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剣の勇者と光の勇者

<出雲いろは視点>


 赤龍を倒してからしばらくして、私と同じ、ファーメル教国に召喚された勇者の一人である、光の勇者、――レイモンド・レイが私のもとを尋ねてきた。


 レイモンドが纏う(まとう)独特の他人をナチュラルに見下す目を除けば、彼は、どちらかというとイケメンといえるだろう。金髪のウェーブがかった長髪を右手でかきあげている。身長180cmぐらい。色白痩せ型だ。


「剣の勇者、探したぜ!」


 宿屋の出口の扉に背をつけ、レイモンドが言った。

 そこに居座ると営業妨害になるんじゃないかしら?

 あの自信満々な瞳。私が何を言っても聞いてはくれなそうだ。できるだけ早く話を切り上げよう。私、よく知らない男の人苦手だし。


「光の勇者。ファーメリア様から赤龍討伐の協力要請があったはず。なぜ無視をした?」


 我ながらびっくりするほど冷淡な詰問口調だ。光の勇者のレイモンドがあの場にいれば、より安全に赤龍を倒せていたはずだもん。

 ちょっとぐらい言葉に抗議の意をこめたっていいよね?


「僕は、ファーメリアの元を離れるつもりだ」


 質問のこたえになってない。

 正直ちょっとびっくりした。きっと彼の目から見た私はまん丸な目をして滑稽な表情をしていることだろう。


「理由を聞いてもいい?」


「僕は地球の出身だ。神を騙る化物ばけものの手から、人間の手に政治を取り戻したい。ここの連中は、当たり前になっちまってるから気づかねぇのさ。自分たちがいつのまにか働き蟻にされちまってることに」


 化物ってすごいことをいうなぁ。人間の代表気取り? どうせ世界を自分好みに変えたいという私利私欲のくせに。


「ファーメリア様は法を重んじる神。そもそも君臨しているだけで、統治はしていない。実際に国を動かしているのは、人間の枢機卿だし、治世に問題があるとも思えない。あなたの発言には、世界を自分の思い通りにしたいという欲を感じる」


「剣の勇者、出雲いろは。お前は感じたことがないか? 勇者なんて大層な力を与えられておきながら、なにもできない無力感を」


「ある。だけど、だからといって、政権簒奪(さんだつ)なんて考えない。あなたの心には私欲がある。政治を人間の手に取り戻したとしても、住民にとっては頭がすげ変わるだけだし、住民の生活が良くなる保証もない。むしろその過程で多くの不幸がおきる。住民が血を流すメリットはない」


「メリットだぁ? わからない奴だな。おまえは真の無力感を感じたことがないんだ。本当にあるなら耐えられないはずなんだ。元の世界じゃありえないような力を手に入れた。なのに自分の力を好きに行使することができない。影に隠れたクズを殺せない。復讐だってできない」


「それについては、思うところがないわけじゃない」


 思うところはあるが、私達、勇者にもとめられる役割は抑止力。無闇矢鱈と力を振りかざすわけにはいかない。師匠だって言っていた。剣は抜かないのが最善なのだ。


「だったら、おまえも僕と来い。おまえだって、チートの力を振り回したいだろう? 美少年の復讐を手伝って、感謝され、その身を自分から差し出させたいだろう? ちやほやされたいだろう? 本心じゃ、さすが勇者様と言われたいだろう? まわりにイエスマンの美男子共を侍らせたいだろう。僕とくればそれができる」


 なんでそんな話に飛躍するの? イエスマン?

 まったく理解できない。その考え方は気持ち悪い。生理的嫌悪感が先に立つ。

 私はこいつとは合わないかもしれない。かなり嫌いなタイプだ。


「そんなにもてたいなら、ナンパでもすればいい。あなたのルックス、ステータスなら話を聞いてくれる女の子はいるはず」


 悔しいけど、顔はいいんだよ。顔は。性格最低だけど。


「馬鹿だなあ。なんで、僕が乞い願わなければならないんだ? 女共が僕に跪き、股を開くんだよ」


 はぁ。ちゃぶ台が目の前にあったらちゃぶ台をひっくり返してるところだよ? 最低だ。


「私は女。その言い方は不快」


「じゃあ、美少年達が、いろはに跪きナニをおっ勃てるでもかまわねぇさ。賛同する仲間の目星はついているんだ。僕はいずれファーメリアを倒す」


 もういやだ。なんでこいつ自分に酔ってるの? 早く会話を切り上げたい。こいつと話しをしてるとひたすら不愉快だ。


「異端審問官を敵に回すことになるわ」


「異端審問官なんて、勇者になれなかった能無しの集まりじゃねぇか」


 レイモンドは彼らの強さを知らないからそんな事を言うのだ。たぶん強い力を与えられているのが、自分だけだと思ってるんじゃないだろうか?


「一人、使徒級の強さを持つ人がいた。今は力に振り回されているけど、すぐに力を使いこなす。一人で赤龍を倒せるようになる。実際、最後は彼が赤龍にとどめを刺した」


「おお怖ぇえ。だったら早く手を打たねぇとな。さあ来い、いろは。おまえにも、ハーレムを用意してやる」


「興味ないし、いかない」


「じゃあ、僕たちが集結し、力を得るのを指を咥えてみているんだな! そうだ。僕らが集まった暁には、いろはが、救ってきた村の何処かを襲って拠点にしよう」


「そんなこと、許さない!」


 冗談だろうけど、流石にこれ以上は看過できない。そっと柄に手をかける。

 これ以上言うのなら、私も覚悟を決めないといけない。


「村人を殺す僕らに復讐でもするかい? 感情で戦っちゃあいけないんだぜ? ファーメル教信徒のいろはさん? ラストチャンスだ。僕たちと来い!」


「いかない」


 チラ、と刀に手をかけた私を見て、光の勇者レイモンドが身を翻す。


「ふん、僕たちと来ないなら、苦しむだけだ」


 ひどく私の心をざわめかせ、光の勇者、レイモンド・レイは去っていった。

・用語解説

光の勇者――勇者はたくさんいるので、特技によって

      光の勇者や剣の勇者のように呼ばれている。

      光の勇者レイモンド・レイは光魔法が得意。

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