プロローグ(4)コンサートを見に行こう!
いろはさんと別れ、ふうちゃんと一緒に石畳の道を歩いている。
正面からくる二人組のうだつの上がらなそうなおっさんが、ふうちゃんに声をかけてきた。
「巫女様、こんにちは!」
「巫女様、ファンなんです。握手してください」
ふうちゃんは、ひっきりなしに、巫女様、巫女様と声をかけられている。人がどんどん集まってくるようだ。
ふうちゃんって有名人なんだな。
「りんぞーさま。手をつないでもらっていいですか?」
「よし。手をつなごう」
ふうちゃんと手をつなぐと、ふうちゃんが周りから声をかけられる数が露骨に減った。
ちなみに、俺はすれ違う男たちから舌打ちを受けている。『双葉様に手を許されるなんて許せない』とか、『クソが』とか。『ラッキー野郎が』とか、『爆発しろ』とか。
これが美女と野獣の『野獣』になった感覚か。ちくしょう。いままで、普通にモテなかったけど、こんなに批難されたことはなかったぞ。なんだよ、『あんな平凡くんが』って。いっそ、不細工って言えよちくしょう。
通行人は人間が多い。ときおり、獣耳やしっぽを持つ獣人などが見かけられる。
中には、『二足歩行する狼』という見た目の人もいる。異世界っぽさが増えてきたぞ。
「なあ、ふうちゃん。勇者は給料制だって言ってたよね。いたもんはどうなの?」
「いたもんも給料制ですよ。基本給は税金から出ていて、魔物退治時の素材売却益や、コンサートの売上益が、教会運営費分を差し引かれてから、ボーナスとして分配されます」
「公務員みたいなものか。ところで、コンサートって何?」
「多目的のコンサートホールでやっている歌のコンサートです。行ってみますか?」
「おおー! 異世界のコンサートかよ。魔法とか飛び交うのかな?」
「りんぞーさまは、歌をなんだと思ってるんです? と言いたいところですけどある意味あってます」
「あってるんかい」
俺たちは、コンサートホールに向かった。
「はい、チケットだしてー!」
コンサートホールに入ると、スキンヘッドでボディービルダーのようなすごい筋肉をした黒人の大男が、チケットのもぎりをしていた。
「ボス、こんにちは。新しいいたもんのりんぞーさまをお連れしました」
「おお、双葉。コンサートを見に来るなんて珍しいな。俺の名は、ビリー・バーンスタイン。お前達の上司に当たるが、気軽にビリーと呼んでもらって構わんぞ」
「はじめまして。ビリー。俺は楠木麟三。リンゾーと呼んでください」
「ボスは、超能力と錬金術の使い手で、ファーメル教国屈指の凄腕なんですよ」
「おう! こう見えて俺は手先が器用なんだ。アクセサリー作りが趣味なんだぜ」
そういうとビリーは指輪を外し、一瞬で棒状に加工してみせた。
「へぇ~。俺は浮世絵書きが趣味だよ。よろしく、ビリー」
「ほう。刷らないのか? この国には活版印刷の技術はあるぞ」
「趣味だからな。刷って普及させようなんて考えてないぜ?」
「そうか。ようこそコンサートホールへ。中に入りな。リンゾー。歓迎するぜ」
ふうちゃんに手を引かれ、関係者用の席に向かう。コンサートホールは既に満員で、ものすごい熱気で包まれていた。
舞台に、華奢なブロンドの北欧系の少女が現れた。髪型はいわゆる姫カットであり、聖女様といった印象の高貴な雰囲気をまとっている。
ドカーン! と、派手な煙幕が上がり、光が空から降り注いだ。
「ブリジットォーー!!」
ピューピュー吹かれる口笛と、歓声が上がる。
「ブリジットさんは、いたもんの先輩に当たります。歌唱魔法の使い手で、歌声については実際に聞いてもらったほうが早いでしょう。5万人入るホールを満員にできる集客力の持ち主なんですよ。ブリジットさんがいる限り、ボーナスは安泰です!」
「そりゃ、ありがたいなー」
