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★土魔法の恐怖? 工事用ゴレコン現る


 ロビーに呼び出され席につくとサヤさんがコーヒーを注いでくれた。


 今日、ビリーに呼ばれたのは俺とふうちゃんだけだ。

 たぶんそこまで重大な案件じゃないんだろうな。


「リンゾーくん。今日のコーヒーはいかがですか?」


 難しい顔をしてたかな? サヤさんが珍しく不安顔だ。


「ちょっと苦味が強いですね。俺は少し苦手です」

「なるほど。覚えておきますね。グラナの森は、コーヒー豆を食べる魔物が多いからグラナ産の豆は苦味が強いんですよ。防御反応っていうらしいです。取りに行くのが楽だから安価なんですけどね」

「へぇ。焙煎の具合じゃないんだ? そういうのあるんですねぇ」


 ずずずーっと、できるだけ音を立てないようにしながらコーヒーをひとすすり。

 円卓で、ビリーが熱弁を振るっている。


 金貨が消える事件が収まったと思った矢先、今度は商業ギルドの『貸し金庫』が襲われる事件が多発しているらしい。


 貸し金庫――、平たく言えば、銀行のようなものだ。


 金貨なんかを手元においておくと盗まれるから、商人やハンターたちは普通お金を貸し金庫に入れる。商業ギルドのカードには金庫に入れた貨幣の残高が表示され電子マネー的な取引にも対応しているらしい。お金をひとまとめにしておいて記録だけであっちからこっちにお金を動かすわけだ。金庫は当然支部ごとにそれぞれ護衛の専属ハンターを雇っていてがっちり守られているはずなのだが……。


 あれ? これって結構重要案件じゃね?

 幸いなことに、金庫の中身が根こそぎ盗まれる感じじゃなく、支部ごとにちょっとした規模の財産が抜かれていくらしい。

 スケールがでかい割に、ごっそり持っていかないところが庶民的だ。


「犯人は単独。手口が同じことから同一犯と見られる」


 護衛たちは何をしてるんだ?


「ここから先は、公開していない情報だが、犯人は工事用ゴレコンを使って『貸し金庫』を襲っている」

「ゴレコンってあれだろ? 町中を走ってる電車みたいなやつ」


「そうだが、ゴレコンにも色々あってな。軍用や工事用は二足歩行のゴーレムなんだ」


『二足歩行のゴーレム』って普通のゴーレムじゃん。

 待てよ? 人間が動かせる二足歩行のゴーレム!? それってロボットじゃん! 俄然興味が湧いてきたぜ。


「二足歩行のゴーレムで工事をすんの?」

「します。りんぞーさまの世界ではサスペンション付きの板を回す不思議な車を使うんですよね?」

「ほう? よく知ってるな双葉。それも日本語を勉強した絵本に書いてあったのか?」

「そうです」


 ふうちゃんは日本で実物を見てるからな。


「しかし、こっちではブルドーザーが不思議マシンになるのか」


 ふうちゃんの目がキラキラしてるわ。


履帯りたいが発明されていないというのもあるんだが、二足歩行も意外と便利なんだぞ? 車輪より小回りが利くし高低差にも強い。アームの先にアタッチメントをつければ巨人になった感覚で工事ができる。金貨だっていっぺんに持っていける」


 いきなり現実に引き戻されたよ。


「相手がでかいからハンターの手には負えないってこと?」

「それもあるが、その工事用ゴレコンには、土砂を動かしやすくするために土魔法のオーブが装着されていてな。コイツがまずいんだ」


 土魔法なぁ。ありふれた魔法じゃないのか? 土魔法ならフィオもふうちゃんも使えるだろうに。


「ゴレコンにはゴーレムを動かすための魔力を増幅する機構が必ずついています。ゴレコンに乗って使う魔法は、生身で使うより10倍は威力が大きいんです」


 なるほどね。ふうちゃんからフォローが入った。フィオの土魔法を思い出す。


 アレの十倍の威力か。たしかにかなりの脅威かもな。

 まてよ? 魔力を増幅? どういうこと? ゴーレムってどうやって動いてるんだ?


