大霊祭(4)天空龍は伊達じゃない
2章クライマックス!
ナギール共和国側から、一騎の飛龍が飛んでくる。「プタンペンを目指して飛ぶ」、という明確な意思を感じるスピードだ。さっき見た飛龍の大群とは明らかに違う速さだった。
騎龍の背に誰かが乗っているのが見える。
飛龍はみるみる近づいてきて、俺たちの目前に音もなく舞い降りた。
「ここで何があったんですか? 龍は? 飛龍はどこにいったんですか?」
俺たちに慌てた様子で尋ねてきた、この少女。間違いない。要人誘拐事件の際、盗賊団に要人の身柄を渡した、人身売買の主犯。龍騎の勇者だ。
さて、どう答えたものか?
唇に指を立てて当て、ふうちゃんに黙っててくれるようお願いをする。こくんと、ふうちゃんがうなずいた。
言い訳は、大人の役目だからな。
「気は進まなかったが、飛龍がブレスを吐こうとしたから、街の護衛を任されていたものの責任として、処分した」
「殺したんですか?」
「そうだ」
「馬鹿な。1000騎はいたはずです。まさか全て?」
「すべて殺した」
「なんで殺した? どうして? なぜ、です? 人間が龍の生息域に進出しなければ、龍を殺す必要なんてなかったはずなのに!」
「なぜ殺したか、か。龍が攻めてくるからだよ。俺たちには、人々の生活を守る責任がある」
「責任、責任って、人間さえ良ければ、他の生き物はどうでもいいんですかッ! 龍だって生きてるんです! 生活してるんです! 龍の生息域を脅かしておいてッ! 赤龍の件だってそうです! 得意気に、龍を殺して英雄気取りですか? 龍はただ、お腹が空いていただけなのに!」
「龍が人間に殺されるのを見過ごせないというのなら、龍の無謀な行動を止めるのが君の責任だ。龍と人間の衝突を未然に防ぐ、その責任を果たしていない君が、偉そうに語るな」
「……自然を脅かす人間なんて、滅んでしまえばいいんだ」
「無責任に、駄々をこねて、自分の主張が通らないと呪いの言葉を吐き散らす。それで、満足か?」
「なんなのよ、あなたは! 大人ぶって!」
「俺は、大人だ。君は子供だな。まるで駄々っ子だ」
「黙れ。私は、あなたのことが大嫌いだ!」
「誘拐の片棒を担いで、平気で人身売買しているような犯罪者に好かれてもな」
「人身売買ですって? 恐ろしいことを言わないでッ! 私は対価なんて受け取ってない!」
「対価がなかろうが、人身売買は人身売買だ。今から君を逮捕する。だが、対価を受け取っていないなら、罪は軽くなるかもな」
「逮捕するですって? 私は勇者ですよ? 勇者になれなかった、異端審問官なんかに勝ち目があるとでも?」
「勇者は皆、自分こそが選ばれた人間だ、と傲るようだが、それが大間違いだってことを教えてやるよ」
「本っ当に、私はあなたのことが嫌いです。なんでも知ってるみたいに上から目線で見てッ」
「奇遇だな。俺も君のように、自分が世界の中心だと思って駄々をこねて喚いているだけの責任感のないガキは嫌いだよ」
「遺言は、それでいいですね! ヒューイ。やりなさい!」
グゥォオオオオン!
龍が生物を怯ませる咆哮を上げた。生きとし生けるものを震えあがらせる絶対的強者の咆哮。
でもな、俺もふうちゃんも小型龍の咆哮ぐらいでは、もう怯まない。
ふうちゃんがすばやく魔力弾を展開した。その数、凡そ50。一気に魔力弾を射出する。狙いは、龍の上の勇者だ!
龍は、勇者を守るように、回転しながら魔力弾の弾幕を避ける。バレルロールだ。小型龍とはいえ、1t近くはあるはずなのに、なんて機動力だ。
魔力弾は一発も当たらなかった。
続けて、上空からアースランスの豪雨。飛龍はこれも、雨を縫うように飛んで回避する。
龍騎の勇者の呼び名は伊達じゃないな!
