『ランサーギア・ファントム』大地に立つ!
俺は今、総合火力演習場に来ている。
平らに整地された広大な敷地。帝国はここでゴレコンの訓練を行ってるようだ。
空には幾条かの雲がたなびき、標高のせいか少し冷たい風が頬を撫でた。
奥の山には、砲撃のターゲットらしき多重の円を描いた的が見える。
ここは、そう、軍用ゴレコンの引き渡しの場所だ。帝都東方の山のすそに帝国の総合火力演習場はあった。
だだっ広い敷地に、全高15mほどのゴーレムが3機。
2機はすでに立ち、最後の1機が巨大なトレーラー型の運搬用ゴレコンから運び出されている。
立っているゴレコンのひとつは、緑色の『ニードルピニオン』。
輸出仕様とはいえ軍用機だからか地味な艶消しの色だ。バーナード様用だな。右手には、30mmガトリング砲が装備されている。このガトリング砲、近くで見ると意外なほど大きい。
ヘリコプターの主兵装みたいな大きさだ。左手には超振動ナイフを内蔵したシールドがあり、左手のひらの穴からはグレネード弾が発射されるらしい。両肩にはミサイルが3基づつ付いていて、後ろに回ってみると、背中にはデコイフレア射出機能付きのバーニアスラスタがある。ベクターノズルのような推力偏向装置がパタパタと動いており、機体の足元に技師が3人付いてデータを取っている。最終調整中かな?
もうひとつは、エレジアさんの乗る『ランサーギア・レイス』。ランサーギアの『レイス』とか『ファントム』とかという分類名についてだが、軍用が『レイス』で、要人護衛用が『ファントム』らしい。色はつや消しの赤で、頭に角が付いている。
あの頭の角は、テレパスオーブ使って情報を全機に一斉送信するためのアンテナなんだそうだ。まさに隊長機といった感じ。俺が乗る予定の『ファントム』には残念ながら角がついてない。武装は、右手には戦車の主砲のようなサイズの127mmロングレンジライフルが、左手には超振動ナイフ付きのシールドのほか、左手のひらに内蔵の20mmバルカン砲がついていて、背にはバーニアスラスタを備えている。
『ランサーギア』は、ミサイルポッドがないぶん軽量で、しかもジェネレーターが高出力なため、格闘戦ではニードルピニオンよりも圧倒的に上なんだとか。
今運ばれている残りの1機が俺用だな!
ちなみに俺は、さっきまで操縦方法のレクチャーを受けていたわけだけど、ベルはひと足先にここに来ている。姿が見えないところを見ると、もうあの青いランサーギアに乗り込んでいるのかな?
トレーラーのような運搬用ゴレコンから、『ファントム』が降ろされ、最後の一機が立ち上がった。
ランサーギア・ファントム大地に立つ!
ああ、早く乗りたい。ドキドキしてきたぜ。
青い金属光沢を放つ美しくも力強い『ファントム』は、光の当たり具合によって色が変わる。かっこいいぜ! 磨き込まれた装甲には空と雲が写っている。
エレジアさんから受け取ったカードキーをポケットに入れ『ファントム』に近づくと、『ファントム』の前にエレベーターのような立体映像が投影された。ヴィジョンオーブのホログラフと重力場のオーブの応用らしい。光のエレベーターに乗りこむと、『ふわっ』とする感覚のあと、一瞬でコンソールのある操縦席に導かれた。
「おにいちゃん遅いよ~!」
ベルが椅子に座っていた。
椅子はふっかふっかだ。座り心地良さそうだな。
ちなみにベルの席は、俺の席の後ろで、段差がついておりベルの席からもモニターが見えるようになっている。
軍用ならホールド感の優れた椅子のほうが良さそうだけど、そこは『民間用』ってことなんだろう。
ぐるっと周囲を見回すと、視野角はだいたい230度ぐらいかな? ワイドなモニターと手元にホログラフのタッチパネル、オーブを挿入するスロットが見えた。
そう、軍用ゴレコンには、拡張性と柔軟性を持たせるための、オーブを入れるスロットがある。
例えば、魔力弾のオーブをスロットに入れれば、ゴレコンにのっていても『魔力弾』が撃てる。ゴレコンには魔力を増幅する機構が組み込まれているから、巨大で速射性のある魔力弾が撃ち出されることになる。それだけで相手にとっては脅威だよな。
そう考えると、バーナード様の自動追尾魔法であるバーニングフェニックスは、確かにゴレコンと相性が良いのかもしれない。
ちなみに俺の乗るランサーギア・ファントムにも拡張用の空きスロットが5つある。俺も将来的にはオーブを買ってきて嵌めたいなって……おい。
ベルが将来の拡張用の空きスロットに、持ち込んだオーブをはめ込んでいた。いきなり空きスロットが全部埋まってるじゃん!
