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召喚の勇者(3)vs九尾の狐

能美信太(のうみのぶた)視点>


 小屋から出ると、九尾のキューちゃんが何者かの来訪を告げた。


「数1、敵意不明。何らかのスキルを使っておるな。疾い」


 1ヶ月以上過ごした思い入れのある小屋を振り返る。ボロいな。ボロいけれども……。


 グラナ街道に取り残された掘っ立て小屋とはいえ、ただで貸してくれたおばあちゃんの手前、壊したくはないんだよね。


 小屋からできるだけ離れるようにしないとね……。


 と、移動する間もなく、目の前に光の塊が飛んできた。光の粒子が男の姿を形作る。


 金色のウェーブがかった長髪。身長180ぐらい痩せ型。イケメンだ。


 速いにしても、速すぎだろう。


「よお。僕の名前はレイ・レイモンド。おまえと同じ、勇者の一人だ」


 イケメン男が名乗りを上げた。


 しかし、……勇者か。


 まさか、スレイちゃんを連れ戻しに来たのか? だめだぞ! それはダメだ!


「ちくしょうッ! この子は、3ヶ月かけて手に入れたんだッ! スレイちゃんは渡さないし、お縄につく気もないぞ!」


 ポケットから折りたたみナイフを取り出し、構えながら言うと、レイと名乗った男がこう応じた。


「落ち着けよ。少年。僕についてくれば、その奴隷はおまえのもんだし、ハーレムだって作れるぞ」


「ハーレム!?」


 パーッと目の前が明るくなった。


「……、私、捨てられちゃうんですか?」


 スレイちゃんが僕を見上げながらいう。悲しそうな声とは裏腹に、顔はニヤついており、口は半開きだ。


「大丈夫! スレイちゃんを捨てたりしないよ」


 ぶちゅーーっと、スレイちゃんを安心させるようにキスしてあげた。


「ご主人様は、キス上手ですぅ」


 濁った目をして、甘ったるい声でスレイちゃんがしなだれかかってきた。


 役得役得!


「話を続けていいか?」


 レイと名乗った男が顔をひきつらせながら言う。


「どうぞ」


「僕は、他の勇者たちと同盟を組み、今現在、君を付け狙っているものと戦っている。率直に聞こう。君も同盟に加わる気はないか? その気があるなら、今、君が逃亡する手助けをする」


「あるに決まってるさ。一人で付け狙われるなんてまっぴらだ」


「よし。じゃあ僕と来い。君の名を聞きたい!」


「僕は能美信太(のうみのぶた)。ノブタでいい」


「のぶ太くんか。とりあえずこっちへ来い。仲間の一人が大規模転移魔法を使えるんだ。君たちの合流を待っている」

「よーしみんな、逃げるぞ!」


 僕たちはレイと名乗った男について、走り出した。


▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽


 ~ファーメル教国、グラナ街道にて~


 ファーメル教国内で、獣人の少女が奴隷にされている。そんな連絡を受け、俺、ふうちゃん、ビリー、ブリジットさんの4人は、目撃証言のある、グラナ街道の掘っ立て小屋に来ていた。


 通報をくれたのは小屋の持ち主のおばあさんだ。


 グラナ街道を造る際も頑として撤去に応じなかった、おじいさんとの思い出の詰まった小屋。その小屋に、少年が住み着いたのだという。


 はじめはお金がない転生者の少年に宿を貸すつもりだったが、少年が獣人の女の子を奴隷扱いしているのを見て気が変わったらしい。


 俺達四人は、ブリーフィングもそこそこに小屋に急行した。


 走りながら、ビリーが声を上げる。


「いいか、お前ら! 人命が最優先だ。危ないと思ったら退け! 目標は奴隷にされた獣人の少女の保護。ほかは無視していい!」


「おう!」


 小屋の前で、男と少年が話しているのが見えた。


 少年の(かたわ)らには、10歳そこそこぐらいの獣人の少女と8歳ぐらいの、やはり獣人のような童女がいる。


 報告では奴隷の少女は一人という話だったが……。


 どっちだ? それとも両方?


 少年が10歳ぐらいの方の獣人の少女にキスをしやがった。少女は放心状態で少年に寄りかかっている。


 あれが救出すべき少女か?

