エル・ドラド始動!
通りすがりの人に場所を聞きつつ、入り口へと向かう。
目の前に、剣とライフルとジョッキのマークの看板が見えた。
お約束だねぇ。やっぱり、ギルドとパブはくっついてるのか?
扉を開け、2階建ての建物の中に入る。室内は小奇麗で、明るかった!
天井が高いって素晴らしいな!
ぐるっと見渡すと、正面に受付と、奥に掲示板。そして厨房が見える。
手前のテーブルでは、ハンター達が昼間からエールをあおっている。
テーブルの上には、揚げた巨大な骨付き肉と、サラダ。
ウエイトレスが飲み物を運んでくる。
和気あいあいとした雰囲気! ここで食うメシは、うまそうだ!
キョロキョロしていると、ふと、観察するような視線が俺たちにのもとに集まっているのを感じた。『ハンター登録希望者か、依頼者か』を見極めようって感じか……。
ジロジロ見てくるなら、俺だって見るぜ?
手前のパーティーは、男2人女1人の男女混合パーティーで、身体強化魔法レベル1パッシブを発動している。見た感じ、駆け出しハンターってところかな。一般人との力の違いに酔いしれているのか、実力以上に自信が見える。
少し奥のパーティーが、レベル2パッシブを発動している少女だけの4人パーティー、同じく彼女らの対面に座っているのが、レベル2の男女混合6人組パーティー。
一番奥でテーブルに腰を掛け、煙を燻らせている飄々とした雰囲気のソロのおっさんは、レベル4パッシブを発動している。いかにも、ベテランって感じだ。このギルドの顔役ってところかな?
パッシブ(自動発動)タイプの身体強化魔法は、人間同士の強さを見るときには、ある程度指標になる。なぜなら、身体強化は弱者である人間が、戦いの場に身を置く際の基本だからだ。また、上位のアクティブの身体強化魔法は、威圧に使える。夜光狼ぐらいなら、レベル5アクティブ以上があれば、追い払えたりするのだ。
新人つぶしのような連中に絡まれるのも面倒なので、俺は、身体強化魔法、レベル7アクティブを発動することにした。『一級ハンターでも使用者がいない』というレベルの、人類最強クラスのバフ魔法だ。
身体強化魔法レベル7アクティブ、発動!
一番奥の飄々としたおっさんが、慌てて俺から目をそらした。
少し奥のパーティーは、全員テーブルに突っ伏している。
目を合わせられないだろう? 人の形をしたオーガと対面してるようなものだからな。
ふふふ。怖かろう?
「おい、そこのお嬢ちゃん。俺たち『戦場の狼』がハンターとしての心得ってやつを、手取り足取り教えてやるぜ。こっち来て酌せよ。ぎゃはははは!」
うーん。レベル7の威光も、酔っぱらいには効かないか。あるいは、レベル差がありすぎて、こっちの力が、わかってないってことかな?
声をかけてきた、ゴリラのような男以外の『戦場』の2人もニヤニヤしている。
ベルの方をちらっと見たが、ベルは俺の方を見てニコニコしていた。今のところは、気にしてないか……。俺が魔法を発動したものだから、魔力弾をくれるものと勘違いしたのかも知れない。
悪いな、ベル。こんなに人の多いところで、魔力弾をムシャムシャされるわけにはいかないのだ。『魔力を貪る』とか、完全に人外の行為だからな。
「新進気鋭の負け無しハンター、『戦場の狼』のウッキー様を無視かよ! 女ぁ!」
『戦場』のゴリラ男が喚いている。
「ぎゃはは。振られてやんの!」
「ぶっ殺すぞ、ドッシー!」
「おおっ! やんのか、ウッキー!」
「ちょっと、やめなよあんたたち!」
『戦場のなんちゃら』が、パーティー内で揉めている今のうちに、ハンター登録をしてしまおう。
俺たちは受付に向かった。
「ハンター登録をお願いします!」
受付の大変恰幅のいいおばちゃ……、お姉さんに登録料を払い、俺とベルはハンターになった。
一応、説明も受けたよ。
『ハンターには1級から5級まであって、駆け出しが5級。依頼は基本的にレベルにそったものしか受けられない。ハンターは、一般人に手を出してはいけない』とかそんな感じ。実は、1級のうえに特級っていうのがあることも聞いた。知ってたけどな。
ハンター登録が済んだところで、『ぐわしっ』と、後ろから肩を掴まれた。
さっきの『戦場』さんだ。
俺たちが一般人の間は、ハンターのルールで手が出せなかったけど、ハンター登録の終わった今なら、手出しできるってことだろうな。
いや、索敵の射程、3RUに入る前から、もちろん気づいてたし、避けようと思えば、避けれたんだけどね、って……あれ? 掴まれてない?!
