表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/87

悪役令嬢志望(2)悪役令嬢は屈しない

<アンナ・アナポーラ 視点>


「マザー。侵入者です。数4。入り口の守衛が倒されました。まっすぐここへ向かってきます」


 ソファに座る私の足をマッサージしながら、1号が言った。


 1号。それは転生後に初めてできた下僕。私に付き従う執事のような立場の子。唯一信頼の置ける子だ。


 カツ……、カツ……、カツ。


 階段をのぼってくる足音がする。余裕が感じられるゆっくりした足取り。敗北なんて微塵も考えていなさそうね。


 なればこそ、付け入る隙もある。


「支配領域に入った。1号。索敵はもういいわ」


 1号が戦闘態勢に入る。孤児院の最高傑作にして、この私に、最もふさわしいサポーター。1号、――ジョンが、周辺の風の流れを寸断した。


 私も、最強無敵のチート、月夜臭(フェロモン)をいつでも噴出できるよう魔力を溜める。


 賊は、全員女か。目的は復讐? 金目? まあいい。もうすでに射程内だ。


 階段を登りきり、女たちが姿を表した。


 銃を構えた長身の女、メイスを持った山のような僧服の女、自分の身長ほどある巨大な大剣を担いだ女、小柄なローブの女。


 全員赤髪とくれば、こいつらの正体は一つ。特級ハンター、スカーレットバレット。


 なるほど。慢心するのはそういうわけか。


 国においては並ぶものなく、大陸にその名を轟かせる世界有数の特級ハンター。


 彼らを動かすには、莫大な資金が必要なはず。


 襲撃の理由から、『金目の線』が消えた。うちの孤児院を襲うのに特級ハンターなんて雇った日には、大赤字だ。怨恨に違いない。


 お家取り潰しになった男爵家か? それとも、不倫がバレ、奥方に刺された伯爵様か?


 どうせ、依頼人の言葉を真に受けて私を悪役に仕立て、正義の鉄槌でも下すつもりなのでしょう? レベル差、数十のイージーオペレーションとでも、思っているのでしょう?


 悪いけど、返り討ちよ?


 私はそんなに甘い女じゃないの。


 スカーレットが何事かを発言するよりも早く、私は月夜臭(フェロモン)を発動する。会話するとでも思った? スカーレットが驚愕に目を見開いている。支配したあとで、ゆっくり吐かせたほうが賢いでしょう?


 私の前で、嘘なんて一言だって許さないわ。


 魔女風の女、――紅といったかしら? 大慌てで風魔法を発動しようとしているけれど。残念ね。私は自分の弱点をとうの昔に把握している。対策済みよ。


 風魔法が発動しないことに、紅はパニックになっている。ああー、笑える! 強者が絶望する表情は最高だわ。


「待ってくれ! 勝手に侵入したことは謝罪する。話を聞いてくれ」


 紅が叫ぶ!


 ふふふ。まるで、高い身分。圧倒的な資金を持つ王子様が世間知らずの悪役令嬢の私に、跪いて、復縁を懇願してくるようだわ。


 私よりずっとレベルが高い? ずっと戦闘経験が多い? ずっと魔力が高い? ずっと戦闘力が高い? お金持ち? 美人? イケメン? 高身分? だから何?


 それで? この私が屈するとでも?


 悪役令嬢は屈しない!


 不利な局面こそが、私を輝かせるのよ!


「くう。きさま……。用件を聞きもせずにこんな真似を」

「黙れ! そして、動くな!」

「……」


「侵入者風情が薄汚い口を開くな」


 大剣士に『支配の力』が通った。続けて、スカーレットが。赤壁が動かなくなる。

 やっぱり、薬と一緒で、図体が大きいと効きづらくなるのね。


 賊を退治するつもりが、まさか最強の護衛を手に入れることになるとはね。今日はなんてツイてるのかしら!


「皆、暫く辛抱して。必ず助ける」


 ものすごく小さな声で、蚊の泣くような小さな声で、最も体重が軽いはずの紅が、何事かをつぶやいたような気がした。


「紅? 今なにか言った?」

「……」

「まさかね」


 まあいい。支配の力を通して、命令を発動させてしまおう!


