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交差する想い

 双葉ちゃんと別れ、ブリジットさんの護衛に戻ると、聖都中心付近で時計塔に向かう銃の勇者マリア=ミランダを見つけました。

 背にライフルを背負っています。


 急行する飛龍の背に乗っていたとしても、何度も共に行動したマリアを見落としたりはしません。


 ああ、マリア。

 あなたまで、こんな作戦に参加するなんて。


 私のことをアマちゃんだなんだと言いながらも、あんたはアマすぎて心配だと、いつも行動をともにしてくれたマリア、そして、最後にはいつも泥をかぶる役を引き受けてくれたマリアが、こんな非道に手を貸してしまうなんて……。


 胸が痛い。


 なんとかして止めたい。願わくば、彼女が大きな罪を犯す前に……。


 もっとも、マリアとは、振動拳使いのイシュカさんも因縁があるようで、ボクならマリアの行動は手に取るようにわかる、とブリーフィングのときに言っていましたね。


 聖都の中央付近にあり、全方位見渡せる時計塔、ここにマリアが来ると、イシュカさんが予言したとおりになりました。


 イシュカさん。あなたに託していいんですよね?


「イシュカさん。聞こえますか? 時計塔に銃の勇者が向かっています。予想通りライフルを所持」

「オーケー。直ぐ側だよ。任せて」

「マリアを頼みます」


 イシュカさんの声は自信に満ちていて、聞くものを安心させる響きがありました。


▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽


 新人のルナから連絡を受け、ボクは時計塔へと向かう。


 マリアは長身で金髪で、当時のままならベリーショートの少女だ。なかなか目にしないタイプの特徴なので、近くにいればすぐに分かる。


 軽くストレッチをし、一つ大きく伸びをした。


「よし、絶好調!」


 ボクは、転生して本当に良かったと思っている。


 体を動かせるってことが、こんなに幸せなことだとは、前世のボクにはわからなかった。


 前世では物心ついた頃から病床で、ピクリとも動かなかったボクの身体が、思いのままに動くんだ。


 感動モノだよ?