歌が始まると、喧騒がピタリと止んだ。歌声を聴いていると目から涙が溢れてくる。本当にすごかった。
清楚な歌声に、やがて爆発的な情感が込められて、複雑に重なり合う倍音が胸を叩く。歌声が涙腺をこじ開け、涙が溢れ出すのだ。
時間が経つのも忘れて聴き入ってしまった。歌姫って感じだな。
会場の熱気にあてられて、興奮さめやらぬ中、コンサートホールから外に出るところで、ビリーに呼び止められた。
「リンゾー。今夜は、お前達新人の歓迎バーベキュー大会をやろうと思う。俺たち先達は、野菜やドリンクを買って待ってるから、お前達、新人組で獲物を捕まえてきてくれ」
「肉を狩ってこいってことか?」
「有り体に言うとそうなるな。サヤにはもうあったか?」
「教会のいたもん窓口にいた女の人でしょ? 会ったよ」
「サヤに手伝ってもらうといい。狩りは彼女の領分だ」
「おう!」
俺たちは、教会に向かって歩き出した。教会って、でかいんだな。俺が転生したときにいた、大聖堂のてっぺんのドーム付きの塔がここから見えるぞ。
「お昼ご飯に引き続き、晩御飯もただです! わーい」
ふうちゃんが嬉しそうにくるくる回っている。
ふうちゃんって、意外と現金な子なんだなぁ。
「ふうちゃん、同期ってどんな連中かわかる?」
「私は、子供の頃から巫女として教会に入り浸ってましたからね。結構詳しいんですよ。何でも聞いてください!」
ぽふっ、とふうちゃんが自分の胸を叩いた。おおっ、揺れてる。
「ペリー様が時空魔法使いの剣士、フィオさんは土魔法と土木工事のエキスパート。アシュリー様が動物使い。ロバートさんが潜入と破壊工作のエキスパートでスナイパーです」
「4人+俺たちで6人か。結構多いんだね?」
「なんでも、龍神の大半を失ったファーメリア様が、治安維持の代役として、一生懸命探した結果らしいですよ」
ああ、ここで、『邪神が軽くひとなでした』、って言う、いろはさんの話とつながってくるのか。
「そうそう。ふうちゃん。俺は、『事象魔法』使いだよ。ファーメリア様は、もとは龍神が使ってた破格に凄い魔法だって言ってたけど知ってる?」
「『事象魔法』は、本来人間が持てるような魔法じゃありません。亜神霊クラスが使う魔法です。因果律に干渉して魔法の法則を捻じ曲げます」
曲げるポーズを表してるんだろう。ふうちゃんがラ○オ体操の「体を横に曲げる運動」みたいなポーズをとっている。
「魔法の内容は、時間を止める『停止』と、ものを消し飛ばす『崩壊』と、予めかけとくとダメージが無効になる『逆行』だ」
「えげつない力ですね。反則です。チートです」
「えげつないかなぁ? 射程3m、使用時間1日3秒のきっつい制限付きだけどね。ふうちゃんはどんなスキルを持ってるの?」
「私は、4属性魔法と生活魔法に回復魔法、時空魔法と重力魔法ですね。数分なら、空を飛べるんですよ。私」
ふわっと、ふうちゃんが5メートル程上昇し、スイスイ移動してみせる。地上を歩くよりも速く、鳥よりも繊細に空中を舞う。ドレスが絶妙な長さで下からの視線をガードしている。
「なにそれ。空を自由に飛べるとか、人類の夢だぞ。ふうちゃんも大概チートだろ」
「えへへ」
しばらく街を歩いていると、街がいくつかの区画ごとに分かれていることがわかる。
「ふうちゃん。この街ってスラムとかあるの?」
「ないです。ファーメル教国はボランティアが非常に行き届いた国ですから」
「まじで『神様が見てる』もんな。この国」
「向こうは何があるの?」
「……。言わないとダメですか?」
「聞きたいな?」
「ふ、風俗街です……」
「まじか。ちょっと風俗いってくる!」
「だめです!」
通せんぼのポーズだ。かわいいなぁ。
あとで一人のときに行こう。
風俗街の入り口に、ケモミミパブの看板が見えた。
って、ちょっと待て。ケモミミパブってなんだよ? 恐るべし異世界!
