オフの日のわらしべ長者作戦
ファーメル教国は、いい国なんだけど、娯楽が少ない!
というわけで息抜きは、必然的に日本で行うことになるんだけど、日本での活動資金が尽きてきた。
なにかいい金策はないか? と考えたところ、物々交換でビリーにアクセサリーを譲ってもらい、宝石商の兄貴に売りつけるという、すばらしい金策を思いついた。
今日は、オフの日3日め。
今日も、ふうちゃんといっしょに湯呑を作っている。先日、お寿司屋さんで現物を見たばっかりだから、説明は簡単だった。
まず、濡らした粘土を土魔法でくるくる回し、形を整える。その後、水魔法で水分を抜いて、火魔法で温度調節しながら素焼きする。できた湯呑に浮世絵を書いて釉薬をかけて本焼き。温度を均一に保つのがポイントだ。高台を砥いでなめらかにすれば出来上がり。
「りんぞーさま、上手に焼けました!」
3日がかりで作った湯呑は、炉もないのに完璧な出来だった。聞けば、自分の近くの湯呑は1度単位で温度管理できるらしい。この間のエアコン魔法の応用だ。二つ名『万能』は伊達じゃないね。
絵柄の気に入った湯呑(写楽かな?)をふうちゃんにあげ、残りをビリーのもとへ持っていく。
ちなみに俺の一押し、飛び出して見える渾身のがしゃどくろの浮世絵は、ふうちゃんのお気に召さなかったようだ。げせぬ。
会心の出来だったから、ふうちゃんにあげたかったんだけどな。
まぁ、いいか。さて、わらしべ長者作戦の始まりだ。
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
ビリーのところへ湯呑を持ってやってきた。
「ビリー! 『手作り』湯呑と『手作り』アクセサリー交換しようぜ。こういうの好きでしょ?」
俺は「手作り」を強調してそう言った。素人作同士だから、レートは、1:1でいいよね? というアクセントに込められたプレッシャーを、ちょっとでも感じてくれたらいいな。
「14個か。ずいぶん多いが、いい出来だな。おお、この富士山の絵、いいな。こっちの絵は、がしゃどくろか。こいつはダイナミックな構図だ」
それがわかるとは、ビリー氏。お主やりおるな。
「プラチナのアクセサリーとかで、交換できそうなやつない?」
「ふふふっ。遠慮のないやつだな。プラチナがいいのか?」
「まぁね。高く売れそうだし」
「売るのかよ! プラチナもいいが、レニウムなんてどうだ? ファーメル教国じゃありふれた金属だが、希少なんだぜ。レニウムの指輪なら、7つは出せるが」
「うーん微妙だな。色が良くない。プラチナがいいよ。プラチナ」
「あのなぁ、プラチナはファーメル教国でも貴重なんだぞ?」
プラチナのリングは、実はふうちゃんにあげたいんだよね。
「まぁまぁ。残りはそのレニウムとやらでいいから、まずは、プラチナのアクセサリーでお願い」
「しょうがないな」
結局、レニウム製のアクセサリーを3点。プラチナ製のアクセサリーを2点。計5点のアクセサリーに変えてもらった。ふうちゃんに一番きれいなプラチナのリングを1つあげたので、残り4点のアクセサリーを物々交換で得たわけだ。
ふふふ。日本に行って、龍次兄ぃに換金してもらうぜ。日本での活動資金ゲットだ!
ちなみに、レニウム製のアクセサリーは、びっくりする値段で売れた。ビリーの言ってる、貴重云々は嘘じゃなかったんだな。
兄貴に預けた分を差し引いても、財布には大量の諭吉さんと樋口さんがある。
ぬれてにあわあわ。
これはもうあれだ。
『競馬で一山当てろ』というファーメリア様の思し召しだろ!?
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
今日は、ふうちゃんと競馬場に来ていた。
本当は連れてくるつもりはなかったんだけど、だめだったんだよね。『図書館で待ってて』とお願いしたら、一人になるのが怖いという。
この間、おぞましい犯罪者と対峙したばかりだから、気持ちもわからなくもないが……。
「また、りんぞーさまが無茶しないか、心配で心配で」
「そっちかよ!」
爆発男に頭を吹き飛ばされたあと、ふうちゃんに、「無茶しないでください」と、泣かれちゃったんだよな。
「もうしないって。おれもあんな痛いのはゴメンだよ」
「いーえ、同じ状況になったら絶対やります。りんぞーさまはそういう人です」
「否定できないけれども」
「それにりんぞーさまは、日本で一回死んでます!」
「ぐうっ!」
「ぐうの音が出ました。心配だから、ついていきます」
連れてきたく、なかったんだけどなぁ。
天候も悪かった。いや天気はいいんだよ? むしろカンカン照りだ。7月の焼け焦げるような日差し、アスファルトから湧き上がる蒸し暑い熱気。そんなときに、手をつなぐだけで涼しくなるかわいい女の子がいたら、手を放すのためらうよね?
