赤龍の恐怖!
プロットに、急遽ねじ込んだシナリオです。
味方みんなが、持てる力を出し切って難敵に挑む。そんなシーンが描けてるといいな。
ファーメル教国、ファーメル大聖堂。異端審問官専用ロビーにて。
ロビーの円卓に全員が座っている。はじめての緊急呼集にただならぬ気配が漂っている。
「大変なことになった」
開口一番ビリーが頭を抱えだす。
「どうしたんだ一体?」
ヘンリーが強い口調でビリーの発言を促した。
「トゥーロの村が全滅した!」
「なんだと? どういうことだ」
「災厄級の魔物が出てきた。普段は、夏に渡りをおこなうワイバーンを餌にしているために、人里に降りてくることはないが、今年は渡りをするワイバーンが少ないせいか、餌を求めて、山の麓のトゥーロの村まで出てきたらしい」
ワイバーンというのは亜龍種だ。龍の特徴たるブレスこそ他の龍種と比べて弱いが、並の武器を弾き返す龍鱗。飛行可能。数十センチに達する鉤爪。1tにせまる巨体をもつ。レベルは驚異の45前後だ。
過去の英雄でも、そんなレベルに到達したものはいない。
たとえ一匹でただけでも、ある程度力のある集団が犠牲覚悟で立ち向かわないとどうにもならない難敵のはずだ。
そんな強者である亜龍を、『餌』とする生き物……。
「ドラゴンか」
「ああ、赤龍、それも成龍らしい」
赤龍の標準的なサイズは、全高5m、全長10m、重さ2t。龍鱗は厚く、普通の武器では傷がつかない。心臓が3つあり、驚異的な体力を誇る。
この巨体で走行時、時速約50km(45RU)は出るらしい。飛行時は時速350km(325RU)ぐらいの速さで飛ぶ。
中級龍でレベルは推定65前後。基本的に群れず、鉄をも溶かすブレスを1度の戦闘で20秒以上噴射できる。その射程は、約100m(90RU)に及ぶ。
「遺書の準備がいるな」
マクベス教官が言う。
誰も笑わなかった。
「トゥーロ村は、ジギントと呼ばれる、人そっくりの魔力の多い亜人種が生息していた村だ。トゥーロの警備隊といえば、精強で有名だ。あの警備隊ならワイバーンぐらいは倒せるはず。それが全滅か」
「赤龍は村に居座り、村人の亡骸を貪っているらしい」
「できるだけ速く行かないと、近隣の村にも被害が及ぶか」
「ビリー。作戦はあるのか?」
「ある! まず、銃と弓で、ロバート、サヤが左翼を狙え。ヘイトがそちらに向かわぬように俺が、テレキネシスハンマーで、右翼を潰す。半矢の赤龍が飛んで逃げるような事態になったら最悪だ。周辺の村々に甚大な被害が出る。まず、飛行魔法の発動媒体たる翼を奪う」
ロブが、サヤさんが、頷いている。
「ヘンリー・イシュカ・ペリー・アシュリー・マクベス、おまえら近接戦闘組は、できるだけ後ろに回り込め。正面は危険すぎる。足を狙って、なんとか龍を横たわらせてくれ」
ビリーは全員を見渡しながら話を続ける。
「フィオラ・双葉・マリンは、近接戦闘組を援護してやってくれ」
「ブリジット。精霊レミンを召喚してブレス対策の協力を取り付けてくれ。ドラゴンのブレスには、レミンの結界ぐらいしか有効な防御策がないだろう。お前は歌唱魔法と回復を頼む」
そして俺の番がやってきた。
「リンゾー。お前がこの作戦の要だ。横たわった龍の頭を吹き飛ばしてくれ」
「おう!」
「ボス。銃――ライフルの使用許可をいただけるので?」
ロブがビリーに尋ねた。
「使ってかまわん、責任は俺が取る。戦力の出し惜しみはしない!なぁに。勇者から、援護するとの連絡があった。時間を稼げれば、勝ちも見えてくるさ!」
「ありがたい!」
「いくぞ! 異端審問官総員、出動!」
「おおっ!!!」
▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
焼けただれたトゥーロ村で龍を探す。
あんな巨体、動けば、たちどころに音がする。それを見落とすはずもなく、すぐに龍は見つかった。
龍は宿屋を爪で引き裂き、教会を尾でなぎ倒し、建物を全く意に介さずに進んでくる。
落ちる陽を背に負いながら、赤銀色に輝く巨体がドンドンドンドン、近づいてくる。
歩くだけで大地が揺れるようだ。
周りの生き物はとうの昔に逃げ出している。それが正しい反応なのだ。戦いになんて、なりっこない。
あの大きな牙を見ろ。鎧なんて何の役にも立たない。
あの大きな爪を見ろ。人間なんて一瞬で引きちぎられちまう。
あの巨体を見ろ。かすっただけで大怪我だ。
一体誰が、どうやったら、こんな化物を倒せるっていうんだ。
姿を見ただけで、絶望感を奮い起こす、それが赤龍だ。
龍が陣形を組んで待ち構える俺たちに気づいたらしい。威嚇するように、――自分の体を大きく見せるように、首を天に向けた。
「全員耳をふさげ!!」
悲痛な声でビリーが叫んだ!
