ありがとう」


 救出に反対していたっていうのに。バーナード。いいやつだな。

 残りの街人と、バーナードは絶対に護り抜くぞ!


 黒神チューリングは、今はナイフでガンガン力場を叩いている。護ると決意はしたものの俺たちにできることはなにもない。

 魔力を奪えれば、あの黒神もどきも行動停止するんだろうか?


「なあ、ベル。いままで魔力はどうやって食べてたの?」

「大気中のを集めてだよ」

「イメージつかないな」

「海獣がちっぽけなプランクトンを大口開けて濾過して食べるように、口を開けてごがっと流し込むんだよ。だからおにいちゃんと会うまでは魔力の濃度が濃いところに行く必要があったんだ。濃縮された魔力を食べる機会なんて早々ないからね」


 クジラみたいなもんか。そういえば、ベルって龍形態あったよな。


「魔力の濃度が濃いところって、例えばどんなところ?」

「そりゃあ、おにいちゃんと会ったところだよ? あの辺境領にはゴーレムやアンデッドが一杯いてね。大気中に濃い魔力があったんだ。ちょうど、ここみたいにね」

「へぇ。じゃあ、今戦ってる奴らは、辺境領の軍かもしれないってことか」

「かもしれないというか、多分そうだよ? あそこには、今戦ってる人造黒神と同じ魔力もあったからね」

「じゃあさ、あいつらの魔力を食べて行動停止できたりしない?」

「おにいちゃんは私を何だと思ってるのか。私はそんな大食らいじゃないし、グルメになっちゃったから無理! あんな負のオーラが多そうな魔力を食べたら胃もたれしちゃうよ」

「ですよねー」


 いい作戦だと思ったんだけどな。


「リンゾー! 上空だ! やばいのが来る!」


 バーナードが叫び声に近い声を上げた。


 大丈夫だぞ、バーナード。ベルは無敵に近いんだ。何がようがベルのバリアはそうやすやすと破られたりしない。気をつけないといけないのは、内部に転移してくる黒渦だけのはずだ。

 その黒渦も、こっちから攻撃しない限り転移しては来ない。そう思っていたんだが……。


 次の瞬間、街が消し飛んだ。


 強烈な衝撃と爆風が巻き起こる。バリアのおかげで吹き飛ばされたりはしないが、ビリビリと衝撃波を感じる。


 土煙が止むと街の中心には、ゴレコンのサイズを遥かに超える巨大な剣が突き刺さっていた。

 街の中心付近に巨大なクレーターができており、ヴァンパイアもゴーレムも嘘のように消失している。


 まるで夢でも見ているかのようだ。いや、ほうけている場合じゃない!

 街人は、……無事か。よかった。


 街人もバーナードも無事だが、斥力場は破られていた。黒神の残骸が無残にも足元に転がっている。

 今のは本当にギリギリだった。ベルが驚愕の表情を浮かべている。


 しかし、何が起こったんだ? 上?

 上空をヴィジョンで見る。


 9枚の翼を持つ天使が、俺たちを興味深そうに見おろしていた。

読んでるぞー。おもしろかった。誤字脱字を見つけた。ここが変だよ。

とっとと続き書け等、思われた方は、評価、ブクマ、コメント、

レビュー等いただけるとうれしいです。


活動報告に各話制作時に考えていたことなどがありますので、

興味のある方はどうぞ。

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