爆発の勇者現る
評価してくださった方、どうもありがとうございますm(_ _)m
プレッシャーだった赤い「0pt」の数字が変わって感動しました。
読んでもらえるって、うれしいことです。
「……おおっ、見よ。召喚は成功だ!」
なんだぁ?
誰かの声が、遠くに聞こえる。白い空間に、少しずつ色がついていく。気がつくと、目の前に白い大理石の柱が見える。左右を見ると入り口から玉座のような椅子まで、金の刺繍の入った赤いカーペットが続いている。
贅を尽くした宮殿のような場所に、俺――ソンシュンはいた。
「!?」
キョロキョロとあたりを見回すと、騎士やローブを着た人間が整列していた。
「召喚に応じていただきありがとうございます。異世界の旅人よ。私はコルベスト美上王国の筆頭宮廷魔道士ポイロンともうします」
品のある白いローブを纏い青い杖を持った壮年の男が、俺に語りかけてきた。
「異世界ぃ? 旅人ぉ? ここはどこぉ? 俺は、生きてるのかぁ?」
「ここは大陸中央に位置するコルベスト美上王国です」
ポイロンと名乗った魔道士風の男が答えた。
「聞いたこと、なぁい!」
俺がそう言うと、赤い大げさな椅子にふんぞり返ってすわる、金の冠をつけた白髭面のおっさんがくしゃっと歪んだ顔をした。
「そのほう、爆破の力を持つ勇者で間違いはないか?」
「爆破の力ぁぁぁ?」
べぁん!
俺の右手から爆煙があがった。手は全く熱くない。痛みもなかったが、肌に感じる衝撃が、実際にそこで爆発が起こったことを物語っていた。
「なんだこれ。なんだこれ。なんだこれ。ぎゃはは!」
聞いたことのない国、ありえない力、召喚だぁ? これは夢か?
「爆破の力を持つ勇者よ。その力で山を切り開き、隣国へ抜けるトンネルを作ってもらいたい。無論、礼はする。」
「黙れ、おっさぁぁぁん!」
炭鉱夫かよぉ! そんな、つまらないことは、ゴメンだぜぇ! 俺は自由に生きるんだぁ。俺の自由を妨げるやつは死んじまえぇ。
「王に向かってなんて口を!」
一番豪華な鎧を着た騎士が槍を向けてきた。
王様ぁぁぁぁ?
「よい。タンズル。ひかえよ。」
タンズルだか、タンチョウだかが槍を引っ込めた。
「一つ、聞いていいかぁい?」
「答えてやれ!」
「ははっ! なんなりと」
パイロンだかというローブを着た魔道士が答えた。
「俺は、元いた場所に帰れるのかぃ?」
「残念ですが、それはできません」
「別に、残念じゃなぁぁぁい! もうひとつ、きかせろぉ、この国に死刑はあるのかいぃ?」
「死刑なぞないわ! 美上王国は周辺の野蛮国より数十年先を行っておる。懲役は積み重なり不名誉が未来永劫残るがな。野蛮な周辺国とは違うのだ! 野蛮な周辺国とは!」
白髭面の王様が得意げにいう。
死刑がないだってぇ? すんばらしいことだぜぇ! もっと誇ってもいいぜぇ? この国は最高だ! 死刑があるなら、ためらっちゃうもんな! 怖いし、緊張するし、痛いし、苦しいし!
チリっと頭が痛む。
べあんっ!
俺は爆破の能力で、プイロンとやらの頭を吹き飛ばした。
頭がパーンと吹き飛んだ!
パーンだって。笑えるぜぇ!!! ちょっと意思を込めて念じただけでこれかぁ。
火薬の匂いと、鉄の匂いが周辺に漂う……。
「ひぃっ!!」
「きゃーっ!!」
「ポイロン様っ!! こいつ、いきなり何を!」
「ひゃっはー! こいつはいい! すげぇ力だ! また、殺せるぜぇ!!! 人を殺せるぜぇ!」
「くっ、召喚は失敗だ! お前たち、このモノを殺せ。」
「取り囲めッ!」
「逃がすな!」
「クソっ! 喰らえ! ファイヤー……」
「待て! 魔法は駄目だ! 周りを巻き込むッ!」
「チッ」
「死刑はないけど、犯人は殺しちゃうのかぁい! 笑えるなぁ! だったら遠慮はいらないなぁ! 遠慮なんてしたことねぇけど! ギャハハハハ!」
すばやく円陣を組む騎士たちに取り囲まれた俺は、地面に向かて全力で爆破の能力を使った。
イメージは地雷だ。爆炎を上げて周囲を吹き飛ばす地雷。
べぁん! べあん! べあん! べあん!
「わかるぞぉ! 俺には、この力の効率っぽい使い方が直感でわかるぅ! この力は俺には効かなぁい! 近づいたものをみんな爆破できるぅ!! ぎゃはははははは!」
円陣を組んだ騎士たちが、爆破に巻き込まれぶっ飛んだ。
吹き飛んだ手足が壁に叩きつけられ、周囲を、血ともいえないような、半透明の赤黒い液で汚す。
夢じゃなぁい。この匂い、この感覚は、よぉく覚えてるぜぇ。いつも眠ったような重たい俺の頭が、俺の頭が、ドンドン頭が冴えてきやがるぅ。これは人を殺しているときの感覚だぁ。
じゃあ、これは転生ってやつかぁ? 俺は、死刑執行されちまったってわけかい?