次の瞬間、赤龍が強烈な咆哮を放つ!
ググゥゥゥオォォォォォォォオオオオオオオオオン!!
地震が起こったような気がした。ガクガクと足が震える。体中がビリビリ痺れる。恐怖で目が開けられない。
こんな化物に勝てるわけがない! 怖い! 怖い! 怖い!
目の前が真っ暗になる。
「♪♪~」
真っ暗闇な心に、僅かに明かりが灯る。これは歌声か? 耳を済ませる。
柔らかい歌声が耳の届いた。翻訳魔法を通しても解析できない未知の言語。
「落ち着きなさい。冷静さを取り戻しなさい」、しかし、そんなメッセージが込められていると確かにわかる安らぎの歌。
縋るものなく闇に落ちた心に、一本の光の芯が通った。
これが、ブリジットさんの歌唱魔法か。なんて心強いんだろう。
静けさが場を支配する。全員が冷静さを取り戻したのだ。
「かかれ!」
ビリーが声を張り上げる。
まずロブの銃が、火を吹いた。ドォンとけたたましい音を立て、赤龍の左翼に命中するも弾かれる。続いてサヤさんの矢が青い光を放ち赤龍の左翼に命中する。
ところが、赤龍は全く意にかけず、ズシン、ズシンと俺たちの方へ歩いてくる。
ビリーがテレキネシスハンマーで、赤龍の右翼を狙う。
巨大な見えない槌が、龍の翼をしたたかに打ち付ける。
ゴォン!
赤龍がぐらついた!
距離およそ、50RU
俺は、ぐらついた龍の隙きを突き、一気に赤龍との距離を詰めた。どんな生き物でも、頭は弱点のはず。『崩壊』を頭に叩き込めれば、きっと勝てる。だけど、頭の位置は、約5m上だ。どうする!?
ロブとサヤさんが、奇跡がかった集中力で、同じ箇所に攻撃を当て続ける。いくらミスリルより硬い龍鱗に鎧われているといっても翼は薄い。
二人の渾身の一撃は、やがて針が布を抜けるように赤龍の左翼に穴を空けた。
ヘンリー・イシュカ・ペリー・アシュリー・マクベスが右後ろ足に取り付き、赤龍の体勢を崩すべく、攻撃をはじめた!
右翼はビリーのテレキネシスハンマーの連撃ですでにボロボロだ。
目標の第一段階を達成したぞ! これで、もう赤龍は飛べない。
赤龍が炎のブレスを吐く動作に入った。一気に俺たちを薙ぎ払うつもりだろう。
ブリジットさんの召喚した、精霊レミンが龍の正面に出て結界を展開する。
上級精霊レミンのレベルは60にも達する。しかし、赤龍はそれ以上。種族相性的にも龍のほうが有利。防げるのか?
視界が炎一色になるが、結界に阻まれて炎は俺たちに届かない。地面がもうもうと燃えている。夏の湿った熱気が、乾燥した熱気に書き換えられる。
熱い!
ブスブスブス。
焼け焦げた匂い。
防ぎきった!
