32話 契約
「「……え?」」
真冬とさくらの気持ちは寸分の狂い無く、完璧に一致していた。
そういうことは先に言って!と。
「先に言ってって顔してるけど、言おうとしてたのに遮ったのは君らだからね!」
唇を尖らせて不服を訴えている精霊を横目に、記憶を探ると、僕たちがさくらに気付く直前、確かに何か言いかけていたような気がしないでもない……。
「まずどこから話そうかな……。分かりやすく最初から話そうか――」
精霊の話を要約するとこうだ。
魔力は精霊の排出物で、人間で言うところの呼吸で排出する二酸化炭素のようなものということ。
ステータスのMPは、その人が身体に蓄積できる魔力の量を表していること。
魔力を使ってステータスを一時的に向上させることが出来る魔法があること。
そして、その魔法は精霊魔法と、他ユニーク魔法にしか無いということ。
「――だから、僕と契約して魔法○女になってよ!」
「「………」」
「あれ……?聞こえなかったのかな?僕とけいや――「いやいやいや、聞こえてるよ!!」」
なんでそのネタを知っているのか、なぜこのシリアスな場面でそれを言い放ったのか、疑問は多々あるが、一番重要なことを聞いた。
「その契約とやらをやれば、さくらのステータスは上がるんだよね?」
「そうだよ。ただ、失敗すると死ぬこともある。むしろ死ぬ確率の方が高いかな」
「……それはなんで?」
さくらは自分のスキル、賢者の恩恵でそれを乗り越えられる可能性が通常よりも高いかもしれない、という微かな期待を抱いた眼で精霊に聞いた。
「一応これは契約魔法の枠組みに入ってて、契約魔法は基本的に対等な者たちの間でしか結べないんだ。正確には結べないんじゃなくて、魂をつなぐ契約魔法は格差があると、低い方の魂が壊れてしまうんだ。それを言い換えると、死ぬってことだね。そしてさくらちゃんと僕、つまり人族と精霊族ははっきり言ってしまえば、月とすっぽん程の差があると言っても過言ではないぐらい、格が違うんだ」
精霊は先ほどのおちゃらけた様子を一切消し、三人の間には張り詰めた緊張感が漂っていた。
「死ぬ確率は、君たちが思っているよりも遙かに高い。――それでも契約する?」
契約を契る張本人であるさくらは、僕に止められると思っているのか、悲痛な面持ちでこちらを見てきた。
僕の本心としては、死ぬ可能性が例え0.01%でもあるならやめて欲しいが、先ほどさくらの決意を聞いてしまったので、僕がとやかく言ってさくらの意志を折ることなど出来まい。
仮に今止めたとしても、また今回と同じように独りで強くなろうとダンジョンに向かったりするかもしれない。今回は僕が近くに居て、精霊も居て、すぐに助けに向かえる状態だったから良いものの、周りに助けてくれる人がいなく、独りで最悪の事になったら僕は……。
「僕としてはもちろんやめて欲しいけど、さくらの意思を尊重するよ」
僕がそう言うと、さくらは死地に赴くような様子で精霊に向かって答えた。
「精霊さん。――お願いします」
「何度も言うけど、死ぬよ?」
僕に向けてその言葉を言っていないにも関わらず、まるで死神が自分に鎌を突き付けていると錯覚してしまうほど、圧を振りまく精霊に、さくらはそれでも折れずにハッキリと答える。
「――それでもお願いします」
「そっか、じゃあ早速始めるよ」
精霊はそう前置きして、少女から光の姿に戻った。
後に聞いた話だが精霊は元来、光の球の方があるべき姿で人型に変化することは、高位の精霊にしか出来ないことらしい。
「じゃあ……頑張って!」
「うん、任せて」
さくらのそれは、空元気や虚勢の類いだと誰にでも分かるほど震えていたが、それを口にしてしまったら最後、さくらの決意は無駄になってしまうだろうから、そっと胸にしまう。
「ちょっと時間が掛かるかもしれないから、真冬くんは周りを警戒しててね。あと、絶対に――死なせないから」
精霊は念話で僕だけにそう言い残し、さくらの胸の辺りに入っていった。
光が完全に胸に収まった瞬間――
「うっ……うあ!!!!」
さくらは突然苦し気な声を張り上げ、胸の辺り――精霊が入っていった場所を固く抑え、床に転げ回りながら悶えた。
事前に精霊からそういう説明があったからそこまで慌てることはなかったが、出来ることならば変わってあげたいと思うほど、苦しそうだ。
見ているのが耐え難いほど辛いが、さくらが頑張っているのに目をそらしてはいけないと思い、周りを十分に警戒しながら、契約の動向を見守った。
時間にしたら数十分が経った頃だろうか、さくらの聞くだけで胸が張り裂けそうな呻き声が消え、眠るようにゆっくりと目を閉じた。
その後、倒れているさくらから少し弱くなった光が出て、その光は金髪の女の子になった。
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