教会の受付に着くと、いたもんの仲間とサヤさんが集まっていた。俺とふうちゃんは、軽く自己紹介を済ませた。
「私は、ペリー・ペリシモ。いたもんの新人で、身長177cm。時空魔法使いです。生前は大学生で、フェンシングの世界大会に出たことがあります。自由と銃の国出身で、嫌いなものは退屈。好きな言葉は正義。動物は猫が好きです」
「私はフィオラ。同じくいたもんの新人で、17歳です。フィオって呼んでください。ペリーの付き人として呼ばれてきました。土魔法と鍛冶が得意です。剣の研磨から、トーチカ作製まで、いろいろできます」
ペリーが男性転生者で、フィオラが女性付き人か。
「付き人って、異性がなるっていう、決まりでもあるのかな?」
ふうちゃんに聞いてみる。
「ファーメリア様が、相性の合う異性の信徒に、『付き人にならないか?』って声をかけてるんですよ。付き人は、基本それにオーケーした人がなるので、そのまま転生者の方と、くっついちゃうパターンも多いんです」
ふうちゃんが、頬を赤らめながらそう言った。まじかよ。俺、ふうちゃんと相性いいのか。それは、ちょっとうれしいな。
サヤさんが言うには、あと2人の新人の、アシュリーとロバートは、調味料を買いに行ってるらしい。
狩りには、サヤさんがついてきてくれるそうだ。
「さて、そのまえにまず、スキルオーブで、皆さんのスキルを確認してみましょうか」
サヤさんが、受付の棚から、水晶のような玉を取り出した。
「ここに手をかざしてみてください」
スキルオーブに手をかざすと、壁面に文字が浮かんできたぞ。
――、システム……承認。発行者 女神ファーメリア。
インサーキット・シミュレーター稼働中……、――
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
楠木麟三 LV3
異世界探訪者 LV1
事象魔法 LV1
格闘LV1
所有スキル
能力名:ブレイクポイント
『崩壊』・『逆行』・『停止』(事象魔法)(リキャストタイム24時間)
異世界転移(リキャストタイム21日)
支配領域3RU
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
レベル3か。普通、最初は1とかじゃないのかな?
「レベルってなんです?」
「レベルは、スキルをどれだけ使えるかの目安ですね。スキルの習熟度ごとにスキルレベルがあって、その合計がその人のレベルになります」
「一概に強さを表してるわけじゃないってこと?」
「どちらかというと、できることの種類と、できることの習熟度を表す指標ですね。適性検査や、就職口探しに使われています。信仰する神様が発行するお墨付きのようなものです」
「ふーん。ようは、数字の変わる国家資格か」
「ちなみにレベル20でベテラン騎士級。レベル30で英雄級って呼ばれます」
「レベル40以上はいないの?」
「人間ではいませんね。バンパイアとかドラゴンとか、そういう一線級の化物は、40以上も珍しくありません。つまり1対1で戦ったらダメってことです」
「なるほど」
「リンゾー君は『格闘』スキル持ちなので、素手での戦闘に大幅なプラス補正がかかります。ふむふむ。『崩壊』というやばい破壊魔法に、『逆行』という不死者じみた回復魔法。それから『停止』という時空魔法もどきが使えるんですね。えげつないです」
わーい、サヤさん公認のえげつなさらしいぞ!
もう、「えげつない男、麟三」でいいや。
「RUっていうのは?」
「RUは、レンジユニットの略で、使用者を中心点とした半球状の概念です。支配領域3RUは、ざっくりいうと、前後左右上に対し、3m24cmの範囲で魔法の効果が及ぶっていう意味です」
「ふーん」
「残念ながら、リンゾー君の射程距離は人並み以下ですね。20RUが人並みサイズなので、リンゾー君のは、ポークビ○ツサイズです」
「ちょっと、サヤさん、言い方に毒あるんですけど! あと俺、そんなにちっちゃくないからね」
一体、何が翻訳されるとポークビ○ツになるんだよ!
俺と同様に、他のみんなが手をかざす。だいたいみんな、ふうちゃんから聞いたとおりの能力だった。全員のスキル構成をざっくり把握したあと、俺、ふうちゃん、ペリー、フィオラ、サヤさんの5人で、狩りに行くことになった。サヤさんのレベルが高くて驚いたよ。
「サヤさん。一体何を狩りに行くんですか?」
「コカトリスです。3体は狩りましょう!」
サヤさんが、さらっと伝説級の魔物の名前をだしてきた。
新人で狩りに行くってことは、弱いのか? 意外と。
よーし、強くなって、魔物から街の人達を守るぜ。このえげつない力で!
「コカトリスは、鶏と蛇をかけ合わせた姿通りの味です。肉はあっさりとして、万人に受ける味ですよ」
知ってます。っていうか、それ、昼も食べたんだが!
ふうちゃんもげんなりしてるよ。
読んでるぞー。おもしろかった。誤字脱字を見つけた。ここが変だよ。
とっとと続き書け等、思われた方は、評価、ブクマ、コメント、
レビュー等いただけるとうれしいです。
活動報告に各話制作時に考えていたことなどがありますので、
興味のある方はどうぞ。