 少女の首元に、隷属の首輪が見える。


 隷属の首輪、――主人の命令に背くと痛みが走り、場合によっては命を失うこともあるという。主人に対する攻撃は抑制され、魔法・スキルは一切発動できなくなる。いたもんが捕獲用に使う首輪の強化版とも言うべき忌まわしき首輪だ。


 確定だ! あの少女が奴隷だ。


 俺たちが出ていこうとすると、男たちは逃げるように走り出した。


「全員、身体強化魔法を使え! 捕らえるぞ」


 ビリーが叫ぶ!


 少女にキスをしていたあの少年、身体強化魔法が使えないらしい。


 俺たちはやすやすと、逃げる男たちに追いついた。


「材質は麻、種類は捕縛用ロープ、形状復元(けいじょうふくげん)付加!」


 ビリーが、草を手に錬成をはじめた。錬金術は、発動に時間がかかるものの、めちゃくちゃ自由度の高いチートなスキルだ。


「光の勇者レイ・レイモンドッ! なぜ、お前がそこにいる」

「ビリー・バーンスタイン! 前途有望な若者を、パーティーに加えようというだけだ。別におかしくはなかろう? 異端審問官には引っ込んでもらおう」

「まず、その奴隷の少女を解放してからにしろ!」


 ビリーとレイという男が問答している。二人は顔見知りらしいな。


 ビリーが少女に向かってロープを投げた。


「させるか!」


 レイと名乗る男が、とてつもない疾さで移動し、ロープを手刀でバラバラにした。


 この男、ビリーと面識があるようだが、ビリーと戦ったことはないな。


 ビリーは、そんなに甘い男じゃない。手を打つときは、二重三重に奥の手を用意している。


 ロープが巻き付くように形どったのは、事前に錬金術でプログラムした為で、ビリーがコントロールしてる為じゃない。本命は、同時に発動した念動力テレキネシスだ。


 上空に獣人の少女が浮かんでいるッ!


 レイが飛び出す出足をくじくように、ふうちゃんがアースガードでレイの前に障壁を出現させた。


「チッ、能無しの異端審問官ふぜいがぁ!」


 獣人の少女は一気に引き寄せられ、あっという間に、ビリーの腕の中だ。


「スレイちゃんッ!」


 少年が悲痛な声で、奴隷少女の名であろう、名を呼んだ。


 獣人の少女は、ビリーの腕の中で虚ろな目をしている。


 心が壊れているのか? 酷いことをする!


「キューちゃん。アイツラを殺せ! スレイちゃんを取り戻す!」


 少年が傍らの童女に命令を下した。


 童女が地面に両腕をつき、四足になると、全高3mぐらい、全長9mぐらいの巨大な狐の姿に変形していく。尾の数は9。九尾の狐だ。


 もちろん、俺は、相手の変身が完了するまで待ったりはしないぜ……。


「挨拶代わりだ! 受け取れッ!!」


 俺は、『停止』と『速駆』を使って、一気に間合いをつめ、『崩壊』を載せた手刀で九尾の尻尾を一本切り飛ばした!


 いきなり八尾だ! ざまあみろ!


 九尾――、(すでに八尾だが、そう呼ぶことにする)、は、全身に紫電を帯び、周辺に雷を落としまくった。


 九尾の周辺の土が、街道沿いに生えたススキのような草が、真っ黒に焦げ、煙を上げている。


 怒りに我を忘れていて、とても近寄れる状況じゃない!


「九尾は、圧倒的な膂力を持つ神獣ですッ! 距離をとって戦ってくださいッ!」


 ブリジットさんが歌唱魔法で、伝達してきた。


 距離をとれ、って言われても、俺は突撃しかできないぞ!?


 ピシッ、ドォォォォン!!


 俺が前に出ようとすると、稲妻が俺の目の前に落ちた。全く反応できなかった。行動の起点を見極めないと一瞬でやられちまう!


 ゴウッと、九尾の狐が吹っ飛んだ。


 ビリーがテレキネシスハンマーを叩きつけたらしい。絶対的な防御力を誇る、赤龍すらも揺るがせた、不可視の一撃だ!


