悪役令嬢志望(1)香の勇者
<アンナ・アナポーラ視点>
私、――アンナは、『幼馴染のジョン』と愛し合っていた。でも、幸せな日々は長くは続かなかった。運命の日が唐突に訪れたのね。
あの日、運命の果樹園で王子様に見初められた私は、王子様の婚約者として過ごすことになった。
王家の命令には逆らえない。ごめんなさいジョン。ジョンは涙ながらに身を引いてくれた。花嫁修業、習い事は辛かった。でもめげない。玉の輿に乗るためですもの。ジョンも応援してくれているわ。
王子様との交際は順調だったのに、ある日急な横やりが入ったの。
私と同じく玉の輿を狙う、公爵家のどブス、あばたのマリーが、森に住む死にかけでヨボヨボなチート魔女に、私を呪うように依頼をしたのよ!
なんてゲスな依頼! 本当にゲスな依頼よ! アンマリよ!
私は、『一日に十回、どブス、マリーを罵らないと、幼馴染のジョンが死ぬ呪い』をかけられてしまったの。
ああ、私は汚い言葉なんて使いたくないのに。だけど、あばたのマリーを罵ってしまうのは仕方のないことなの。私が玉の輿に乗るために泣く泣く身を引いてくれた、聞き分けの良いジョンのことを見捨てるなんてできないわ。ああ、なんて健気な私。
だけど運命のいたずらか、王子様に、『私がどブス、マリーを罵っている現場』を見られてしまったの。『アンナ! 態度を改めてくれなければ、君とは結婚できない!』、そう、王子様から最後通牒を突きつけられてしまったわ。
『お~っホッホッホ!』と高らかに嗤う、どブス、マリー。悔しいっ! それでも私はどブス、マリーを罵ることをやめない。やめられないっ!
王子様は、チート魔女の力で美しくなったどブス、マリー(美マリー)に夢中。
私のことをちっとも見てくれなくなった。
やっぱり男の人は美人が好きなの?
ああ、私の負けなの? どブスなマリーに、可憐なる美少女の私は、あらぬ罪を着せられて、王子様に捨てられてしまうの? ああ、なんて可愛そうな私。
でも、神は私を見捨てなかった。
チート魔女がポックリと寿命で死んで、魔法が解けたの。美マリーはもとのどブス、マリーに逆戻り。
どブス、マリーを抱いている王子様の慌てぶりったらなかったわ。
シミひとつない肌がぶつぶつだらけになり、ぶつぶつから白い膿がニュルンと出てくるんですもの!
焦った王子様は、私に土下座し、『よりを戻してくれ! アンナ!』と懇願するけれど、――『僕が間違っていた、僕には君しかいない! 結婚してくれ何でもするから』と必死に懇願するけれど、私はそれを振って、ジョンと結婚するの。ねぇ、ジョン? これって、真実の愛だわ! そうよね? ジョン! ――
私は、転生するなら、こんな『悪役令嬢』役として転生し、真実の愛に溺れたかった。
パタン、と、なろう小説を書いたノートを閉じる。
だのに、転生したのは、剣と魔法の坊や向け世界。
でも、仕方ない。切り替えなきゃね。せっかく失った命を取り戻したんだもの。私はこの世界に自分の居場所を作った。
孤児院の経営。これが私の天職。
勇者? 魔王? そんな物知らないわ。私はスローライフを送るの。
私のチートスキルは、月夜臭。この力で私は女も男も跪かせてみせる。
まず、孤児院の美少年達をスパイに育てあげ、子供のいない貴族たちに売りつける。貴族には必ず後ろ暗いところがある。私は貴族たちの秘密を握り、上流階級の偉ぶった女たちにマウントするの。
そうしてこうして、今や私は女帝。伯爵夫人だろうが、公爵夫人だろうがこの私に跪くわ。
こんなふうに、ねッ!!!
公爵夫人(豚)の頭を踏みつけていると、使用人が入出許可を求めてきた。
話を聞くと12~3歳ぐらいの少年が謁見を求めてきたという。孤児院の子だ。たしか彼は、121号だったかな。13歳か。初等魔術学院に13歳で入学した優秀な子。
ここらへんの国では、6歳になった子女は、9年間(~15)基礎学校で学習し、成績優秀なものだけが、初等魔術学院に3年間通うことができる。
普通に優秀な子は15歳で初等魔術学院に入学する。13歳で飛び級入学した121号は、かなりの期待の星なのよ。
「会いましょう。通しなさい」
しばらくすると少年(121号)が現れた。
「マザー。ぼく、勉強についていけません。初等魔術学院をやめたいです。教国は毎日通うには遠いし、好きな女の子と遊ぶ時間がとれません」
「好きな女の子と遊ぶ? そんなことを許可した覚えはないわ。その女の入れ知恵ね? どこのどいつ? このアタシの商品を汚そうとするのは! 今すぐ殺してやるから、教えなさい!!」
私は手を振り上げ121号を張り倒した!
