16話 パーティー
「カイトは冒険者ギルドのカード持ってる?」
受付嬢であるフランさんがこの場を仕切る。
「ああ。結構前に登録してるから持ってるぞ」
カイトは懐から銅のギルドカードを出した。
「じゃあ、真冬くんとさくらちゃんもギルドカード出して」
僕は金のを、さくらは登録したばっかりなので銅をそれぞれ出した。僕の出した金をまじまじと見ながら、カイトは驚嘆の声を挙げる。
「真冬、お前金かよ!すごいな、初めて見たぜ……」
「そんなにすごいの?わりとトントン拍子でいっちゃったから、誰でもなれるのかと思ってたよ」
ギルドカードの性質上、長く続ければ誰でも成れるもんじゃないのかな。と、疑問に思っているとフランさんがそのことについて説明を補足し始めてくれた。
「真冬くん、君は結構特殊なんだよ。全体の割合で見るとね、銅が40%、銀が50%、金が8%、白金が2%なの。しかも登録初日に金に成った人って、この前言ったリリスさんしか歴代でいなかったはず」
リリスと言えばあの赤髪で緑眼の人か……
「しかも、リリスさんは、かの有名な剣神に弟子入りしてたから初日になれたかもしれないけど、君はどこから湧いてきたのかも分からないぽっと出の新人なんだから、ますます意味が分からないよ」
勉強会の時に読んだ本の中にさらっと書いてあったが、剣神とは文字通り剣の神様のことだという。神様といっても本当の神格者ではなく、剣の頂に登り詰めた者の敬称なのだとか。
他にも魔法の神様――賢神や、体術の神様――拳神など、その道の頂に到達した者は敬称が付けられ、その功績が後世にまで伝わるらしい。
しかし、そこで一つの疑問が浮かんだ。
「その剣神さんって人はまだ生きているんですか?」
どこから湧いてきた、とか微妙に傷つくワードがフランさんの口から出ていたが、そんなことよりも飽くなき知識欲の方が勝った。
「うーん……なんて言ったら良いのか……。生きているのかもしれないし、もう……」
フランさんのはっきりとしない物言いにますます知りたい気持ちが大きくなり、身を乗り出しながら更に踏み込んでいく。
「でも、そのリリスさんは剣神さんの弟子なんですよね?」
「本人がそう言っているけど、確認が取れないから真実とは言い難いんだよね。でも、あの強さは本物だし……」
真冬がここまで食いつくのには理由があった。
自分のステータスは他の人の数倍も上がりやすく、SPを使って割り振ることさえ出来るのに、リリスさんを一目見たときに勝てるビジョンが浮かばなかった。
それは振る舞い、それは視線、それは足運び――どれを取っても隙など存在していなかった。最初はステータスの差かと思っていたが、少し考えたところ、今よりも素早く動け、今よりも力強く剣を振れても、リリスさんには一向に届く気配がしなかった。
あの人の強さはステータスなんてものじゃ量りきれない“何か”がある、と真冬はそう確信していた。だから、その強さの根拠が知りたいし、あわよくば伝授もして欲しいと。
そう思っていた矢先その根拠が分かるということだから、腹を空かせている肉食獣の如く食いつくのは当然だろう。
「すいません、少し熱くなりすぎました……」
周りを見渡しさくら、フランさん、カイトの心配そうな目を見て、冷や水を浴びせられたように頭が冷静さを取り戻した真冬は、イスに座りみんなに謝った。
「そのリリスさんってそんなにすごい人なんですか?」
さくらが気を利かせたようにフランさんに訊く。
「すごいって言葉じゃ形容しきれないよ。剣術のスキルランクが全冒険者内で一番神級に近いと言われてるの」
「神級……?」
「そう神級。剣術には五段階あって、上から言うと、神、聖、王、騎士、兵士があって基本的には、上位の人には逆立ちしても勝てないって言われてるの。だから、リリスさんが神級に到達したら近接では勝てる人がいなくなる」
さくらは納得したようで言葉を続けなかった。元からあんまり興味が無いが、場の空気を直すために尋ねた疑問だったのだろう。悪いことをしたな。