ふと脳裏に、死の間際、身体に鉛玉を打ち込まれたときの感覚が蘇ってくる。するどい痛みの後、手足が冷え切り、動かなくなっていく……。絶望がジリジリと脳裏を汚す感覚。
「王国騎士団長、タンズル参るッ!!」
くそったれがぁ! 考え事ぐらいゆっくりさせろ、ぼけぇ!
装備のいいおっさんが、俺に向かって槍を突き出してきた。
瓦礫まみれの足場で、ひるむことなく一直線に打ち込んでくる。練度は高いかもしれないが、所詮は槍。この力の前では関係ねぇ!
べぁん!
槍ごと、おっさんを爆破した。
「これで俺も、騎士団長殺しだぜぇ! ぎゃはははは!! 殺し! 犯し! 奪う! でも、死刑は拒否するぅ。ぎゃはは!」
王が王妃に、『姫を連れて逃げよ!!』と叫んでいる。
笑えるぜぇ! ぎゃはははは!
「早く!!」
頭のモヤが晴れていくぅ、さっきから勃起が止まらないぜぇ! 殺しだけが、俺を若い頃に、戻してくれるんだぁ!!
「早く逃げよ!!」
「逃げるなんて駄目だぁ! それは駄目だぁ!」
べぁん!!
王の頭が弾け飛ぶ!
響き渡る怒号、駆け出す王妃が、瓦礫に足を取られよろめいている。
今なら王妃もぱーんと殺せるが、もちろん、まだ殺さないぜぇ! 姫の部屋に案内してもらわないと行けないからなぁ!!
俺はハンターになった気分で、トロフィーを隠す獲物を追い詰める!
この瞬間が一番好きっ!! 好きぃいいいっ!!!!
王妃が慌てて、鍵のかかった部屋をドンドン叩く!
慌てふためく王妃をみて、俺の心はドンドン冷めていく。
「い、……命だけはお助け!」
前の人生は、失敗続きだったなぁ。
べぁん!
王妃の頭が弾け飛ぶ!
「たったの3人ぽっちを殺して死刑ぃ!!!」
なんだか怒りが湧いてきたぁ!
ぼごっ!
俺は鍵のかかった扉を爆破する。
「人が人をさばくとは何たる傲慢んんぅぅぅ!!」
フリル付きの白いドレスを着た姫が、床にへたり込み、侍女二人にかばわれて震えている。
べあんっ! べぁん!
侍女二人の頭を吹き飛ばす。姫のドレスが血と脳髄で白から赤灰ピンクに染まった。反対に、血で赤く染まった姫の顔がみるみるうちに青白くなる。
恐怖に歪んだその顔は、美しいのがブサイクなのかわからなかった。
「死刑は非人道的だぜぇ。死刑反たぁい! どんな理由でも俺は死刑に反対しますぅぅぅ! ぎゃはははは!!」
じわっと姫の股間が濡れていく。
べあんっ!
元『姫』の血袋が、元『侍女』の血袋の上の転がった。
「金持ちも美人もリア充も、みんな最後は肉袋。仲良く天国に送ってやるぜ! ぎゃはははは!」
しかし、ここはいい国だぁ。最高だぁぁ! いっぱい殺しても死刑にならなぃいいい!
「さぁ、殺しまくるぞぉ!」
カツカツカツカツと床に響く複数の足音。
いい感じに血に酔ってるっていうのに、無粋な複数の足音が思考を遮った。軽装の鎧がこすれる音がする。
「こっちだ! 野郎!! まさか姫様まで! 弓だ! 弓を射て! この場で殺せ!」
盾代わりに爆破を起動した腕を、矢の方に突き出す。イメージは機雷だ。周囲を巻き込んで吹き飛ばす機雷。
べぁん! べぁん!
爆破に巻き込まれそこなった弓が、俺の横を抜けていく。
「おおっと。一度に複数の矢は困るぅ! この力、無敵じゃないからなぁ!」
べぁん! べぁん!
力が抜けていく感覚がある。これ以上の殺しは無理かぁ。うまいこと、市民に紛れ込まないとなぁ。いい人を演じるぞぉ!
「爆弾魔を放置するわけにはまいりません。わたくしは、施政者として市民を守る義務があるのでございます。なんっつってな。ぎゃはははは」
俺は、闇に紛れ姿を消した。
ソンシュンLV9
勇者LV1
シリアルキラーLV6
起源魔法LV2
所有スキル
闇に紛れる、演技(シリアルキラー)
爆破、地雷、機雷(起源魔法)
ヒール(勇者)
支配領域14RU(屋内)/8RU(屋外)
・用語解説
起源魔法――異世界の現象にルーツを持つ魔法。
物によっては、亜神霊や使徒にしか使えない
ような、事象魔法に近い性質を持つ魔法もある。