ちなみにふうちゃんには、競馬とは、車並みの速さで走る選ばれた馬が、互いに競争し、高め合う熱いスポーツだと説明してある。賭け事だ、と正直に言うと教育に良くないからな。
競馬に入れ込む人は、純粋にレースが見たいのだよ!
ちなみに俺は大穴狙い。一発逆転につぎ込むときのテンションがたまらない。賭けるな? いやいや、競馬場に来て賭けないって選択肢はないぜ。駆ける馬に、俺は賭ける!
ふうちゃんも、薄々競馬が賭け事だって、気づいてるっぽいな。新聞めくって、赤ペンナメナメしてるおやじさんとか、いかにも賭け事してますってふうだもんな。
パドックから2頭の馬が姿を現す。
白い毛並みが美しいサウザーテイオウ。ブサイクながら、ドーピングしたかのようなごっつい筋肉に鎧われている、オレノナヲイッテミロウ。いいねぇ。実にいい。
水無月賞馬のケンシロオウが、一番人気だけど、コイツラの面構えは、決してケンシロオウにだって、負けるものじゃない。
「りんぞーさま。イッテミロウは、走るには余計な筋肉がついてるように見えますね」
「体当りしたりする、ダーティーな面のある馬だからね。ちなみに、ふうちゃんはどの馬が1位になると思う?」
「1位になるかはわかりませんけど、トキノウジョウケンが、かっこいいです」
「この面食いさんめ」
「ちょっと、りんぞーさまに似てる気がします」
「誰が馬面じゃ!」
「そんなことは、いってないです」
さぁ、狙うは大穴だ!
俺は財布の中から『諭吉さん』を取り出し、ぐっと握りしめる。いざ、勝馬投票券を手に入れるぞ。
むにゅ。
ふうちゃんの胸が腕にあたった。やわらかい。
「知ってますか? りんぞーさま。人って、2つのことを同時には、考えられないんですよ」
なにぃ! 手の中の『諭吉』さんが、『野口』さんにすり替えられているっ!?
「どういうつもりだ、ふうちゃん? イッテミロウには『諭吉さん』を賭ける価値はない、……と?」
「『諭吉さん』があればプリン・ア・ラ・モードがこんなに食べられます」
ふうちゃんが両手をいっぱいに広げる。
いや、さすがにそんなには、食べられないと思うぞ。
ふうちゃんに配慮して、財布から『樋口さん』を取り出し、『野口さん』と入れ替え、握りしめた。
これで!
もにゅん。
おお、弾力が伝わってくる。
なんだってー! 手の中の『樋口さん』が、『式部さん』にすり替えられている! しかも、財布もふうちゃんの手の中だ。
「サウザーテイオウには『式部さん』で十分だと? くっ、もう、どうにでもしてくれ!」
おれは『式部さん』で、万馬券を買った。
当たればいいんだよ。当たれば。
来たれ大穴!
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
そして、レースが始まった!
隣のおじさんのラジオから聞こえる解説の声に耳を傾ける。
「先行争いは静かな立ち上がり、ああっ! いったぁー!」
「水無月賞馬のケンシロオウが、内に切り込んで早くも先頭。そしてその後ろにニ番人気、イッペンノクイナシオウが続きます」
「速くも先頭から殿まで12馬身の間隔」
「三番人気サウザーテイオウはやや出遅れたか。後方からの追い込みにかけます」
「そしてイッテミロウは……。オレノナヲイッテミロウは後方です」
「なにやってるんだ! いけー! 俺の万馬券!」
「これはいけない。イッテミロウのジャ……、ジョッキーが落馬しました」
「なんとぉー!」
「北斗騎手の怪我が心配ですねー」
「あわわ」
「さぁ、第4コーナーをカーブして直線コース!」
「苦しい位置。サウザーテイオウ!」
「外からトキノウジョウケンがきた!」
「サウザーテイオウ引きません!」
「いけぇ! サウザーテイオウ!!」
「トキノウジョウケンがサウザーテイオウを抜いたぁ!」
「ぎゃー!」
「先頭は残り200、坂を登って。ケンシロオウが先頭だ。
このままいってしまうのか」
「ケンシロオウだ! ケンシロオウだ! ケンシロオウだ! 二冠達成!」
「一着、ケンシロオウ、二着、イッペンノクイナシオウ、
三着、トキノウジョウケンの順です」
「まけちゃいました」
とほほ。
帰り際、めちゃくちゃ熱いたこ焼きを一口で頬張って、涙目でフリーズする、かわいいふうちゃんの姿が見れたから、まぁいいさ。
いい気分転換になりました。
・用語解説
レニウム――マンガン族元素の一つ。貴金属ではない。
単体では最も硬い金属。銀白色。