みると、『戦場』さんの右手の指5本が、ぐにゃぐにゃにへし折れていた。
「おぎゃぁあああああ!! お……、俺の手がぁあああ!」
ベルが、ゴ○ブリホイホイにかかったゴ○ブリを見るような、冷たい目で『戦場』さんを見ている。
俺の肩を掴む力を、数十倍に引き上げて反射したらしい。
神気こそ出してはいないが、ベルからは、想像を絶するような冷たい気配が漂っている。
やべぇ。ギルドごと消し飛ばしかねない雰囲気だ。頼むから、いきなりブレスとか吐くなよ? ベルは、気が短いんだよな。
ベルが、スーッと息を吸い込み、口を開ける!
もう、なりふり構っちゃいられない! 俺は即座に『大福』魔力弾を作り、ベルの口に突っ込んだ。
「おい! この中に、回復魔法を使えるやついるよな?」
俺は、ギルドのテーブルに付いているパーティーに声をかけた。
『戦場の狼』の2人が首を振る。
見渡すが、みんな顔を伏せていて、返事がない。
「ハンターってのは、そんなに薄情なものなのか? 怪我したこいつを治してやろうってやつはいないのか? もちろん無料とは言わねぇ! これは依頼だ!」
おずおずと、女性4人組パーティーのおさげの子が手を上げた。
「治療師です。ヒールプラスが使えます!」
「たのむ。こいつの手を直してやってくれ」
おさげの子に、金貨を渡す。
これから、同じギルドの仲間になるんだ。遺恨は残したくないからな。
「こんなに……、いいんですか?」
「正当な報酬だよ。うけとってくれ」
そんなやり取りをしていると、ギルド職員と衛兵が、血相を変えて飛んできて、俺とベルを取り囲んだ。
ベルは、全く気にすることなく魔力弾を食べているが……。
どうしよう……?
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
~帝都・ギルドマスター視点~
ドタドタとやかましい音が聞こえてくる。
この部屋の厚い壁を通り抜けるほどに外の喧騒はひどい。
なにかトラブルでも発生したのか?
気になって、扉に近寄ると、誰かが階段を駆け上がってくるような足音が聞こえた。
しかし、階段を走ってくるとは何事か!?
扉が、けたたましくノックされる。
私は護衛の一人に、扉を開けるよう促した。
……、するとどうだ! ギルド受付を仕切る主任者が、血相を変えて飛び込んできたじゃないか!
「ギルマス! 大変です! 登録したての新人が、『戦場の狼』のウッキーの指を一瞬で粉々に砕きました! 新人は、魔力を食べる少女を連れており、強力な召喚術師の可能性があります!」
「なんだって!?」
寝耳に水だ!
『戦場の狼』のウッキー。酒癖の悪さなど、問題がある男ではあるが、腕は確かだ。今の所、依頼達成率は100%。そろそろ4級にあがろうかという実力で、5級ハンターの中では間違いなくトップのはず。
それを、新人が簡単にあしらうというのか?
そして、召喚術師だと? 魔力を食べる少女を連れているだと?
もし、召喚術師なら、連れている少女は、あの噂に聞く、ファーメル教国の聖女ブリジットの精霊のような、レベル60級かもしれない。いや、もしかしたら、魔力を食べる少女を連れているという新人も、あの聖女ブリジットに匹敵するような逸材かも知れない!
何たる僥倖! なんという拾い物か! 彼らこそ、私が、グランドギルドマスターに昇り詰めるための、ラストピースに違いない!
なんとしても、支配下に置きたい!! いや、おいてみせる! この宝石を逃してたまるか! まずは彼らに地位を与えて懐柔し、抱え込もう!
