足跡は語る(3)vs透明化の勇者
公衆浴場についた俺たちは、事前に立てた計画通り配置についた。アシュリーが浴場内に入り、ロブ、俺、ふうちゃんが、窓と出入り口を固める。
ハンドサインの確認をして、お互いが見えるように位置取りをする。
アシュリーは結局、清掃スタッフとして、浴場内に入り索敵することにしたらしい。
蚊と蜂(ファーメル教国にもいた)を、腰の小瓶に入れている。
その昆虫が、他の人を襲わないか? というのが俺たちの目下の心配事で、作戦の成功については、そのときは疑っていなかった。
……ジリジリジリジリ、夏の日差しが照りつけてくる。
ロブのところは木の枝があっていいな。俺のところは日陰がないから、ダイレクトに暑いぞ。
まだか。……合図はまだか。
暑い~。ふうちゃんのエアコン魔法が恋しい。ふうちゃんと手をつなぎたい。
外で待つこと2時間。索敵を行ったアシュリーが憔悴した様子で浴場から出てきた。
汗だくで、化粧が落ちてしまっている。
「不可視者の足跡は確認したわ。だけど、索敵には引っかからなかった」
とても悔しそうだ。うつむき唇を噛み締めている。
俺たちも暑さで大概ヘロヘロだが、一番苦労してるのはアシュリーだ。労わないとな。
「ありがとう。アシュリー。お疲れ様。よし、アシュリーが新しい情報を持ってきてくれたから、再度作戦を練り直そう! 3時間後にロビーでいいかな」
「異議なし!」
「異議ないわ」
さすがにアシュリーも化粧を直したり、シャワーを浴びたりしたいだろうからな。
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
ファーメル教国、ファーメル大聖堂。異端審問官専用ロビーにて。アシュリーはさっぱりした様子だ。もう大丈夫だろう。
「アシュリー。今回の敵、どう思う?」
「不可視者の足跡が出たことから、浴場内に敵がいたことは間違いないでしょう。全箇所3往復したもの。索敵漏れがないことは保証するわ。私の姿を見て警戒したのかしら」
「空間転移で、索敵範囲外へ逃れてるというのはどうでしょう? 臆病な人の場合、清掃員さんがきたら、できるだけ距離を取るような気がするんです」
「時空魔法と不可視化を両方持っているってことか」
「ありえるわね」
「両方持っている前提で話を進めたほうが良さそうですね」
「ふうちゃん。時空魔法の発動って感知できるものなの?」
「私も時空魔法の使い手なので、集中していれば支配領域内ならわかりますよ」
「150RUか。十分だな」
「じゃあ、俺とふうちゃんで金貨の周辺を張ろう。俺は時空魔法無効だし、ふうちゃんは時空魔法使いだから、なんとかなるだろう」
「不可視化の方はどうするの」
「私の魔法、エアコンには、人感センサーがついてます。それを応用すれば、近距離ならなんとか」
「赤外線探査か」
「人感センサーって……。何それ? リンゾーくん。双葉のそれって私達の思うようなものなの?」
「そうだぞ。夜に人が来ると玄関のライトとかがついたりするあのセンサーだ」
「双葉、あなたとんでもない魔法を使うのね?」
異世界転移をしていることが、バレるとまずいから、ふうちゃんには、あとで釘を刺しておかないとな。さり気なく話題を変えてしまおう!
「赤外線といえば、アシュリーは蛇とか使えないの?」
「使えるけど、蛇は苦手なのよ」
「じゃあ、さっきのように蚊を使うのか?」
「ええ。今度は役に立つわ。まかせて」
アシュリーが、しおらしい。大口叩いて失敗したから気落ちしてるのかな? アシュリーのせいじゃないんだが。まぁ、そこらへんのケアはロブに任せるか。
「ロブ。非殺傷用のトラップって用意できるか?」
「トリモチならすぐにでも。夜光狼ぐらいまでの筋力なら掴まえることができますよ」
「そりゃ、すごい。人間ならピクリとも動けないな」
「じゃあ、ロブはトリモチを頼む。ロブが金貨を盗むなら、どこを通る? 怪しいところにトリモチを仕掛けて捕獲しちまえ」
「ええ。まかせてください。変態の行動は、不思議なことにわかる気がします」
突っ込まないぞ!
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
作戦開始!!
待つこと20分、意外に早くその時は訪れた。
ふうちゃんが親指を立てる。転移反応を確認した合図だ!
金貨から、3mほどはなれて立っていた俺は、身体強化魔法LV5アクティブを発動する。五感がドンドン冴えてくる。
いや、感覚を鋭くするまでもなかった。
アシュリーの蜂群が、金貨のそばを飛び回っていたのだ!
「そこだ!」
俺は見えない敵にタックルし、トリモチの床にダイブした。
ドカドカッ!! ベチョッ!
「あひぃー!」
男が気絶したためか、透明化が解けた。
俺の下に、10代後半ぐらいの「ヒョロガリボーイ」が、『真っ裸』の生ウインナー丸出しで、あらわれた。
男の格好もやばいが、何より体勢がまずい。
やべぇ! なに、この体勢。キスしそう。
「ちょ…、うそだろ」
なんてこった。コイツ、おっきくなってやがる!
動きを制限される中、プルプル震える腕で、なんとか捕縛用首輪をつけて、任務完了したわけだけど、トリモチで裸の男とくんずほぐれつ絡み合っている状態は、非常に辛い。
腕がつかれた。
誰か頼む、早くなんとかしてください。
ぺちょり!
「ぎゃー! 服がまくれた。腹に生ウインナーが当たる! いやだー!! 誰か、誰か、助けてくれーっ!」
アシュリーは、攻めがどうのとか、むしろリンゾー総受けとかいいながらハァハァしている。
ちくしょー。
「腕がプルプルしてきた。このままだとキスにー。キスは嫌だー!」
ロブはローションを取り出した。
「ちょ、やめろ! かけるな! どんなプレイだよ! ノー! ノー! ヘルプミー!」
結局、ふうちゃんが無限格納でとりもちの大部分を格納してくれました。
時空魔法、超便利。
「やっと動けるよ。ちくしょう」
「りんぞーさま。あとで、私と一緒にお風呂に入りましょう? 残ったトリモチを、お流しします!」
「ありがとう、ふうちゃん。是非お願いするわって、ちょっと待て。水着着て、入るんだよね?」
ああー、まだベトベトする。最っ低な気分だ! アシュリーとロブとは、もう二度と組みたくない。
「私、海とか行ったことなくて、水着って着たことないんです。『裸』で待ってますから、りんぞーさまが着がえさせて?」
ああ、これ機嫌悪いときの反応だ。Sっ気を発揮して、からかいながら踏み込んでくるやつだ。
「なぁ、ふうちゃん。なんか、気に触ることあった?」
「りんぞーさまが、楽しそうに、裸の男の人と抱き合ってました」
「楽しくなかったよ? 助けを求めてただろ?」
「私が頑張らないと、りんぞーさまが遠くにいっちゃいます」
「いかねーから!」
このあと、めちゃくちゃベタベタした。
・用語解説
トリモチ――鳥や昆虫を捕まえるのに使う粘着性の物質
とてもベタベタする




