61話 直前
別れの挨拶をしてダンジョンへ向かおうとすると、振りほどいてしまったら壊れそうと思うような何かに、腕を掴まれた。
「ま、待って!」
声がした方に振り向くと、何故自分でもそうしたか分かっていないといった様子で困惑しているフランさんが、僕の腕を掴んでいた。
「ど、どうしたんですか!?」
僕もまさか引き留められると露程にも思っていなかったので、おそらく今目の前で驚きの表情をしているフランさんと同じ表情をしているだろう。
「あ……えーっと……」
フランさんは無意識で咄嗟に僕を引き留めたのだろうが、僕はその無意識の根幹に勘づいてしまった。
出会った当初からフランさんは、僕と誰かを重ねて見ているような顔を度々覗かせていた。それは親愛でもあるし、母性でも、はたまた慈愛でもあるかのように思えた。
それから考えられることは、フランさんが僕に重ねてる人物の正体は、多分だが弟かそれに類する関係性を持った人物では無いだろうか。
そうすると様々な辻褄が合うような気がする。
僕に対するフランさんの対応が、最初から他の冒険者のそれとは一線を画していたこと。
時折見せる、優しく全てを包み込んでくれるような温かい眼差しのこと。
「……ダンジョンに一緒に行きますか?」
僕がフランさんにそう言うと、フランさんはパッと顔を上げ、何回も何回も凄い勢いで頷いた。が、しかし、フランさんは受付嬢の仕事を抜け出してきたのを思いだしたのだろうか、恐る恐るといった感じでアルフさんの方へと振り向いた。
振り向く寸前にチラッと見えた、捨てられた子犬が拾ってと懇願するような顔を受けたアルフさんは、大きくため息を吐きながら、
「そう言えば、真冬くんが遭遇したボスオークの件に関して、本人を交えた現場調査が未だに済んでいないのを今思い出しました。誰か丁度良いギルド職員はいないものかな」
「――はい!私が行きます!!」
僕の腕を掴んでいない方の手をこれでもかと言わんばかりに目一杯挙げるフランさんは、授業参観で小学生が、自分の親に立派なところを見せたいと手を懸命に挙げ主張する姿と重なって、僕は溜まらず吹き出してしまった。
「ちょっと、なんで笑ってるの!」
顔を真っ赤にさせて憤慨するフランさんは、最初のときに抱いたお姉ちゃんという印象よりは、どちらかと言うと妹の方がしっくりくるなと思った。
「何はともあれフラン、頼んだよ」
「はい、ギルドマスター」
かくして僕たちは、異様な妖気を発しながら出現したボスオークの謎を調査するという名目で、担当受付嬢であるフランさんと一緒に、ダンジョンに潜ることになった。
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