帝都についた!
「おにいちゃん、ついたよ?」
ベルが、上目遣いで俺を見ている。
着いた?
周辺を見渡してみる……。
「えっ? 景色が変わってる!?」
ベルと手をつないだら、次の瞬間、帝都にいた。
これがワープゲートか。
旅のありがたみとか、景色を見るとか、なんにもないなこれ。
帝都の様子は、『巨大な壁』に覆われているせいで、わからない。
壁の工事だけで、とてつもないカネが動いてそうだ。
銃を持った衛兵が、門の左右に2人ずつ、合計4人立っており、列には5人の男女が並んでいる。
あそこに並べば、いいのかな?
列にならんで検問している兵士から説明を受け、俺たちは帝都に入った。
帝都の街は、『下級市民街』と『上級市民街』と『貴族街』に分かれており、俺たちは『下級市民街』にしか、立ち入りが認められないらしい。ハンターギルドや商人ギルドは『下級市民街』にあるそうだ。ちなみに各街区を隔てているのは、19mの高さがあり、穴の開かない金属で作られているという、通称『切り札の壁』だ。噂の帝都のスーパーモデルは、上級市民街にいかないとお目にかかれないらしい。
ガッカリだよ!
しかし、なんだろう、この違和感。検問の兵士が、ベルをスルーしていた。
従魔か否かとか、出身地とか、いろいろ聞かれると思ったのに、完全にスルーだったのだ。
裏道も通ったが、ベルみたいな美少女を連れていれば『お約束』が発生しそうだというのに、それもない。
「なぁ、ベル。おまえ、なんか街の人達にスルーされてない?」
「それは、光の進む方向を変えて、私の姿を見えなくしてるからだよ。おにいちゃん」
「光学迷彩かな」
「ちなみに風の方向も変えてるし、体温も気温と合わせてるし、魔力の方向も変えてるから、獣にも、感知魔法にも引っかからないよ」
引きこもりに便利そうだな。
「なんか失礼なことを考えてない?」
「ないよ」
「私、とっても空気読んだよ? おにいちゃんが『街に龍神が入るとパニックになる』っていうから、パニックにならない方法を考えたんだよ。そのことについて、おにいちゃんはもっともっと私に感謝するべきだし、お礼につまらないものというか、ほんとにつまらなかったら怒るけど、お供えもの的なのをくれてもいいんじゃないのかな?」
「はいはい。しゃーねーな」
「なんか、おざなりだね?」
集中!
「中はずっしり、甘々で、外は、やわやわもっちもち、『大福』魔力弾、生成! ヘイ、お待ち!」
「わー。これが新作なんだね! 大福って名前なの? 縁起が良くていいね。……、あま~い!」
さあ、ベルが『大福』魔力弾を食べてる間に仕事を済ませちまおう。
テレパスオーブを懐から取り出した。
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
「もしもし。ふうちゃん? いま帝都についたよ」
「りんぞーさま。予定よりずいぶん早いですね?」
「実は途中で、瞬間移動できる従魔を拾ったんだよ」
「なるほど。瞬間移動ですか」
ん? 従魔を拾ったことに追求がない? 俺が獣魔を拾ったことを知っているのか?
「ふうちゃんは、今どこにいるの?」
「いろはさんのところです」
「じゃあ安心か。特に変わったことはないかな?」
「実はカレン様からお仕事の依頼を受けてるんですが、あとで手伝っていただけますか?」
「手伝うのはOKだけど、カレン様って誰?」
「邪神様です(小声)」
「いきなり恐ろしくなったんだけど、依頼内容、大丈夫?」
「カレン様が問題ないというので大丈夫です」
「そういうものなのか?」
「前報酬で、私には、『中級魔法までしか使えない制限の解除』と、りんぞーさまには、『強力な従魔をつけた』っていってました」
依頼はまあいいとして、どういうことだ? ベルとの出会いは邪神が手を引いてたってことか?
「……」
「りんぞーさま?」
「ごめん。ふうちゃん。ちょっと外すね?」
「おい、ベル。邪神様から、なにか命令受けてたりする?」
「むぐむぐ、……しないよ?」
「邪神様とあったことは?」
「ないよ」
「ごめん。ふうちゃん。えーと、カレン様がくれたのは、ベルとは別の従魔ってことかな? あ、ベルっていうのは道中で拾った龍神なんだけども……」
チラッとベルの方を見てみるが、特に不敬を気にしている様子はない。
何かを食べさせておけば、おとなしいんだな。
「龍神……、ベル? もしかして、ベルティアナ様ですか? すごい方を従魔にしましたね。それなら、ベル様がカレン様のいうところの従魔だと思います。カレン様が『強力』といわれるような存在は多くありませんから」
「でもな? ベルは、命令受けてないってよ?」
「カレン様のお力は、行使されても、カレン様に教えてもらわない限り、気づけないんですよ」
……、まじかよ?