炎が止み、視界がクリアになっていく。赤龍が左腕を振り上げている。
レミンが狙われている。
レミンが慌てて『空間転移』を発動しようとする。だが、一瞬遅かった。音速に迫るその鉤爪は、脱出など許さない。
赤龍が爪を振り抜くと、頼みの結界は脆くも砕かれ、レミンが吹き飛ばされた。引き裂かれなかっただけで僥倖か。
トドメとばかりに龍がレミンにブレスを吹きかける。
小さな精霊は、なにもできずに、粒子となった。
続いて、龍が右手を振り上げる! まずい、そっちにはフィオラがいるッ!
ドゴァッ!!
トーチカ生成で身を守ろうとしたフィオラだが、トーチカごと吹き飛ばされてしまった。
「フィオーーーーッ!!!」
ペリーが叫ぶ。
爪で引き裂かれなかったのは、それでもトーチカの魔法が防御に役立っていたからか……。フィオラの身体は原型を保っている。
イシュカさんが飛ばされたフィオラを抱きかかえ、地面にそっとおろした。
大丈夫、まだ息はあるようだ。
さらに赤龍が追撃! ブレスの発射体勢に入る。
イシュカさんとフィオラを狙い両方焼き殺すつもりだ。
「ウインドストーム指向完了。発射!」
射線上にふうちゃんが飛び込んだ。
龍のブレスに合わせて、暴風が巻き起こり、ブレスを龍の側に押し返す。たまらず龍がブレスを止める!
ズザンッ!!
赤龍が高速で右に旋回し、尾をふうちゃんに叩きつけてくる。
ふうちゃんは重力魔法で浮遊して逃れるが、後ろのフィオラは避けられない。
まずい、フィオラが死ぬ!
「ふんぬっ!!」
狼男となったヘンリーがフィオラの前に飛び出て、赤龍の尾の先端をガードして受け流す!
身体強化魔法LV6、狼男の強靭な筋肉、死地に飛び込む勇気、どれがかけても、フィオラを守ることはできなかっただろう。
「うぅぁあ、ぐぁあああああーーーーーっ!!!」
声にならない声を上げるヘンリー。両腕がぐしゃっと潰れ、ぶらんと真下に向いている。腱が切れ、骨が砕けているようだ。血がダラダラと落ちて砂を赤く染める。
だめだ。勝てない。勝てるわけがない。
龍が倒れでもすれば、防御無視の『崩壊』を当てられるのに。龍を揺るがせる、頼みのビリーのテレキネシスハンマーも、もう魔力残量が危険域だろう。
「りんぞーさま! 協力してください!」
ふうちゃんが魔力弾を展開している。俺の脇を通し龍の頭を狙うつもりか? いや、俺の『崩壊』の力を魔力弾に載せ、射程距離を伸ばそうということか。
俺は『崩壊』の力を、ふうちゃんの魔力弾に載せる!
着弾!
魔力弾が龍の頭に到達する!
ゴッ!!
わずかに頭の龍鱗が削れた! 『崩壊』の力は魔力弾にも載ったが、やはり距離3m24cmを堺に急激に効果が減衰するらしい。
事象魔法『崩壊』――、残り2秒51
くそっ! どうする?
支配領域3RUの『崩壊』を、5mの高さに当てる方法。
考えろ!
……そうだ!!
「ビリー! 棒高跳びの棒、作れるか?」
「こんなときになんの冗談だ? リンゾー!」
「あのむちゃくちゃしてくれたバカトカゲの頭に、一発くれてやりたい」
「そういうことか。スチールでよければいける。40秒くれ!」
「頼む!」
問題は、あいつをどうやってひきつけておくかだが……。
「時間稼ぎなら、任せて!」
なんの気配も感じさせずに俺の前に少女が現れた。瞬間移動か?
刀を抜いた桜色の和服を着た女の子。少しシャギーの入ったセミロングの栗毛、凛々しい顔立ち。剣の勇者いろはさんだ!
「いろはさん!」
「勇者か。助太刀感謝する」
「剣の勇者。出雲いろは、参る」
龍が振り上げた爪を、いろはさんが器用に刀で受け流す。信じられない。あの速さ、あの重さの爪を刀で受け流すなんて……。
まるで剣舞のように、左右から来る亜音速の龍の攻撃を捌いていく。龍鱗には一向に傷が入らないが、龍の爪はどんどん削れていく。
「飛んで!」
いろはさんに促され、俺は、ビリーから受け取った棒を見る。基本的な形。強度は十分。しなりもする。これなら!
