召喚の勇者(1)召喚される召喚者
<能美信太視点>
僕は、能美信太。サリミド王国の宮廷魔導士に召喚された『召喚の勇者』だ。『召喚の勇者』が、召喚魔法で召喚されるだなんて、笑ってしまうだろう?
実際、宮廷魔導士に、『召喚』の力を持つ勇者殿と呼ばれたときは笑ったね。何だそれは? 召喚で『召喚の勇者』を呼べるなら、『召喚の勇者』なんていらないじゃないか。
話を聞いてみると、僕が召喚された理由は『戦争』のためだという。まったく、冗談じゃない。戦争とかはもっと血の気の多い奴らでやってくれ。僕は低血圧で貧血気味なんだ。
サリミドと戦争をしているという隣国の『セントラ帝国』は、肥大化する人口と急激に進むデフレの対策として膨張政策を推し進めている。
周辺各国を武力、経済、浸透政策の三側面から侵略しているというから恐ろしい。軍用ゴーレムコンソールと呼ばれる、全高10mを超える人型ロボット兵器を戦争当初から10以上持ち、開戦後すぐにサリミド側は複数の町を奪われ制圧されてしまったという。
事態は切迫してるじゃないか。
サリミドのお偉いさんがたは、僕の召喚に成功したことで安心ムードだ。僕を召喚したら戦況に変化が現れる、とでも思っているのか? はっきり言おう、無茶だ。
国相手にどんな力を持つ個人を召喚したところで無駄だ。召喚するなら『軍』。あるいはそれに近いものを召喚しないとね。
いやいや、実のところ『召喚の勇者』たる僕を、サリミドの宮廷魔導士が召喚で呼び出したのはそれが狙いだった。『召喚の勇者』には、『軍』をも召喚する力があるのだという。だけどいいのか? そんなものを呼んで。
もし、僕がその『軍』を御せなかったら、サリミドは滅亡しちゃうかもしれないんだぜ? そう、宮廷魔導士に問いかけると彼は君が軍を呼ばなければそれこそ滅亡だと言って開き直っていた。
僕にすべての責任を押し付ける気だぜ、最低だな。
『対軍用武力』を呼び出してくれ。君にしかできないことだ! と言われた僕は、自分がたぬき型便利ロボットにでもなった気分だった。僕にそんな事ができるのか?
能美く~ん。セントラがいじめるんだ。セントラをやっつける武器を出してくれよ! サリミドくんはいつもそうだ。自分で解決しようとしない。そんな事言わずにさぁ! 仕方ないなぁ。サリミドくんは。『テッテケテッテ、テーッ、テテー♪』
こんな妄想が頭に浮かんだ。頼られることは気分が良かったし、従わなければ殺されそうな雰囲気もあったから否応なく従った。僕は『軍』を呼ぼうと思ったのだが、召喚で出てきたのは、空に浮かぶ巨大な戦艦だった。なんでだよ!!
静寂と周りの呆然とした表情が、とてつもなく怖かった。
怖かったといえば、戦艦からでてきた者も怖かった。白い翼の生えた本物の天使。護衛と思われる英雄っぽいオーラを持ったヴァルキリーのような女性型騎士。そして、ゴーレムコンソールより遥かに進んだ文明のものと思われる人型のドローン。
こんなのと対等に交渉なんてできるのか? 無理やり支配下に置かれるんじゃないか? と急激に不安になった。ところが巨大戦艦を持つあちら側にもなにやら事情があるらしく、無事、ほぼ対等な同盟に持っていくことには成功した。
結局、サリミドは、艦長代行という女性型天使と同盟を結び、戦争への協力を取り付けたところまでは良かったんだけど……。
『召還』――召喚ではない、つまり送り返す方の魔法だ。これを使って、戦艦を元の世界に返されてしまうことを恐れたサリミド王は、あろうことか、この僕を殺すと言い出した。僕には『召還』など使えないというのに。
僕は、走った。人生、一生分走った。あの暴虐な王から逃げねばならぬと、グラナ街道を走った。メロスのように走った。せっかく転生し、召喚魔法なんていう面白そうな魔法を手に入れたのだ。生き延びて、好き勝手やってやる。
脇目も触れず、はぁはぁ言いながら猛烈な勢いで走っていると、3匹の、人と二足歩行の豚をかけ合わせたような生き物と遭遇した。
この世界、恐ろしいことに魔物がいる。街道沿いを通っていても、普通に魔物と出くわすのだ。身長2m以上。豚の顔にでっぷりした体。肌は毛皮で覆われている。
ね? 魔物だ。こいつはオークとしか言いようがないだろう。オーク! ファンタジー系の薄い読み物にでてきて、女騎士に、くっ、殺せ! と言わせることで有名なオークだ。
召喚ッ!――僕はイメージする。最初の仲間だ。ハーレム要因じゃなくていい。強くてかわいい、マスコットキャラがいい! 幼女のドラゴンがいい! 幼女のドラゴンこい!
システムメッセージ。召喚に失敗しました。
失敗とかあるのかよ! くそっ!
召喚ッ!――めっちゃ強いスライム。なんか成長したり、人形になったりする貪食チートのスライム! こい、スライム! めっちゃ強いスライム!
システムメッセージ。召喚に失敗しました。
ちくしょう!
