大霊祭(2)世界を焼き尽くす、キリュウの咆哮
1500の騎竜が俺たちの眼前に迫っていた。もう、目を凝らさなくても、うっすらと天空龍の輪郭が視認できる。
ゆっくり飛んでいるとはいえ、接敵まで3分かからないだろう。
なんて数だよ。
絶望だ。これは、どうにもならない。
「りんぞーさま。あれを追い返す方法があると言ったら、信じてくれますか?」
「いいね! 縋りたい。命がけの賭けかもしれないけど、絶望よりはマシだ」
ちょっと皮肉っぽい口調になっちまった。何やってるんだ俺は。
「ずっと思ってました。いつも、りんぞーさまの隣りにいたいって」
「やめろよ。死亡フラグみたいじゃんか」
「ずっと、りんぞーさまの隣りにいるために、何を身につければいいか、と考えてたんです」
「エアコン魔法だろ? すごく助かってるよ。手を繋がないと効果が周りの人に及ばないっていうのが謎だけど」
「ふふふ。手を繋ぐ仕様はわざとです。暑くても、私はりんぞーさまと手を繋ぎたかった」
「なあ。ふうちゃん。たしかに死ぬ可能性が大きいシチュエーションだけど、自殺するようなことは、やめてくれよ? 俺だけが生き残るような話なら、断固阻止するぞ」
「違います!」
どうやら本当に違うようだ。瞳に『二人で生き延びる』という明確な意思を感じる。
「わかったよ。続けて!」
「日本に行ったとき、りんぞーさまは不安な私と手を繋いでくれました。日本に行ったとき、りんぞーさまはお寿司を奢ってくれました。日本に行ったとき、りんぞーさまは私のわがままを聞いて、図書館に連れて行ってくれました」
「……」
「今からお見せするのは、りんぞーさまが私にくれた『力』です」
「もしかして、ガスバーナー?」
「はい! 炙りトロドラゴンにしてやります! アレをうまく追い返せたら、キスしてくれますか?」
にっこり微笑んでそんな事を言う。フラグを折っとくか?
「ふうちゃんがしたいなら、俺が寝てるときに1度だけならしてもいいぞ」
「全然、ロマンがないです」
「我慢してくれ。それより、あのときに考えてた魔法ってことなら、ふうちゃんのノートには、物騒な言葉がならんでた気がするんだけど大丈夫なのか?」
「調整をファーメリア様に手伝ってもらったので大丈夫ですよ。威力は大分落ちましたが」
女神様と連絡取れるのかよ。そういえば、ふうちゃんは巫女だったっけかな。
「もう、龍がはっきり見える。やってくれ。成功する方に賭けるよ。チップは、俺の命だ!」
「必ず、成功させてみせます! りんぞーさまは私の後ろにいてください」
「おう!」
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
ふうちゃんが、魔法を発動した!
「重力場展開!」
ズゥン、っと体が重くなる。ふうちゃんの前方の岩が地面にめり込み砕け散った。地面がメリメリ音を立てる。重力を模倣した力が大地に罅を入れる。
ふうちゃんと出会って間もない頃、戦闘訓練で食らったことのある魔法だ。今じゃ、こんなとんでもない威力になってたんだな。
「重力球生成! フィルター動作正常」
ふうちゃんが銃を構えるように手を組み合わせ前方に突き出す。ふうちゃんの指先に重力場が集中し、透明に揺らぐピンポン玉大の球体が形成される。
「無限格納、内部領域開放。領域を廃棄宇宙と接続、……完了」
球体はサッカーボール大まで膨らみ、真っ黒になり、同時に空が日食のように真っ暗になった。
光を飲み込んだ!?
「ブラックホールに、最初の星の侵入を確認、転移!」
天空龍が驚き戸惑っている。混乱によって陣形がバラバラになり警戒によって、飛行速度がさらに遅くなった。
「マイクロクエーサー、加速完了!」
重力球は円盤状に伸び全身を覆う盾ぐらいの大きさになっている。プラズマがバチバチ走っている。
空の光をも飲み込む、重力球でも『力』を抑え切れていないのか。
「りんぞーさま。射撃の号令をください!」
武者震いがすごい。俺がふうちゃんにあげた『力』だという、この魔法。どんな威力になるのか、まるで見当がつかない。
死地に踏み込む恐怖からか、強大な力を手にした責任感からか、ふうちゃんも足がすくんでいる。
わかったよ。俺の後押しがほしいんだな?
1500騎を超える天空龍達が、俺たちを警戒し、一斉にブレスを吐こうとしている。国を焦土に変えるほどの騎龍たちの圧倒的な力が、解放される。
やらせるものかよ!
「撃てーーーーーッ!」
ありったけの大声で、ふうちゃんの行動を承認する。大災害がおこったら、俺が責任をかぶってやるさ!
「対閃光防御! 重力ジェット発射!」
重力球から放出された閃光が、天空龍の圧倒的熱量を持つブレスを飲み込み、あたりを白一色に染める。
続いて、爆風と衝撃。
一瞬置いて、ゴーッという巨大なジェット音があたりに轟く!
手の指の隙間からのぞき見ると、荒れ狂う爆発的な気流が重力球から解き放たれ、叫び声をあげていた。
1500騎の放つ炎のブレスを巻き込み、1500騎の龍を巻き込み、雲をかき消し、巨大な竜巻が、空をどこまでもどこまでも貫いていく。
永遠とも思われる、数秒の時間の後、闇が消え、日食が終わった昼空には、何もなかった。
炎が前方に広がっている。
地面が抉れている。
砂が焼け、ガラス状に溶けて、宙を舞っている。
周辺が炎をまとったガラス状の砂でキラキラと光っている。
射線上のすべてのものが消し飛んでいた。
龍の大群は、その存在ごと蒸発した。
楠木麟三LV22
異世界探訪者LV4
事象魔法LV6
軽業師LV5
格闘LV7
所有スキル
『崩壊』・『逆行』・『停止』(事象魔法)(リキャストタイム24時間)
異世界転移(リキャストタイム21日)
棒高跳び、綱渡り、速駆(軽業師)
身体強化魔法(パッシブLV5、アクティブLV6)
支配領域3RU
雪代双葉LV23
ファーメルの巫女LV4
時空魔法LV5
重力魔法LV7
起源魔法LV6
異世界探訪者LV1
所有スキル
魔力弾、ファイヤーボール、アースランス、アイスジャベリン、ウインドブレード
ファイヤーウォール、アースガード、アイスフィールド、ウインドストーム
クリアブラッド、ライト、フラッシュ、ライトニングプラズマ(属性魔法)
ヒール、ヒールプラス(回復魔法)
クリーン、アンチポイズン(生活魔法)
無限格納(時空魔法)
重力場生成、圧縮、浮遊(重力魔法)
エアコン、重力ジェット(起源魔法)
身体強化魔法(パッシブLV2、アクティブLV3)
・用語解説
マイクロクエーサー――ブラックホールを含む、クエーサーと比べると
桁違いに小さい連星系




