軍用ゴレコン『ランサーギア』
朝。
宿屋から出て、ひとつ思いっきり伸びをする。
時間が早いため、道行く人は少ない。
空は快晴だ。
見える景色に、いやがおうにもテンションがあがってくるぜ。
二級市民街は、高い壁が気になるぐらいで割と馴染みの光景が広がっていたわけだけど……。
一級市民街は、凄ぇえ!
『軍用ゴーレムコンソール(略して軍用ゴレコン)』というフルプレートアーマーをゴツくしたようなロボットが要所要所に立っているのだ!
その全高は15mぐらい。ガトリング砲を携えたもの、大口径砲を備えたものなどが、非常になめらかに動いている。
この感動が伝わるだろうか? 人型ロボットが、非常になめらかに動いているッ!
なるほど。この圧倒的武力が、帝国が帝国たるゆえんなんだ。こんなものが敵として出てきたら、相手は絶望する他はない。こんなものを持っていたら、或いは領土の拡大政策に走りたくなるのも無理なからぬことなのかもしれない。
これがズラッと並んだら龍すらも絶望するんじゃなかろうか? 惚れ惚れするような力の具象だ。
非常に精緻な細工が施された金属光沢の美しいゴーレムベースのロボットが、力強くまるで生物のようにあちこちで動いている。
街の人に聞いたところ、軍用ゴレコンは『キラ博士』なる人物が開発したらしい。
サリミドとの戦争で大活躍したことは、もはや常識となっている。
しかし、その『キラ』氏、日本人だぞ絶対。
あの、赤くて角が付いてるのが、隊長機だろ? 日本のアニメの定番だ! いいなぁ。ゴレコン。
ぜひ、乗ってみたいぞ!
「おにいちゃん。待ってよ~」
ベルが宿屋から出てきた。ビューオーブをゴソゴソとバックにしまっている。ほんとにドラマに嵌ってるんだな。
「見ろよベル。あれが軍用ゴレコンだぜ。アレなら赤龍にも勝てそうだよな?」
「『ニードルピニオン』かー。射程では赤龍を上回るけど、どうだろう? 主兵装の30mmガトリング砲は距離460RUで70mmの貫通力を持ってるけど、赤龍の龍鱗の硬さはタングステン合金並みだからね。しかもハニカム積層構造だから、RHA(均質圧延鋼装甲)のようにはいかないよ?」
「ベル。さっぱりわからねぇ。要するに龍鱗は硬いから接近戦に持ち込む必要があるってことか?」
「相当接近しないと難しいだろうね。『ドラゴン怒りの逆襲』では、ニードルピニオンの主兵装と同じぐらいの威力の30ミリガトリング砲が、100RUで龍鱗に弾かれてたよ? 『ニードルピニオン』の火力じゃあ、ワイバーンの脆っちい龍鱗もどきぐらいしか貫けないんじゃないかな? 向こうの徹甲弾装備の『ランサーギア』ならば、127mmロングレンジライフル持ちの『ランサーギア』ならば、十分いけると思うけど……、それでも赤龍と比べたら機動力で劣るからブレスの射程に入って戦うのは不利かな」
あかん。言われるままにビューオーブを買い与えてたら、知らぬ間にベルが軍事ヲタになっとる……次からは内容を選んで買い与えなきゃ。
道中、何事もなくハンターギルドにつくと、ギルマスが俺のところに飛んできた。
「リンゾー。指名依頼だ。ギルド長室へ来てくれ」
指名依頼だと……!?
有名人にならないと受けることができない、あの、『指名依頼』!?
ふふふ。ついに世間が俺の価値に気づいてしまったか!?
一度、受けてみたかった!
うおー! 俺は有名になったぞー!