召喚ッ!――どうする? ロリ獣人か? いや、ロリ獣人はテンプレ通り奴隷がいいッ! 奴隷じゃなきゃダメだ! 無価値な僕を、無条件に下から持ち上げてくれる。そんな立場の人間は、奴隷じゃなくっちゃいけない! 呼ぶのは天使だ! さっき見たような天使!
システムメッセージ。召喚に失敗しました。
やばい、やばい、来ちゃう! オークっぽいのが来ちゃう!!
召喚ッ!――天使の護衛についてた子! ヴァルキリーっぽい子、こい!
どM女騎士を召喚しますか? 承認・拒否。
なんか気になるけども! 承認! こい! どM女騎士!
足元に魔法陣が現れ、輝き出す。中から一人の騎士の姿をした女性が現れた。
あれ? 英雄っぽいオーラが全然ない?
「問おう! あなたが私のサモナーか?」
「そうだ! どM女騎士! あのオークを倒せ!」
「承知した!」
女騎士が駆ける。巨大な木の枝を手にしたオークと、打ち合うこと3合。女騎士がふっ飛ばされて、『くっ、殺せ!』と言い出した。鎧は壊れ、服ははだけていた。
「サモナー! 私のことは見捨てて逃げろっ!」
僕は、言われるまでもなく逃げ出した! くっ殺女騎士とオークの絡みなんて見たくない。
ちくしょう。全然ダメじゃんこの力。僕は、能力の理不尽さに腹がたった。これは、神のせいか? なんだってこんな真似をする? 軍を呼び出そうと思えば、空飛ぶ戦艦が出てくるし、護衛のための英雄的な女騎士を呼ぼうと思えば、出てきたのは半人前のくっ殺系女騎士。
僕は悔し紛れに、転生者を適当に召喚しまくった! 僕はムシャクシャしてるんだ。この世界に、理不尽を分け与えてやりたい。
召喚ッ!――適当な転生者、この世界にこい!
転生者『狸山太郎』を「透明化」の勇者として召喚しますか? 承認・拒否。
承認! 来いよ! 転生に夢を持つ、勇者!
僕は召喚する間も、脇目もふらずに走りに走った。
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
ファーメル教国についたので、早速、僕は獣人奴隷を購入すべく、奴隷商人を探したが、奴隷のドの字もなかった。なんなんだ? この国。奴隷制がないし、全然、中世っぽくない。だいたい、ケモミミパブってなんだよ。僕は奴隷に上から目線で接したいんだよ。
まてよ? その時、僕は気付いてしまった。
別にお金をかけなくても、獣人の里を襲って、獣人の小娘をさらってくればいいんじゃないか? 奴隷商人を探しさえすれば、奴隷化はできるはず。僕は勇者だ。選ばれた人間なんだ! それぐらいはわけないはず……。
そうと決まれば、僕の代わりに戦ってくれるヒロインの召喚だ。僕に従順で、僕を立ててくれて、超強い。獣人を駆り立てる獣人がいい。九尾を持つ狐獣人の女の子! 来い! 天狐!
召喚ッ!――天狐九尾! この世界にこい!
九尾の天狐を召喚しますか? 承認・拒否。
承認! 来い! 僕のヒロイン。
召喚の魔法陣が足元に展開し、光の粒子が、九尾を持つ童女の姿を、形作った。
ロリ獣人きたー!
「妾を召喚したサモナーは、お前様か?」
「うおー! 尻尾をモフらせろ!」
「無礼! サモナーとはいえ、狼藉は許さぬぞ?」
ビシッ、と言う痛みが体を水平に撃ち抜いた。電撃か? 一瞬、呼吸が止まった。
「要件は殺害か? 殺害なら、殺す数と同数の贄が要るぞ。代価は先払いじゃ」
そういうと童女は一瞬にして、周囲の通行人、4人を引き裂き、内臓を貪り食いはじめた。嘘だろおい。
……鉄を含む湿った空気の匂いが、鼻をしびれさせた。
ピンクの臓物を見て、ああ人間も肉なんだなぁと思った。不思議とそれほど嫌悪感はなかった。
「対価は得た。4人分までなら働くぞ?」
口の周りと両腕を真っ赤に染めあげて、にぱぁっ、と童女が笑う。僕は、とんでもない化物を召喚してしまったのかもしれない。
召喚の勇者 能美信太LV4
超召喚LV3
勇者LV1
超召喚(超召喚)
ヒール(勇者)
支配領域20RU
九尾の天狐LV42
天狐LV10
尾獣LV10
炎魔法LV10
雷魔法LV10
重力魔法LV2
超嗅覚、速駆、魔法半減、炎無効、雷無効、巨獣化(天狐)
人化、鉤爪、牙、体当、力貯九、魔貯九(尾獣)
纏火、火吐、陽炎、不知火、業火炎(炎魔法)
纏雷、雷爪、雷牙、雷陣(雷魔法)
重力場(重力魔法)
読んでるぞー。おもしろかった。誤字脱字を見つけた。ここが変だよ。
とっとと続き書け等、思われた方は、評価、ブクマ、コメント、
レビュー等いただけるとうれしいです。
活動報告に各話制作時に考えていたことなどがありますので、
興味のある方はどうぞ。