「聞いた限り、行動とか運命とかを支配しちゃうような能力のようだけど、そんな恐ろしい力を持ってる神様がなんで俺たちに依頼なんてするのさ」
「カレン様はあまり力を使わずに、普通に学校に行ったりして友達と過ごしたいんだそうです」
「ずいぶん俗っぽい神様なんだな」
「ちなみに、カレン様は私がいままで見た中で一番の美少女です。それはもう、とんでもない美少女ですよ」
「謹んでお手伝いさせていただきます! ありがたや-!」
「りんぞーさま! ファーメリア様があとでお話があるそうです」
しょうがないじゃん。俺は美人には弱いんだよ!
通話を終え、ベルを見るとまだ魔力弾を食べている。
ゆっくり味わっているらしく、にへーっと頬が緩んでいる。
しまりのない顔をしちゃってまぁ~。かわいいけれども……。
ベルを見てたら、腹が減ってきたな。屋台のものでもつまむか。
目の前の屋台に向かった。
えーと、メニューは、……。
ででんっ!!
『ドブ沼エビの串焼き。ドブ沼魚の串焼き(売り切れ)。ドブ沼亀の串焼き(売り切れ)』
ドブ沼って、なんだよ……。
どれも、まずそうだな、おい!
いーや、ここはチャレンジだ。先入観なしでいくぜ。
「おやじさん! ドブ沼エビの串焼き一つ!」
「あいよ! 賎貨5枚だ」
チャリーン!
賎貨をテーブルにおいた。
おやじさんから手渡されたドブ沼エビは、名前に反し、うまそうだ。
さっそく、頭からまるかじりだ!
おおー。カシュカシュしてる。ちゃんとエビ味だ。ちょっと泥臭いけど、そこまで悪くないな。
おやじさんを見ると、ひどく沈んだ顔をしてる。
「おやじさん。浮かない顔だけど、どうかしたのか?」
「おお、聞いてくれるか、兄ちゃん? おれは見ての通り、ドブ沼の魚とかを捕まえて生計を立ててるんだけどな。ああ、ドブ沼ってのは、ここらで一般人が安心して漁ができる唯一の場所だ。ドブ沼には、強い魔物が全然寄り付かないんだ」
「へぇ」
「おれたち下級市民は、ドブ沼の恩恵でなんとか生きていたんだ。それが、お偉い上級市民様が、『ペットとして飼ってたヒドラに飽きて、ドブ沼に捨てちまった』もんで、漁ができなくなっちまったんだ」
「人を集めて、捨てた上級市民に抗議とかしないの?」
「そんなことをしたら反逆罪で縛り首だよ。下級市民は上級市民様には逆らえないのさ」
「世知辛いなー。じゃあ、ハンターにヒドラの討伐依頼とかしないのか? 時間が経てば経つほど沼の生き物が、いなくなるんじゃないか?」
「もちろん、ハンターに依頼はしてるよ。有志を募って資金を集め、ハンター協会に持っていったさ。でも、誰も受けちゃくれない。ヒドラと戦うリスク、ドブ沼という立地で、誰も行きたがらないんだ」
「まじかよ。誰かが依頼を受けてくれるといいな」
ハンターギルドに着いたら依頼を見てみるか。
「ごちそうさん、おやじさん。ドブ沼エビ、悪くなかったぜ!」
「そこは、兄ちゃん。うまかったっていってくれよ!」
何かを押し殺したようにニヤッと笑うおやじさん。
胸の内を話したことで気が楽になったのか、わずかに表情に明るさが見えた。
屋台のおっちゃんと別れ、ハンターギルドの前にやってきた! さあ、いよいよハンター登録だ!
読んでるぞー。おもしろかった。誤字脱字を見つけた。ここが変だよ。
とっとと続き書け等、思われた方は、評価、ブクマ、コメント、
レビュー等いただけるとうれしいです。
活動報告に各話制作時に考えていたことなどがありますので、
興味のある方はどうぞ。




