帝都へと、最短距離だ! ハリー! ハリー! ハリー!
ふうちゃんのバイトについて、俺はとんでもない誤解をしていたことに気がついた。
ふうちゃんは、教会の運営費を稼ぐために、オフの今、バイトをしているのだ。
自分のお小遣いを稼いでるわけではなかった。
「もしや、ふうちゃんのバイトの手伝いをさせられてるのでは?」、とか邪推してる場合じゃないよな。いいじゃん。お手伝い。
俺は一体何をしてるんだろう。今、俺は、何をすればいいんだろう。
……、そうだよ、外貨の獲得だ!
ファーメル教国の教会運営費を稼ぐなら、やっぱり魔物の素材を手に入れて他国に売るのがいい。
周辺で物価が高そうな国、帝国かな。帝都でハンター登録して、魔物の素材を売り、外貨を稼ぐ!
腕だめしもでき、功名心も満足でき、教会に貢献もできる、最高のアイデアじゃないか!
よーし、決めたぞ! 俺は、帝都でハンター登録して、大活躍してやる!
非殺傷用と防御に使える雷魔法も手に入れた。使い勝手のいい飛び道具も手に入った。身体強化魔法もLV7に届いた。恐れるものはない。
俺は、乗合馬車に飛び乗った!
「おじゃまします!」
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
ガタガタと馬車に揺られている。
馬車の乗り心地は、最低だ。
道は舗装されているとはいえゴツゴツしてるし、馬車には、サスペンションもない。
頻繁に態勢を変えないとおしりが痛くなるし、黙ってると酔いそうだ。
大きな馬車だが、肩が触れ合うほどギュウギュウ詰めだ。
長い無言時間に辟易し、俺は隣に座る気の良さそうなおっさんに話しかけた。
「帝都までって、どれぐらいかかるんですか?」
「この高速馬車だと、帝国領までで、4日ですね」
隣のおっさんが答えた。
「え? 帝都までって、そんなにかかるんですか? まじで?」
「帝都まででは、ありません。帝国の辺境伯領までです。そこから帝都までは、ルートの選択によりますが……。いつもは、だいたい、合計で1週間ってところです」
「なんてこった。馬車って遅いんだな。往復で休暇の半分が吹っ飛ぶぞ」
俺が今話している人は、商人さんなんだそうだ。商業ギルドの依頼で帝都に向かうところだという。でっぷりとして、年の頃は40歳ぐらい。気の良さそうなおっさんだ。
「辺境伯領に、なにかあるの?」
「……、ベクタードラゴンという古代種の大型ドラゴンの巣があります」
「ドラゴンか。強いのかな?」
「『ドラゴン』と聞いて、強いか? と聞いてきたのは、あなたが初めてですよ。あなた一体、『なにもん』なんです?」
『いたもん』です、とは言えないよなやっぱり。
「……、ただのハンター志望だよ」
「ベクタードラゴンは人語を解する龍で、ベクトル操作という事象魔法を使うといわれています」
「なにそれ怖い」
そりゃ、迂回するべきだよ。思いあがってたよ。うん。ドラゴン怖い。超怖い。ていうか、ベクトル操作ってなに?
「ふっ、ゴミ虫ども。お前たちは運が良かった! たまたまこの馬車に、コルベストの一級ハンターであるこのおれ――、『豪炎業火』のバーナード様が乗り合わせるとはな。おい御者! 最短ルートを通れ。ドラゴンのいる道だ。ショートカットしろ! ハリー! ハリー! ハリー!」
「ま、待ってくれ! 安全なルートで行くべきだ。龍の巣を突っ切るのはいくらなんでも危険すぎる」
商人さんが大慌てでツッコミを入れる。
「何が危険なものか。龍との遭遇率は低い。そんな低確率のために、迂回して何倍も時間を掛けるのか? だいたい、『豪炎業火』はワイバーン殺しの英雄だ!」
バーナード様の取り巻きが気勢をあげる。
「ワイバーンとベクタードラゴンを一緒にするな!」
「龍は龍だろ!」
「聞いてくれ! ベクタードラゴンは飛び道具を反射する。龍の中でも特級にヤバい奴なんだ!」
商人のおっさんと、バーナード様の取り巻きらしい乗客が揉めている。
どう聞いても、赤龍より強そうだよ。嫌だなぁ。
「ハリー! ハリー! ハリー!」
バーナード様は両手から火柱を吹き上げながら御者を睨みつけている。
「『豪炎業火』ってなんです?」
俺は、バーナード様に聞いてみた。
「ゴミ虫が、気安く話しかけてくれるなよ。このバーナード・バニング様は、齢25にして、一級ハンターの認定を受けた天才ハンターだぞ! 五級ハンターにも満たない、ニートハンター見習いの坊主が話しかけていいお相手じゃないんだよ!」
『ニートハンター見習いの坊主』って、25なら同い年じゃねーか! に……ニートじゃねぇし!