バチコーン!
「ひぅっ!!」
「お前の顔を整形してやったのは、女と遊ばせるためじゃない! 貴族の行き遅れババァに高く売りつけるためよ!」
「ひぃっ! その子のことは諦めます! その子には近づきません! 許してください!」
「ふん。わかったらとっとと、孤児院に戻って明日の予習でもしなさい」
「学校は、学校だけは、やめさせてください。毎日、毎日落ちこぼれの烙印を押されるのが辛いんです。1日10時間も勉強してるのに授業についていけないんです」
「甘ったれたことを言わないで頂戴。教国には、12歳で高等魔術学院を主席卒業した子がいるそうじゃない」
「僕をあんな化物と一緒にしないでください!」
「別に主席卒業しろとまでは言わないわ。初等でも、魔術学院卒業のブランドは、爵位の高い石女どもに有効なのよ。これは必要なことなの。我慢して通いなさい」
「むりです。僕もうやめます」
「そう、ならやめなさい。そしてここから出ていきなさい」
「何、嬉しそうな顔をしているの? お前の養育費を回収できなくなった違約金は、身体で払ってもらうわ。お前に現実を教えてあげる。子供を作れない体になりなさい」
「そんな……! お許しください! お許しください! 学校に通います。僕、学校に通いますから」
「はっ! いまさら遅い。思い通りにならない駒なんてね、欲しがるものはいないのよ。お前のようなゴミ以下のクズ野郎を商品として売れるわけないでしょう!」
「115号、120号、足を抑えなさい。118号。お前はコイツと仲が良かったわね。このハサミで、コイツの粗末なものをチ○斬りなさい!」
121号のズボンをパンツごとおろし、足を開かせる。
「119号は焼きごての用意。ここで死なれるのはまずいから焼いて止血してあげなさい。まぁ、それをやっちゃうと、どんな大金を詰んでも、回復魔法で直せなくなるけどね。ふふふ。いい? 118号。根本からすっぱり、チ○斬るのよ」
「はい! マザー!」
ジュウジュウ音を立てて、焼きごてが真っ赤に赤熱する!
「やめてよッ! 118号。いっしょに耐えてきた仲間じゃないか。切られたら僕、もう好きな子と会えなくなる」
「夢を見るな。121号。俺たちはマザーの働き蜂にならなければいけなかったんだ。そうなれないものは、羽をむしられて巣から追放されるんだよ」
そのとおり! 私は慈善事業をやってるわけじゃないのよ。卵を産まない鶏はミキサーに掛けられるの。
「嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!」
「我慢しろ121号。お前は堕ちていく運命だったんだ」
ハサミが肉に食い込んでいく。血が一筋垂れ落ち、床を汚した。
「アッ! アアアアアーーーーッッツ!」
バツン!!
「ギャアアアアア!!」
ジュウウウウッ!
揮発したアンモニア臭と焼け焦げた硫黄を含むタンパク質の匂いが周辺に漂う。
悲鳴が実に心地良い。今日はいいワインが飲めそうだわ。
「痛い! 痛い! 痛い! 痛いッ! あああぅぅうううッッッ!!!」
「その子を捨ててきなさい!」
「はい、マザー!」
少年は、コルベスト王都コルベスタのスラム街の路地裏に、裸で捨てられた。
「ビューオーブを見せなさい。ふふっ。ああー、痛そう。ははは。チ○斬りの瞬間が実によくとれてるわね。そそるわ! 118号。とれたナニをきれいに洗って、薬品漬けにして、いつものようにチ○斬りの瞬間のビューオーブとともに飾っておきなさい」
121号で、30人分。夫に不満を持つ貴族の女たちがかわるがわる大金を持って見に来る、いい娯楽ができたわ。ふふふふふ。あはははははははは!
香の勇者アンナ・アナポーラLV13
香魔法LV6
ムチ使いLV3
整形LV3
勇者LV1
所有スキル
催眠香、催淫香、月夜臭(香魔法)
絡みつけ、ひき割り、乱舞(ムチ使い)
骨削り、美顔、脂肪吸引(整形)
ヒール(勇者)
身体強化魔法(LV2パッシブ)
支配領域20RU
・用語解説
悪役令嬢――敵役の高身分の若い女性。何らかの事情で
そう演じざるを得なかったりすると、悲劇になる。
たいていの場合、酷い末路が用意されている。
ビューオーブ――動画を録画し、あとで見られる魔法の玉。音声は出ない。
何度でも使える。主に娯楽用だが、高価なので
普及はしていない。




