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強者のたまごも目を覚ます

「あっ、ビリー? おれ、麟三だけど。近々大金が、教会の口座に入るからよろしく」


「リンゾーか? その物言い。かなりの大物をハントしたか。調子は良さそうだな?」

「あれ? この声、マクベス教官か? ビリーはいないの?」


「今朝、ファーメル教国内で、大量の偽金貨が見つかってな。国中の錬金術師が総出で、金貨の出処を調べているんだ」

「まじかよ。ハントの報酬、金の延べ棒で送金したほうがいいかな?」

「焼け石に水だ。普通で構わない」

「偽物が見つかったのは、白金貨とかじゃなく、普通の金貨なの?」

「そうだ。そもそも白金貨は流通量が少ないし、流動性がない。白金貨で買い物をする者自体稀なのだ。そう、白金貨を白昼堂々と財布に入れて持ち歩くようなお気楽小僧は、お前ぐらいのものだ」

「なんか、急にディスられた?! まあ、いいや。教官は今暇なのか?」

「そんなわけがなかろう。今まさに、小娘の性根を叩き直してやっていたところだ」

「刑務官の仕事中ってわけか」

「そういうわけだ。入金の件は、たしかに俺がビリーに伝えておこう。切るぞ!」

「あ、ちょ! 教官!?」


 通話が終了したのでしょう。マクベス教官がテレパスオーブを切り、こっちに向かって歩いてきました。


 さあ、最後の内省です。

 正座した私は、目を閉じて雑念を払い、心を落ち着けて自分の声に耳を傾けます。


 自分を深く知ることが、真の反省につながるのです。


 ――生前。私、こと早川春奈には、生きていて楽しいと思えるようなことがありませんでした。髪の毛の色が栗色だ、というだけで、ウサギフンというあだ名を付けられたのです。あだ名を付けた子は、天然パーマのチリチリ頭でしたから、私のサラサラの髪が羨ましかったのかも知れません。あるいは、私がことあるにつけ、髪質を褒められているのが気に食わなかったのかも知れません。かく、きっかけは、些細なことでした。


 そして……、私があだ名を付けられたその日から、友達は私と距離を置くようになりました――


 一ヶ月もたつと、孤立する機会が多くなってきました。


 体育の授業で孤立する。二人一組で孤立する。昼食時に孤立する。部活でも孤立する。


 子供の頃、大好きだった明るい色の自分の髪が大嫌いになったのは、この頃です。


 私は、私をこんな髪の色に生んだ両親を呪った。そう、呪ってしまったのです。私を抱きしめてくれる、父を、そして母を、詰って(なじって)拒絶しました。そうして、両親とも話すことがなくなりました。


 家でも学校でも、誰とも言葉をかわさない日々が続きます……。


 ――、ウサギフンだ、臭い汚い、と罵られトイレに入るたびに水をかけられる日々。

 下着が透けて、男子の好奇の視線にさらされました。


 みんなに無視され、頭を机に押し付けられて、


 無理やり髪を切られ、教科書をゴミ箱に捨てられて、


 ついには押さえつけられて、口の中に虫を詰め込まれて。


 うつむいて人目につかないように、コソコソビクビク過ごす日々。


 机に花を飾られたこともありました。便器の中に体操着を落とされたこともありました。あげく、男子の目の前で裸にさせられました。


 先生に訴えても、「みんなと打ち解けられないお前が悪い」と突き放されて……。

 両親も、もう、私の言うことなど聞いてはくれませんでした。


 朝、ニュースで女子生徒が踏切に飛び込んで自殺したというニュースを目にしたことがありますか?


 その惨めな生徒が私です。


 学校から、社会から、私を傷つける全てから、逃げ出したかったのです。


 転生をするとき、私は女神ファーメリア様に、勇者として働く対価として、姿形を全くの別人に変えてもらいました。過去の自分には、未練なんてありません。親に見捨てられ、教師にも見捨てられた、惨めな本当の自分を捨て、生まれ変わりたかったのです。


 私が書いていた小説の中の主人公。かっこいい女性騎士、ルナ・ルミエルのように。


 いじめられ、自殺した、早川春奈はもういません。


 私は、みんなに好かれるように、とルナ・ルミエルのように振る舞いました。


 自分が心に決めたことを曲げない。正義とは言えないかも知れない。しかし芯のある心優しいヒーローのように……。


 だけど、心の根っこの部分はそう簡単には変えられず、他人と打ち解けるのは本当に難しくて、本当に私が心を開けたのは、恥ずかしい話だけれど、物言わぬ龍にだけでした。


 龍騎の勇者と皆からいわれ、龍の庇護者を気取っていました。


 龍とともに生きることが生きがいだと思っていました。


 世界最強の龍族を庇護するもの。かっこいいじゃないですか?