「お前たち4人に命じるッ! 今から私の護衛を勤めろ。私に害なすものを殺せ。私の側20RUから離れるな。私の命令に絶対服従しろ。わかったら、裸になって四つん這いになれ!」


 精神防御の宝具なんかを、隠し持っていると厄介だからね。


 スカーレットバレットの4人が、武装を解除し、いそいそと服を脱ぎ、跪いて真っ裸で犬畜生のように四つん這いになった。


 意識は残してあるので、彼女らの顔が、恥辱に真っ赤に染まっている。


 強者を屈服させるのは本当に楽しいわ!


 1号! 宝具を隠していないか、股ぐらに顔を突っ込んで確認して頂戴!


 スカーレットバレットの4人の表情が、恐怖に歪む。


 ああー! 楽しい。好きでもない男に蹂躙される経験なんてないでしょう?

 せいぜい悔しがるといい。お前たちは主役じゃないの。死にゆくチート魔女の役を、しっかりと演じきるのね。


 こいつらに、早速、どブス、マリー――雇い主についての情報を話してもらおう。チート魔女の魔法は、もう解けているのだから……。


 さて、今からこの私――悪役令嬢の、楽しい楽しい反撃ざまぁの時間よ。


▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽


 ファーメル教国、ファーメル大聖堂。異端審問官専用ロビーにて。


 ロビーには、ビリー、ヘンリーさん、イシュカさん、俺、ふうちゃんが集まっている。


 全員が円卓につくと、おもむろにビリーが語りだした。


「今回は、コルベストからの依頼だ。コルベストのスラムで、孤児の死体が見つかったらしい」


 今日はコルベスト産のコーヒー豆かな。酸味がある。


「スラムで孤児の遺体って、そりゃあ、かわいそうだとは思うが、日常の出来事じゃないのか?」


 ヘンリーが困惑した表情でビリーに聞いた。


「それが、性器が切り取られた少年の遺体で、そんな例がもう、十件以上起こってるとしてもか?」


 俺含め、全員が、苦虫を噛み潰したような顔をしている。そりゃあそうだ。ろくでもない敵に決まってる。


「ボク、気分が悪くなってきたよ」


 イシュカさん、俺もです。


「はじめは、コルベストの衛兵たちも、スラムでの出来事ということで黙認していたんだが、数が多くてな。教会に調査の依頼が来た」


「孤児院が事件に関係しているってことかい?」


「ああ。諜報部の調べでは、孤児院は黒だそうだ」


「孤児院の院長は、『女帝』と呼ばれる辣腕で、貴族を通じて、『金儲け』をしているらしい」


「奴隷のように孤児を売買してるってことか?」


「まさか! そんなことをしたら、すぐにバレちまうだろう?」


 ヘンリーさんが俺とビリーを交互に見た。


「孤児院は、孤児をスパイに仕立てている……。『金儲け』は、脅迫によって、というわけですね? 内通に失敗したり、命令違反したりする孤児を『処分』しているというわけですか? 見せしめに酷いことをして……」


 ふうちゃんの握りしめられた手が震えている。静かな声のトーンに秘められた感情は、激怒だ。


「『金儲け』が成功を収めている以上、孤児院には、スパイを育成するための『なにか』があるということだ。女帝が召還者であることから、諜報部は、女帝を、『洗脳』系の力を持つ勇者と推定している」


「洗脳かよ。対策は?」


「お前たちには、精神防御強化の護符を持っていってもらう。とはいえ、絶対の耐性を持っている、とまでは言えないので、有効射程の見極めは怠るな」


「『女帝』が、私設軍などを持っている可能性は?」


「ない。というか流石に軍を持っているなら、異端審問官の手に負えん。その場合は、教会騎士団を動かすよ」


「せいぜいハンターを護衛に雇っているってところか?」


「そうだ」


 ハンターだって、ピンきりだろうけどな。


「では、健闘を祈る」


「おう!」


 俺たちは、装備を整えコルベスタへ向かった。




ジョン(1号)LV12

格闘LV4

空間魔法LV6

索敵LV2


所有スキル

索敵(索敵)

空間安定、空間切断、空間圧縮、縮地(空間魔法)

身体強化魔法(パッシブLV3)


支配領域100RU

・用語解説

ハンターの等級――特級(大陸に名が轟くレベル)

         一級(国で数パーティーしかいない)

         二級(ギルドトップクラス)

         三級(ベテラン)

         四級(一般的)

         五級(なりたて)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