表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/87

オフの日のわらしべ長者作戦

 ファーメル教国は、いい国なんだけど、娯楽が少ない!


 というわけで息抜きは、必然的に日本で行うことになるんだけど、日本での活動資金が尽きてきた。


 なにかいい金策はないか? と考えたところ、物々交換でビリーにアクセサリーを譲ってもらい、宝石商の兄貴に売りつけるという、すばらしい金策を思いついた。


 今日は、オフの日3日め。


 今日も、ふうちゃんといっしょに湯呑を作っている。先日、お寿司屋さんで現物を見たばっかりだから、説明は簡単だった。


 まず、濡らした粘土を土魔法でくるくる回し、形を整える。その後、水魔法で水分を抜いて、火魔法で温度調節しながら素焼きする。できた湯呑に浮世絵を書いて釉薬をかけて本焼き。温度を均一に保つのがポイントだ。高台を砥いでなめらかにすれば出来上がり。


「りんぞーさま、上手に焼けました!」


 3日がかりで作った湯呑は、炉もないのに完璧な出来だった。聞けば、自分の近くの湯呑は1度単位で温度管理できるらしい。この間のエアコン魔法の応用だ。二つ名『万能』は伊達じゃないね。


 絵柄の気に入った湯呑(写楽かな?)をふうちゃんにあげ、残りをビリーのもとへ持っていく。


 ちなみに俺の一押し、飛び出して見える渾身のがしゃどくろの浮世絵は、ふうちゃんのお気に召さなかったようだ。げせぬ。


 会心の出来だったから、ふうちゃんにあげたかったんだけどな。


 まぁ、いいか。さて、わらしべ長者作戦の始まりだ。



▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽


 ビリーのところへ湯呑を持ってやってきた。


「ビリー! 『手作り』湯呑と『手作り』アクセサリー交換しようぜ。こういうの好きでしょ?」


 俺は「手作り」を強調してそう言った。素人作同士だから、レートは、1:1でいいよね? というアクセントに込められたプレッシャーを、ちょっとでも感じてくれたらいいな。


「14個か。ずいぶん多いが、いい出来だな。おお、この富士山の絵、いいな。こっちの絵は、がしゃどくろか。こいつはダイナミックな構図だ」


 それがわかるとは、ビリー氏。お主やりおるな。


「プラチナのアクセサリーとかで、交換できそうなやつない?」


「ふふふっ。遠慮のないやつだな。プラチナがいいのか?」


「まぁね。高く売れそうだし」


「売るのかよ! プラチナもいいが、レニウムなんてどうだ? ファーメル教国じゃありふれた金属だが、希少なんだぜ。レニウムの指輪なら、7つは出せるが」


「うーん微妙だな。色が良くない。プラチナがいいよ。プラチナ」


「あのなぁ、プラチナはファーメル教国でも貴重なんだぞ?」


 プラチナのリングは、実はふうちゃんにあげたいんだよね。


「まぁまぁ。残りはそのレニウムとやらでいいから、まずは、プラチナのアクセサリーでお願い」


「しょうがないな」


 結局、レニウム製のアクセサリーを3点。プラチナ製のアクセサリーを2点。計5点のアクセサリーに変えてもらった。ふうちゃんに一番きれいなプラチナのリングを1つあげたので、残り4点のアクセサリーを物々交換で得たわけだ。


 ふふふ。日本に行って、龍次兄ぃに換金してもらうぜ。日本での活動資金ゲットだ!


 ちなみに、レニウム製のアクセサリーは、びっくりする値段で売れた。ビリーの言ってる、貴重云々は嘘じゃなかったんだな。


 兄貴に預けた分を差し引いても、財布には大量の諭吉さんと樋口さんがある。


 ぬれてにあわあわ。


 これはもうあれだ。


『競馬で一山当てろ』というファーメリア様の思し召しだろ!?



▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽


 今日は、ふうちゃんと競馬場に来ていた。


 本当は連れてくるつもりはなかったんだけど、だめだったんだよね。『図書館で待ってて』とお願いしたら、一人になるのが怖いという。


 この間、おぞましい犯罪者と対峙したばかりだから、気持ちもわからなくもないが……。


「また、りんぞーさまが無茶しないか、心配で心配で」

「そっちかよ!」


 爆発男に頭を吹き飛ばされたあと、ふうちゃんに、「無茶しないでください」と、泣かれちゃったんだよな。


「もうしないって。おれもあんな痛いのはゴメンだよ」

「いーえ、同じ状況になったら絶対やります。りんぞーさまはそういう人です」


「否定できないけれども」

「それにりんぞーさまは、日本で一回死んでます!」


「ぐうっ!」

「ぐうの音が出ました。心配だから、ついていきます」


 連れてきたく、なかったんだけどなぁ。


 天候も悪かった。いや天気はいいんだよ? むしろカンカン照りだ。7月の焼け焦げるような日差し、アスファルトから湧き上がる蒸し暑い熱気。そんなときに、手をつなぐだけで涼しくなるかわいい女の子がいたら、手を放すのためらうよね?