「それじゃあ、パーティー登録しちゃおうか」
そう言ったフランさんは四つのギルドカードを並べて、魔法を唱えた。
ちなみに四枚目はフランさんが出したものだ。おそらく受付嬢として有しているフランさん自身のものなのだろう。
【登録パーティー】
フランさんが魔法を唱えた途端、四つのギルドカードは淡く白光し、少ししてからその光は収まった。
「それってどんな魔法なんですか?」
いつもの心境に戻った真冬は、ナビーから聞いた八種類の魔法のどれにも当てはまらない気がしたので、フランさんに聞いてみた。
「これはね、受付嬢専用の魔法なの。他にも色々あるから、機会があったら見せてあげるね」
(補足で説明します。前に言いました八種類の他に、多種多様で唯一無二のユニーク魔法というものがあります。これは産まれたときにつく先天性のものもありますし、努力や突発的になどの後天性のものもあります。非常に強力なものが多いので、貴族たちは発現しやすいようにユニーク持ち同士で結婚させる、というのも珍しく無いようです)
貴族は自分たちの利益のためなら手段を問わなかったと世界史で勉強したけど、自分がいる場所にそういうことがあると聞くと、勉強しただけじゃ到底分からないはずの実感と嫌悪感が湧いた。
「そうなんですか。ありがとうございます」
「これでパーティー登録が終わったから、メリットの説明するね。真冬くんは本で読んでるから分かると思うけど一応聞いてて。パーティーの一番のメリットは、経験値の分配ができるようになることなの。分配って言っても自分たちで決められるわけじゃないし、一定の距離内に居ないといけない制限はあるけど、強い人に自分では行けないところに連れて行ってもらってレベルを上げてもらえるようになる」
MMORPGなどで言う、パワーレベリングや寄生のことだろう。
「あとは、ダンジョンなどでバラバラになったときパーティーメンバーの位置が大体分かるようになるのと、距離無制限の念話も使えるようになるから、転移罠とかでも最悪の事態にはならないと思う。他にもあるけど、あとは使うか使わないか微妙なやつばかりだから、知りたかったら真冬くんに聞いて」
本で読んだけど、あとはフランさんが言うように本当に微妙なやつばっかりだ。
食べたいものが分かるとか誰が使うのだろうか――(ラーメンが食べたいなー)
…………何か聞こえるけど、聞かなかったことにしよう。
「じゃあ、僕ダンジョンの攻略しないといけないから……」
二人には勉強をしてもらわないといけない。
ドンッ!!!!
「それなら今からお勉強だね。もちろん仲間なんだから、真冬くんも」
爽やかな笑顔を浮かべるフランさんが机の上に置いたのは、あの八冊の本。
「「「――え!?」」」
一人は何で自分も?という疑問。残りのもう二人はそんなこと聞いていないという疑問。各々の心境を胸に、フランさんというスパルタ教師と勉強を始めるのだった。
それから三時間かけて三人はダンジョンについて一通りの勉強を終わらせた。
真冬は三冊を読み終え、さくらとカイトは20層までの攻略本を読み終えた。
僕は前回もやったしステータスも軒並み大幅に上がっているので、あまり疲れなかったのだが、隣にいる二人は明日の○ョーの最後並みに、白く燃え尽きていた。
「お昼ご飯、勉強で食べ損なったからお腹すいたよー」
「そうだな。俺も腹減ったわ。どこか食いに行こうぜ」
十分ほど経ち、疲れが取れたのかさくらは机の上に突っ伏しながら空腹をぼやく。それにカイトは便乗した。僕も同じ気持ちだ。
ステータスが上がってるにしても、お腹は減る。強い人でも、弱い人でも。頭が良い人でも、そうでない人でも。――お腹は減る。それは今も昔も、東も西も、北も南も、共通の事だ。
「そうだね。時間も時間だし、私のおすすめの食堂を紹介するよ」
その言葉に一同の口とお腹から歓喜の叫びが響く。
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