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昇格試験(後編)

 道中、林道を歩きながら『戦場の狼』と話をした。

 連携が必要になるなら、お互い知っておいたほうがいいからな。

 ベルは本当に興味なさそうだけど……。


「……それで、莫耶バクヤの親父さんが保証人になっちまっててさ。御用商人に、莫大な借金を押し付けられちまったんだ」

「取り立てが厳しくて、あたしは本当に身体を売るしかないんだって、絶望していたんだ」

「俺たちは思ったね。真の友達なら、こういうときこそ助けてやんねーとって」

「本当に、ありがとうウッキー、ドッシー」


 戦場の狼の紅一点、莫耶バクヤが声をつまらせる。


「でも、『傭兵』になったのは、まずかったよな!」


 ――こいつら、『戦場の狼』は、もともと同じ村出身の幼馴染で、紅一点の女の子(莫耶)の親の借金を返済するために、3人で、とある『傭兵団』の新兵になったらしい。

 そうして、兵士として戦場に駆り出されて、最初の戦で、捨て駒にされたんだそうだ。戦場で囮に使われ、孤立した3人は助け合い、なんとか逃げ延びてハンターになったという。


「本当に危なかったんだ。あのとき莫耶の魔法がなかったら……」

「ウッキーとドッシーがいたから切り抜けられたのよ!」

「ハンター稼業も楽じゃねーけど、4級に上がれば受けられる依頼も増える。俺たちならもう少し稼げるはずなんだ」


 人に歴史あり。

 昔から、努力してるけど、報われないやつを見ると、助けてやりたくなるんだよな。


 なんとか、コイツラを4級ハンターにしてやりたいな。


 折れた木々が、顔にかかる。


 チッ、木が鬱陶しいな。


 俺は列の先頭に立ち、ナタのように剣を振るいながら、林道を抜ける。


 遺跡に着く頃には、『戦場の狼』の面々は、周囲から消えていた。


 いつの間に、はぐれたんだ? いや、待て。さっきまで一緒にいたのだ。はぐれるなら、声ぐらい聞こえそうなものだ。全く気づかなかったぞ。


 目の前の遺跡は一見古ぼけたただの遺跡に見える。だけど、魔力の流れがどうにもおかしい。


 幻影か……?


 見えている古ぼけた遺跡の姿の裏に、魔力で隠蔽された、めちゃくちゃヤバイものを納めた霊廟れいびょうが見える。


 魔力の多さが尋常では無いのだ。

 龍形態のベルよりも多いかも知れない。


 ベルに魔力のお菓子を提供しているうちに、俺の魔力操作スキルは飛躍的に高くなったみたいだ。魔力の流れがよく見えるぞ。


 何が役に立つかわからないもんだな……。


 遺跡の幻影の裏にある霊廟の入口には、恐ろしい美貌の少女がいる。

 こんなに距離があるのに、明らかに美しいとわかる。


 どんだけだよ。


 ボーナーソイルドラゴンの骨は、見当たらないな。霊廟の中か?


 少女は、黒髪で、長い耳、ウエスト後ろから生えた小型のコウモリのようなかわいらしい翼をもち、白いレオタードのような衣装に身を包んでいる。


「私の姿が見えているようですね?」


 視線が合い、声をかけられた。

 声まで美しいぞ。

 

 少女が内包する膨大な魔力が、結界を形作る。


 戦闘態勢ってわけか……。


「射程2000RU。私の『催眠』をレジストしましたか」


「おにいちゃん。下がって。こいつ、かなり強いよ」


 ベルが俺の前に出た。


「引き返してはもらえませんか? 今、この霊廟には、入れられません」

「こっちも仕事なんでね。手ぶらで帰るわけにはいかないんだよ」


「後悔しますよ?」


「目的のものを手に入れたら、すぐに帰る。通してくれないか?」

「お断りします。愛する方のご命令ですから」


 ベルが、有無を言わせず、魔力を圧縮したビームを右手から射出すると、少女は瞬時に上空へと転移した。

 ビームが遺跡を貫通し、大穴が開く!


「おい、ベル。無茶すんな! あんまり遺跡を傷つけるなよ!」

「わかってるよ。おにいちゃん。今のは、派手に遺跡を傷つけないための一撃だし」

「まじかよ!?」


 身体強化魔法、レベル7アクティブを発動。

 少女がものすごい速さで空を飛び回っているのが見えた。

 距離は2km近く離れてるな。8の字に飛行しているようだ。


 ベルが、ブレスを上空へ放つと、白い熱球が、少女へと向かう!


「龍神のブレスですか。雷属性ではない、とはいえ、それを受けたら、ただじゃすみませんね。ならば、私も切り札を使いましょう」


 ――あらゆる事はここから始まる


 ベルのブレスが命中寸前で闇に飲まれ、俺の目の前に現れた!


「歪曲フィールド収束!」


 とっさにベルが俺とブレスの間に割り込むと、ベルの右手が粒子化した。


「ベル!」


 何が起きた?


 正直なところ、ベルにダメージを与えられるヤツなんて、そうそういないと思ってた。


 だけど……。


 戦闘開始から、わずか数秒でコレかよ!?


 ベルが痛みに顔を歪めている。


 待て! 本当に、ベルは避けられなかったのか?


 そうだよ、だって、ベルは光を上回る速さで動くことができる……。

 本来、もらうはずのない一撃なんだ。


 つまり、今の一撃は、俺が反応できない速さだったからこそ、ベルが受けたのだ。


 少女は一瞬で転移すると、俺の目の前に降り立ち、非常に美しい声で――、


「私は、アルシェ。大神霊ユスラハル様の眷属にして、魔王の一柱です。引き返さずば、その男を殺します」


 ――、絶望的な宣告をした。

読んでるぞー。おもしろかった。誤字脱字を見つけた。ここが変だよ。

とっとと続き書け等、思われた方は、評価、ブクマ、コメント、

レビュー等いただけるとうれしいです。


活動報告に各話制作時に考えていたことなどがありますので、

興味のある方はどうぞ。

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