とある詐術の裏表
<ハル様視点>
黒曜石でできた美しい城。黒曜城の最上階。
天蓋付きベッドに、16~7ぐらいの見た目の恐ろしい美貌の悪魔族の少女が横たわっている。
俺は、疲れ果てて眠りこけてしまった、美しい悪魔族の少女を見やりながら、彼女の尻尾を優しく撫で回す。
黒髪で、長い耳、ウエスト後ろから生えた小型のコウモリのようなかわいらしい翼。先端がハート型をしたなめらかで触り心地のいい悪魔の尻尾。興奮すると赤く変わる金色の美しい瞳は今はふせられている。綺麗でスタイルのいい体は、スーパーレア級だ。ルックスまで含めるなら、ウルトラレアを超えてレジェンダリー級認定してもいいレベルだろう。つまりは大変にいい女だ。
この悪魔っ娘は、リリムロードという希少種。本来は弱小種の夢魔リリムだが、その中で、魔王にまでのぼりつめた特別な個体だ。
撫でていた尻尾をキュッとつまんでやると、ジト目で悪魔っ娘こと、スーパーレアが、俺のことをにらんできた。目の端には、キラリと涙が光っている。
「酷いです。ハル様! 敏感な尻尾を握って無理やり目覚めさせるなんてッ!」
「そんなことより、スーパーレアよ。なろうで流行っている、ハーレムとはなんだ?」
「私は、アルシェです。ハル様。ハーレムとは、後宮のこと。つまりは妾の集団です。王や魔王ならたいてい皆持っています」
「アルシェよ。お前はハーレムを持っているのか? 一応、お前も魔王の端くれなのだろう?」
「一応でも端くれでもなくて、私は普通に強い部類の魔王ですが、持ってませんよ。私は、夢魔なので、欲望まみれの人の心を常日頃見ています。だから、とくにハーレムは必要ないんです」
「うん? つまりどういうことだ?」
「……」
ポッと、アルシェが頬を染める。
「いかん。いかんぞ。民草に自家発電なぞされた日には、俺が神話級美女と出会う確率が減ってしまう。人口が増えるまで10万年待ったのだ。どんどん生み増やしてもらわないと困る」
「ハル様は、ほんっとうに、ストイックにエロですね」
「褒めるな」
「呆れてるんです!」
「ときにスーパーレア。このあたりに、ハーレムを持つものは、いるか?」
「また、呼び方がスーパーレアに戻ってます!」
「そうむくれるな。いいから、教えろ」
「はい。闇の魔王が持っていますが、一体何をするおつもりですか?」
「決まってるだろう。ハーレムをまるごと奪う」
「は? 『いい女を探してハーレムを作る』じゃなくて、奪ってくるのですか?」
「魔王が囲うほどの女だ。レアリティにも期待できるだろう」
「ハル様と違って、魔王は、見た目で選んでると思いますが?」
「とはいえ、少なくとも味見済みなのだろう? マグロ女を後宮に置くことはないはずだ。魔王によって安全確認された上玉を、俺が寝取るッ!」
「そんな無茶苦茶な。戦争になりますよ?」
「なると思うか?」
「はぁ……。なるなら、私はこんなに苦労してませんね」
「安心しろ。平和的にもらってくるさ」
「平和的。平和って一体何でしょう。ああ、ターゲット以外、皆死んじゃうんだわ」
「お前は俺をなんだと思っているのか?」
「根源たる深淵。創造神すら放逐した創世の起源固有種、ユスラハル様です」
「俺は10万年の引きこもり生活をやめて、『普通』の人間っぽい夢を目指す『冴えない男』だ」
「縛りプレイにしてもひどいですね。ハル様のどこに『普通』の要素が? 何を見たら、こんな、『非常識絶倫大魔王』が普通になるんです? わかりました! ハル様の愛読書、『なろう』ですね!?」
「おいぃ。アルシェ! お前、結構酷いこと言うよね? むしろ、お前を縛るぞこのやろう。『なろう』を馬鹿にするなよ? 俺は、アウターから転移してくる者たちを観察し、『普通』の振る舞いを学んだのだ」
「普通とは、かくも恐ろしいものだったんですね?」
「うるさい! いくぞ。アルシェ!」
「待ってください! ハル様。え? 歩いていくんですか? 転移魔法は? 飛行は? 乗り物すら使わずに? 歩くのが普通? またまた、ご冗談を! 本気ですか。……はぁ。今すぐ実家に帰りたい」
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
<詐術の魔王視点>
闇の魔王のアジトにて。
詐術の魔王――つまり私が、闇の魔王様の椅子の前で、ひれ伏している。
私の横にはズラッと闇の魔王の眷属達が並び、土下座する私の頭を見下ろしている。
酷い屈辱だ。魔王にまでのぼりつめた、この私が、有象無象に見下されるなんてッ!!