「もしかして、ゴレコンって人間の魔力で動いてんの?」

「ゴーレムの動力はオーブだ。ようは電池で動くロボットだな。ゴレコンは人間がオーブに魔力を流すことで起動する」

「疲れたらゴーレムを動かせなくなる感じか。じゃあ短期戦だな」


「帝国が開発したゴレコンは別だぞ。専用の動力機関を積んでいて機動力は通常のゴーレムと比較にならない。友好国向けに輸出仕様をつくってるって噂があるから、そのうちファーメル教国にも入ってくるかもな」

「すげぇ。いつか乗ってみたいな、それ」


 そうそう、ロボットはそうでなくっちゃ!


「ボス。工事用ゴレコンの特徴を教えて下さい」


 話が逸れそうな危険を察知したふうちゃんがさっと話を軌道修正した。ロボは男のロマンなんだけどなぁ。


「工事用ゴレコンの装甲はロックゴーレム並みだ。リンゾーはゴーレムとは戦ったことないんだよな?」

「ないよ。よくわからないから、赤龍との比較で頼む」


「流石にあれとは比較にならんよ。俺のテレキネシスハンマーが直撃すればグシャリだ。今の所そこまで大きな罪じゃないだろうから、直撃させるわけにはいかん。面倒でも引きずり出さなきゃならん。パワーは人狼化したヘンリーの倍、土魔法は双葉の魔法の3倍の威力を想定してくれ」


 ちょっと待て。


 あの、赤龍の尾を受け止めたヘンリーさんのパワーの倍!?

 それに、ふうちゃんの魔法の3倍ってやばくないか?

 ビリーは簡単そうにいうけどさ。


「敵は一機ですか? 他にゴーレムを引き連れていたりとかは?」

「ない。一機だ」

「数が出てくるとまずそうだな?」


「ああ。だがそんな心配はいらん。ゴレコン先進国の帝国でさえ、ようやく量産化の目処が立ったところなんだからな」

「へぇ。割と新しい技術なんだな?」


「新しいと言うか、帝国が技術を独占してるんだ。ゴーレムを作れる錬金術師やゴーレムを扱うウォーロックを周辺国から高額で引き抜きまくったのさ。俺のところにもスカウトに来たんだぜ?」

「なるほどね。ゴレコンの技術って独占されてるのか」

「ああ。周辺国はせいぜい50年遅れの技術しか持っていない。ワンオフの欠陥品をようやく作れるかどうかってレベルだよ」


「じゃあ、そこまで警戒しなくても大丈夫かな?」

「双葉は飛べるから警戒はいらんだろうが、リンゾー。お前は警戒するべきだ。土魔法は厄介だぞ? 遠距離攻撃がないお前は近づかないと攻撃手段がないだろうが」

「うーん。それはたしかにそうかもな」


 悔しいけどビリーの言うとおりだ。俺は接近戦しかできない。動くたびに目の前に土の壁とかを出されてしまうと辛い。

 俺にも飛び道具が欲しいぜ。


「リンゾー。お前は今回はバックアップだ。まず、ゴレコンの動きを奪うために俺がテレキネシスハンマーで足を破壊する。双葉は上空から魔法で牽制。リンゾーは犯人を引きずり出してくれ」

「りょーかい」


さぁ! やるぜ!



▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽



 情報部の連絡を受け、犯人の出現予想地点で張り込む。

 夜になると、人型のブルドーザーとでも言うべき工事用ゴーレムが現れた。


 足が短くズングリムックリしたフォルムだ。

 両腕の先にブルドーザーのようなアームが付いている。


 顔の中心の単眼がライトになっており、周囲を薄く照らしだした。

 調光機能があるようだ。


 鈍重な見た目の通り、大して動きは早くない。

 しかし人工関節でもあるのか? 動きはなめらかだ。映画のロボットのようにギクシャクした動きじゃない。

 そこら辺がロボじゃなく、ゴーレムたるゆえんなのだろう。


 色は黄色。腹部のコックピットが外部に露出しており、20代ぐらいの男がコンソールを撫でるように操縦をしていた。


 おお、木陰から一斉にハンターたちが、飛び出したぞ!