テンションも高く、ギルド長室に行くと、年の頃30歳前後の軍人然とした中性的な美しさを持つ麗人と、コルベストの一級ハンター、『豪炎業火』のバーナード様がいた。
軽く挨拶をしておく。
「バーナード様。怪我はもう良くなったんだな。ハンターとして復帰できたようでよかったよ」
「おう。聞いたぞ! ええと……坊主。一級ハンターになったそうだな。おめでとう。大したもんだ」
ベルのブレスで、ボロボロに崩れ落ちた左手は義手になっているようだ。人の痛みを知って傲慢さが少し抜けたのか、表情が以前より柔らかい。
バーナード様と握手した。
「いや、はじめてあったときから、お前は只者じゃないと思っていたよ」
「うそつけよ? 俺は、ニートでも見習い坊主でもないからな?」
「そこは、『さすがバーナード様』と言え。本当にお前は只者じゃないとは思っていたんだ。あの龍のプレッシャーの中、馬車の外へ飛び出したんだからな。先見の明がある、このバーナード様を褒め称える場面だろう。ところでそっちの美しい少女は誰だ? 紹介してくれ」
「俺の妹分だよ」
ギヌロッツ!
「あひぃっ!!」
ベルがバーナード様を睨んだらしい。
「な……なんかトラウマが。その子怖い。左手がうずく」
「失礼なことを言うな。黒焦げにされるぞ」
「黒焦げ? そうなんだよ。さっきから俺の精霊が、黒焦げにされると、ものすごく怯えてるんだ。火の中級精霊がだぞ? その子をなだめてくれ。頼む。帝国の一級ハンター」
「いい加減名前を覚えてくれよ、バーナード様。おれはリンゾーだ。リンゾー。ちゃんと呼べたらなだめてやる」
バーナード様を見ると涙目である。
ちょっとヘタレっぽくなってるよな? 人に物を頼むってことを、覚えてくれてるといいんだけど。
「頼む。リンゾー」
あっさり頼んできたよ。腕が炭化して崩れるほどのお灸を喰らえば、性格も変わるのか?
「ベル。向こうでドラマ見てていいぞ」
「本当に!?」
「呼ぶまで自由時間だ」
「わーい」
「その少女が、その、龍神様かね?」
中性的な軍人さんが話しかけてきた。帽子をかぶっているために髪型もわからないが細身で高身長。声からするとやっぱり女性だな。
「はい。俺の従魔のベルティアナといいます」
「これは心強い。ギルマス。依頼の話に入ってもよろしいか?」
「はっ。ご随意に」
「そうかしこまらないでくれ。ギルマス。私は一介の帝国少尉に過ぎないよ」
「承知した」
「私は帝国機動軍第一砲術隊長をしているエレジアという」
「エレジア様は帝国元帥ドーヴィル様のご息女だ」
なるほど。父親がお偉いさんなのか。
「依頼は、私からではなく、帝国からの依頼と受け取ってもらっていい。これが陛下の全権委任状だ」
「帝国からかよ。断りづらいな」
「断らないでくれると助かる。君に断られたら陛下にお見せできる顔がない」
「リンゾーよ。でかい依頼を受けてこそハンターとして名があがるんだ。このバーナード様のように偉大な一級ハンターになりたければ、覚えておくんだな?」
「俺だって、一級ハンターだよ?」
「こほんっ。現在帝国は、サリミドと戦争状態にある。戦力的には帝国有利、何も問題はない。ないんだが、戦闘の起こっている場所が悪くてな。帝国が監視を緩めたカイヅカ方面が戦場になっているんだ」
「マジかよ? カイヅカ遺跡に手を出すとえらいことになるぞ」
事の深刻さが形作る緊張感と静寂があたりを包んだ。漫画なんかで出てくる『シーン』と言う効果音は、静かすぎて起こる耳鳴りのようなものだったんだな。静寂のあと、ごくりとギルマスが唾を飲み込んだ音があたりに響いた。
「そこで、君たちには敵の主力である鳥船の長に、第三者として、カイヅカ遺跡のことを説明してきてほしいんだ」