俺は龍の右側に回り込み、身体強化魔法LV5を発動し、ダッシュした。
――自己最高の大ジャンプを決めてやるッ!
とんだ!
やべぇ! 高い! 怖いけど、気持ちいい!
赤龍が、数m下に見える。完璧な大ジャンプだ。
ドスン!
龍の背中に着地する。ゴツゴツした龍鱗で、腕がすりむけた。だが、今は擦り傷を気にしてる場合じゃない。
俺は龍の首にしがみつき『崩壊』の力を載せた拳を連打し、龍の首を叩き切った。
「うぉぉらーーーーッ!」
バスン!!
俺は、龍の首ごと地面に落下した。
事象魔法『崩壊』――、残り0秒77
「痛ってー。腰ぬけた!!」
痛む尻をさすっていると、首を失った龍が腕を振り上げてきたッ!
「まじかよ、嘘だろ!? 首無しで動くのかよ!」
死を覚悟したその時、フッっと、ペリーが転移で俺の目の前に現れ、続けざまに、時空魔法『停止』を発動した。
――時が停止する。
動けるのは術者のペリーと、時空魔法無効の俺、そして、勇者のいろはさんだけだ。
「リンゾー、君のその力、私の剣にも載るんだろ?」
「ああ、いけるさ! いけ、ペリー!」
「うぉおおお!」
今までペリーの攻撃をことごとく跳ね返してきた龍鱗がきしみ音をあげた!
ペリーの三段突きが龍の3つの心臓をえぐった。
――そして、時が動き出す。
赤龍の心臓が破裂し、粒子となって消滅する。
血を吹き出した龍は、ついに動かなくなった。
「俺たち、勝ったんだ!」
「おいしいところを、ペリーさんにもっていかれちゃいました!」
「信じられない、私生きてます!」
各々、喜びを隠しきれない笑顔だ!
「間に合ってよかった! 私は、次の仕事があるからもう行くね!」
「ありがとう、いろはさん」
「どういたしまして」
そういって微笑むと、来たときのように、いろはさんは音もなく消え去った。
「うぉぉおおおお、やったー!!!」
「今日は祝杯だー!」
仲間たちと飲む、今日の酒はうまそうだ!
ビリーの勝鬨が、絶対的支配者のいなくなった廃村に響いた。
ブリジット・ブリダLV25
歌唱魔法LV10
精霊魔法LV5
癒し手LV5
生活魔法LV5
所有スキル
拡声、元気の歌、ララバイ、憂鬱の歌、安らぎの歌、レクイエム(歌唱魔法)
精霊召喚、精霊召還、精霊憑依(精霊魔法)
ヒール、ヒールプラス、ヒールオール、パーフェクトヒール(回復魔法)
クリーン、アンチポイズン、水生成、火起こし(生活魔法)
身体強化魔法(パッシブLV4)
支配領域80RU
レミンLV61
精霊LV10
光魔法LV10
精霊魔法LV10
癒し手LV10
時空魔法LV10
諜報LV10
契約魔法LV1
所有スキル
上位刺突無効、上位斬撃無効、上位打撃無効、上位魔法無効(精霊)
ライト、フラッシュ、聖なる光、光束の剣(光魔法)
精霊召喚、精霊召還、精霊憑依(精霊魔法)
ヒール、ヒールプラス、ヒールオール、パーフェクトヒール(回復魔法)
無限格納、空間転移、時空魔法『停止』、結界(時空魔法)
スピリットエコー、スピリットチャット、透視(諜報)
契約(契約魔法)
支配領域5000RU
出雲いろはLV33
剣士LV10
侍LV5
勇者LV5
時空魔法LV10
生活魔法LV3
抜刀術、後の先、先の先、連撃、峰打ち、二段突き(剣士)
飛空閃、対空牙、斬撃飛ばし、なで斬り(侍)
ヒール、ライトニング、ライトニングプラズマ、雷霆(勇者)
空間転移、次元倉庫、時空魔法『停止』、次元視(時空魔法)
火起こし、水生成(生活魔法)
身体強化魔法(パッシブLV5)
支配領域700RU
・用語解説
勇者――通常の攻撃手段・魔法ではまともにダメージが通らない
魔王に、減衰無しでダメージを与える「雷系」魔法を
覚えることができる、選ばれた転生者のためのクラス。