 世間の評価にあぐらをかいて、得意になっていたのかもしれません。


『いたもん』が赤龍を殺し、祝勝会をやっていると聞いて激昂しました。心の底から怒りが湧いてきました。冷めきった私の感情が、押し殺してきた感情が、沸騰するように湧いてきました。


 他の勇者たちが、『いたもん』を倒し、ファーメル教国を転覆する仲間を集めていると聞き、特に考えることもなく、感情のままに彼らの仲間に加わりました。


 感情に押し流されるように行動しました。


 これは、今考えれば、決定的な誤りでした。


 私を地獄に落とし、そしてすくい上げてくれた、『いたもん』の彼と対峙したとき、彼は私を『無責任な子供』といいました。


 私がこんな性格になったのは、私をいじめた奴らのせいだ、私のせいじゃない。そう反論したかったのですが……。


 反論はできなかった。この言い訳をすれば、自分が無責任な子供だと認めることになるから。


 ――心の中で、彼の言うことを、正しいと思ってしまったから。


 ルナ・ルミエルは、自分が心に決めたことは曲げない。私もそうありたい。


 これまで私は自分の足で歩いていなかった。流されるまま楽な方楽な方へ歩いてきた。そのツケを払う時が来たということでしょう。


 私は、憎いと思っていた『いたもん』に命を救われて、仲間と思っていた勇者や飛龍に捨てられました。


 そう。私は勇者たちにも捨てられました。


『飛龍に国を襲わせた罪』を着せられたのです。


 もちろん私は、飛龍をけしかけるなんて恐ろしい真似はしません。でも、法廷の人たちに信じてもらうことができなかった。十分な説得ができなかった。いい年をして、こんな感情の赴くままに行動する子供を、誰が信じるというのでしょう。龍と心を通わせる龍騎の勇者が現場にいて、現に龍が暴走している。


 捜査の結果は、赤、つまり『犯罪者であることは明らか』というわけです。最高刑を求める要望書とともに、私はファーメル教国へ移送されました。


 まずいことになりました。


 コルベストで事件が完結すれば、死刑はない。ファーメル教国で捜査が行われば、死刑にはならない。しかし、コルベストで事件が起こり、ファーメル教国に引き渡された場合、死刑がありうるのです。


 唯一の頼りは、犯罪を公平に裁く、プロファイルオーブでしたが、プロファイルオーブは、ファーメル教国内での犯罪にしか適用されないという事実を刑務官から聞いて、私は絶望しました。コルベストで起こったこの事件は、コルベストで捜査され、その捜査結果に基づき、ファーメル教国で裁かれるのです。ファーメル教国で再捜査が行われることはないでしょう。そんなことをすれば、コルベストのメンツが丸つぶれです。この件は、『勇者の起こした犯罪』ということで、周辺国の注目を集めているのです。そう、国のメンツのために、私は死刑になるのです。


 心底、私は絶望しました。


 何も信じられなくなった私に、手を差し伸べてくれたのは、やっぱり彼でした。


 現場を収めたものとして、彼は、私の無実を、女神様に誓って証言してくれたのです。『龍の暴走について、ルナ・ルミエルは無実である』と。世間の批判を恐れずに……。


 結果、プロファイルオーブを使っての再捜査が行われ、私は社会奉仕刑に処されました。


「なぜ、私によくしてくれるんですか?」と、彼に訪ねたら、「お前はやり直せる。そうだろ?」と彼は言いました。


 彼――楠木麟三は、自分が救うと決めた私を見捨てなかった。自分が決めたことを曲げなかったのです。


 ああ、なんということでしょう。彼は、私にできなかったことを、私が憧れていたことを、彼はいとも簡単にしていました。


 本当に憎い人です。


「ルナ。お前の刑期は終わりだが、本当にここに残って『いたもん』を目指すのか?」


 教官の声に目を開きます。内省の時間は終わりました。私は十分変わることができたでしょうか?


 私は心に決めたとおりに、マクベス教官に答えます。


「ええ。私が『いたもん』にいれば、今後は龍と諍いをおこさずにすむでしょう? 自分で言うのもおこがましいですが、私には利用価値があると考えます。それに、まだ、教官のきれいな顔に、一発入れてませんから」


「いい顔をするようになったな。ルナ。ビリーに連絡を取るついでに、おまえの『いたもん』入りを推挙してやろう。しかし、『いたもん』の前衛志望なら、身体強化魔法は、LV5アクティブぐらいは使えないと話にならんぞ」

「すぐに習得してみせますよ! 教官! 雷霆ッ!」


 ……ドォンッ!!


 雷が教官の目の前に落ちました。


 ふふ。教官の驚くお顔。初めて見ました。びっくりした表情は、結構かわいいじゃないですか?


「……もう、レベル30に到達したのか?」

「ボランティアと内省の時間以外は暇なのです。そりゃあ、自己研鑽に励みますとも!」


 そう、ただでさえ私は、麟三さんより相当遅れているんですから……。


 麟三さん。いつか、あなたを振り向かせてみせます。


 覚悟してくださいね? 私が目指す、ルナ・ルミエルは誇り高く大人で、周りを惹きつける魅力溢れる人物なんですから。

読んでるぞー。おもしろかった。誤字脱字を見つけた。ここが変だよ。

とっとと続き書け等、思われた方は、評価、ブクマ、コメント、

レビュー等いただけるとうれしいです。


活動報告に各話製作時に考えていたことなどがありますので、

興味のある方はどうぞ。

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