念願の飛び道具を手に入れたぞ
九尾戦から一週間後。
接近戦しかできないことの不利を悟った俺の心は、飛び道具への渇望で満たされていた。
かめは○波が撃ちたい! (切実)
せっかく魔法のある世界に来たのだから、スカッと飛んでいくような魔法を撃ちたい。
そう思うのは、贅沢なことなんだろうか?
たしかに、身体強化魔法は素晴らしい。使うと別人のように目が見え、耳が聞こえ、嗅覚が鋭くなり、ジャンプ力も跳ね上がる。俺のチート魔法だって、マジで強い。きっつい制限付きだけど、初見の相手と1対1でなら、負ける気はしない。
でもな……。
なにかが違うんだ。どこまでもかっ飛んでいく魔法を、撃ってみたいんだよ。
射程3mが何だ! 負けないぞちくしょー!
理想はふうちゃんの重力ジェット。あれは射程150mなんて規模じゃ全然なかった。
まぁ、あんなに威力があったら持て余すから、威力はあんなになくていい。
使い勝手のいい、波○拳みたいな飛び道具がほしい! (切実)
多分、『支配領域』の壁を超える方法があるはずなんだ。重力ジェットのように。
高望みはせずに、まずは着実に魔力弾からかな。
身近で一番魔法がうまいのは、やっぱりふうちゃんだよな。
ふうちゃんに魔力弾を教わるべく、俺はテレパスオーブに手を伸ばした。
ブルッとテレパスオーブが震え、ピンク色に発光する。
お、つながった!
「ふうちゃん、今何してるの?」
「お部屋でごろごろしてます」
「ごろごろ?」
「わわっ!」
ベシッ!
「おーい。だいじょうぶか?」
「床を3回転して、扉にぶつかりました」
「なにやってんの?!」
「バランスボールで、ゴロゴロしてました」
「文字通り、ゴロゴロしてたのか?」
「そうです」
「手が空いてたら、魔力弾の撃ち方を教えてほしいんだけど」
「りんぞーさまが魔力弾を覚えても、戦力の増強にはつながらないと思いますよ?」
「強くなりたいんだよ。なんかきっかけがほしいんだ」
「そういうことなら、お力になります! ……あぁ、いけない。りんぞーさまと話していたら、なんだか、急に甘いものが食べたくなってきました。りんぞーさまのお力にならないといけないっていうのに! 具体的には、黒くてグラスに入っててスプーンで食べる的なものが、日本で見たあのパフェ的なものが……」
「向こうで『格納』してもらった、チョコレートパフェを食べていいからさ」
「のりました! 30分もらってもいいですか?」
声のトーンが明るい。めっちゃいい笑顔してるんだろうなぁ。
「じゃあ30分後に部屋の前で」
「はーい」
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
うん。で? なんで、あおば食堂にいるのよ?
俺とふうちゃんは、あおば食堂の厨房で、白玉を作成中である。
魔法の弾じゃないぞ? あんこに入れる、あの白玉だ。
ものすごい手際の良さで、ふうちゃんが、一瞬で50個の白玉を握ってみせた。
「どうです?」
「すごいけど、なにこれ?」
「魔力って、気体・液体・個体、すべての相を持ってるじゃないですか? 魔力弾は、気体を集めて液体にして、それを練って固体に変えるイメージの魔法なんです」
「なるほど」
ふうちゃんが白玉をこねこねしている。
立てかけてある『あおば食堂、白玉ぜんざいフェア』の幟が気になるんだが……。
まさか、ふうちゃんのバイトの手伝いをさせられてるわけじゃないよね?
「りんぞーさまは、気体を集めて液体にするところまでは、できています」
「練りが足りないってこと?」
おーい! そんなに水を入れると固まらなくなるぞ!
「違います。りんぞーさまのは水気が多すぎるから握れないんです。これです。シャバシャバです」
「水気を減らすにはどうしたらいいんだろう?」
「この場合、水は雑念ですね」
「集中しまくればいいってことか?」
「念が濃すぎると重くなって飛ばすのに、よりたくさんの力が必要になりますよ。最低限の硬さになったら、あとはバランスです」
「水気を減らす……、集中……、つまり、こうか!?」
「会心の白玉だぁッ! おあがりよ!」
バァン!、目の前のお皿に野球ボールぐらいの白玉を載せたッ!
