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足跡は語る(2)透明人間の足跡

 ファーメル教国、ファーメル大聖堂。異端審問官専用ロビーにて。


 ロビーには、ビリー、俺、ふうちゃん、アシュリー、ロブが集まっている。


 全員が円卓につくと、おもむろにビリーが語りだした。


 へぇ、今日のコーヒーは苦味が少ないな。虫に食べられると植物は苦味物質を多く作るっていうけどそのせいかな? それとも日当たり? ちがうな、そうか焙煎の度合いだ。


 音を立てないようにコーヒーを啜る。


「今回は、ファーメル教国内の事件だ。商人ギルドから、依頼があった。商人ギルドでは、毎日その日の売上を記録するために、夜、仕事終わりに金貨をチェックしているんだが、毎日決まって数枚の金貨がなくなるらしい」


「ギルドの人間がちょろまかしてるんじゃないんですか?」

「愚かね。ロブ。そんなことなら、ギルド内でケリがつくわよ」


「アシュリーのいうとおりだ。実は金貨が消える直前、金貨が宙空に浮くのを、見たものが複数いるんだ」

「じゃあ、テレキネシスの使い手で確定か?」


 みんなで、一斉にビリーを見る。


「おい、リンゾー。冤罪を作るのはやめてくれ。テレキネシスなら消える直前もなにもなく、終始見えているだろう? 宙空に浮いた金貨は、きまって、人の顔にあたる高さで消えるらしいんだ」


「なんだか透明人間のお話みたいですね」


 うーん。透明人間か。


「透明人間が、口の中に金貨を隠して運んでるって? 冗談でしょ」

「なぜ冗談と言い切れる? おれは案外ありだと思うぞ」


 まじかよ。金貨を口の中にねぇ。


「時空魔法使いが、時間停止して持ち運んでるんじゃないでしょうか」

「いいアイディアね。ロブ。そっちのほうが健全だわ」


「そのほうが現実的だろうな。誰が触れたかわからないような金貨を口の中に入れるとか、ないだろう、普通?」

「美しい女性が触れた金貨なら、僕はぜひ口に入れたいのですが……」


 ぶれないな。この変態。


「でも、それだと宙空に金貨が浮かんでいたことの説明が付きません」

「それはそうだな」

「振り出しに戻ったわね」


「実はもう一つ、不可解な事件があってな。これは昼のことなんだが、どうやら公衆浴場の女湯に見えない足跡が出るらしい」


「待ってくれビリー。意味がわからない。見えているから足跡なんだろ?」

「語弊のある言い方だったな。不可視者の足跡。これで通じるか?」


「だれもいないのに足跡がつく、という状況か」


「そうだ。諜報部の調べでは、この2件、同一犯の可能性があるそうだ」

「なるほど。女湯に出る見えない変態なら、金貨を口に入れて運んでもおかしくはない、か」


 じーっ。


 みんなで示し合わせたようにロブを見た。


「みんなで、私の方を見るのをやめてもらっていいですか! 変態扱いはちょっと興奮しますけどもっ!」


「ビリー。確認しておきたい。諜報部の見立てでは、犯人の性別はどっちなんだ? 女だったら、普通に入浴しているだけ、って可能性もあるんじゃないか?」


「残念ながら、だ。足跡から、非常に高確率で男だそうだ」

「やっぱり変態か」

「ロブ、役に立てるチャンスだわ。ホントのところどう思うの?」


「そうですね。やむをえなく、というのはどうでしょう? 不可視の能力と仮定するなら、服とかどうなるんでしょうね? 女湯のぞきと窃盗犯が同一人物とするなら、おそらく、基本は裸。手に持ったものは不可視化できず、金貨を隠すには口に入れるしかない」


「筋は通るな」


「『常に裸である』と仮定するなら、見るより見られる方が目的の可能性もあるのでしょうか?」


「うん、『透明人間が、見られるのが目的』とか全くもって意味がわからない。というか、それは心底どうでもいいぞ。ロブ。変態の思考回路なんて考えるだけ無駄だ」


「ひとつアイディアを思いついたわ。金貨に毒を塗ってみましょう」

「それだと無関係の人に、迷惑がかかりそうだから俺は嫌だな」

「私も嫌です」


「リンゾー。双葉も。私の意見を否定するなら、対案を出しなさい」


 対案か。そう言われてもな。


「昼は公衆浴場の中に、ふうちゃんとアシュリーが入って調査、夜は商人ギルドで俺とロブが調査するのはどうだ? 身体強化魔法を発動すれば、金貨置き場の3m以内に立ってるだけで、時空魔法だろうが不可視化魔法だろうが知覚可能だぞ」


「昼の調査では、光魔法を使って索敵するのはどうでしょう? 不可視化なら急激に明るさを変えてしまえば影響が出ませんか?」


「他人の入浴している風呂場を明るくするって? それはちょっといただけないわね。自分が入浴してると思ってごらんなさい。不確実だし無駄が多いわ。第一、あなたたちのやり方じゃ、何日かかるか、わかったもんじゃない。私は反対ね」


「次はお前の番だぞ。アシュリー。俺たちの意見を否定するなら対案を出せ」

「言葉が荒くなってますよ。リンゾー君」

「わるいな、少し苛ついた」


 コーヒーに口をつけ、ため息をついてアシュリーが言う。


「私が浴場で『蚊』を使って、二酸化炭素で索敵するわ。不可視の人間がいるならそれで発見できるはず。女ならそのまま私が捕獲する。男だったら蚊群に襲わせて、浴場の外に追い出すから蚊群を見つけなさい。浴場で欲情した愚かな犯人を、あなた達で確実に取り押さえなさいな。同一犯なら、それでおしまい。一日でけりがつくわ」


 アシュリーの支配領域は、7RU。強力無比な昆虫使役の力も、昆虫が、本体から7m56cm以上離れると無効になる。浴場の中に自分も入って使わないと、とても索敵は不可能だ。今回一番大変なのは間違いなくアシュリーだろう。


 自分が一番大変な役を買って出ようというのだ。口は悪いし不器用だけど、そんなに悪い奴ではないのかもな。


「どうでしょう。リンゾー君」

「いいと思うぜ。それでいこう」

「私もいいと思います」


 満場一致で、アシュリー案が採択された。


 さぁ、いざ対決だ!




アシュリー・オースティンLV15

魔獣使いLV7

ムチ使いLV8


所有スキル

動物会話、魔獣使役、動物使役、昆虫使役、テイム、

能力向上(魔獣使い)

絡みつけ、引き割り、乱舞、引き寄せ(ムチ使い)

身体強化魔法(パッシブLV3)


支配領域7RU

・用語解説

蚊――ファーメル教国の蚊は二酸化炭素によって獲物の

   哺乳類を発見する。地球の蚊は匂いに頼る。

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