「面をあげよ。元詐術の魔王よ」
「ははぁーー!!」
元? 元といったのか!? もう魔王位を剥奪されることは確定かよッ! 底辺魔王には、たった一度の失敗すら許されないのか? クソっ!!
「旧大陸に封印されていた起源固有種が復活してしまった。いまは、『夢の魔王』が必死に眠らせ抑え込んでいるようだが、動き出すのも時間の問題だろう。となれば、やるなら今しかない。長きにわたる封印で、力が弱まっているであろう、今しか!」
「なんと、創世神話の主、根源たる深淵が。では、『我々』魔王の結束こそが、『我々魔王』の協力こそが、今、何よりも必要ですね」
「強者に立ち向かうときに、足を引っ張る無能者はいらん。それより、お前に預けた部下たちを全て返してもらおう。起源固有種を屠るには、一人でも多くの部下の協力がほしいからな」
「この私が、無能……」
「1500の龍を与えて、国どころか、一つの街の破壊すらなせぬ者を無能と呼ばず、何と呼ぶのだ。そこらで適当に選んだ最底辺の部下でさえ、もう少しうまくやるわ。お前を推挙した私によくも恥をかかせてくれたな? 本来ならこの場で殺すところを、お前の今までの貢献に報いて、放逐で済ませてやると言っているんだ」
「あんな超巨大竜巻が、あの場所で起きることなど、一体誰が予想できたというのでしょうか? 私を無能というのなら、予想できなかった者たちも皆、無能」
「黙れ無能。それ以上の発言は許さぬ。おまえは、すべての部下を失い、たった今、旧大陸から放逐される。これは決定事項だ。さあ出て行け無能!」
覚えておれよ。闇の魔王。方針変更だ。勇者の犠牲は限りなく抑えて、私に屈辱を与えた異端審問官共を皆殺し、返す刀で魔王たちもぶっ殺してやるぞ。詐術の魔王は今日で廃業だ。選ばれし勇者の力を存分に見せつけてやる。今度はお前が私に跪く番だ。
旧大陸を出る船の中で、詐術の魔王こと、知恵の勇者ブロンコ・ブランであるこの俺は、来る復讐に思いを馳せた。
夢の魔王 アルシェLV77
魔王LV10
リリムLV10
リリムロードLV10
闇魔法LV10
氷魔法LV10
風魔法LV10
時空魔法LV10
即死魔法LV7
魔王結界(雷属性除き9割ダメージカット)(魔王)
催眠、魅惑噛みつき、ドレインキッス(リリム)
エナジードレイン、夢渡り、夢汚染、夜(リリムロード)
シャドウ、ブラインドアイ、ステルスシェイド(闇魔法)
アイスジャベリン、アイスフィールド、ブリザード(氷魔法)
ウインドブレード、ウインドストーム、マクロバースト(風魔法)
無限格納、次元倉庫、空間転移、時空魔法『停止』(時空魔法)
永眠(即死魔法)
支配領域2000RU
ハル様(ユスラハル)LVなし
起源の深淵(あらゆる事はここから始まる)(普遍魔法)
支配領域無限大
な、なんだってー。詐術の魔王の正体は、知恵の勇者だった!?
頑張れ、アルシェ。世界の命運は君の尻尾に掛かっている。
読んでるぞー。おもしろかった。誤字脱字を見つけた。ここが変だよ。
とっとと続き書け等、思われた方は、評価、ブクマ、コメント、
レビュー等いただけるとうれしいです。
活動報告に各話制作時に考えていたことなどがありますので、
興味のある方はどうぞ。