絶妙の固さのはず。その固さ、『耳たぶ』ぐらいだぁッ!
「茹でないと食べられませんよ?」
「そうだった」
ふうちゃんと茹で上がった白玉を食べた。味? 味はほら、まぁ白玉じゃん? 黒蜜ときな粉をかけて食べたら美味しいよね。それが「あれば」、の話だけどな!
さあ訓練場で実践だ!
ふうちゃんができあがった白玉を冷蔵庫に入れている。
本当に、ふうちゃんのバイトの手伝いをしてたわけじゃないよね?
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
俺たちは、サヤさんに訓練所使用の申請をして、訓練場にやってきた。
まず、魔法には、気体・液体・固体の三相があって……。
待てよ? プラズマもあるんじゃないか?
左手にプラス。右手にマイナスをイメージ。態様は、プラズマ。起動。
工事中のようなけたたましい音を上げて、両手の間に目視できるほどの電気が断続的に通っている。
なんてこった。プラスとマイナスをイメージできれば、雷魔法って簡単だぞ。
「りんぞーさま。すごいです。勇者以外には秘匿されている雷魔法の本質に自力でたどり着くなんて……」
「だって、九尾の狐も使ってたし。『勇者にしか使えない』っていうのは、『勇者以外は使い方を知らない』だけだ、ってすぐにわかったよ。ついでにいうなら、『支配領域』も射程距離ではないよね? ふうちゃんの重力ジェット、150mなんて規模じゃないもんな」
「『支配領域』が『射程』と同じというのは思い込みです。コントロールできるのが支配領域であって、本来射程とは関係ないです。ファーメリア様のお墨付きなので信じて大丈夫ですよ」
「ありがとう。なんだか、うまくいく気がするよ」
白玉のイメージで魔力弾を出してみる。大きさはテニスボール大。回転……加速……。
まてよ? どうせなら、こいつに電流を流してプラズマ化して射出したら、威力が出るんじゃないか?
自分に向かうエネルギーは『崩壊』で消し飛ばしちゃえばいいわけだし。
やれる! やれるぞー!
そうと決まれば、場所の変更だ。
屋外にいかないと……。
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
晴れ渡る、晩夏の空。
ピークは過ぎたが、まだ暑い。
ふうちゃんのエアコン魔法のお世話になりつつ、開けた場所にやってきた。
俺は、岩山の先端をかすめるイメージで、上空に魔法を放つことにした。
「ふうちゃん。熱と雷を使うから防御をお願い」
「おまかせください」
保険もかけたし!
さぁ、いくぞ!
「魔力弾生成!」
バスケットボール大の巨大な魔力弾を作る。
「サーマルガン!」
両手に迸る雷の中で、魔力弾が急速に密度を上げていく。ものすごい熱量だ。汗が止まらない。やべぇ。相転移する。もう、コントロールできない。
「発射!」
――、ブォン!
音を置き去りにして、両手から青いビームが一直線に射出された。岩山を消し飛ばし、ビームが駆け抜けた空に、飛行機雲ができている。
サーマルガンのつもりだったんだけど、プラズマ収束砲だなこれ。
「りんぞーさま。今のは一体?」
キラキラした目で、ふうちゃんが聞いてきた。
「オリジナル必殺技ってところかな」
「かっこいいです!」
「実は、これに『崩壊』を組み合わせようと思ってるんだけど、過剰威力かな? 『崩壊光線』みたいなノリで、当たると消し飛ぶビーム砲。3秒あれば、あれこれ消し飛ばせるぞ」
「それは、さすがにえげつないです」
「俺向きか!?」
……その後。
『崩壊光線』も試してみたけど、威力はあんまり変わらなかった。
サーマルガンでも、だいたいのものは消し飛ぶじゃんね?
というか、『崩壊光線』は見えないビーム砲だった。
いや怖いって。当たると消し飛ぶ見えないビーム。危険物すぎるだろ!
こっちはお蔵入りかな?
そんなこんなで、念願の飛び道具を手に入れたぞ!
読んでるぞー。おもしろかった。誤字脱字を見つけた。ここが変だよ。
とっとと続き書け等、思われた方は、評価、ブクマ、コメント、
レビュー等いただけるとうれしいです。
活動報告に各話制作時に考えていたことなどがありますので、
興味のある方はどうぞ。




