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195話 階段

「それじゃあそろそろ行こうか」


 一番最後に僕たちの抱擁へと加入したウィルだったが、一番初めに僕の腕からするりと抜け出しそう切り出した。その顔はひどく満足げで、お腹いっぱいにご飯を食べ終えた後のような、幸せそうな中に少しだけ苦しそうな様子が見え隠れしているが、それはおそらく抱擁を終える悲しさから来る物だろうと推測された。


「そうだね、あんまりのんびりしていたら急いだ意味なくなっちゃうしね」


 僕は抱きしめていたさくらとみゃーこを解放し、ウィルの言葉に頷く。そして、僅かに崩れてしまった身なりを軽く整えた後、さくらの方に確認の目を向ける。


「私も少し休んだからもう大丈夫」


 顔の前で両拳を握りながら大丈夫と言った割には、さくらもウィルと同様に名残惜しそうな顔をしているが、このダンジョンからあの人を無事に連れ出し、誰一人として欠けることなく全員で帰ることが出来たら、ゆっくりと心置きなくまたハグなり何なりすれば良いので、敢えて無視して、みゃーこを見る。


「みゃーもオーケーにゃ」


 僕が視線を向けたのと同時に毛繕いを終え、ピカピカと輝きまでもが整った毛並みから見えるみゃーこの、威勢の良い声が返って来た。


 その声と切り替えの速さから分かる通り、こちらはさくらと違って後ろ髪を引かれる思いは一切感じていないようで、執着の少ない猫だからかは分からないが、一番この中で精神的に大人なのは、実はみゃーこでは無いのだろうかという思いを抱かざるを得なかった。


「ここからは今までとは比べものにならないぐらい、キツい戦いになると思う。君たち、覚悟して」


 その言葉に冗談を考えていた思考を頭を振ることで取り直し、それから僕が再度ウィルの顔を見ると、ベルーゼと戦った時と同じぐらい真剣な様子で、先ほどとは打って変わって緊迫とした空気へと様変わりをした。


「――――」


 僕たちもその空気に触発されるように緊張感と集中力をより一層高めながら頷き、次の階層――24層目と続く階段を見据えた。


 光源が無いにも関わらずどういう訳か全体的に薄ボンヤリと淡く光り、ある程度の視界が確保できるダンジョンの内部、いつもなら洞窟のような風景が広がるここでは、異常自体をこれでもかというほど来客に知らしめるように、禍々しさと刺々しさが内包する独特の雰囲気を纏っていた。


 そして、それを更に助長するのは、僕たちが睨むように見ている24層へと続く階段だ。


「――――」


 ぽっかりとそこだけ何処かに抜け落ちてしまったような、あるいは何か得体の知れない悪魔のような巨大な生き物が大口を開けて待っているような、そんな背筋を発端に身体全身を底の方から震え上がらせるほどの、動物としての本能に直接訴えかけてくる根源的な恐怖をもたらす入り口が、ただただそこに存在していた。


「よし、行こう!」


「ナビとしてご助力します」


 総合的なステータス的に、そして剣という武器の種類的に、いつもと同じく僕が先頭を務めることになった。そして、僕のスキルとして存在するナビーは、文字通り僕の色々な面において何にも勝る道標となってくれるだろう。


「アシストは任せるにゃ!」


 その僕の後ろには、慣性を物ともしないすばしっこい動きとしなやかでどんな状況でも自由自在に動ける小さな体格を持つみゃーこがおり、僕とさくらのアシストをその時の状況によって臨機応変に対応する手はずになっている。


「サポートは私に任せて!」


 続くは精密な単体攻撃はもちろん、威力と多数にわたる殺傷能力など幅広い魔力のコントロールによって時にはスナイパー、ある時には固定砲台、かと思いきや回復役を務めるという攻守共に万能型のさくら。


「危なくなったら本気出すから、安心してね」


 最後は、本気を出せばあのベルーゼと対等に渡り合えるほどの実力を持ち、先見の明と勘の鋭さ、洞察力などの類い稀なる知力を持つことから、背後からの奇襲にも対応できるようにとウィルを配置して、僕たちはそんな布陣でダンジョンを進むことにした。


「――――」


 この僕たちならば簡単にとは言わずとも、ダンジョンを踏破することさえ出来るのではないだろうか、そう思えるほど完璧な役割分担と十分な実力を擁していると思っていたのは、どうやら僕とさくらとみゃーこ、この世界をまだ知らないその三者だけの勘違いだったことに、この時は知る由もなかった。


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