23話 出立
ボア――
この世界には7つ、塔型のダンジョンがある。その中の1つ、この街の塔には豚の絵が書いてあった。この事から考えられるのは、恐らくこの7つの塔は七つの大罪を意味していることだ。
そこまでは予想をしていたが、いよいよ現実味を帯びてきた。そして、このボアという団が意味することとは。
ドンッ!!!!
部屋のドアが勢いよく開かれた。
「おい、真冬!さくらが拐われたって本当か!」
カイトは滝のような汗を流しながら、部屋に入ってきた。
「俺も探すから真冬、どこいけばいいんだ!?」
まだ1日しか出会ってから経っていないのに、ここまで仲間を大事に思ってくれるカイトは、本当に良い奴だ。
そうしみじみ感じながら、僕はカイトに地図を見せ説明する。
「ボアっていう集団が、この印のどこかにいる可能性が高いんだって。しらみ潰しだと間に合わないか……」
地図上で3つの印は、ここからちょうど同じぐらい離れていて、どこも街の外壁に近いところにあり、一つ一つ当たっていったら間に合わない、と真冬は思っていた。
「私も昔は一応冒険者として活動していました。なので、3人で手分けして行きましょう!」
フランさんが過去に冒険者をしていた……さっきの力からすると納得はいく。あの力は並大抵の受付嬢では出せないだろう。
「そうですね。じゃあ僕はここから一番遠いここにします。カイトはこっち。フランさんはこっちでお願いします。」
距離としてはそこまでの大差は無いが、出来るだけ早く救うためにはその割り振りが良いだろうと、2人は合意した。
「さきほど地図を取りに行き、ついでにギルドマスターに報告して許可を貰った時に、通信用の魔道具をちょうど3つ借りましたので、お渡ししときます。魔力を通せば繋がるようなってありますので、何かあったらお互い通信してください」
そう言われ手のひらサイズのコンパクトミラーみたいな物を渡された。開いて魔力を通すと映像が写り、声をお互い届けられる携帯電話のようなものだ。
「じゃあ各自、目的地を目指して……ご武運を!」
いつにもましてフランさんは真剣な顔で。
「二人とも無事でな!」
カイトは騎士のように引き締まった顔つきで。
「じゃあ、そっちはよろしくね!」
僕は、自分たちならさくらを無事に助けられると、自信に満ち溢れた表情で。
3人は一斉に冒険者ギルドを飛び出して、各々の目指す場所へと向かった。
ギルドマスターは、飛び出していった3人の様子を、自分に宛がわれた部屋から見下ろしていた。
「ごめんよ、僕は個人的な用件でここを離れるわけにはいかないんだ。せめてもの手向けで通信用の魔道具は渡したからそれを上手く使ってくれ。」
これからのギルドを支えてくれるであろう新進気鋭の若人を、心の底から煩慮している面持ちでそうつぶやいた。
「最後に…………精霊の加護よあれ」
エルフは種族的に精霊に近しい存在。
だから、直接精霊と交信できる唯一の存在である。ただし精霊は気まぐれゆえ、エルフからはすることができない。言わば、一方通行。
もしアルフの声が、想いが、どこかにいる精霊に届いたのならば、それは絶大な加護をもたらすだろう。もっとも、届けばの話だが……。
「さて、私もやるべきことをやりますか」
そのアルフの目には、今だかつて誰も見たことのない高揚感が宿っていたのは、精霊のみぞ知るところだ。
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