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193話 情報

「さくら、ありがとう」


 僕はゆっくりと近付いてくるさくらにお礼を言った。


「ちょっと油断したでしょ」


 さくらの湿度の高いジト目を受けながら、僕は剣を通じて手に伝わってきた明らかな違和感の正体を頭の中で模索していた。


「――――」


 魔物を斬る際、この階層ならば今の僕のステータスを持ってすればどれ程なまくらな剣を使おうとも、斬り進んでいく刃への抵抗など一切感じないはずだ。豆腐を切るよりも遙かに容易に、それこそ空気を切っていくような感覚といっても過言ではない。


 しかし、刃が僅かでも止まったり多少の引っかかりは無いながらも、刃を通して肉を断つ感触がしっかりとあったのは、やはり今のダンジョンの異常性から来るものなのだろう。


 それに――


「どうしたの?ぼーっとしちゃって」


「さくらも今回の魔法の威力、結構上げてるよね」


 それにさくらが出した火の玉は、まだ本気とは程遠いだったのだろうが、通常のこの階層では分不相応なほどの高い威力を持って、魔物へとその攻撃を与えていた。その証拠としては、着弾してからの爆発の強さが何よりのものだろう。


「そう言えば、そうだね。念のため若干オーバーキル気味にしてあるけど、いつもより大分魔力込めたかも」


「やっぱりか」


 この階層の魔物なら、駆け出し冒険者が出すような握り拳程度の大きさの火の玉であれば余裕で倒せるはず。それがあれほどの温度を持ち、着弾と同時にあれほどの爆風を巻き起こすまで出さなければ念のためにならないのは、僕たちが思っている以上にこのダンジョンの危険性は何時にも増しているのかもしれない。


 そんな風に先ほどよりもより一層、周囲への警戒を決して怠らないように決意すると同時に、タイミングを見計らったように、さくらたちの後ろから先ほど僕たちが助けた人が感謝を口に出す。


「先ほどはお助けいただき、ありがとうございました!」


 そう言いながら深く深く頭を下げるリーダーの男性、そしてその後ろでパーティーメンバーであろう二人の男性も同じく深く頭を下げた。


「「ありがとうございました」」


「いえいえ、無事だったのならそれで良いですよ」


「回復も掛けていただいたのにそんな訳には……何かお礼でもさせてください」


 頭を一瞬だけ上げたかと思えば、僕たちの方にずいっと大きな歩幅で一気に近付いてきて、再度頭を凄い勢いで下げた男性。その機敏な動きを僕よりも間近で見ていたさくらは小さく悲鳴を上げるほどびっくりしており、みゃーこに至っては、僕の後ろへと瞬く間に隠れてしまった次第だ。


「そう言われてましても……」


 ただ純粋に助けを必要としていた人を助けただけなので、特に見返りなど求めていなかった。だが、男性の余りの熱意を無下にすることも憚られたので、何か適当なものを一緒に考えようとさくらを見るも、すっかりとびっくりしてしまったようで使い物にならないことは明白だった。


 そして、それは何かを考え込んでいるウィルと、怯えているみゃーこも同様に無力で、完全な孤立無援となってしまった。


「…………」


 しばらくの沈黙の末、無理矢理捻り出したと言うわけではなく、本当にふと思いついた疑問を口にする。


「それじゃあ話を聞かせてください……察するにあなた方は上級冒険者のはずですが、何故そこまでぼろぼろに?」


 フランさんは冒険者ギルドで、ダンジョンに起こっている異常によって“上級冒険者”が駆り出されていると言っていた。そして、その言葉通りこの人達も顔つきや表情からそれなりの実力を持っていると、飽くまでも憶測の域を出ないのだがある程度は分かる。


 僕の手に残っている例の感触からすれば、おそらくこの人達なら素手でも倒せないことはないだろう。


 それならば何故、異常な事態とは言えこの人達はここまで、というか僕たちが居なかったら命を落としていたかも知れない状況まで追い込まれてしまったのだろうか。


「そのことなんですが、実は俺たちにも分かっていなくて……」


 後ろの二人もうんうんと何回も頷く。


「何というか、急に力が出なくなって……かと思えば魔物の急に強さが上がった気がして」


「つまりは魔物に力を取られた可能性があるって事ですか?」


「信じたくないですけど、そうです。そんなことも可能性としてはあり得るかと」


 暴食、その言葉は度を越して食べることを表す。


 この場合は恐らくだが、魔物がステータスを食べるという解釈もあり得るということだろう。


「分かりました、情報ありがとうございます」


「いえいえそんな……この先行くのでしたらどうかお気を付けてください!」


 そう言うと男性達はダンジョンの入り口の方へと去って行った。


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