VRMMORPG『輪廻』
起承転結の転に入ります!
――、西暦2205年。
地球環境は悪化の一途をたどり、地球はいよいよ、飽和した人類を抱え込むことができなくなっていた。
世界最速の量子コンピューターに搭載された思慮深きAI――、偉大なSFから名を借りて命名された人工知能「YSR-HAL」は、平和的な方法で地球環境を維持するために、人類に対し生命維持装置付きフルダイブ型VRMMORPG『輪廻』を提案した。
一つの世界につき、命は一つのみ。蘇生魔法のたぐいはなく、サーバーごとに全うされた命は、あたかも輪廻転生をするように複数のサーバー間を移動する。そして、同じサーバーに移動することは二度とない。
サーバーは多種多様。様々な世界が用意されており、例えば、星間戦争を舞台とした廃棄宇宙サーバー、或いは蒸気機関ですべてが動くサイバーパンクサーバー、過去の地球の様々な国を模したアウターシェルサーバー、精霊たちの世界フェアリーテイルサーバー等々。サーバーの総数は時間の経過とともに刻々と増え続けており、魅力に溢れるものが多かった。
『輪廻』のテストプレイが公開されるや否や、人々は大いに熱狂した。全く知らない世界を、「全感覚が極めて正確に再現され、生きていることが実感できる」レベルにまで体験できるそのゲームを、娯楽に飢えた人々は好意的に受け入れた。
『輪廻』の一番の売りは、「神」の枠があいていることだった。『世界の中心』にたどり着き、条件を満たしたものは、空いたサーバーに自分好みの世界を作ることができる。「感覚が極めて正確に再現された」自分好みの世界で「神」になれるということ。それは世界征服以上の大きな快楽をもたらしてくれるに違いない。
汚染された空気に外出もできず、機械に仕事を奪われ働くこともなく、やることのなくなった人類は、この「YSR-HAL」の提案に飛びついた。ゲーム開始から最初の3ヶ月のうちに、実に世界人口の半数以上がこのゲームをプレイすることとなった。精神が無限の世界を転生する間、体はほぼコールドスリープの領域まで代謝を落とされ、地球環境が回復する日まで、「人体」が保存される、AIにとっても人類にとっても都合の良い「ゲーム」。
しかし、それ故にそのゲーム『輪廻』からは、ログアウトすることができなかった……。
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「暗殺」の勇者クロウと「影」の勇者ハイドが、コルベストで軽食をとっている。
「光」の勇者レイから、ファーメル教国討ち入りの打ち合わせが提案されたため、打ち合わせの場所に先乗りしたのだ。
盗聴や盗撮などの情報を盗まれる可能性を潰すこと、それは彼らのいつもの役目だった。
「ハイド。なぜ今日、作戦決行なんだ?」
「ファーメル教国は、今現在「知恵」の勇者ブロンコの起こした偽金貨騒動で混乱中らしいぜ。クロウ。さらに、サリミドでは飛行戦艦が動きを取り戻し、帝国に奪われたカイヅカ方面の領土の奪還を図っているそうだ。急に帝国のカイヅカ方面の監視が弱くなったからチャンスと見たのだろう。事を起こすなら、場が混乱している今が好機、というわけさ」
「ハイド。あの作戦。ファーメル教国に被害者が多く出るよな? 東からは召喚の勇者の軍、西からはバーナードの炎。巻き添えで一般市民に多くの犠牲が出るだろうぜ」
「急にどうしたクロウ? お前らしくもない」
「ハイド! もしもだ。もしもだよ? 食事をし、交配もし、個を確立させてあまつさえ歴史すら作り上げているそんな民が居たとしたら、それはNPCなどではなく、もはや生きていると言っていいんじゃないか? いままで、俺が『暗殺』してきた者たちも皆一様に『そう』だった。この世界をゲームと確信している俺達よりも、よほど人間らしい」
「クロウ。考えすぎだ。でかい作戦の前でナーバスになっているだけだ。確かに、この世界は現実と見分けがつかないほどの情報量を持っている。だが現実ではない」
「言い切れるか? ハイド。俺は時々、実は俺たちは催眠にかかっていて、自分たちを『未来人』と思いこんでいる痛いやつなんじゃないかと思うことがあるんだ」
「クロウ。俺の3度めの転生先が『廃棄宇宙』だったって話はしたよな? そこでサリミドの飛行戦艦『モイライ級』を見た。奴らはレベルカンストしたNPCを多数揃えた『廃棄宇宙』のトップランカーで、トリニティってクランを作ってた。この記憶が、俺達の今いる世界がゲームだって証拠になるんじゃないか? おれはこの世界でお前と会えて僥倖だった。同じ過去の記憶を持つお前とあえて、この世界がゲームだと確信が持てたからな」
「……」
「それよりもだ。クロウ。俺は、この『インナーシェル』こそが俺たちの追い求めた世界の中心なんじゃないかと思っている」
「根拠は?」
「創世神話さ」
「創造神を放逐して、大神霊が世界を乗っ取ったっていうアレか?」
「知ってるか? クロウ。その大神霊の名前『ユスラ・ハル』っていうんだぜ?」
「創造神(人類)をゲームの世界に放逐して、世界を乗っ取った大神霊『YSR-HAL』か。たしかに示唆的だ」
「俺は、神に成り代わる方法は、今いる神を倒すことなんかじゃなく、YSR-HALのアバターを探すことなんじゃないかと思っている。もっと言えば、YSR-HALと交渉すれば、願いが叶うようなシステムなんじゃないか?」
「そこなんだよ。ハイド。俺たちはなぜファーメリアに敵意を抱いているんだ? ルナが龍を殺されて異端審問官を憎む。マリアが友達を見殺しにしたことに負い目を感じて異端審問官に逆恨みをする。ここらへんはわからないでもない。だが俺たちやバーナードなんかは、どうだ? なぜ漠然とファーメリアを憎んでいるんだ? レイやテッドのファーメリアを憎む動機もおかしい」
「俺たちが誰かに洗脳されているとでも言うつもりか? 神に成り代わるために、俺たちを手駒として、今いる神を追い落とそうとしている者がいるというつもりか?」
「あるいはそうかもしれない。現に、勇者の中にも、洗脳の力を持つものがいる。他にも洗脳の力を持っているものがいるとしても不思議はない。いずれにせよ、ハイド。警戒は怠らないほうがいい」
「なるほど、注意しておこう」
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時は来た!
異端審問官の頭脳ビリーは、錬金術師として偽金貨の処理でかかりきり、サリミドは帝国と再び戦争を起こしており、サリミド側からの援軍は来ない。軍を出せる召喚の勇者が手のうちにある。ついに自分が神に成り代わり、すべての魔王、勇者を、世界を屈服させる時が来た。
知恵の勇者は意気揚々とファーメル教国を落とすべく、打ち合わせへと向かう!
読んでるぞー。おもしろかった。誤字脱字を見つけた。ここが変だよ。とっとと続き書け等、思われた方は、評価、ブクマ、コメント、レビュー等いただけるとうれしいです。
活動報告に各話制作時に考えていたことなどがありますので、興味のある方はどうぞ。




