枢機卿の依頼
ファーメル教、大聖堂敷地内にある『会議室』に、マクベス教官、俺、ふうちゃん、ロブ、アシュリーが集まっていた。
今日は、本部のお偉いさん直々の依頼だという。
お偉いさん直々の依頼が、円卓でいいのだろうか?
そう、――この『会議室』も、異端審問官専用ロビーのように円卓なのだ。
「上座とか、ないよね?」
隣りに座ったふうちゃんに聞く。
「ないです。ファーメル教国の打ち合わせ用のテーブルは、全部円卓ですよ」
「まじかよ。それはそれで、緊張するんだが」
暫く待つと、重そうなローブを着た非常に美しい女性を、高価そうなフルプレートに身を包んだ、がっしりした大柄な騎士がエスコートしてきた。
あれがミスリルなのかな? 白銀色の重厚そうな全身装甲は、見た目に反して軽快な動きだ。
「こちらは、枢機卿猊下だ」
マクベス教官が、女性を最敬礼で迎い入れる。慌てて俺も礼をする。
(やべぇ……。枢機卿って、実質、国のトップじゃんか!)
「改めなさい。マクベス。ファーメリア様のもとに人は平等。それがファーメル教国の教えです。私のことはエミリーと呼んでください」
「かしこまりました、エミリー様」
すごい美人だな。かなり若い人だけど、いくつぐらいだろう? 枢機卿をやっている人が、まさか十代ってことは、ないと思うんだけど……。
エミリーさんは、サラサラの銀髪で長髪、前に垂らした髪の左右がくるくる巻いている。目は大きく赤紫色の瞳をしている。とても美しい女性で、厚いローブの上からでもわかるぐらいハッキリしたスタイルをしている。
「さて、そちらの二人は、初めて見る方たちですね。私の名はエミリー。あなたたちの名前を聞かせてください」
「ア……、アシュリー・オースティンと申しますぅ」
アシュリーが気圧されてるところなんて初めてみたぞ。まじかよ?
エミリーさんは、こっちを見てニコニコしてる。
「俺は、楠木麟三です」
「リンゾー! いくらなんでも、その口の聞き方は!」
「良いのです。マクベス。そうですか、あなたがあの『赤竜殺し』ですか。あなたには個人的に期待してますよ?」
「ありがとうございます!」
うおー! すごい人とコネができたぜ!
席についた者たちに、お茶が注がれていく。目の前には、見慣れた湯呑。
あっ、これ、俺とふうちゃんが作った湯呑だ! ビリーのやつ教会に売りやがった!
ぐぬぬ。ビリーめぇ!
ふと、エミリーさんをエスコートしてきた鎧の『大男』を見ると、マイ湯呑を腰のポーチから取り出そうとしていた。
全身鎧の護衛騎士が『男』だとわかったのは、お茶を飲むために兜部分の口元を開いたためだ。ごつい顎に黒い髭。
見るからに強そうだ。
ゴソゴソ……。
籠手が邪魔で大変そうだな。
もぞもぞ……。
そんなところに湯呑を入れてると、割れるぞ!
「オレのは、ここに注いでください!」
喋ったぁ! 声渋いなー。 ってその湯呑、ふうちゃんにあげようと思ってた、渾身の『がしゃどくろ』じゃねーか。このおっさんの私物になってるのかよ。トホホ。
「では、さっそく依頼の話に入りましょう。ある要人の子――まぁ、子供と言っても既に成人している子なのですが――、がさらわれました。そのことについて盗賊団が、犯行声明と身代金の要求をしてきているのですが、教会騎士団を動かしたら子供を殺すと主張しています。この子を無事に取り戻してほしいのです」
エミリーさんがうつむき、目を伏せながら言った。
たしか、13歳で成人だったか? さらわれたのって、エミリーさんの子供かな? エミリーさん一体いくつなんだろうな?