 自分の意志で自分の体を動かすことができる。そのことが、ボクにとって一番の転生特典だったんだ。


 「身体強化魔法レベル5アクティブ……発動」


 淡く揺れる身体強化の光をまとい、軽く振動拳の演舞をするとギャラリーが集まってきた。


 転生したボクは、生き抜くためにハンターをやりながら、振動拳の道場に通った。寄る辺もなかったボクは、振動拳の道場主である師匠の元で、お世話になることになった。


 道場で同じ転生者のマリアと出会い、師匠の娘のサシャと仲良くなった。


 やがて、ボクがいたもんとしてスカウトされて、道を(たが)えることになったけど……。

 サシャが盗賊に惨殺されるまで、ボクらは実の姉妹のように本当に仲が良かったんだ。


 見つけた。そして、もう目の前にマリアがいる。

 マリアが恐れと驚きの中間のような表情をしている。


「やあ、久しぶりだね。マリア。会えて良かった」


 これは心からの言葉だ。


「なんでよ? どうして、あんたが()()()()()のよ。イシュカ」

「決まってるでしょ? 君をとめるためだよ」


 距離9m。

 ボクの縮地(しゅくち)なら一瞬で詰められる距離だ。


「サシャの亡骸(なきがら)を見て、誰より怒っていたあんたが、捜査から外されて誰より落ち込んでいたあんたが、なんで、あたしの前に立ちふさがるのよ!」

「サシャを殺した盗賊団は滅び、サシャは丁重に(とむら)われた。ボクはその結果に納得しているよ」


「私は、自分でサシャのかたきを討ちたかった。異端審問官であり、サシャとの共通の友である、()()()()()()()(かたき)を討ちたかった」


「……」


「あんたは、異端審問官としての仕事を放棄させられたんだ。私達は誰よりその資格があったっていうのに。そうでしょ? イシュカ!」

「ボクは、納得してると言ったよ。マリア。あの時のボクには冷静な捜査なんて、できっこなかった」


「冷静である必要なんてあるの? 動機が復讐でも、あんたなら必死に捜査はしたでしょう?」

「結論ありきの捜査を、かい? マリア。復讐は冤罪を呼び、遺恨を残すよ」


 事件がファーメル教国内でおこれば、プロファイルオーブを使えた。

 もしかしたら、ボクやマリアが捜査に参加できたかも、という思いは、今でも少しある。


「だとしても! 私達には捜査と復讐の資格があった!」

「やめよう。マリア。サシャが聞いたら悲しむよ。復讐なんて……」


「復讐なんてくだらない、って? あんたがそれを言うの? イシュカ」


「復讐かな? 親友サシャを理不尽に奪われた怒りをぶつけたいだけでしょ?」

「それの何がいけないのよ? あんたにその感情がないなんて言わせないわよ?」

「そりゃあ、少しはあるさ」

「だったら! 退()いてよ! イシュカ。怒りをぶつけるはずの、憎き異端審問官が、同じ辛さを味わったあんたじゃ、全く筋が通らないのよ」


「退かない。退けないよ。ボクは、マリアの笑顔が好きなんだ。そんな思いつめた顔をしてる君を見たくない。サシャだって、きっとそう思うさ。だから君と戦う」

「そう……、私と戦う選択をしたことを、後悔しないでよね」


 マリアがライフルを地面におろした。

 身体強化魔法を発動したようだ。レベル5アクティブ……か。


「あんたに銃は使わない。だけどね? イシュカ。忘れたの? たしかに振動拳を習った期間は私よりイシュカのほうが長い。だけど、私は前世で10年空手をやっている。寝たきりだったあんたより、格闘技経験は長いのよ?」

「マリア。一つ教えてあげるよ。『好き』ってことは、ときに経験を覆す。ボクは格闘技も、不器用なマリアも好きなんだ。だから取り戻す」


「わからずやのバカイシュカ!」


 マリアが上段回し蹴りを放ってきた。身体強化魔法を活かした速い蹴りだ。

 受けると骨が折れるので半歩ひいて躱す。


 一気に踏み込むと、マリアは、頭上で蹴りを静止し、踵落としに切り替えてきた。踵落としを振動を乗せた左手で受け、中段と上段の正中線にワンツーを放つ。


 マリアはとっさに防御するが、衝撃がマリアのガードを突破した。


「くうっ!」


 マリアが顔を歪める。

 急所に入ったと思ったけど、バランスさえ崩さないか。


 マリアは後退せずに、振動を乗せた槍のような下段蹴りを放ってきた。鋭く重い一撃だ。振動無しで受けたら確実に折れる。

 ボクは振動を右足に乗せ、波返しで下段蹴りを返した。


 衝撃が、マリアの頭の天辺を抜けたかのような会心の手応え。すぐには立ちあがれないだろう。

 下腹部に蹴りを受けたマリアがへたりこんでしまう。


 拳を交えてわかったのは、マリアが相変わらず、『防御に振動を使えない』ってことだ。つまり、振動拳に関しては、ボクのほうがずっと技量が高い。


 だいたい、マリアの拳には殺気がない。


 ボクより、上の身体強化魔法を使い、防御に振動を使い、殺気全開で飛び込んでくるリンゾー君とのスパーに比べたらずっとぬるい。


「銃を使いなよ。マリア」

「こんな人混みで、銃なんか使えるわけ無いでしょ。バカイシュカ」


 半分諦め、半分泣き笑いの表情のマリア。

 銃の勇者のマリアなら、跳弾も読みきれるだろうに。


 結局の所、マリアは優しすぎるのだ。他の誰かを巻き込む可能性がほんの僅かでもあるのなら、マリアは銃を使わない。最近いたもんになったルナと、少しだけ似ているような気がする。


「立てる?」

「かっこよく手を掴んでおこしてくれる前に、首輪をかけなさいよ。呆れたお人好しね」


「マリアは、逃げるような人じゃないよ」

「知ったようなことを言わないで……。でも、逃げないわよ。だって、イシュカのほうが足が速いじゃない?」

「そうだね」


 久しぶりに見たマリアの笑顔。

 捕獲用の首輪を掛けられているっていうのにまったく……。


「ねぇ、イシュカ。捕まる前に、一つ懺悔をしないといけないことがあるの」

「聞くよ。ボクで良ければ」


 マリアは深刻そうな表情だ。


「『龍騎の勇者』ルナのことよ。飛龍の群れがコルベストを襲った件、ルナは無実なのよ。私はそれを知ってたのに黙ってた。あの子が処刑されたと聞いて、心臓が飛び出るかと思うくらい早鐘を打ったわ。なんてことをしてしまったんだろうって、今も後悔してる。あたしは亡くなったあの子の名誉を回復しないといけない。可能なら証言できる場を用意して欲しい」


「それは無理だよ」

「そう……」

「ルナに謝るなら、直接本人にするべきだ」


「じゃあ、ルナは?」

「生きてるよ。君のことを心配してた」

「そうなの? ……、よかった」

「ルナは、あれで芯のある子だよ。多分許してくれるし、きっとすぐに会えるよ」


 プロファイルオーブは、微罪を示す緑がかった青だ。

 もしかしたら、マリアが『いたもん』になって、ルナとコンビを組む。そんな未来もあるかもしれない。


 そんな事を考えながら、ボクはマリアを確保した。

読んでるぞー。おもしろかった。誤字脱字を見つけた。ここが変だよ。

とっとと続き書け等、思われた方は、評価、ブクマ、コメント、

レビュー等いただけるとうれしいです。


活動報告に各話制作時に考えていたことなどがありますので、

興味のある方はどうぞ。

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