 貸し金庫側が雇ったハンターたちだろう。まずはお手並み拝見だな。


 危なくなったら助けよう。


 操縦している男が、ゴレコンに備え付けられているオーブに手を伸ばす。


 オーブが光り、密集してたのが悪かったのだろう。ハンターたちの四方に5メートルぐらいの高さの土壁が出現した。


「出せー!」

「ちくしょう! はめられた!」

「ちょっと変なとこさわんないでよ!」

「くそー!」


 ハンターたちが、たちどころに無力化されちまった。助けてやりたいが、今は犯人確保が優先だ。


「後でぶち破ってやる。おとなしくしててくれ」


 なるほど。いつもハンターを壁で取り囲み、時間を稼いで金貨を盗んでいるのか。


 ゴレコンはずんずん進み、貸し金庫の外周にたどり着いた。


 オーブが発光し、土魔法が発動する。


 外壁が柔らかい粘土状になり、ゴレコンが貸し金庫の壁にショベルを付きたてた!


 現行犯だ。


 ふうちゃんが上空から氷のつぶてを落とす。アイスジャベリンの威力を抑えたものだ。

 随分と加減しているな。


 戦闘訓練のときに俺に撃ってくるものの、5分の1ぐらいの大きさだ。


 ピンポイントでジョイント部を狙ったらしく、ガシャーン、と大きな音を立て、ゴレコンのショベルが外れ落ちた。


「くっ。ついに来たか異端審問官!」


 正直なところ、思っていたよりも弱いな。


 繰り出される土魔法は目の前に壁を作るが当たらない。

 要は囲まれなければただ目の前に壁が出てくるだけなのだ。

 俺達の敵じゃない。


 しかし、こんなに加減しながら戦うっていうのは、初めてだな。


「リンゾー。フォローを頼む!」

「OK! ビリー!」


 土魔法を回避しつつ、ゴレコンの周囲を回って視線を惹き付けよう。


「こっちだぜ。金貨ドロボー。ちゃんと狙ってこい!」


 十秒ほど時間を稼ぐと、ゴォォオオンと爆発的な音を立て衝撃がゴレコンを襲うのが見えた。


 ビリーのテレキネシスハンマーがゴレコンの片足を吹き飛ばしたのだ。


 次の瞬間ゴレコンが横転。犯人が空へ投げ出された。


 ダッシュで接近し、操縦手をキャッチする。


 そういえば、以前女の子を助けるために道路に飛び込んだことがあったっけな。そんなことを思い出した。


 適当な場所に男をおろして……と。

 尋問タイムだ。


「ここ数日の貸し金庫強盗はおまえだな?」


「待ってくれ。見逃してくれ。頼む。聞きたいことは話す。私は、ケレン・スクレイパーという。工事用ゴレコンのオペレーターをやっているものだ」


 プロファイルオーブは、緑がかった青だ。微罪か。


「人を傷つけたりはしてないようだな?」

「してない。俺が逮捕されたら娘が死んでしまう。見逃してくれ頼む」


 切実な印象だ。嘘はついていないようだな。

 ビリーを見ると、錬金術でゴレコンを直しているようだ。

 ビリーがこっちを見て頷いた。


「わけを聞こうか?」

「私の娘が亡くなった妻と同じ風土病にかかったんだ。ラステラ病という回復魔法では治せない難しい病だ。治すには高額な薬がいる。時間がないんだ。寝る間も惜しんで働いたよ。だけど金が足りない。病気を治すにはこんな方法しか思いつかなかった。娘は俺のたった一つの生きがいなんだ。頼む。見逃してくれ!」


 そんなことを言われてもどうもできないぞ?

 おお、ビリーがこっちに来た。


「ラステラなら、以前マリンがかかったことがあってな」

「ビリー?」

「ケレンといったな。ラステラ病の薬ならうちにある。マリンがかかったときに焦ってな。必要以上に買っちまったんだ。わけてやろう」


 へぇ、ビリーの焦った姿ちょっと見てみたいな。


「ありがとう。金は必ず払う。少しだけ猶予をくれ」

「近々坑道を掘る要員が必要になる。仕事を回してやるからしっかりと働け」

「ああ。必ずあんたの力になるよ!」


 なんだか上手いこと解決したようだ。

 いつもこんな簡単な仕事だと、いいんだけどな。


 あ、ハンターたちを助けるの忘れてたぜ。


「……、シーンとしたな。いつまで待てばいいんだ?」

「俺トイレ行きたい」

「ちょ、こんなところで脱ぐな。やめろ」

「きゃー! あっち向け! はねた! ちょっと付いたっ! ちょっと付いたっ!」


 うん。まぁ、そういうことだ。

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