 ちなみにふうちゃんには、競馬とは、車並みの速さで走る選ばれた馬が、互いに競争し、高め合う熱いスポーツだと説明してある。賭け事だ、と正直に言うと教育に良くないからな。


 競馬に入れ込む人は、純粋にレースが見たいのだよ!


 ちなみに俺は大穴狙い。一発逆転につぎ込むときのテンションがたまらない。賭けるな? いやいや、競馬場に来て賭けないって選択肢はないぜ。駆ける馬に、俺は賭ける!


 ふうちゃんも、薄々競馬が賭け事だって、気づいてるっぽいな。新聞めくって、赤ペンナメナメしてるおやじさんとか、いかにも賭け事してますってふうだもんな。


 パドックから2頭の馬が姿を現す。


 白い毛並みが美しいサウザーテイオウ。ブサイクながら、ドーピングしたかのようなごっつい筋肉に鎧われている、オレノナヲイッテミロウ。いいねぇ。実にいい。


 水無月賞馬のケンシロオウが、一番人気だけど、コイツラの面構えは、決してケンシロオウにだって、負けるものじゃない。


「りんぞーさま。イッテミロウは、走るには余計な筋肉がついてるように見えますね」

「体当りしたりする、ダーティーな面のある馬だからね。ちなみに、ふうちゃんはどの馬が1位になると思う?」


「1位になるかはわかりませんけど、トキノウジョウケンが、かっこいいです」

「この面食いさんめ」

「ちょっと、りんぞーさまに似てる気がします」

「誰が馬面じゃ!」

「そんなことは、いってないです」


 さぁ、狙うは大穴だ!


 俺は財布の中から『諭吉さん』を取り出し、ぐっと握りしめる。いざ、勝馬投票券(ばけん)を手に入れるぞ。


 むにゅ。


 ふうちゃんの胸が腕にあたった。やわらかい。


「知ってますか? りんぞーさま。人って、2つのことを同時には、考えられないんですよ」


 なにぃ! 手の中の『諭吉』さんが、『野口』さんにすり替えられているっ!?


「どういうつもりだ、ふうちゃん? イッテミロウには『諭吉さん』を賭ける価値はない、……と?」


「『諭吉さん』があればプリン・ア・ラ・モードがこんなに食べられます」


 ふうちゃんが両手をいっぱいに広げる。


 いや、さすがにそんなには、食べられないと思うぞ。


 ふうちゃんに配慮して、財布から『樋口さん』を取り出し、『野口さん』と入れ替え、握りしめた。


 これで!


 もにゅん。


 おお、弾力が伝わってくる。


 なんだってー! 手の中の『樋口さん』が、『式部さん』にすり替えられている! しかも、財布もふうちゃんの手の中だ。


「サウザーテイオウには『式部さん』で十分だと? くっ、もう、どうにでもしてくれ!」


 おれは『式部さん』で、万馬券を買った。


 当たればいいんだよ。当たれば。


 来たれ大穴!



▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽


 そして、レースが始まった!


 隣のおじさんのラジオから聞こえる解説の声に耳を傾ける。


「先行争いは静かな立ち上がり、ああっ! いったぁー!」


「水無月賞馬のケンシロオウが、内に切り込んで早くも先頭。そしてその後ろにニ番人気、イッペンノクイナシオウが続きます」


「速くも先頭から殿(しんがり)まで12馬身の間隔」

「三番人気サウザーテイオウはやや出遅れたか。後方からの追い込みにかけます」


「そしてイッテミロウは……。オレノナヲイッテミロウは後方です」

「なにやってるんだ! いけー! 俺の万馬券!」


「これはいけない。イッテミロウのジャ……、ジョッキーが落馬しました」

「なんとぉー!」

「北斗騎手の怪我が心配ですねー」


「あわわ」


「さぁ、第4コーナーをカーブして直線コース!」

「苦しい位置。サウザーテイオウ!」

「外からトキノウジョウケンがきた!」

「サウザーテイオウ引きません!」


「いけぇ! サウザーテイオウ!!」

「トキノウジョウケンがサウザーテイオウを抜いたぁ!」

「ぎゃー!」


「先頭は残り200、坂を登って。ケンシロオウが先頭だ。

このままいってしまうのか」


「ケンシロオウだ! ケンシロオウだ! ケンシロオウだ! 二冠達成!」


「一着、ケンシロオウ、二着、イッペンノクイナシオウ、

三着、トキノウジョウケンの順です」


「まけちゃいました」


 とほほ。


 帰り際、めちゃくちゃ熱いたこ焼きを一口で頬張って、涙目でフリーズする、かわいいふうちゃんの姿が見れたから、まぁいいさ。


 いい気分転換になりました。

・用語解説

レニウム――マンガン族元素の一つ。貴金属ではない。

      単体では最も硬い金属。銀白色。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