17話 獣人族
僕たち四人と一匹は冒険者ギルドを出て、フランさんのおすすめの食堂に来ていた。
フランさんに仕事は大丈夫なのか聞いたら、個室での応対も仕事の内に入り、休憩を取っていないことになっているから大丈夫なのだと言っていた。
地球の会社よりしっかりしてると思う。
昨今の会社ではお昼休憩を取らなかった本人が悪い、と取れる状況ではなかったにしろ、とりつく島もないと聞く。理不尽なんてもんじゃない。
「ご注文はいかがにゃさいますか?」
言葉に違和感を感じて顔を上げて見てみると、頭に三角形の猫耳をつけた女性の店員さんがいた。これピクピク動いてるし、本物だよね。
「お客様、獣人族に会うのは初めてにゃのかな?にゃーは猫人族のココにゃ!よろしくにゃー!」
そう言って差し出された手を見ると、五指が普通にあり僕らと何ら変わらない人間の手だった。
「獣人族は耳や尻尾が動物のそれだけで、他は普通の人と変わりませんよ」
僕がココさんの手にびっくりしてるのを悟ってか、フランさんが説明してくれた。
「ココさん、すいません。ココさんの言うとおり、獣人族と出会ったのは初めてなので、少し驚いてしまいました」
「良いにゃー。それより早くオーダーを決めて欲しいにゃ」
僕らはみんなで食べられるように大皿を複数頼み、あとは個人で食べたいものと飲み物を頼んだ。
にゃーこは何でも食べるとさくらに言って?いたので、僕たちのを軽く分けることにした。
「了解にゃ」
談笑をしながら待っていると、ココさんが大皿を器用に四つ手に乗せ、テーブルに向かってきた。
「猫人族は、バランス感覚が人族や他の獣人族と比べて、ずば抜けて優れているんです。だから、ああいうこともお手の物です」
それからもココさんはすごいバランスで小皿料理や飲み物を持ってきてくれた。さながらサーカスのピエロだ。
後に聞いた話だが、毎回僕が称賛の眼差しを送るので、調子に乗って普通では持たない量を持ってきてくれていたようだ。
そんな感じに褒めるとすぐ調子に乗るのも、猫人族の大きな特徴なのだという。
運ばれてきた料理は、フランさんがおすすめするのも納得がいくほど、どれもレベルが高かった。
さくらが作るような食べる人の健康を気遣ったような上品な味ではないけど、大衆食堂で出るような濃いめでがっつり系の味が、疲れた身体にはぴったりだった。
頼んだものが全部運ばれてきたときに、ふと気になったことをココさんに聞いてみた。
「今ウェイターはココさん独りでやっているんですか?」
「お昼時を過ぎてあまり来る人が居にゃいから、にゃーが独りでやってるのにゃ」
にゃーたち(僕たち)のおかげで大変だにゃーと小声でボソッと呟いていた。
(ナビ―、この世界ではチップとかってあるの?)
(はい、ありますよ。相場は銅貨1~3枚程度だそうです。今回は独りで全部やってくれているので、3枚ぐらいが妥当かと)
(そうだね、少し多めの方が良いよね)
食事が終わり、お腹を落ち着かせるために少し雑談をしてからお会計にした。
支払いは話し合いの末、一番収入が多い僕になった。もちろん、僕がそう主張したのだ。
「お会計は11,500ベルにゃ」
僕は金貨1枚と銀貨3枚を渡した。
「おつりはココさんがもらってください」
そういうとココさんはとびっきりの笑顔になり、ありがとうにゃ。また来るにゃ!とぶんぶんとはち切れんばかりに手を振ってくれた。
日本の文化には無いチップに少し緊張したけど、料理は美味しかったし、ココさんの愛想も良く気持ちよく食事ができたので、また来ようと思った。
店を出ると、フランさんは仕事に戻ると言ってここでお別れとなった。
「俺らはどうする?ダンジョンでも行くか?」
カイトは、勉強会前の僕の発言を覚えていてくれていたようで、ダンジョン行きを提案してくれた。こういう何気ない気遣いが出来るところがカイトなのだ。
「そうだね。9層までは行ったことがあるから、今日はみんなでそこまで行こう。……あ!その前に二人の武器をどうにかしないと!」
「私は魔法職だから……杖になるのかな?」
「そうだな。だが杖は専門外なんだ。すまんな」
鍛冶師も剣や弓など自分の専門があるとカイトは言った。
「じゃあ、俺は自分の武器を家に取りに行ってくるから、二人は先に鍛冶師ギルドに行っててくれ。後から行く」
相談した末、カイトは自前の武器を取りに行き、その間僕たちは鍛冶師ギルドに行き、さくらの武器を決めることにした。
「じゃあ、行こっか」
さくらが唐突に手を握ってきた。真冬たちはまだ慣れない関係性に少し胸をドキドキさせながら、鍛冶師ギルドへと向かった。
チップに関して
11500ベルに対して、金貨1枚と銀貨3枚(13000)ベル払ったのでお釣りは1500ベルということになります。それでナビーのアドバイスは銅貨1枚〜3枚(100ベル〜300ベル)なのに何故お釣り全額、つまり1500ベルも渡したのかというと、始めて接した獣人族だったため興味本位からジロジロと不躾に見てしまった罪悪感、というか申し訳なさで多めに渡した次第です。