「鳥船って、空を飛んでるっていうサリミドの戦艦のことだろ? どうやって接近すんのさ。拡声魔法を使うと言っても限度があるぜ」
「接近する手段についてか。報酬と関わってくるから、先に報酬の話をしよう。まず、戦争を止められた場合、一人白金貨10枚払う」
「ヒュー! 豪邸が立つぜ」
バーナード様。意外と現金だな。
「無論リンゾー、お前には龍神様の分も支払おう。戦争を止められなかった場合、それでも一人あたり白金貨3枚支払う。それだけ危険を伴う依頼だと承知してくれ。そして、こいつが目玉になるが前報酬として最新鋭の軍用ゴーレムコンソール『ニードルピニオン』の輸出仕様を一騎づつ渡す。バーニア付きで最低45分間の飛行が可能だ。これが鳥船への移動手段かつ報酬の一部だ。壊さなければ、白金貨数十枚は上回る価値の新鋭のゴレコンがお前たちのものになる」
「まじかよ! すげー!」
「わたし、『ランサーギア』がいいなー」
ベルがこっちにやってきて、目をキラキラさせている。
「受けてもらえる。ということでよろしいか?」
「安心しろ。このバーナード様が力を貸してやる。なに、強者は馬を選ばない。強いゴレコンをよこせとは言わんさ」
ギロッ!
「あひぃー!」
「俺も、ベルが納得するならいいぞ。受けないと世界が大変なことになるかもしれないし、ゴレコンには乗ってみたいと思っていたからな」
「ありがとう。一寸待ってくれ。開発部にかけあってみよう」
エレジアさんが、テレパスオーブを取り出した。
「博士。20日にロールアウトした最新の『ランサーギア・ファントム』を一騎回してくれないか。要人警護用のバーニアのついたやつだ。この上ない要人を警護するために必要なんだ。軍部? 通るさ。皇帝陛下の全権委任状を持っている。シートは複座式にしてくれよ。最高級のものだ。装備? 予算に糸目をつけるな。失敗の許されない任務だ。特級のオーブを奢ってくれ。特級だと『レベル6』しか動かせない? 構わない、それで頼む。それと調整は博士が直々に行ってくれ」
ガチャン。
「オーケーだ。では、バーナードには『ニードルピニオン』をバーニア付きフルオプションで、リンゾーには、『ランサーギア・ファントム』を前報酬として渡す。操縦方法を教えるので、指定の日時に、総合火力演習場に来てくれ。そこで引き渡そう」
「遺跡の件で、俺に依頼を出すのはわかったけど、バーナード様に依頼を出したのはなんでだ?」
「おい、リンゾー。それはどういう意味だ。このバーナード様に、なにか劣る点があるとでも言うのか?」
「喧嘩をするな。バーナードは軍用ゴレコンと能力的に『相性がいい』からだよ。そもそも軍用ゴレコンを動かす資質を持っているものは少ない」
「相性か。俺にゴレコンが動かせるのか、不安になってきたな」
「ゴレコンは、搭乗者の魔力を吸い、増幅することで動いている。具体的に言うと、『身体強化魔法レベル5』を発動し続けられるなら、発動している間はゴレコンを動かすことができる」
「じゃあ、大丈夫だ。おれは一日中『レベル6』を発動しっぱなしだから」
「君と同様に、バーナードも『レベル5』を発動しっぱなしというわけさ」
ああー。言われてみれば。
隠蔽されているけれど、よく観察すれば、強力な身体強化魔法の力を感じるな。バーナード様からも、エレジアさんからも。
「これが、私が君たちに声をかけた理由で、君たちにしか声をかけなかった理由だ」
なるほどなー。
読んでるぞー。おもしろかった。誤字脱字を見つけた。ここが変だよ。とっとと続き書け等、思われた方は、評価、ブクマ、コメント、レビュー等いただけるとうれしいです。
活動報告に各話制作時に考えていたことなどがありますので、興味のある方はどうぞ。