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
~帝都ギルドマスターの部屋にて~
ああ、頭痛い。
めっちゃ、大事になってしまった。魔力を食べる生き物は精霊。人型の精霊は大精霊以上の大物か、あるいはレベル60以上の高レベル。そんなわけで、『ベルが恐ろしい存在だ』、という疑惑をかけられてしまったのだ。
そうだね、疑惑じゃないね。大体合ってる。ベルは大精霊どころか、龍神だけれども……。
俺たちは、ギルマス部屋に連行されてしまった。
いや、どっちかというと、連行というよりは、客人扱いみたいだな。お菓子と紅茶っぽい飲み物が出てきたぞ。
ベルは、それらに手を付けないけれど、興味深そうに眺めている。
ギルマス部屋は、なかなかに豪華だった。磨き抜かれた木製の机に、趣味の良い置物。ぎっしり本の詰まった書架。毛足の長い絨毯。そして、印象派のような絵画。暖色系の明かり。
落ち着く雰囲気だなー。周りにギルド職員や衛兵がいなければ、だけど……。
「ワケを聞こうか?」
目の前のソファに腰を下ろし、足を組んで、ギルドマスターは、開口一番そういった。
年の頃は30ぐらい。ややぽっちゃり体型。見た目に反し、低くて渋い声だ。眼光は鋭いが優しそうな顔をしている。少し痩せればモテそうだ。
「ワケ? 新人つぶしに絡まれたから、やむをえず対処しただけだぜ?」
プレゼンのように大げさな手振りを交え、なるべく大したことでもないように、言ってみた。
「諍いのことは、どうでもいいさ。私が聞いているのは、そっちの少女のことだ。その少女は何者だ?」
「何者って、俺の妹分だけど?」
「私は『鑑定』スキル持ちだぞ。その少女、魔力ゼロじゃないか。魔力ゼロの人間なんて存在しない。その子の隠形は完璧すぎる。私は、その子が、力ある精霊じゃないかと疑っている」
「ハンターのスキルを詮索するのは、マナー違反じゃないのか?」
語気を強め、強気に出てみることにした。
「それを言われると弱いが、こちらの事情も察してほしい。魔力を食べる人間なんて聞いたことがないんだ」
「妹は魔力欠乏症でね。ときどき魔力を摂取しないと死んじまうんだよ」
「……、魔力を食べるのは精霊族の特徴だろう?」
これ以上、ごまかせないか?
「……、はっきりいうぞ。私はその少女は、レベル60以上の上級精霊なんじゃないかと睨んでいる」
上級精霊? 大ハズレだよ、ギルマス。そんな、レミンのような話せばわかるような安全な生き物じゃないんだ。ベルは。
「もしそうだったら、どうだって言うんだ?」
「難易度が高く、報酬も悪くはないが、誰も受けようとしない依頼があってね? それを受けてもらおうと思ったんだ。もし受けて成功した暁には、私の権力で、君たちを3級ハンター認定してもいい」
一気に3級になれるのか!! それは凄いメリットだ! ぜひとも、受けたいぞ!
「依頼内容を聞かせてもらってもいいか?」
「だめだ! ただの5級ハンターに任せられる仕事じゃない。その子を上級精霊と認めるなら正式に依頼しよう」
やっぱり、そうくるよな……。ちょっと、カマかけてみるか?
「当ててやる。依頼内容は、ドブ沼のヒドラ退治だろう。違うか? ヒドラを倒すあてならある。俺はハンター登録したら、まっ先にその依頼を受けたいと思ってたんだ。合ってたら、依頼を俺達に回してくれないか?」
「驚いたな。ヒドラを倒すあてがあるときたか。君も只者じゃないのか?」
よし!!
「只者が、この子の『兄』をやってると思うか?」
「違いない」
ギルマスが手を差し出してきた。
ギルマスと固い握手をする。
「君たちについては、深く詮索はしないことにしよう。ギルドは有能な人間を求めている。依頼はドブ沼のヒドラ退治。成功した暁には、ギルドマスター、パリス・パンダモンの名にかけて、君たちを3級ハンター認定することを誓おう!」
「その依頼、引き受けたぜ。ときに、ギルマスさん。もしかして、近日サリミド方面から帝都に戻ってくる予定のパンダモン商会のパンダモンさんってギルマスさんの関係者か?」
「私の兄だが? なぜ君がそのことを知っている? 兄は今頃、馬車の中のはず……」
「俺のことは、パンダモンさんに聞けばわかるよ」
「あの兄が家名を名乗るとは、本当に君は只者じゃないらしい。君の名と君たちのパーティー名を聞かせてくれ。私の記憶に刻み込んでおく」
「俺の名はリンゾー、こいつはベル。そして、パーティー名は『エル・ドラド』だ!」
俺たちは、依頼の詳細が書かれた紙をもらい、ギルマスの部屋をあとにした。
読んでるぞー。おもしろかった。誤字脱字を見つけた。ここが変だよ。
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レビュー等いただけるとうれしいです。
活動報告に各話制作時に考えていたことなどがありますので、
興味のある方はどうぞ。