加速した龍が急降下し、槍を突き出した勇者が、俺を貫きに来る。身体強化魔法LV6アクティブを発動し、転がりながらなんとか回避した。
次の瞬間には、龍ははるか上空だ。
ふうちゃんがファイアーボールを連続して射出するが、龍はブレスを吐いて、ファイアーボールをかき消した。
守りにも、ブレスを使うのか?
龍が旋回し、速度を上げて飛来する。
俺に向かってブレスを吐きつつ、突進してきた!
炎のブレスをよければ、槍の一撃が来るッ! やばい!
俺は、事象魔法『停止』を発動し、続けて軽業『速駆』でダッシュし、龍の背に飛び乗った。背後を取ってしまえば、ブレスも槍も怖くない。
俺の姿を見失い、再び龍と勇者は上空へとあがる。
龍騎の勇者が前を見たまま、石突で俺を突き落とそうと突きを繰り出してきた。
背後にいることに、気付かれたか!
俺は、事象魔法『停止』と『崩壊』を発動し、龍騎の勇者の持つ槍を叩き折り、『崩壊』で穂を消し飛ばし、空へ投げ捨てた。
突然武器を失い、龍騎の勇者が慌てた隙を見逃さず、俺は、龍の尾を『崩壊』の力で、切り飛ばした。
これで、バランスが崩れてうまく飛べなくなるはず!
ギャオオオオオン!
結果から言うと、龍の尾を切り飛ばし、バランスを崩させて、低空飛行させるという俺の作戦は、失敗だった。
龍が空中で大暴れをし、俺と龍騎の勇者を振り落としたのだ。
飛龍は、龍騎の勇者を見捨て、逃げるように龍の巣へと飛んでいく。
太陽と空が、妙に鮮やかに見えた。
絶望と諦めの表情を浮かべ、龍に手を伸ばす、龍騎の勇者。
「ヒューイ!」
飛んでいく飛龍に縋るように、龍騎の勇者が声を上げるが、龍は、騎乗手の事など一切顧みず、一目散に逃げていく。
俺は上空から落下するさなか、平泳ぎで空を泳ぐように、いつかTVで見た、スカイダイバーがそうやっていたように、龍騎の勇者の方へと向かう。
夏なのに、上空の冷たい風が頬をきっていく。
必死に手を伸ばし、ようやく龍騎の勇者を捉えることができた。
この子は、犯罪者だが、なにも死なせることはないよな?
龍騎の勇者は、身動きを取らず、ぐったりしている。顔を覗き込むと、気絶しているようだった。
重力の浮遊感が、気持ち悪い。見る見る地面が近づいてくる。
俺は、龍騎の勇者を抱きかかえ、事象魔法『逆行』を発動した。
地上まで、約30m。3秒以内には、グシャッといくはずだ。勇者は、犯罪者とはいえ、更生の余地のある若者だ。頑張って守らないとな。
俺は龍騎の勇者を、衝撃で振り落とさないように、しっかりと抱いた。
ふうちゃんが、重力魔法『浮遊』を発動したのがわかった。落下速度が遅くなるが、落下を止めるほどの効果は得られない。
俺は冷静になるよう、心がけた。
痛いの嫌だな。ちくしょう!
地面に足からつくよう、注意を払う。
グシャッと足が変な方向に曲り、激痛が垂直に走った。足から脳天を貫く鋭い痛みだ。
「痛ってッ!」
俺は龍騎の勇者を抱きかかえたまま、地面に崩れ落ちた。足の骨は、すぐさま時間を巻き戻すように再生されていく。
ファーメリア様。このチート能力、マジで痛いです!
じんわり冷や汗が出たが、龍騎の勇者をなんとか落とさず守ることに成功した。無事、龍騎の勇者を確保した。
読んでるぞー。おもしろかった。誤字脱字を見つけた。ここが変だよ。
とっとと続き書け等、思われた方は、評価、ブクマ、コメント、
レビュー等いただけるとうれしいです。
活動報告に各話製作時に考えていたことなどがありますので、
興味のある方はどうぞ。