 ふうちゃんがファイアーボールと魔力弾を上空から雨のように打ち付け、体勢を立て直そうとする九尾の行動を阻害する。九尾は凄まじい疾さでふうちゃんの攻撃をかいくぐるが、移動を先読みして妨害にかかるふうちゃんの魔法に苛立っているようだ。


 トスッ!


 高レベルの『身体強化魔法』で研ぎ澄まされた俺の耳が、かすかな打撃音を拾った。


 見ると、レイが気絶した少年を抱きかかえ、逃げ出そうとしている。


 くそっ、追いかける余裕がないッ!


 九尾の狐は、ビリーとふうちゃんに体勢を崩されながらも、動いたものの目の前に雷を飛ばしてくる。


 主を必死に逃す召喚獣。今の九尾はさしずめ、それだ。


「九尾に炎は効きませんッ!」


 ファイアーボールを撃ち続けていた、ふうちゃんが攻撃を氷魔法に切り替えながら叫ぶ。


 かといって、他の攻撃魔法も、効き目は薄いだろう。ふうちゃんの無数の魔力弾を躱す九尾の動きは、残像がおこるほど速い。おそらく、俺の『速駆』のような、速度を底上げするスキルをヤツは持っているはず……。


「リンゾー。九尾は、尾に9つ(ここのつ)の命のストックを持っているという。あの狐の残りの尾、全部消し飛ばせるか?」


 ビリーが、無茶なことを聞いてきた。


「やれるならやるさ! だけど、あの雷の弾幕にどう突っ込めっていうんだ!」


 動くと目の前に、一撃必殺クラスの巨大な雷が落ちるのだ。命知らずを自称する俺も、流石にうかつに動けない。


 ふうちゃんの方を見ると、ふうちゃんが重力球を生成していた。まさか、重力ジェットで消し飛ばすつもりか!?


 ……、世界が暗転した。


 巻き添えで、レイという男も、少年も消し飛ぶぞ!


 やべぇ! まさか本気で撃つつもりじゃない、とは思うが……。


「まぁ、待て。(わらわ)も、使徒と本気で命の取り合いをするつもりはない。我が主を見逃せば妾も手を引こう」


 九尾の狐が語りかけてきた。


 喋れるのか、この狐。そういえば最初は人型だったっけ? そして、そうか。重力ジェットには、九尾を殺し切る威力があるんだな?!


「ビリー! 九尾は、今ここで殺そう。見逃せばこの先、脅威になる。勝つチャンスは今、ここにしかないぜ」


「いや。リンゾー、ここは退く。奴隷の子は確保し、すでに目的は達成されている。これ以上は無駄な戦闘だ」


 ちくしょう! ビリーは、重力ジェットの威力を知らないのか?


 その時、美しい声が、俺の暗澹とした気分をかき消した。


「今よ! レミン! 『召還』で神獣様を精霊界にお還しして!」


 レミン? ここにレミンがいるのか!?


 ブリジットさんが叫ぶ。


 レミンが姿を現し、ブリジットとともに、九尾に召還魔法を放った!


 魔法の成立はあっけなかった。


 ふうちゃんの重力ジェットを警戒し、重力球を凝視していた九尾の狐の体の下には、すでに魔法陣が刻まれていた。


 ブリジットさんの精霊レミンが、ずっと周辺に潜み、機会を伺っていたのだ。


 九尾の狐が粒子化して消滅していく。


「まさか、上級精霊を従えていたとは……。まったく、召喚士は油断がならんな。まぁよい。妾も義理は果たした。痛み分けとしよう」


 そう言い残し、強烈な力を持つ九尾の狐はあっけなく、元の世界へと還された。


 レイという男と、奴隷の少女にキスしていた少年は取り逃がしちまったけど、奴隷の少女は保護できた。


 目標は果たしたと言えるかな。

読んでるぞー。おもしろかった。誤字脱字を見つけた。ここが変だよ。

とっとと続き書け等、思われた方は、評価、ブクマ、コメント、

レビュー等いただけるとうれしいです。


活動報告に各話制作時に考えていたことなどがありますので、

興味のある方はどうぞ。

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