「ベル。追加したオーブについて説明してくれ。俺が受けたレクチャーでは、スロットには『重力場』と『ヴィション』と『テレパス』のオーブが共通してインストールされてるってことだったんだが、一体何を追加したの?」
「んーとね。『時間停止』と『鑑定』と『ワープゲート』と『ベクトル操作』と……『サーマルガン?』」
「いろいろ気になるところがあるが、ちょっと待て。ベル。何の冗談だ? サーマルガンの魔石なんて、あるはずがないだろ? サーマルガンは俺が即興で作った魔法だよ? なんでそんなオーブがあるのさ?」
「そりゃあ、市販されてないし、私にそんな事のできる知り合いは少ないし、双葉が作ってくれたに決まってるよ?」
「えっ? なんでそこでふうちゃんが出てくるんだ? いつのまに……。というか、ベル。ふうちゃんと連絡取れるの?」
「連絡? んー? 双葉とはふつーにちょくちょく会ってるけど?」
「会ってるって……まじかよ」
「おにいちゃんには説明したと思うけど、一回じゃなくて、何回か説明したと思うけど、私は光より早く移動できるんだよ? まあ、往復だけなら一秒もあれば十分だね」
ベルが得意げだ。
そうだった……。最近おとなしいから気にならなかったけど、ベルは完全に規格外だった。
「まあ、双葉に会いに行くと、毎回一緒にいるルナっていう龍使いの子に崇め奉られるから息苦しいんだけどね」
「この頃、時々いなくなるな、と思ってたらふうちゃんと会ってたのかよ」
なんだか釈然としないまま、シートベルトを締め、操縦桿を握る。
身体強化魔法を通じ、俺の意志が、操縦桿を通じて『ファントム』に伝わっていく。
軍用ゴレコンの操縦は基本的に、ロックされた操縦桿を握っているだけだ。
何も操作しなくても、念じたとおりにゴレコンは動く。
じゃあ、「操縦桿のロックはいつ解除するのか?」というと、飛行時にロックを解除して使うらしい。
ただし、『ファントム』の場合は操縦桿はロックを掛けたままで問題ない。
ちょっと操縦してみたところ、ファントムはいろいろやばい機体に仕上がっていた。
まず、飛行中も姿勢が変わらない。なにしろ『ベクトル操作』の能力のせいでスラスターをふかしただけで、空中を自由自在に移動できる。イメージとしてはふうちゃんの飛行のイメージだ。この時点で、操縦桿のロックはほぼ意味がなくなった。そして、反動抑制のために『主砲を撃つ時は重力場を展開してから撃つ』というレクチャーを受けたのだけれど、『ベクトル操作』はそれすらも不要にした。なにせ後方に向かう反動をゼロにできるのである。
つまり、砲を撃とうが飛行しようが『ファントム』の姿勢は常に維持されているのだ。さらに、『ミサイルは、デコイフレアを射出して躱す』と聞いていたけれど、『ベクトル操作』がジャマー効果を持っているので、コレもする必要がない。そもそもミサイルも銃弾も当たらない。
ベルの乗った『ファントム』は、それはもうとんでもないチート性能なのだった。
「そういえば、レクチャーのときに聞いたけど、重力場の魔法ってダメージ軽減とかにも使えるんだよな。今度ふうちゃんに教えてあげよう」
「……、そんなの双葉はちっちゃい頃から知ってるよ?」
「ふうちゃんの小さい頃かー。なぜか、はっきりイメージできるんだよな」
「そりゃあ、会ったことがあれば明確にイメージできるに決まってるよ」
「なるほどな。着てる服までイメージできるもんなー。ってそんなわけあるかい!」
のんきにベルと話をしているけれど、実は、今現在バーナード様と模擬戦中である。
バーナード様までの距離はおよそ1km。ヴィジョンの効果でモニター上に『ニードルピニオン』の姿がはっきり映し出されている。距離1223か。現在、バーナード様はこっちの砲撃を警戒して、ガトリング砲の有効射程ギリギリまで退避している。
しかし、ダメージコントロールに重力場を使う必要はないな。グレネード弾も、自動追尾のはずのバーニングフェニックスも全部当たる前にそれていってしまう。集弾性と貫通力が売りの30mmガトリング砲さえ、『ファントム』の前では集弾しない。みんなあべこべの方向へ飛んでいってしまう。
バーナード様がナイフを盾から引き抜いた。
ナイフと言っても全高15mのゴレコンが使用するものなので、かなりの大きさだ。
中遠距離戦は無駄だから、接近戦で勝負、ということだろう。
ニードルピニオンとランサーギアでは速さが違うから、だいぶバーナード様のほうが不利なんだけどな。
バーナード様のニードルピニオンが構え、グレネードをばらまきながら、スラスターをふかして一息に一足一刀の間に詰めてくるッ。
ああ。ゴツいニードルピニオンもかっこいいな。ゴレコンの所作は本当になめらかで感動する。
ニードルピニオンがナイフで突いてくる。一段!二段!三段!
戻しが速いので、掴んで投げるのは無理か。
バーナード様。多分、何らかの武道の経験があるな。
膝と肩の使い方が上手い。初動をうまく消している。
イシュカさんと組み手をしてなければ、まずいことになったかもしれない。
俺はまだナイフを抜かない。
正中線の取り合い。差し合いから、バーナード様が突きをフェイントとして、不意をついてファイアーボールを撃ってきた。
危なッ!
ベルの反射をイメージし、2倍に増幅してファイアーボールを跳ね返してやった。
バーナード様の驚愕がニードルピニオンから伝わってくるようだ。所作に動揺が見られる。
しかし、敵の魔法攻撃は、念じただけで倍返しとかになるわけだよ? 何このロボット。砲で狙えば百発百中。時間を止めることすら可能。さすがにそれをやると練習にならないからやらないけれども……。
ワープゲートのイメージが成立した瞬間、『ファントム』がニードルピニオンの側方へ転移する。
隙だらけだ。
ニードルピニオンの右手を取り、手刀で肘上を打って地面に転がし、手首を固めそのままナイフを奪って超振動ナイフを突きつける。
「はい、王手!」
圧勝である。
体術も問題なく使えるが、これ、ちゃんと訓練になってるのかな?
「そこまでっ!」
エレジアさんが試合を止めた。
読んでるぞー。おもしろかった。誤字脱字を見つけた。ここが変だよ。
とっとと続き書け等、思われた方は、評価、ブクマ、コメント、
レビュー等いただけるとうれしいです。
活動報告に各話制作時に考えていたことなどがありますので、
興味のある方はどうぞ。




