プロローグ(2)双葉の思い
<雪代双葉視点>
~異世界 ファーメル教国にて~
夜。ふかふかのベッドの上にちょこんと座り、足をパタパタさせながら、私――雪代双葉はいつものように、女神ファーメリア様に一日の出来事を報告していた。
女神ファーメリア様は、私が小さい頃には、よく現界して遊び相手になってくださったこともある気さくな神様で、不敬ながら私は、女神様を大好きな近所のお姉さんのように思っている。
「ファーメリア様聞いてください。今日は一葉お父様が、久しぶりにいらしたのですが……」
報告――といっても、その実、内容は一方向的であり、客観的に見れば内省または日記に近いものなのだが、その日は、いつもと異なり返事があった。
つまり、一方的な祈りが、会話になったのである。
「わが友、雪代青葉の孫、双葉よ。聞こえますか?」
「ひゃいっ! ファーメリア様! 聞こえます!」
声、裏返っちゃった!
「まず、少し落ち着きましょう」
「はい」
姿は見えども声は聞こえず。神様なので仕方のないことだが、頭の中に直接声を投げかけられるのは何年も巫女をやってる私でもびっくりするものなのだ。
「びっくりは、まぁいいとして、近所のお姉さんですか。どちらかというと私はあなたの母のような気分なのですが……」
「ごめんなさい」
「いいんですよ、双葉。巫女には気楽に接してもらったほうが、私も気軽に神託を出せます」
「さて、あなたに一つ問います。日本から一人、わが使徒たる転生者が、異端審問官として執行機関に加わります。双葉。あなたはその者、楠木麟三の付き人になることを望みますか?」
「青葉お祖父様と同じ、ニホンからの転生者ですか?」
ニホン、お祖父様の生まれた国。そして親友のいろはちゃんの生まれた国。
「ええ。双葉が付き人になるなら、限定的ながら日本に行ける力を彼に与えます。あなたが毎夜のように希望していた念願の日本観光ができますよ。どうですか?」
いってみたいですー。……だけど、付き人か。
付き人、――それは異世界からくる転生者の案内役だ。パートナーとして行動をともにし、文化の違いからくる困難を乗り越える手助けをする役目。大抵は異性がなり、そのままゴールインする人もいる。
まだそういうのは私には早いんじゃないだろうか? なんだかそんな気がする。正直、気が進まない。
私は今まで、この年にしては、多くの男性に言い寄られてきた。身体目当ての人、巫女としての権力目当ての人、お金目当ての人、いろいろいたが、全部断ってきた。
本当の私を見てくれる人は、お祖父様やお父様しかいなかった。学校に通っていたころも、頻繁に飛び級を繰り返したせいか、結局、男の子の友達はできなかった。
私は男の人が苦手なのだ。うーん。
そもそも、私が日本に行きたいのは観光だけが目的じゃない。大切なものが、日本にある気がするんです。
「ファーメリア様。その麟三様という方は、どんな方なのでしょうか?」
――、!? 麟三様、という響きに、なにか強い違和感を感じた。
「なかなか好ましい善性の持ち主ですよ。麟三は。すこしスケベで博打好きのところがありますが」
スケベか。身体目当て、になるのかな?
「……」
「気がすすみませんか? 麟三は、『向こうの双葉』を救って命を落とし、転生することになりました。覚えがありませんか? そうそう、この絵です」
コミカルな横を向いた男性の絵柄だ。私はこの絵を知っている。妙な確信があった。この絵の名前も知っている。
写楽! 私はこの絵を探してたんだ。
コミカルな絵柄を見て、どうして、涙がこみ上げてくるんだろう?
子供の頃に何度も描いた、『手をつないだ男の人と私』の絵。あの絵の男性は、本当はお父様じゃなかった。
閉ざされた記憶が甦ってくる……。
――、もぬけの殻の病室を見て、ぽっかり心に穴が空いた。
黒い服で出かける、悲しそうなお母様を見て、大切なものが失われた気がした。
こんなに心がざわめくのはなぜ? 私の心は決まってた――。
「謹んでお受けいたします。ファーメリア様」
「では、双葉。麟三をよろしく頼みますよ」
「はい。その方と、お会いするのが楽しみです」
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
夜、その日、私は夢を見た。
「おともだちのあかしだよ?」
幼き日の私が、にっこりと微笑んでいた。
読んでるぞー。おもしろかった。誤字脱字を見つけた。ここが変だよ。
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活動報告に各話制作時に考えていたことなどがありますので、
興味のある方はどうぞ。