「マクベス教官。転移魔法の使い手を作戦に組み込んでください。ペリーがいれば、成功率が跳ね上がります」
「無理だ。ペリーは別件で手が離せん」
「いろはさんは?」
「剣の勇者は、なおのことだ。転移魔法の使い手というものは、いつでも引っ張りだこなんだ。覚えておけ」
「安心してください。リンゾー。人質救出のエキスパートで、特級ハンターの、スカーレットバレットに人質の救出を依頼しています。転移魔法の使い手も彼女らの中に、ちゃんといます。あなた達は、そのサポートをしてほしい」
エミリーさんが言った。
「そうですか。よかった」
「特級ハンターを招聘するほどの、重要人物というわけですか」
「ええ。その子は、古代帝国ラブレスの王族の血を引いていて、ラブレスの教義で言うところの『封印の神子』にあたります」
「ラブレスの遺産が目当て、ということでしょうか?」
ふうちゃんが手を上げて聞いた。
ラブレスの遺産ってなんだろう? あとでふうちゃんに聞いておこう。
「身代金要求をしているのは『盗賊団』です。それはないでしょう。遺産は、『かつて人の世を救ったもの』で、売値がつくようなものではありません。個人的には、ないと思います。ですが、万一があってはいけません。そのための依頼です」
「私達はスカーレットバレットの面々を援護して、無事人質を奪還し連れ帰るのが仕事というわけですね」
「ええ。盗賊団と戦う必要はありませんし、身代金は渡してしまってかまいません。人命最優先でお願いします。そうですね、スカーレットバレットと面通しをしておきましょう。スカーレットバレットの皆さんに入室してもらってください!」
暫く待つと、4人の女性が会議室に入室してきた。全員20代半ばぐらいかな。落ち着いた雰囲気をまとっている。
スカーレットバレットの4人が、自己紹介を始めた。
銃のスカーレットさん――彼女は、銃身が長く、ロブのそれよりも大口径のライフルをもっている。スカーレットバレットのリーダーで長身だ。俺や自称180cmのマクベス教官より背が高い。180cmぐらいかな。腰まである赤髪。ルックスは俺と同レベル。つまりは、まぁまぁってことだ。
盾のレッドさん――『赤壁』という二つ名がついているらしい。小山のように巨大な女性だ。おかっぱ頭の赤髪。おにぎりのような三角形体型で、身長190cmはありそうだ。体重100kgは、軽く超えているだろう。
赤いけど、なんとかレンジャーだと、カレーを食べてるポジションだな。
魔法の紅さん――赤いローブを纏っている。赤髪。時空魔法使いで、空間転移は、この人が使うらしい。身長150cmぐらい。小柄だ。能力隠蔽のスキルでもあるのか、そういう装備を身に着けているのか、取り立てて凄みを感じない。
剣の茜さん――分厚い大剣を担いだ筋肉質の女性。身長170cmぐらい。赤髪のオールバックで男装の麗人といった風情だ。青年剣士のように見えなくもない。かなりしっかりした黒い大型の鎧を身に着けている。女性にモテる女性と言った感じだな。
スカーレットバレットは、これら前衛2+後衛2のパーティーだった。
彼女たちの自己紹介が終わった。
「では、救出作戦を始めましょう」
「おう!」
「作戦の成功を祈ります」
皆が席を立ち、目的地へと散っていく。俺も、席を立とうとしたとき、エミリーさんに呼び止められた。
「リンゾー。こんなところで言うべきことではないかもしれませんが、一言だけ言わせてください」
「はい、なんでしょう?」
「娘をよろしくおねがいします」
エミリーさんが深々と頭を下げた。
「はい。お嬢さんは全力で助け出してみせます!」
俺はキメ顔で言った。
だって、こんな美人なエミリーさんの娘さんだよ。いやがおうにも、モチベーションあがってくるじゃん。将来きっといい女になるって。
一瞬驚いた顔をしたあと、エミリーさんが微笑んだ。笑顔は、さらに美しくなるんだな。
道すがら、俺は地球の両親のことを思い出していた。
子を思う親の気持ちか……。もう両親に会えないと思うと、しみじみしてくるな。
親、親、親か。
そうだよ!