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
サリミドと帝国の国境付近で、事は起こった。
「前方に盗賊です!」
御者が声を上げた。
馬車が停止する……。
目を凝らすと、まあよく見える。
常時発動している身体強化魔法LV6パッシブは伊達じゃないのだ。数は15。武器もバラバラ。どうやら、まともに手入れされていないな。錆びている。構えから察するに、練度は下の下。装備も見かけ倒し。総合評価F。『無抵抗な馬車ばっかり襲ってます』って感じだな。
護衛の騎士が馬車を降り、身体強化魔法を発動する。LV3アクティブってところか。レベル3ともなれば、弓の射程はだいぶ違うし、一人でも余裕だろう。
「護衛の雑魚よ。すっこんでいろ。一級ハンターたるこのおれが、偉大なるお力を行使してやろう!」
バーナード様が馬車を降りた。乗客たちの表情から、怯えの色が消えた。一級ハンターの威光というやつか。
「一級ハンター様が守ってくださる! バーナード様万歳! バーナード様万歳!」
乗客が歓声をあげた!
「火の精霊アガトよ。その力を我に示せ。炎は火に連なりて貪り食らう。第三位階魔法! バーニングフェニックス!」
鳥の形をした大型のファイヤーボールが、盗賊を3人飲み込んだ。
大層な技名の割に、しょぼくね? 最低限の殺生で乗り切るつもりか? 法的には盗賊は生かして捕まえても縛り首なんだけどな。
「レンジ! オウジ! ケメコ! きさまー!」
盗賊の皆さんが盛り上がっていらっしゃる。
早死にするのが嫌なら、盗賊なんてやるもんじゃない。
捕まれば縛り首。戦闘で負けても、まず命は考慮されない。
『襲って奪う』っていうのは、それぐらいの大罪なんだよ。
「火の精霊アガトよ。その力を我に示せ。炎は火に連なりて貪り食らう。第三位階魔法! バーニングフェニックス!」
いちいち詠唱すんのかーい。一級ってこんなものなのか? ファイヤーボールの規模こそ大きいけれどそれだけだぞ。スカーレットバレットはマジで強かったんだけどな。特級と一級の間には、ここまで大きな差があるのか?
「バーナード様の鳳凰は、発動したが最後、自動追尾する必中の炎。何人も燃える運命からは逃れられません!」
バーナード様の取り巻きの一人がいう。
自動追尾機能付きってことだと、評価がガラッと変わってくるな。
さらに三人の盗賊が焼け死んだ。
なるほど。たしかに自動追尾してるな。逃げる盗賊を的確に3人巻き込めるように飛んでいっていた。
残りの盗賊が一斉に馬車に襲いかかってくる。
びゅう。
矢が飛んできた。
向こうの矢が届く距離になったな。
乗客に向けて飛んでくる矢を、俺は、練習中の魔力弾で3本撃ち落とした。
ふっふっふ。着実にコントロールがうまくなってるぜ!
うしろで乗客の歓声が上がる!
「すごいぞ! 少年!」
「俺、リンゾーっていいます!」
「リンゾー君! かっこいー!」
乗合馬車の紅一点。田舎から出てきましたって感じのお姉さんの黄色い声が熱いぜ!
チラッとバーナード様がこっちを見て、いまいましげに舌を打った。
俺に注目が集まってるのが気に入らないんだろうな。
「ちっ、切り札を使わざるを得ないか。アガトよ! 真の力を示せ。炎は火に連なりて焼き尽くすものなり。第四位階、極大魔法! バーニングストーム!」
『うぉおおおお!』、乗客が盛り上がる。
『極大魔法だー!』、どうやらすごい魔法らしい。
二本の火柱が、回転し、盗賊たちを一気に飲み込み十人近くを一瞬で黒焦げに変えた。
うん。たしかにすごいな。
『豪炎業火』の二つ名もハッタリじゃないらしい。
やがて炎は、一本の巨大な旋風となり、風の中に消えた。
最初から、それ使おうよ!
「おい、お前たち、至高なる私の力の行使に対し対価を払え。一人あたり金貨一枚だ」
盗賊が消し炭になると、バーナード様はこちらを振り返り、おでこの汗を拭いながら言った。
結構、消耗する魔法っぽいな。
乗客の反論したい雰囲気を、バーナード様が両手から吹き上げる炎でぶち壊す。
今、この場を支配しているのは、感謝でなく怯えだ。
『盗賊殺しが盗賊になった!』、馬車がそんな困惑と恐怖の空気で満たされた。
お金を持っていない乗客の分は商人さんが立て替えて、結局皆、バーナード様にお金を支払った。
俺? 値切ったよ。半額にしてもらった! 魔力弾3発撃ったからな!(ドヤァ)
仕事の対価は払わないとね。一級ハンターの実力も見れたし。銀貨5枚なら良しとしておこう。
バーナード様の貴重なお話も聞けたしな。なんでも、地球にいた頃は、画像認証システムの開発者だったらしい。自動追尾は画像認証のイメージの応用なんだそうだ。
そして、彼の単独盗賊退治によるプレゼンは、うまくいった。
馬車はベクタードラゴンの巣を突っ切って、最短距離で帝国へ向かうことに決まったのだ。
読んでるぞー。おもしろかった。誤字脱字を見つけた。ここが変だよ。
とっとと続き書け等、思われた方は、評価、ブクマ、コメント、
レビュー等いただけるとうれしいです。
活動報告に各話制作時に考えていたことなどがありますので、
興味のある方はどうぞ。