ふと、ふうちゃんのご両親に、未だ挨拶をしてないことに気が付いた。ふうちゃんには、もう何ヶ月もお世話になってるっていうのに……。
「ふうちゃんのご両親にも挨拶しないとな」
ふうちゃんが、びっくりと、――まるで、プリン鉄砲でも食らったような顔をしている。
かわいい。
「今、しましたよ?」
ふうちゃんが俺を見上げ、真顔で恐ろしいことを言う。
「えっ!?」
「娘をよろしく、っていってました」
俺はエミリーさんのサラサラの髪、美しいスタイル、美しい笑顔を思い出す……。
「うそだろ? まじかよ、変な受け答えしちゃったぞ!?」
まさか、ふうちゃんのお母さんがエミリーさんだなんて……。やっちまった!!
「……でも、お父さんにはまだ挨拶してないからな」
気を取り直せ。俺! まだ、セーフだセーフ。半分セーフ。ツーアウトツーストライクだ。
気を取り直す。冷静に。冷静にだ。
「お母様の隣りにいた全身鎧の騎士団長が、お父様です」
ゴクリ。
無意識に喉が音を鳴らした。
「がしゃどくろを、持ってた人?」
ふうちゃんは、なにも言わず、にっこり微笑んだ。
「実は、笑いを堪えるのに必死でした」
「言えよ!」
スカーレット/LV36
狙撃LV10
早打ちLV8
狩人LV9
生活魔法LV5
格闘LV4
狙い撃ち、手ぶれ補正、風読み、反動抑制、
夾叉射撃(狙撃)
クイックドロー、リロード高速化、曲射(早打ち)
追跡、尾行、罠生成、連射、視覚向上(狩人)
火起こし、水生成(生活魔法)
身体強化魔法(LV6パッシブ、LV7アクティブ)
支配領域1000RU
レッド/LV34
モンクLV10
ハイモンクLV4
棒術LV10
僧侶LV10
集気法、練気法、大防御(モンク)
闘気法、スーパーアーマー(ハイモンク)
突き、振り回し、足払い、鉄槌、連打(棒術)
アンチポイズン、ヒール、ヒールプラス、ヒールオール(僧侶)
身体強化魔法(LV7パッシブ、LV8アクティブ)
支配領域20RU
紅/LV35
魔導士LV10
時空魔法LV10
邪眼使いLV10
言霊使いLV5
飛行、ダメージキャスリング、魔力弾、ファイヤーボール、
アースランス、アイスジャベリン、ウインドブレード、
ファイヤーウォール、アースガード、アイスフィールド、
ウインドストーム、ファイヤーブラスト、アースクエイク、
ブリザード、マクロバースト(魔導士)
空間転移、時空魔法『停止』、無限格納(時空魔法)
千里眼、透視、暗視、俯瞰視、拘束の邪眼(邪眼使い)
向上の真言、癒やしの真言、虐殺の真言(言霊使い)
支配領域1200RU
茜/LV32
大剣士LV10
重騎士LV10
炎魔法LV10
狂戦士LV2
弾き飛ばし、両断、なぎ払い、旋風切り、片手持ち(大剣士)
味方ガード、自動回復、突撃、ガード、重量軽減(重騎士)
ファイヤーボール、ファイヤーウォール、ファイヤーブラスト
(炎魔法)
狂戦士化(狂戦士)
身体強化魔法(LV7パッシブ、LV8アクティブ)
支配領域300RU
・用語解説
ミスリル――軽くて強くて魔力を通しやすい希少金属。
がしゃどくろの湯呑――巨大な骨格標本のような日本の妖怪が描かれた麟三
作画の湯呑。双葉は、家で見ているので、父親が
持ち主だということを、だいぶ前から知っていた。




